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第16話:スカーレットの血の監査と、デスナイト襲来




黒座の迷宮の第一階層守護者の玉座の間は、破壊的な重力圧によって激しく軋んでいた。


スカーレットは、かつてアレハンドロのものだった執務室の椅子に腰掛けていた。彼女の琥珀色の瞳の前で、迷宮のシステムウィンドウが赤色の警告ログを激しく明滅させている──地上へ派遣したレベル35の三人の死霊監査官たちのHPバーが、一瞬で同時にゼロになったのだ。彼らは組織図から完全に消去(パージ)された。


闇の女武神は、負傷した野獣のような獰猛さでその怒りを暴発させた。


スカーレットは黒曜石のガントレットを嵌めた拳を突き上げ、マホガニーの机を粉々に叩き割った。書類の巻物が空中を舞い、彼女のレベル50のマナが部屋の石壁に巨大なひび割れを入れていく。


失った金への怒りではない。彼女の臓物を焼き尽くしていたのは、病的なまでの「嫉妬心」だった。


死亡ログのマナの残滓を解析したところ、システムは汚染された魔力の痕跡を検出していた。スカーレットはその解体フォーマットを一瞬で見抜いた──アレハンドロの『魂の収穫』だ。自分が追放したあの半エルフの男はまだ生きており、地上のドブの中で私の管理体制を嘲笑い、そして何よりも彼女を狂わせたのは、リラとエレナが未だにあの男を狂信的に愛し、泥の中で奉仕し続けているという事実だった。



「アレハンドロ……! なぜ、なぜ大人しく死なないのよっ!?」スカーレットは血走った目で絶叫し、怒りと歪んだ情欲の絶頂に息を切らせた。「スラムの薄汚い地下室から私の財務をハッキングしているつもりでしょうが! この手でその心臓をへし折ってやるわ!」



コーポレートな出世欲に囚われたスカーレットは、第一階層の玉座で完全に孤立していた。誰も彼女を愛さず、純粋な忠誠を捧げる者などいない。その欲求不満が、容赦のない軍事命令へと変換される。


彼女は黒いベッドシーツから立ち上がり、迷宮の戦力展開メニューを起動した。



【迷宮システム:外部パージプロトコル起動】

・展開ユニット:上位デスナイト ➔ 【エリートクラス / レベル45】

・マナコスト:迷宮マナ3000消費

・主目的:オークヘイヴンの人間のスラム街へ侵入し、禁忌粉末のルートを特定、およびアレハンドロの抹殺。



床に開いた紫色の魔法陣から、二メートル半を超える巨体が出現した。そのデスナイトは錆びついた呪いの鉄のプレートアーマーを纏い、腐食したタワーシールドと、瘴気を滴らせる大剣を携えていた。兜の奥では、二つの紅蓮の亡者火が不気味に燃え盛っている。


【不死族:迷宮所属デスナイト / レベル45】



「地上へ行け」スカーレットは下品に舌なめずりをし、狂気的な笑みを浮かべた。「あの半エルフの潜む酒場を跡形もなく破壊しろ。侍女どもを肉片に変え、あの男の首を裏切りの退職金として私のもとへ持ち帰るのだ。奴の財務フォーマットがお前の大剣から命を救えるか、試してやるさ」



***



数キロメートル離れた『独眼のイノシシ亭』の地下室では、聖騎士のパージを終えたアレハンドロ(レベル44)の魔力の密度が不気味に安定していた。


石の玉座に深く腰掛けたアレハンドロは、エレナと共に蒸留釜で作業するアストリッドを見つめていた。潜在ランクSの狐人の少女は、完全に彼に籠絡(レイプイン)され、ゴシックな服従の元で、学院から盗み出した最高級の安定剤を釜に注ぎ込み、禁忌粉末の純度を軍事レベルへと引き上げていた。


突如、アレハンドロのパッシブスキル『暗黒直感』が、システムの赤い警告ログを脳内に弾き出した。


地下室の床が激しく震動し始めた。人間の酒場の格子天井から、迷宮特有の濃厚な腐敗の瘴気が漏れ出してくる。スカーレットの猟犬が、スラムの歓楽街を跨いだのだ。


アレハンドロは石の玉座から悠然と立ち上がった。解剖学的には正常でありながら、底なしの漆黒を湛えた瞳が出口の方向へと固定される。レベル44の質量を得た彼のマナが、灰色のチュニックを激しく揺らし始めた。



「エレナ、アストリッド、製造ラインを停止し、反応剤をインベントリに退避させろ」アレハンドロは地下室の空気を凍らせる平坦な声で命じた。「リラ、レン、精製室の側面に散れ。黒座の迷宮から、力による『直接監査』が送り込まれてきたぞ」



リラはサディスティックな笑みを深め、レベル50の槍を軋ませながら、血に飢えた狂気的な情欲をその目に滾らせた。



「お頭……! やっと噛みごたえのある玩具が降りてきましたわねァ……。あの呪われた骨を、私が噛み砕いて差し上げますわ……」



「焦るな、リラ」アレハンドロは青白い顔にバーサーカーの牙を覗かせ、容赦のない笑みを浮かべた。「今回は玉座で見物しているだけではない。あの魔物はレベル45だ。俺の次の進化(レベリング)のための最高の燃料(ソース)になる。スカーレットの遺産が、我が新体制の前衛の防衛ラインを突破できるか、試してやるさ」



アレハンドロが両腕を広げると、彼の網膜の中でシステムが黄金の輝きを放ち、本当の戦争の始まりのために温存していたクラス魔法を起動させた。



【システム通知:クラス死霊魔術の起動を確認】

・術式:中級『汚染された骨の装甲(ボーンシールド)』

・効果:高密度の肋骨と大腿骨のバイオ障壁を展開し、物理・魔法ダメージを40%軽減する。

・パッシブ補正:失業者のフレンジー(5倍倍率)により、骨の装甲にマナソニックの刺棘を付与。



肉と軟骨が不気味に軋み、砕ける音が大気中に響き渡った。地下の床から、数十本の汚染された肋骨や大腿骨が突き出し、アレハンドロの屈強な肉体を包み込むように絡み合い、紫色のルーンを刻んだ重厚な骸骨のフルプレートアーマーを形成していった。


レベル44のマナを最大出力で解放し、骨の装甲を纏ったアレハンドロは、デスナイトの突入を静かに待った。地上の新しい帝国は、黒座の迷宮に対する最初の「生物兵器戦争」を迎える準備を完全に整えていた。


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