今日もガイアスロイは平和です(前編)
ハウスクーヘン国での視察を終えた私達は、自国へと帰る為に馬車に揺られていた。
その中には、ハウスクーヘン国の王子であるシュガーレス様も一緒だ。なんでも、国境まで私達を見送りたいとか。しかし、シュガーレスって狙いすぎじゃないか?滞在中は、思わずツッコミを入れたくなる事多々ありだった。
特にバームクーヘンのような円形の中心が空洞のケーキが出てきた時には「なんでやねん」と呟いていた。
シュガーレス様には「なんでやねんって何ですか?」と普通に質問されましたが…。
曖昧に笑っておいた。答えたりはしなかったよ。
そんな感じで、アル共々ハウスクーヘン国の皆さんには大変よくして頂いた。二人きりと言うわけには勿論いかなかったが、部屋は同じにしてもらっていたので夜は二人きりだったし、充実した日々を過ごしたと思う。
一つ国が変わるだけでも文化が違うし、街並みも違って、街の人達が着ている服も違っていたりと、新しい発見の連続だった。
そんな日々もあっと言う間に過ぎて、帰国する日になっていた。王都から国境まで3日程掛かるので、その間、街道沿いの景色をシュガーレス様自ら解説してくれていた。たまに寄り道もしたりして、楽しい行程だ。
このまま楽しく平穏に、馬車に揺られているものだと思っていた――この時までは。
◇◇
「魔物だぁ!!国境の橋に魔物が出たぞ!!」
3人の楽しい会話を遮ったのは、先頭を進む騎士隊の一人だった。
馬車が停車すると、私とアルは急いで外に出る。シュガーレス様が「ミナ様は馬車内に居てください!」と言っていた気がするが、気にしないでおこう。
街道に出ると、橋の向こうに結構な大きさの魔物がいた。
顔は鷲のようで、目はギラついており嘴は鋭く、胴体は熊のような体型、足は馬のような四本足の幻想種のような魔物だった。それが4頭いた。
「あいつらは猪鹿蝶です!」
騎士の一人が私達に向かって報告する。
ちょっと待て。猪鹿蝶と言っていながら、フォースグリフォンとはこれいかに。ルビが間違っていないか?
格好いい名前を付けておけば良いと言うものではないぞ。
そう思いながらもシリアスな場面の為、口をつぐむ。
「あれは普段山から出てこない筈の生き物なのに…どうして」
遅れて現れたシュガーレス様が呟く。
「血の臭いに引き寄せられたのかもしれません。あちらをご覧下さい」
騎士さんが指を指した方角を見ると、夥しい牛の死骸があった。
「山牛が誰かに襲われたのかもしれませんね。回収する前に猪鹿蝶が現れたから、首謀者は逃げ出した――そんな所か」
苦々しく言いながらシュガーレス様は拳を握りしめる。
貴重なタンパク質を乱獲するのは密猟者に違いない。山牛は人に育てられていない貴重な野生の牛だ。それを狩るだなんて、言語道断。
許すまじ密猟者!
だが、密猟者を断罪する前に、今は猪鹿蝶を倒さなくてはならないだろう。奴らは山牛を食べたらそのまま人里に降りて人間を狩るかもしれないのだから。
「フォースグリフォンは魔物の中でも気性が荒いほうだ。このままだと確実に不味い」
アルの言葉に頷くと、私は右腕を天に伸ばす。
「メリ子さん出番です!」
私が叫ぶと、一筋の光が舞い降りる。そこには、聖剣竜殺しの剣改め、メリケンサックのメリ子さんが現れる。その幻想的な光景に周りが息を飲むのを感じていた。
メリ子さんは私の両腕に抱かれていた。
人化バージョンで。
なんでや!!
「あの…メリ子さん。普段は人化しないのでは?」
「おほほほ」
私の首に両腕を回しながら、メリ子さんはあさっての方向を見ている。
私達の周りにいる人々はアルを除いて、皆さんメリ子さんに釘付けだ。まぁ、人のメリ子さんは絶世の美女だからなぁ。
何て事を思っていると、不意に大きな魔力が集まる。私達の側に白く輝く光が現れたかと思うと、「メリ子さん!!無事ですか!!」との聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ムツキ様!」
メリ子さんが嬉しそうに見つめるその先には、私の弟睦月が立っていた。




