第12話 この混迷の時代にはあんたみたいな人が必要なんだ
みんなと一緒になってニヤニヤしていた山南だが、司会進行役の彼がニヤニヤしているばかりでは話が進まない。
「えーと」
と言って、表情を引き締めた。
「今日はですね、特に注目すべきと思われる数字を選りすぐってきています」
うず高く積まれた半紙を、ポンと叩いてみせた。この日のために準備してきたプレゼン資料だった。
「順々にご紹介しますので、どうぞ団子でも食べながら、リラックスしてお聞きください」
みなの前には、山南が用意した串団子と茶が置かれていた。
「ではまいりましょう。最初にご紹介したいのは――こちらです」
山南が一枚の半紙を示した。
そこには、
【新選組の隊士は腕が立つ:91%】
とあった。
「この数字は、『新選組の隊士は腕が立つと思いますか?』という問いに対して『そう思う』、または『ややそう思う』と回答した人の割合です。つまり、京都に住む人の九割強が、『新選組は腕の立つ者の集まりだ』と感じているわけですね」
この説明に、
「ふむ……」
ある者は声を漏らし、またある者は小首をかしげた。
総じて曖昧な反応だった。
「91%」
と聞けば立派な数字に感じるが、しかし、
「100%じゃないんだろ? それって喜んでいいのかい?」
という気もする。
みながリアクションに困っていたのである。
まさに――山南の想定通りだった。
山南は、待ってましたとばかりに次の半紙を示した。
【69%】
とあった。
「アンケートでは、じつは見廻組についても質問しました」
見廻組というのは、新選組と同じく武装警察で、新選組と同じく京都の治安維持のために存在し……まあ要するに、新選組のライバルである。
「『見廻組の隊士は腕が立つと思いますか?』という問いに対して、イエスと回答した割合がこちら、69%です。われわれのスコアは、見廻組のそれよりも22ポイントも高いわけですね」
山南はみなの顔をグルリと見回した。
「いかがです? われわれがいかに屈強で、いかに強力な集団と評価されているか、おわかりいただけたでしょうか」
これには、
「おお!」
一同どよめいた。
さらに、
「杉さんからの伝言ですが、『91%というのはかなり高い数字である。ほぼ満点と見ていいだろう』とのことでした」
と山南が補足したものだから、もう大変だ。
蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「京都人ってのはひねくれ者ばかりかと思っていたが、うーむ、なかなか見る目があるようだな」
「やはりおれたちは強いのだ!」
「ワハハ! ざまみろ見廻組!」
頃合いを見計らって、
「次にまいりましょう。――こちらです!」
山南が示した半紙には、
【新選組の隊士はガタイがいい:88%】
とあった。
部屋のあちこちから、
「ゲラゲラ!」
笑いが起きた。
原田がボディビルダー風のポーズを取ると、笑い声はさらに大きくなった。
「ふんすっ!」
得意げに鼻を鳴らしたのは松原である。
彼は柔術の達人であり、ガタイのよさでは原田に勝るとも劣らない。
「おれたちの肉体美は広く知れ渡っているわけだな」
胸の筋肉をピクピク動かしてみせた。
その後も、
【新選組は覚悟が決まっている:85%】
【新選組には逆らわない方がいい:90%】
といった半紙を次々に示し、まるでDJのごとく部屋を沸かせる山南だった。
だがやがて、
「――ちょいといいかい」
近藤である。
近藤は穏やかな笑みを浮かべたまま、
「なあ山南、そろそろいいんじゃないかな」
と言った。
「……え?」
「もう十分に温まったんじゃないかと思うが、どうだい?」
「……」
近藤は、居並ぶ幹部たちをゆっくりと見渡した。
「みんなだって本当はわかっているんだろ。山南がおれたちに気を遣ってくれている、とな」
山南は苦笑した。
「――お気づきでしたか」
「そりゃ気づくさ」
近藤はウインク。
「だってこれ、新選組の好感度を調べるためのアンケートだよな? それなのに『新選組の隊士は腕が立つ』とか『ガタイがいい』とかそんな話ばかりで、肝心の好感度はいつまでも出てこない。となりゃあ、おれみたいなバカだってわかるさ。――山南よ、新選組の好感度はひどかったんだろ? それでお前は、おれたちが凹みすぎないように、先に景気のいい数字を見せてくれたんだろ?」
その言葉に、
「うんうん、おれもそうだと思ったよ!」
「おれも思った!」
絶対にそんなことは思っていなかったであろう原田と松原が、大きくうなずいた。
近藤は改めて山南に向き直り、
「大丈夫さ」
と言った。
「大丈夫、おれたちはどんな結果でも受け止められるさ。どれほどひどい結果でも――ガハハハ、実際ひどいのだろうけれど、でも大丈夫。真正面から受け止める。そしてそこから前進していける。だっておれたちは新選組じゃないか。そうだろ、みんな!」
部屋の空気がピーンと引き締まったのを感じ、
(くぅ、これぞ近藤さんだぜ!)
と土方。
近藤の言葉には力があった。
どんな状況にあっても、
「局長が言うならきっと大丈夫。万事うまくいくさ!」
みながそう確信するだけの力があった。
(この混迷の時代には、こういう人が必要なんだ)
(おれは一生この人についていくぜ!)
決意を新たにした土方だった。




