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永遠にレベル1の俺だけ、格上補正が消えない〜経験値が全部SPに変わる呪いスキル『停滞』で、上には行けないけど横にはどこまでも強くなる〜  作者: かしおり
第1章「呪いと呼ばれた日」

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第2話 最弱に殺されかける

 サルドの町外れ、崩れかけた石切り場の奥に、その“入口”はあった。


 地面にぽっかりと浮かぶ、黒い水鏡のようなもの。

 ダンジョンのポータルだ。


「ここが……サルド地下洞」


 リゼの説明によれば、ここはFランク――この世界でもっとも危険度の低い、初心者用のダンジョンらしい。


「Fランクは、神授を受けたばかりの子が、最初の一歩を踏み出すための場所なんだよ。罠もないし、出てくるのも弱い魔物だけ」


「そのわりに、おまえの顔は死ぬほど心配そうだけどな」


「当たり前でしょ!」


 リゼが眉を吊り上げる。


「Fランクが安全なのは、“ちゃんとレベルが上がる子”にとっての話。クロウは……その、なんていうか……」


「レベルが上がらない紙装甲、だろ。わかってるよ」


 HP8、DEF3。

 この世界で最弱と名高いモンスターにすら、二発も殴られれば死ぬ身体だ。


 普通なら、こんな身体でダンジョンに入るのは自殺行為でしかない。


 だが、俺には確かめたいことがある。


 ――『停滞』は、本当に俺だけの“当たりスキル”なのか。


 とはいえ、その前に。


 俺は、丸腰も同然の、自分の手のひらを見下ろした。


 武器はない。買う金も、なかった。

 攻撃の手段ひとつ持たずに潜ったら、最弱の魔物にすら、なぶり殺しにされて終わりだ。


 ――せめて、身を守る手段くらいは。潜る前に、用意しておかないとな。


 俺は、入口の前で、ステータスを開いた。


 神授のときから、ずっと気になっていたものがある。


 SPの数字の、すぐ横。

 そこに、小さな逆三角――▽が、ぽつんと灯っていた。


 その▽に、意識を集中すると、



取得可能スキル(SP 1)──────

・風魔法   取得1

・魔力強化  取得1

・HP強化   取得1

 ……

────────────────────



 半透明の一覧が、目の前に浮かび上がった。


「……やっぱりな」


 この▽は、今の手持ちSPで取得できるスキルを、教えてくれるらしい。


 前世のゲームでいう、スキル習得画面ってやつだ。

 俺のSPは、たったの1。

 だが、たった1でも、最初の武器を手に入れるには十分だ。


 迷いはなかった。


「スキル取得――『風魔法』!」



《スキル「風魔法」を取得しました。》



スキル────────────────

風魔法 LV1

風属性の魔法を操る。

────────────────────



 使い方は、覚えるまでもなく“知っていた”。

 最初からそれを知っていたような、奇妙な感覚だ。


 試しに、風の刃を、一度だけ宙に生み出してみる。

 ……よし。ちゃんと、出る。


 これで、丸腰よりは、ずっとマシだ。


「……え。クロウ、今の……風魔法?」


 リゼが、目を丸くしていた。


 そりゃ、驚くよな。

 こいつは知っている。俺が神授で授かった固有スキルが、『停滞』ただひとつだったことを。

 攻撃手段なんて、何ひとつ持っていなかったはずの俺が、いきなり魔法を使ったんだ。


「これも、試したいことのひとつなんだ。……悪い。詳しいことは、あとで、ちゃんと話す」


「あ、あとでって……」


「頼む。今は、な」


 俺が真剣に言うと、リゼは、腑に落ちない顔をしながらも、それ以上は問わず、ぐっと言葉を呑み込んでくれた。


「よし。……行くぞ」


「ま、待って、心の準備が」


「準備してるのは俺のほうだっての」


 俺は覚悟を決めて、黒い水鏡に手を突っ込んだ。

 表面に波紋が広がり、身体がずぶずぶと飲み込まれていく。


 一瞬の暗転。


 次の瞬間、俺はダンジョンの中に立っていた。



 石積みの、薄暗い通路。

 光源はないのに、自分の周りだけがぼんやりと明るい。


「ほんとに来ちゃったんだ……」


 遅れて現れたリゼが、呆れ半分、感心半分といった顔でつぶやく。


 その手はもう、腰の短剣に添えられていた。

 いつでも俺を守れるように、だろう。


「言っておくけどな、リゼ」


「なに?」


「これから何が出ても、手を出すな」


「はぁ!? なに言ってるの!?」


「試したいことがあるって言っただろ。おまえが倒しちまったら、意味がないんだ」


「意味とか、そんなの命より大事なわけ!?」


