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最前線は救助員が奪う ~世界最難関ダンジョン、救助に入った俺がそのまま攻略します~  作者: 空乃 カナタ


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第4話 先に着いた

 塔を降りてから、迅は歩く速度を上げた。


「ちょっと待って」


「速いですか?」


「速い」


「すみません」


 迅が速度を落とす。


 三十秒後。


「また速くなってる」


「なってます?」


「なってる」


 ひよりは肩で息をしながら、迅の背中をにらんだ。


 森の奥に石造りの街を見つけてから、明らかに迅の足が速くなっている。


「行きたいのは分かるけど」


「はい」


「私も人間だからね」


「知ってます」


「じゃあ置いていかないで」


「置いてませんよ」


「今、十五メートル離れてた!」


 迅が止まった。


「休みます?」


「それ言われると悔しい」


 ひよりは水筒を出した。


「三十秒」


「はい」


 迅も水を飲む。


 撮影ドローンは二人の頭上を飛びながら、森を映していた。


 配信の同時視聴者は六百万人を超えている。


 四十階へ入った攻略団の中で、今のところ最も先へ進んでいるのは迅たちだった。


 もっとも、二人には地図がない。


 見つけた街の方角だけを頼りに進んでいる。


「ほかの攻略団、どうなってる?」


「ちょっと待ってください」


 ひよりが端末を操作する。


 公式共有地図を開く。


 入口付近から、いくつもの色の線が森の中へ伸びていた。


「白盾が北東。東亜が真東。ほかもだいたい石畳を探しながら進んでる」


「こっちは?」


「共有地図だと、私たちだけ」


「じゃあ合ってるか分からないですね」


「街は見えたでしょ」


「方向は」


「それで行くの?」


「はい」


 迅は立ち上がった。


「森なら、まっすぐ行けるので」


「その『まっすぐ』が普通は難しいんだけどね」


     ◇


 十分後。


 ひよりは迅の言った意味を理解した。


 木が邪魔なら、間を通る。


 倒木があれば越える。


 岩があれば登る。


 谷があれば迅が先に渡ってロープを張る。


 魔物が出れば倒す。


 迅は本当に、それだけで進んだ。


 途中で道を探さない。


 遠回りもしない。


 街の中央から伸びている塔を、ときどき木々の隙間から確認する。


 それが右へずれれば左へ。


 左へずれれば右へ。


 ひよりは後ろをついていくだけで精いっぱいだった。


「止まって」


 今度は迅のほうから足を止めた。


 ひよりも弓へ手をかける。


「敵?」


「たぶん」


「どこ?」


 迅が前を指した。


 木々の向こうに、灰色のものが並んでいた。


 最初は岩かと思った。


 動いた。


「多くない?」


 灰色の猿。


 さっき戦ったものと同じ魔物だ。


 十や二十ではない。


 木の上にもいる。


 地面にもいる。


 ざっと見ただけで百体を超えていた。


「これ、群れの本体じゃない?」


「そうかもしれません」


「回る?」


 迅は群れの向こうを見る。


 その先に、街の石壁が見えていた。


「回ると遠いですね」


「うん」


「じゃあ、このまま行きます」


「そう言うと思った」


 迅が大剣を抜いた。


 ひよりも矢をつがえる。


「私は後ろ取られないように見る」


「お願いします」


「多すぎるから、囲まれないでよ」


「はい」


 迅が走りだした。


「返事が軽い!」


 猿たちが一斉に反応した。


 枝が揺れる。


 地面を走る個体が迅へ集まる。


 迅は速度を落とさない。


 一体目。


 正面から飛びかかってきた猿を、大剣で横へ払う。


 二体目。


 返した刃で胴を打つ。


 三体目が上から落ちてくる。


 迅は一歩だけ横へずれた。


 地面へ降りた瞬間、首へ大剣を落とす。


 止まらない。


 そのまま群れの中を進んでいく。


「右!」


 ひよりが矢を放つ。


 迅の横から飛びかかろうとしていた一体の顔へ刺さった。


「ありがとうございます!」


「前見て!」


 迅の前に、十体近い猿が集まった。


 進路を塞ぐ。


 迅は大剣を右肩へ担いだ。


 そのまま踏み込む。


 一振り。


 先頭の三体がまとめて吹き飛ぶ。


 後ろにいた猿まで巻き込み、群れに穴が開いた。


 迅はそこへ入った。


