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永遠にレベル1の俺だけ、格上補正が消えない〜経験値が全部SPに変わる呪いスキル『停滞』で、上には行けないけど横にはどこまでも強くなる〜  作者: かしおり
第1章「呪いと呼ばれた日」

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第4話 紙装甲の底上げ

 その日の夕暮れ、俺はリゼを宿の裏の川辺に連れ出した。


 サルドの町を貫く小川は、夕日を溶かしてゆるやかに光っている。

 人通りはない。秘密を打ち明けるには、うってつけの場所だ。


「で、話って?」


 石に腰かけたリゼが、めずらしく神妙な顔で聞いてくる。


 俺は、少し迷ってから、口を開いた。


「先に、これを見てくれ」


 俺はリゼに向き直り、意識を集中する。


 この世界では、自分のステータスを他人に見せるには、本人が明確に“許す”必要がある。

 脅して覗こうとしても、女神の加護がそれを拒むらしい。


 だから、俺は自分の意志で、リゼにステータスを開示した。



ステータス───────────────

クロウ

LV 1

HP 8/8

MP 15/15

ATK 4

DEF 3

MAG 116

MND 15

AGI 22

LUK 18


・固有スキル

停滞 LV1


・取得スキル

風魔法 LV1

魔力強化 LV1


────────────────────



「……え」


 リゼの目が、見開かれていく。


「え、ちょっ……なにこれ。LV1……なのに、MAGだけ116? しかも、HPは8のまま……?」


「ああ」


「さっき魔法を使えてたのも、この数字のせいなんだ……。でも、そもそも変だよ。クロウの固有スキルは『停滞』だけだったのに、いつのまに、こんなにスキルを増やして……。しかも、LV1のまま、能力値だけこんな数字に。ねえ、これ、どうやったの? ありえないよ、こんなの……!?」


 リゼの動揺は、もっともだ。


 この世界の常識では、能力値はレベルとともに伸びる。

 スキルだって、レベルを上げるか、長い修練を積むかしなければ、そう簡単には増えない。


 なのに、俺はレベル1のまま、MAGだけを異常に跳ね上げ、スキルを自分の意志で並べている。


 常識では、絶対にありえない。



「順番に、話すよ」


 俺は、川面を眺めながら、ぽつぽつと語りはじめた。


 『停滞』が、経験値を一切くれないこと。

 その代わり、経験値がまるごと“SP”という力に変わること。

 そのSPが、俺にしか見えず、俺にしか使えないこと。

 そして、SPを注げば、レベルを上げずとも、スキルも能力値も、いくらでも増やせること。


「……つまり、俺は。レベルは1のまま一生を終える。でも、SPで、横に、どこまでも広がっていける。それが、『停滞』の正体だ」


 語り終えた俺を、リゼはしばらく、呆然と見つめていた。


 それから、



「――やっぱり!」



 と、川辺に響くほどの声で叫んだ。


「うわっ、なんだよ」


「やっぱり、意味があったんだ! 私、言ったよね!? 固有スキルには、絶対、意味があるって!」


 リゼが、我がことのように、目をきらきらさせて詰め寄ってくる。


「ゆ、言ったな、たしかに」


「あの神授の日、みんながクロウを“呪い”だって笑ったとき、私、悔しくて悔しくて……。でも、やっぱり、そうだった。クロウのスキルは、呪いなんかじゃない」


「……まだ、決めつけるのは早いぞ。都合のいいところしか、確かめられてない」


「またそういうこと言う」


 リゼが、むうっと頬を膨らませる。


「でもね、クロウ。私、思うんだ。それって、すごく――クロウらしいスキルだよ」


「俺らしい?」


「うん。上に、上にって、みんなが競って登っていくのに。クロウだけは、そこには行けない。……でも、その代わり、誰も歩いたことのない横の道を、どこまでも歩いていける。まっすぐ上を目指すより、寄り道して、いろんなものを拾ってくるほうが、ずっとクロウらしいよ」


「…………」


 不意打ちのように、胸の奥が、じんと熱くなった。


 リゼは、俺の前世のことなんて、何ひとつ知らない。

 それでも、こいつの言葉は、まるで俺の隠した過去ごと肯定してくれたみたいで――思わず、目の奥が熱くなった。


「……買いかぶりすぎだ」


「ふふ。照れてる」


「照れてない」


 軽口を返しながら、俺はそっぽを向く。

 柄にもなく持ち上げられて、どうにも尻の据わりが悪かった。



 だが、リゼはすぐに表情を引き締めて、


「でもね、クロウ。これは、絶対に、誰にも知られちゃだめ」


「わかってる」


「本当にわかってる? こんな力、知られたら――国や、大きなギルドや、もっと悪いやつらが、絶対に放っておかない。LV1のまま、常識外れに強い。そんなの、いくらでも利用しようとする連中がいる」


