今日もガイアスロイは平和です(後編)
「なんで睦月がここに!?」
突然私達の前に現れた睦月に、皆唖然としていた。
「メリ子さんが急に消えたから、急いで後を追って来たんだ」
「まぁムツキ様!私を心配して下さったのですね」
「メリ子さん無事で良かった」
私の腕の中にいるメリ子さんに向かって、安堵の笑顔を向けてくる睦月。
知らない内に、二人だけの世界に入ってるんだが。
私同様に回りの人達も二人の空気を前に、ただ見守るだけだ。
「ちょっと睦月!メリ子さんは私のメリ子さんなんだから、二人の世界に入るのは止めて頂ける?」
嫌味ったらしくそう言うと、奴は「いつ、どこで何時何分何秒にメリ子さんが姉さんのメリ子さんになったのさ」と言い返してくる。
なんじゃこいつは…小学生か。
「私が勇者としてメリ子さんを選定の岩から引き抜いた時からですが何か?」
冷静な表情で言うと、睦月はぐぬぬっと私を睨んでくる。
ふっ…勝った。
ドヤ顔でメリ子さんをぎゅっと抱きしめると、睦月が「姉さんがこっちに来る前から俺達は一緒だったんだからな!今更勇者面すんなよな!」と切れてきた。
ぷちん
私の中の何かがキレる。
「ミ…ミナ?大丈夫か?」
アルが何か言っているが、聞こえない。この馬鹿弟に私達の絆を見せつけてやる。
「私とメリ子さんの絆を舐めるなよ小僧が。メリ子さん!今から私達であのフォースグリフォンを倒して、そこの小僧に目にものを見せてやりましょう!」
「は…はいぃ?!」
「さぁメリ子さん。メリケンサックになって下さい!」
「はいぃぃぃ」
私の言葉にメリ子さんは淡く光ると、メリケンサックとなって両手に装着される。
「メリ子さんの力を借りないとあんな魔物も倒せないのか姉さんは。俺ならこれで簡単に倒せるけどな!」
そう言うと、睦月は腰に下げていた刀を抜き放つ。
「どちらがメリ子さんに相応しいか――」
「勝負だぁぁぁぁ!!!」
言い切ると、私と睦月はフォースグリフォンに向かって駆け出していた。
「ミナ様!」
絶叫とも呼べる叫びが後方から聞こえてきたが、気にしない。
◇◇
結局勝負は五分五分だった。
互いに倒した数は2頭ずつ。どちらも同じスピードで倒した為に、勝敗がつかなかった。
「な…なかなかやるじゃない睦月」
「姉さんこそ…思ったよりもやるじゃないか」
だが、両者とも一歩も引かない。
互いの距離は十分にある。私の瞬発力をもってすれば、あんな奴の間合いに入り込み、一撃どぎついのをお見舞できる。
睦月も私の考えを読んだのか、不敵に笑う。
辺りは風さえ吹かない静かな空間。フォースグリフォンの死体から血の臭いがするが、それは置いておく。
睦月は強い。それも生半可な強さではない。一撃で仕留め――じゃないや、ぶん殴らないとこちらが負けてしまうだろう。
「神々の息吹よ
聖なる我らが守護神よ」
睦月が厨二詠唱に入る。
今しかない!!
私は思いきり地面を蹴った。一気に睦月の間合いに入れば奴に勝機はない。
呪文の詠唱を待つのは、戦隊ヒーローに出てくる怪人位だ。
「清浄なる大地に加護を
不浄なる者へ裁きの雷を」
睦月の両の掌に白く輝く光の粒子が集まってくる。
あれは聖魔法!!しかも、かなりの高位魔法だ。
いつの間にあんな魔法を。
だが間に合わない。私の一撃の方が奴の魔法の完成よりも早い!
「光輝く聖なる閃光」
掌から十字に光りの粒子が収束され、白銀の光が私に向かってくる。
それは正に聖なる審判の日に掲げられる十字架のように――
回りは白一色に塗り込められていた。
私達は光の渦に飲み込まれ――飲み込まれ――
飲み込まれて…いない?
白の光が消えると、私と睦月の前には人化したメリ子さんが立っていた。
浮いて。
「もう!ムツキ様!こんな場所で高位の神聖魔法を使うなんて何を考えているのですか!発動していたら、辺り一面更地になる所でしたのよ」
プンスカと怒るメリ子さんに流石の睦月も反省しているのか、しゅんとしている。
「ミナ様も!弟君との喧嘩に私を使うのは止めて下さい!私を着けたミナ様が本気を出したら地獄絵図の阿鼻叫喚になるんですからね!」
私も怒られてしゅんとなる。
「ごめんなさい」
「すみませんメリ子さん」
二人同時に謝ると、メリ子さんも「仕方のない方達ですね」と、ようやく笑顔になってくれた。
「ムツキ様…ミナ様は私の今代の勇者様なのですよ。だから、大切な方なのです。それからムツキ様は私にとって、とても大切な方なんですよ」
私と睦月を交互に見ながらメリ子さんが穏やかに話す。それを見ていて、私は認めるしかなかった。
メリ子さんと睦月の絆を。
「ミナー!」
ぼんやりと二人を見つめていると、橋の向こうからアル達がこちらへやって来るのが見えた。後方にはシュガーレス様や騎士さん達も見える。
私もアルに駆け寄ると、アルに抱きつく。
「ミナ!?」
慌てて私を抱き留めると、アルが「大丈夫か?」と聞いてくる。
「メリ子さんが…」
「聖剣が?」
「寝取られましたぁぁぁぁ」
「………」
「あんな厨二詠唱の弟なんかにぃぃぃ」
「………」
アルの胸に顔を埋めてグジグジと泣く私の頭を、泣き止むまで優しく撫でてくれていた。
「今日もガイアスロイは平和だな…」
「ガイアスロイっていうか、君の国が――…じゃないかな?」
ぐしぐし泣いている私には、アルとシュガーレス様の会話は聞こえてこなかった。
ミナは知らなかった。
この時のミナと睦月姉弟の、聖剣を巡っての壮絶な戦いが、後の歴代勇者録の歴史書に記される事になるのを。
そして、それが後に自身の黒歴史として名を残す事になってしまうという事実に、色々と死にたくなってしまう事を。
「ミナ、失恋――…失恋?の傷を癒す為に温泉にでも行こうか。二人きりで」
馬車の中で、アルが優しく私の頭を撫でながら言ってくる。
「聖剣は選定の岩に刺さっているよりも、こうしてミナやムツキ達と居る方が幸せなんだし、彼女の好きにさせてやらないか?」
「そうですよね…メリ子さんにだって幸せになる権利はあるんですもんね」
「あぁ…だから対課は少しの間ムツキ達に任せて、俺達は少し息抜きをさせてもらわないか?」
「はい…あの子達やルド達が居れば心配ないですよね」
私がそう言うと、アルも頷いてくれた。
「でもアル、お仕事は大丈夫なんですか?」
「執務は最速で終わらせるから心配しなくていい」
アルのしっかりした口調に安心すると、先程の戦闘で疲れていた私は、安堵と疲れから瞼を閉じるのだった。
「次こそは、邪魔されずにミナと二人きりになる」
視察の帰りでのトラブルを思い出し、アルは固く心に誓っていたとか――。




