第六章 いずれ来る別れ
一、海面へ、上がる艦
「それじゃあ、また来年」
「はい。また来年、ですね」
大きな荷物を持って新幹線の搭乗口へ向かう薫と、その姿を見送る詩織。
詩織が修復したあの本を薫に渡してから一週間後、早くも引っ越しを決断する。
「ここに居ても、結局何も変わらない。だって、詩織さんと会ったのは二年前でも、合コンでも、お見合いでもなんでもないんだから。ただお互いに惹かれ合った末の結果、こうなることが出来た。僕らがすべきは人生を真っ当に生きて、もう一度会う時に、恥ずべき姿でいないよう、努力するだけ」
「そう、ですね。では、先輩に勝てなくとも劣らない、誇らしい彼女になってみせます。楽しみにしていてくださいね?」
「…楽しみにしてるよ」
胸の前で小さくガッツポーズをする彼女がどうしても微笑ましくて、笑ってしまう。
「もう行くね」
「―――先輩、アールグレイの香りが届く距離にいてもいいですか」
「…!」
それは、詩織と薫の出会いのきっかけとも呼べる言葉だった。
たった半年。その短い期間で二人は見えないなにかに結ばれている。運命の糸か、なるべくしてなった導きの糸か。それが何かはわからないけど。確かに言えることがある。
「もちろんです。あの香りがしないと、今は落ち着きませんから」
雨の日とアールグレイ。二人を近づけたのは、それらの手引きあってこそだと。
『雨の日とアールグレイ』完
制作期間2週間(7/1〜7/11計11日間)