「抜ける気!?」


「このほうが早いです!」


「そうだけど!」


 ひよりも走る。


 迅が開けた場所を追う。


 左右から寄ってくる猿だけを矢で牽制した。


 全部倒す必要はない。


 進路を空ければいい。


 迅も同じだった。


 前へ出てくる敵だけを叩き飛ばす。


 追ってくる個体は、足が止まったところだけ仕留める。


 森の中に一本の道ができていく。


 土と葉。


 倒れた猿。


 折れた枝。


 その中心を二人が走る。


「あと少し!」


 街の壁が大きくなってきた。


 高さは十五メートルほど。


 石造りの壁が森の中を左右へ延びている。


 正面には門があった。


 閉じている。


「門!」


 ひよりが指した。


 迅も見る。


 石の両開き。


 かなり大きい。


 その前にも灰色の猿が集まっていた。


「どうする!?」


「開けます!」


「開くの!?」


「見てきます!」


「そういう意味じゃない!」


 迅がさらに速度を上げた。


 猿の群れへ突っ込む。


 大剣を振る。


 左右へ吹き飛ばす。


 門の前まで一気に抜けた。


 迅は取っ手をつかんだ。


 押す。


 動かない。


 引く。


 動かない。


「鍵?」


 追いついたひよりが聞く。


「みたいですね」


「周り探そう!」


 迅は門を見上げた。


「榊さん」


「何?」


「カメラ少し下げてもらえます?」


「何するの?」


「開けます」


「だから、どうやって」


 迅は大剣を両手で持った。


 ひよりは門を見た。


 迅を見る。


「待って」


「はい」


「それ、開けるって言わないよね?」


「通れるようにはなります」


「待って待って」


 迅が大剣を振りかぶる。


「迅!」


 名前で呼んでしまった。


 迅が止まった。


「何ですか」


「都市の門だよ?」


「はい」


「壊していいの?」


 迅は少し考えた。


「分からないですね」


「でしょ!」


「じゃあ上から行きます」


「そっちは即決なんだ」


 迅は大剣を背負った。


 壁を見る。


 高さ十五メートル。


「ロープ、さっきのあります?」


「ある」


「俺が上で固定します」


「もう驚かないからね」


「助かります」


 迅が壁へ向かって走った。


 石壁の手前で跳ぶ。


 一度。


 壁を蹴る。


 二度目。


 さらに空中へ足を置く。


 三度目。


「二回使えるの!?」


 ひよりが叫んだ。


 迅は壁の上へ手をかけた。


 体を引き上げる。


 上から顔を出した。


「今日は二回までです!」


「そういうの先に教えて!」


「聞かれなかったので!」


「知らないから聞けないの!」


 迅がロープを下ろす。


 ひよりは腰へ固定した。


 猿が迫ってきている。


「早く上がってください!」


「今やってる!」


 迅がロープを引く。


 ひよりは壁を蹴りながら登った。


 手が上へ届く。


 迅に腕をつかまれ、そのまま引き上げられる。


「重かったですか」


「答えによっては撃つよ」


「軽かったです」


「よし」


 二人は壁の上から、街の中を見下ろした。


 ひよりは息を忘れた。


「……すご」


 石造りの建物が並んでいる。


 広い道路。


 広場。


 水路。


 何本もの塔。


 遠くには、さっき見えた巨大な中央塔が立っていた。


 人の姿はない。


 代わりに、街路のあちこちを魔物が歩いている。


 狼。


 大きな鳥。


 灰色の猿。


 見たことのない鎧をまとった人型の魔物までいた。


「街全部が魔物の巣?」


「みたいですね」


「これ、二人で入る?」


「入るために来たので」


「言うと思った」


 ひよりは撮影ドローンを街側へ飛ばした。


 映像が配信へ流れる。


 コメント欄の速度が一気に上がる。


「七百万人」


「何がです?」


「見てる人」


「増えましたね」


「今、四十階の最初の街に入ろうとしてるんだから増えるよ!」


 迅は中央塔を見る。


「まず、あそこですかね」


「どうして?」


「高いので」


「またそれ?」


「街全体が見えます」


「それはそうだけど」


 迅は壁から街側へ降りた。


「ちょっと!」


 五メートルほど下の屋根へ着地する。


「ロープ使おうよ!」


「下りるだけなので」


「私は使うからね!」


 ひよりがロープを準備している間に、迅は周囲を確認した。


 屋根の下。


