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第2話 大義のためならおれたちは何でもできるんだ

 好感度が低すぎるってんなら、やることは一つ。そう、自分たちの手で積み上げるんだ。おれたちはそうやってここまできたんだからな。


 土方は、山南と原田にうなずきかけた。


「つーわけで、今日から新しいプロジェクトを始めることになった。――新選組“好感度爆上げ作戦”だ! よろしくな!」


 山南が笑った。

「爆上げ、ですか」


「ああ、爆上げだ」

 土方もニヤリと笑い、

「威勢がいいだろ?」


「たしかに威勢がいい」


「それからな」

 土方が続けた。


「近藤さんと相談したんだが、山南よ、爆上げ作戦の本部長はお前に頼みたい」


「え」

 山南の顔から笑みが消えた。

「……私? 私が爆上げですか!?」


「ああ、お前が爆上げだ」


「いやあ、私なんかよりも」

 謙遜しかけた山南だったが、

(あれ。私よりも適任の人って誰だろう?)


 新選組の幹部の顔が次々と脳裏に浮かび、消えていった。


 結論としては、

(――うん、いないわ)


 新選組はバリバリの体育会系の集団。「好感度」なんてデリケートなネタを扱えるやつがそう何人もいるはずがないのだった。


 かくして、

「謹んでお受けします」

 ということになった。



◇◆◇◆◇



 スムーズに趣旨を理解し、本部長に就任した山南。

 一方、原田は違った。


 彼は、土方と山南が話している間中、頭やら首やらをボリボリ、ボリボリと掻き続けていた。


 原田の名誉のために補足しておくと、シラミがいるのではない。

 水虫でもない。


「……原田」

 土方が水を向けた。

「お前はどうも気乗りしないようだな」


「いやあ」

 原田は口ごもり、

「気乗りしないというか……」

 気恥ずかしそうに笑った。


「だって、こ、こここ、ここ、コケコッコー! あ、間違えた。そうじゃなくて、好感度。うん、好感度。好感度なんてのは、ねぇ」

 またボリボリと掻き始めた。


 取り乱す原田を見て、

(わかる)

 土方は心の中でつぶやいた。


(原田、お前の気持ちはよくわかるよ)


「ねえ副長!」

 原田がグッと身を乗り出した。


「新選組は(おとこ)の集団でしょう?」


「そうだな」


「幕府への忠義に生き、幕府への忠義に死ぬ。仲間は決して見捨てない。絶対に裏切らない。ぬるく生きるくらいなら、パッと命を散らす方を選ぶ。――そんな熱い漢の集団でしょう?」


「うん」


「それが急に好感度って……」


 土方には、原田の気持ちが手に取るようにわかった。

 そして、だからこそしっかり言っておかなければと思った。


 土方は立ち上がり、床の間の掛け軸に視線を向けた。


 力強い筆致で、

「漢の道とは」

 とある。


 隅には

「近藤勇」

 の署名。


 近藤が局長に就任した時にしたためた書だ。


「なあ原田よ、漢の道って何だろうな?」

 土方は静かな口調で言った。


「おれは最近こう思うんだ。――大義のためなら鬼にもなるし、道化師にもなる。時には好感度なんつー女々しくて、こざかしいものにも気を配る。それが真の漢の道なんじゃないかってな」


「……」


「つっぱるだけならバカでもできらぁ。でも大義のために笑って畜生道に堕ちられるやつは、そうはいねーぞ?」


(畜生道って……)

 山南はちょっと呆れる。

(この人は好感度を何だと思っているんだ?)


 だが当の原田は

「笑って堕ちる、か」

 感じるところがあった様子。


「副長」

 と言って立ち上がった。


「おれ、おれ……副長の言葉で目が覚めました!」

 頬が紅潮していた。


「おれ、やります! 大義のために女々しくてこざかしいやつになります!」


「よーし」

 土方は大きくうなずいた。

「女々しくてこざかしいやつになってほしいわけじゃないんだが、うん、まあいいか!」


 土方は両手をガバッと開き、

「原田!」


「副長!」

 二人は固く抱き合った。


 ああ、漢同士の友愛だ。

 戦場で培われたブロマンスだ。


 山南は微笑み、まぶしそうに目を細めた。


 ――とまあこうして好感度爆上げ作戦に着手することになったのだが、

(えっと。好感度ってどうやれば上がるんだっけ?)


 三人は顔を見合わせた。


 人の殺し方や苦しめ方、殴り方、蹴飛ばし方なら百も二百も知っているが、こと好感度アップなんてものになると赤ん坊以下という連中である。


「……」

「……」

「……」

 気まずい沈黙が続いた。


「……まっ、おのおのが考えてさ」

「ええ、各自で」

「それで後日アイデアを持ち寄ることに」

「はい、それで!」

「ですです!」


 その日は解散した。

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