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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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動き出した大人たち


 セレスティーナは数日、誰にも会うことなく過ごした。

 食事や身の回りの世話は申し分なく、立場にあった手厚いものだ。


(一度も会いにすら来ないなんて、いったいどうなっているというの)


 侍女に問うも、決まって同じ答えが返ってくる。


「申し訳ございません、殿下のご予定については存じません」


(本当に知らないの?それとも──隠しているの?)


 鏡越しに、髪を結う侍女の顔をじっと見つめる。

 侍女は視線に気づくと微かに肩を震わせ、仕事に集中し直した。


(これは──アイテムを使ってでも情報収集するべきなの?)


 指先がじりじりと疼く。

 けれどセレスティーナは、深く息を吸い込んで自分を落ち着かせた。


(いいえ、この状況はあきらかにおかしい。ここでアイテムを使えば……ええ、使うのは最後の切り札に取っておくべき)


 完璧な笑顔を保ちながらも、胸の奥では不安と苛立ちが渦を巻く。

 時間だけが過ぎていくのが、耐えがたい。


「……散歩にでも行こうかしら」


「いいえ、妃殿下はお部屋から出られません」


 侍女が目を伏せたまま、告げた。


(どういうこと? わたくし、軟禁されているの? だとしたら、何故?)


 不意に力が抜け、ソファーに倒れ込む。

 緊張のせいか指先が冷え、震えが広がっていく。


(いったい、何故? ハッピーエンドでクリアしているはずよ)


「あ」


 ゲームの後。

 その後の情報は?


 セレスティーナは、呆然と指先を見つめた。


(……どうして?わたくしは勝ったのに)


 胸の奥が冷たくなる。

 完璧だったパレード、完璧だった式典、完璧な笑顔──

 それらが一つひとつ脳裏に蘇るたび、セレスティーナを拒否しているかのようなエドワールを思い出して嘲笑われている気がした。


(エンディング後に面倒が起きぬよう、時間を惜しまずうまくやったはずなのに……)


 指先がドレスをぎゅっと掴む。


(どこで……なにがいけなかった?)


 頭の中に、あの夜会で見た光景が蘇る。

 緑の蛍石と三曲連続のダンス……リリィ・アーヴェルンが王太子と並んだ姿。


(いいえ、そんなはずない。わたくしが勝ったのだから──)

 

 致命的なミスをしていれば、成婚はなかった。

 だから失敗はしていないはず。

 セレスティーナは唇を噛み、血の味を感じながら微笑んだ。


(……だって、成婚のパレードがエンドなのよ)



「え、すぐにファピンに帰るつもりだったのだけど」


 私はお義父様に、自分の予定を伝えてあったと思うんだけど?と首をかしげた。


「うん、そう聞いていたんだけどね」


 ジルベールは少し困ったように、肩をすくめた。


「登城命令が出ている。リリィにも」


「え?私もですか」


「うん、おそらく事情聴取だと思うよ。セレスティーナ妃殿下絡みの」


 私は溜め息をついて、椅子に座り込んだ。


「カーティス様のところに行ってくるわ」


「ミアと行きなさい。一人ではいけないよ」


 この国では貴族ですもの、もちろん侍女と行かせていただきます。

 ユリはカーティスのところに戻っているし、育休明けのミアと行くわ。


「はい、お義父様」


 久しぶりに会ったミアは、ちょっとふっくらして元気そうだった。

 元々痩せぎすだったから、ちょうどいいかもしれない。

 とても幸せそうで、私もミアを見てると幸せな気持ちになる。

 屋敷につくと、カーティスの屋敷はいつもより忙しそうで、人も多かった。


「証人の移送とか、最終提出書類のチェックとかでてんてこ舞いなのよ」


「あ、だから知らない護衛みたいな人がいっぱいいるの?」


「そう。王宮からの騎士たちよ」


 私は出されたハーブティーを飲みながら、カーティスの話を聞いた。


「あなたがファピンにいってから、もう何度も密談が行われたわ。パレード前に全部……外に向けたシナリオは完成してるの」


「ああ、外国と国民に向けた?」


「ううん、他の貴族にもよ? つまり当事者と関係者以外に向ける物語ね。それが正史になるの」


「こわ。こうなってみると、乙女ゲームは所詮子供のゲームね。ご都合主義の」


カーティスは真面目な顔で、そうねぇと呟いた。


「どんなお話も、政治を絡めなければきれいにまとまるものよ。ましてや架空の物語なら、特にね」


私は同意しつつ、忙しそうな使用人たちを眺めた。

その一人一人の動きが、嵐の前の波のように整然としているのがかえって不気味だ。


(いよいよ──なのね)



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