一致する数字
一夜明けても、寝床の隅で聞いた借金取りの捨て台詞はまだ耳にこびりついていた。「明日までに耳を揃えろ」――その明日が、今日になった。
ギルド出張所の受付台は、朝から人でごった返していた。
順番待ちの列に並びながら、ミラがカウンターの端に置かれた書類の束にちらりと目をやった。査定官が席を外している間、無造作に積まれた紙の一枚が、束からわずかにはみ出している。
「……なあ」
ミラが小声で言い、指先でその紙をそっと引き出した。ハルが横目で覗き込むと、細かい数字がびっしりと並んだ紙面が見えた。名前らしき記号と、割合を示す数字の列。見慣れた依頼票とは明らかに書式が違う。
「何だそれ」
「さあね。表に出す帳簿じゃなさそうだけど」
ミラが目を細めた瞬間、奥の扉が開いてグレタが戻ってきた。ミラは何気ない仕草で紙を束の下に滑り込ませ、素知らぬ顔で列の先頭に進み出た。
「次」グレタが顎をしゃくる。ハルは背嚢の底から、灰塚を逃げ帰る道中で仕留めた小物の変異獣の爪と、裂けた皮を数枚取り出し、机に並べた。灰塚の主の亡骸はとうに叩き売った後だ。今日搔き集められるのは、その帰り道で拾った屑のような戦利品だけだった。
「……また、その程度?」グレタは爪の一本を摘み上げ、すぐに放った。「数字にならないものは、値段もつかないのよ。前にも言ったでしょう」
「わかってるよ、そんなこたぁ」ハルは奥歯を噛んだ。「いくらになる」
「二束三文よ」グレタは事務的に言い放ち、硬貨を数枚、素っ気なく机の上に滑らせた。「これで文句を言われる筋合いはないわ。所詮、掴み屋風情でしょう」
言い終えると、グレタは書類の束をわずかに引き寄せ、指先で角を整え直した。誰かに見られたことに気づいたような、妙にせわしない仕草だった。
「――ああ、それと」グレタは視線を上げずに付け加えた。「次に妙な因縁をつけてきたら、籍を剥奪するって話、忘れてないでしょうね」
「忘れるかよ、そんな脅し文句」ハルは吐き捨てた。だが胸の内では、その一言が以前より確実に近づいてきていることを感じていた。
ハルは硬貨を掴み、重さを確かめるように握った。手のひらの痺れがまだ疼く。今日という期限に、これでは焼け石に水だ。
「――終わったなら、次の人を通して」
グレタが視線で促すと、ハルとミラは机を離れた。だがミラの目は、さっきの書類の束にまだ張り付いていた。人混みに紛れて再びカウンターの端に寄り、素早く紙の端を摘む。
「ミラ」
「待って」
ミラの指が、紙面の数字の列をなぞった。名前の欄には見慣れぬ記号が並んでいたが、その隣に記された割合の数字だけは、妙に見覚えがあった。
「……これ」
ミラの声から、いつもの軽さが消えていた。喉の奥で言葉を探すように、一度息を呑む。
「あたしらの借金の利率と、同じじゃねえか」
ハルは紙を覗き込んだ。数字は確かに、返済証文に書かれたあの法外な割合と寸分違わず重なっていた。
「……偶然、じゃねえだろうな」
ミラの顔から、血の気が引いていくのが分かった。
「……おい」ハルは顔を覗き込むように身を屈めた。「そんな面すんな。まだ何もわかっちゃいねえだろうが」
「悪い冗談だと言ってくれよ、ハル」ミラの声は掠れていた。いつもなら軽口の一つも挟むところで、今は何も出てこない。
足音が近づいてきた。列の後ろから次の客がカウンターへ寄ってくる気配に、ミラは弾かれたように紙を束の下へ押し戻した。振り返った拍子に、目が合ったのはグレタだった。
一瞬だけ、その目がミラの手元に留まった――ような気がした。
カウンターの奥で、グレタが次の客を素っ気なくあしらう声が続いている。だがその声はもう、いつもの単なる横柄さには聞こえなかった。