「ああ」


 現に、さっきステータスを見せただけで、リゼはあれだけ動揺した。


 このLV1という表示は、俺の最大の弱点であり――使いようによっては、最大の武器にもなる。


 だが、そのためには、隠す術が要る。

 いずれ、LVやスキルを他人から偽装ごまかすスキルも手に入れなければ。


 頭の隅に、そのことを刻んでおく。


「秘密は、墓場まで持っていく。約束する」


 リゼが、胸に手を当てて、まっすぐに言った。

 まるで、何かの宣誓みたいだな、と思ったが、茶化すのはやめておいた。


「ありがとう。……助かる」



 さて、湿っぽい話はここまでだ。


「そうと決まれば、装備を買いに行くぞ」


「装備?」


「いくら能力値を底上げしても、生身は生身だからな。少しでも、硬いものを着ておきたい」



 町の防具屋で、俺は今の自分でも装備できる、いちばん安いマントを見つけた。



アイテム──────────────────

旅装のマント

DEF+10 AGI+5

装備条件:AGI 12以上

────────────────────



 DEF+10。

 スキルで底上げしたとはいえ、装備で上がるぶんには『停滞』の影響もない。地味にありがたい。


 もっと硬い防具もあったが、そっちは「ATKとDEFの合計が一定以上」といった装備条件があって、ATK4の俺には手が届かない。


 このマント一枚で、なけなしの貯金がほとんど飛んだ。

 武器を買う余裕はないが、どうせ魔法で戦うんだ。問題ない。



「はい、これ」


 会計を終えた俺に、リゼが、ことりと何かを差し出した。


 銀色の、小さなブローチだ。

 中央に、淡い青の石が嵌まっている。



アイテム──────────────────

守りのブローチ

状態異常「石化」を防ぐ。

────────────────────



「……これ、けっこう高いやつじゃないのか?」


「もう使ってないやつだから、遠慮しないで。これから先、状態異常を使ってくる魔物も出てくるからね。……クロウ、耐性スキルはあとで取るんだろうけど、それでも、お守り代わりに」


「……悪いな。ありがたく使わせてもらう」


 餞別、というやつだろうか。

 こういうところは、昔から変わらない。

 探索者として、俺のずっと先を行っているくせに、妙に世話焼きなんだ、こいつは。


「貸しひとつ、ね」


「うっ……。おまえのそれ、地味に怖いんだよな」


「ふふっ」



 その夜、自室に戻った俺は、腰を据えてSPの使い道を考えた。


 今日一日の稼ぎで、SPはそこそこ貯まっている。

 まずは、生き延びるための土台だ。


 ▽の一覧から、能力値強化のスキルを、片っ端から取っていく。



《スキル「HP強化」を取得しました。》

《スキル「防御力強化」を取得しました。》

《スキル「MP強化」を取得しました。》

《スキル「敏捷強化」を取得しました。》

《スキル「幸運強化」を取得しました。》

《スキル「精神力強化」を取得しました。》



 一般には、能力値強化のスキルは不人気らしい。

 攻撃魔法が使えるようになるわけでも、便利な技が増えるわけでもない。ただ数字が上がるだけの、地味なスキルだからだ。


 ふつうの冒険者なら、レベルを上げれば能力値は勝手に伸びる。わざわざスキル枠を割く意味がない。


 だが、レベルの上がらない俺にとっては、話がまるで違う。


 これこそが、生命線だ。



ステータス───────────────

クロウ

LV 1

HP 108/108

MP 115/115

ATK 4

DEF 103

MAG 116

MND 115

AGI 122

LUK 118


・固有スキル

停滞 LV1


・取得スキル

風魔法 LV1 魔力強化 LV1 HP強化 LV1 防御力強化 LV1

MP強化 LV1 敏捷強化 LV1 幸運強化 LV1 精神力強化 LV1


・装備

旅装のマント(DEF+10 AGI+5) 守りのブローチ(石化無効)


SP 16▽

────────────────────



「……うん。見違えたな」


 HP8、DEF3の紙装甲は、もういない。


 ATKだけは4のまま置いてけぼりだが、どうせ殴り合いはしない。

 魔法で、当たる前に、殺す。それが俺の戦い方だ。


 ▽の一覧には、攻撃力強化もあった。だが、物理で戦うには、武器も、剣を振るう技も要る。ATKを百足したところで、安物の剣で格上の装甲を叩けば、刃こぼれするのが関の山だ。一方、魔法の威力は、MAGと魔法そのもののレベルで伸びる。SPは有限だ。伸ばすなら、ひとつの方向に。――殴るための備えは、本当に必要になったときに取ればいい。


 基礎能力値が10の“平均的な冒険者”に換算すれば、いちばん低いDEFですら、レベル10相当の値になる。

 しかも、まだ16ものSPを残したままで、だ。


「明日から……本気で稼ぐか」


 このFランクの兎狩りは、そろそろ卒業だ。


 ②の仮説――格上ほどSPが増えるという、あの美味しすぎる話を、この目で確かめる。


 そのためには、もっと格上のいる、次の狩り場が要る。


 窓の外、星空の下に沈む町並みを眺めながら、俺は静かに、次の一歩を思い描いていた。

お読みいただき、ありがとうございます!

次回は【本日19時】に更新します。


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