表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

雨の日とアールグレイ【29番】

作者:永仁乃風理
最終エピソード掲載日:2026/07/21
世界には、二種類の人間がいる。
雨が降ったときに、ただ「濡れて嫌だな」と思う人と、その雨音の向こうにある静けさを愛せる人。
僕たちは間違いなく、後者だった。
大学の片隅にある、少し薄暗い旧図書館。
そこは僕たちにとって、激しい雨から逃れて潜り込む、静かな潜水艦のような場所だった。
僕の記憶の中の彼女は、いつも雨の匂いと、甘く爽やかなアールグレイの香りを纏っている。
ベージュのトレンチコート。白磁のマグカップ。そして、古い紙を扱うために傷ついた、小さな指先。
僕たちは、お互いのプライベートに土足で踏み込むような真似はしなかった。
連絡先を熱心に交換することも、今度どこかへ行こうと騒がしく約束することもなかった。
ただ、三つ隣の席に座り、同じ静寂を分け合い、数行の文字を交わす。
大人しい僕たちの恋は、雪が積もるように、ただ静かに、けれど誰よりも一途に、心の奥底へ降り積もっていった。
「紅野先輩」
2つ年下の彼女が、小さな声で僕の名前を呼ぶ。
その響きだけで、僕の灰色だった日常は、綺麗な琥珀色に染まっていくのだった。
これは、もうすぐ大学を卒業してこの街を去る僕と、雨の日にだけ深く繋がっていた彼女の、静かで、一番純粋だった季節の記憶。
窓ガラスを叩く細かな雨の音が、今も耳の奥で、優しくアールグレイの湯気を揺らしている。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