 通りの向こう。


 魔物がこちらへ気づき始めている。


「榊さん」


「何!」


「少し急いだほうがいいです」


「それは見れば分かる!」


 ひよりが街側へ降りる。


 二人が屋根の上へ並んだ。


 下の通りへ魔物が集まり始めている。


「中央塔まで、どのくらい?」


「二キロくらいですかね」


「道は?」


 迅は屋根の先を見る。


 建物が中央塔まで続いている。


「あります」


「どこ?」


 迅が屋根を指した。


「この上」


 ひよりは一度、目を閉じた。


「地面を歩く気ないでしょ」


「敵が多いので」


「ちゃんと考えてはいるんだ」


「ひどくないですか?」


 二人は屋根を走り始めた。


     ◇


 四十階入口。


「また先に行かれた!」


 攻略団《白盾》の副隊長、松永が端末を見て叫んだ。


 画面には、屋根の上を走る迅とひよりが映っている。


 城戸将馬は前を見たまま歩いていた。


「声がでかい」


「隊長、見てくださいよ。もう街ですよ」


「見てる」


「俺たち、まだ森です」


「知ってる」


 白盾は五十人で進んでいた。


 先行班。


 索敵班。


 治療班。


 運搬班。


 地図を作りながら、退路を確保している。


 攻略団としては正しい。


 迅たちより遅いのも当然だった。


「追います?」


 松永が聞く。


「追わない」


「でも初到達を取られますよ」


「もう取られてる」


「中央塔はまだです」


 城戸が足を止めた。


「松永」


「はい」


「五十人であいつと同じ動きをしたらどうなる」


 松永は少し考えた。


「半分くらい迷子になりますね」


「残りは?」


「荷物を捨てます」


「そういうことだ」


 城戸はまた歩きだした。


「俺たちは俺たちのやり方で行く」


「悔しくないですか」


「悔しい」


 返事は早かった。


「だから見てる」


 松永が笑った。


「それでいいんです?」


「あいつが何を見つけるか分からん。先に行く奴がいるなら、利用できる情報は全部もらう」


「配信で?」


「本人が流してるんだからな」


 端末の中で、迅が屋根から屋根へ飛んだ。


 ひよりが後ろから叫んでいる。


 城戸は少しだけ歩く速度を上げた。


「ただし」


「はい?」


「今日中に街までは入るぞ」


「了解!」


     ◇


 迅たちは、中央塔まで残り半分ほどのところで止まった。


 原因は道ではない。


 屋根がなくなっていた。


 正面には、大きな広場がある。


 中央塔へ続く大通りも、そこから始まっている。


 問題は、その広場を埋めているものだった。


「……何体?」


 ひよりが小声で聞いた。


「百より多いですね」


「二百はいるよ」


 鎧を着た人型の魔物が並んでいた。


 身長は二メートルほど。


 剣。


 槍。


 盾。


 武器もばらばらだ。


 だが、街で見たほかの魔物とは違う。


 列を作っている。


 整然と。


 広場の中央には、さらに大きな個体が一体立っていた。


 黒い鎧。


 長い槍。


 頭には角のような飾りが伸びている。


「どうする?」


 ひよりが聞いた。


 迅は広場を見る。


 左右を見る。


 中央塔を見る。


「ここを抜けるのが一番早いです」


「でしょうね」


「榊さん」


「うん」


「矢、足ります?」


「百体分はないよ」


「じゃあ節約してください」


「迅は?」


 迅が大剣を抜いた。


「俺は足ります」


 広場の兵士たちが、一斉にこちらを向いた。


 ひよりは弓を構える。


「これ、配信してるんだよね」


「してますね」


「七百万人くらい見てるんだよね」


「さっき聞きました」


「緊張しない?」


 迅は広場へ降りる場所を探しながら答えた。


「戦うときは見てないので」


「何を?」


「人数」


「そっちじゃない!」


 迅は屋根の端へ立った。


 下では、二百を超える兵士が武器を構えている。


 中央の黒い騎士が槍を上げた。


 全部の兵士が同時に一歩前へ出る。


 迅は大剣を肩へ担いだ。


「行ってきます」


「待って」


 迅が振り返る。


「何ですか」


「私も行く」


 ひよりは矢をつがえた。


「一緒に来たんだから」


 迅は少しだけ笑った。


「じゃあ、お願いします」


 二人は広場へ降りた。


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