「大事だよ」


 即答した俺に、リゼが言葉を詰まらせる。


「……本気で死にそうになったら、そのときは頼む。でも、それ以外は、絶対に手を出すな」


「…………」


 リゼは、しばらく俺を睨んでいたが、


「……わかった。約束する。でも、ほんとにヤバかったら、勝手に助けるからね」


「ああ。それでいい」


 交渉成立だ。

 我ながら、ずいぶん強気になったものだと思う。

 前世の俺なら、こんなふうに誰かに“任せろ”なんて言えなかった。



 通路を進むと、ほどなくして、暗がりの奥に何かが蠢いた。


 ぴょこ、ぴょこ、と跳ねるふたつの影。


 薄明かりの中に現れたのは、汚れた泥色の毛玉――いや、兎だ。

 だが、その口からは不釣り合いに鋭い牙が覗いている。


「マッドラビットだね。Fランクの定番。二匹……」


 リゼが緊張した声で言う。


 最弱の魔物。

 のはずなのに、俺の背中には嫌な汗が滲んでいた。


 そりゃそうだ。

 こっちはレベル1、HP8の紙装甲。頼れる攻撃は、さっき覚えたての、貧弱な風魔法ひとつ。

 最弱だろうがなんだろうが、二発食らえば俺は死ぬ。


「さて……来るなら、来い」


 俺は、震える手を、跳ねてくるマッドラビットへとかざす。


 数秒、意識を集中すると、手のひらの先に、渦を巻く風の刃が生まれた。


「くらえ、ウィンドボルト!」


 放たれた風の刃が、先頭のラビットに命中する。


 きゅいっ、という悲鳴。

 泥色の毛が舞い、薄く血が滲む。


 が――倒れない。


「マジかよ、一発じゃ無理か!」


 MAG16に、風魔法LV1。

 我ながら、ひどい火力だ。


 攻撃されたことで、ラビットの目が赤く濁った。

 さっきよりも速く、まっすぐに、俺めがけて跳んでくる。


「ウィンドボルト! ウィンドボルト!」


 二発、三発と撃ち込む。

 そのたびにラビットの毛が削れ、動きが鈍る。

 だが、決定打には至らない。


 しかも――一発撃つごとに、頭の奥がすっと冷えて、MPが削れていくのがわかる。


 MP15。

 ウィンドボルト一発で、3。

 あと、二発が限界だ。


「クロウ、後ろ!」


「わかってる!」


 いつのまにか、二匹目が横に回り込んでいた。


 挟まれた。


 前世でさんざんやったRPGなら、ここで「囲まれた!」の表示が出るところだ。

 冷静に実況してる場合か、俺。


「ウィンドボルト!」


 四発目。

 先頭のラビットに突き刺さる。

 あと、一発。


 だが、その一発を撃つ前に、横のラビットが牙を剥いて跳んだ。


 ――避けろ。


 考えるより先に、身体が動いていた。


 かくん、と膝が抜けるように、俺の身体が横に流れる。

 ラビットの牙が、俺の頬をかすめて空を切った。


「うおっ……!?」


 なんだ、今のは。

 狙って避けたわけじゃない。

 勝手に、身体が滑るように動いた。


 ――そうか。AGIとLUKだ。


 この、無駄に高い敏捷と幸運。

 紙装甲の俺に女神が残した、数少ない良心。

 それが、たった今、俺の命を拾った。


「なら……いける!」


 体勢を崩しながら、俺は最後のMPを振り絞る。


「ウィンドボルト!」


 五発目の風刃が、先頭のラビットの眉間を撃ち抜いた。


 きゅう、と力なく鳴いて、泥色の毛玉がぐしゃりと潰れる。

 その身体が、砂のように崩れて消えていく。


 あとには、淡く光る小さな石が残された。

 それが光の粒になって、俺の手のひらに吸い込まれる。


 そして――



《魔物を撃破しました。》


《経験値を得られませんでした。》


《SPを3獲得。》



「――よし!」


 撃破。

 紙装甲の身で、最弱とはいえ魔物を、自分の手で。


 ……いや、感慨にふけってる場合じゃない。

 まだ、もう一匹いる。


「ウィンド……くそ、MP切れか」


 最後の一匹が、俺の脇腹めがけて跳んでくる。


「――そこまで!」


 だが、その牙が俺に届くことはなかった。


 銀光がひらめき、二匹目のラビットが両断されて消える。

 リゼの短剣だ。


「本気でヤバかったでしょ、今の。約束通り、助けたからね」


「……ああ。助かった。ありがとう」


 素直に礼を言うと、リゼは一瞬きょとんとして、それから、ふっと表情を緩めた。


「素直じゃん。どうしたの、気持ち悪い」


「うるさいな」


 軽口を返しながら、俺の意識は、さっきの“声”に釘付けになっていた。



《SPを3獲得。》



「……3、だと?」


 俺は、頭の中でその数字を何度も転がす。


 風魔法の取得に必要だったSPは、1。

 なのに、マッドラビット一匹を倒しただけで、3。


 この世界で最弱の魔物一匹で、取得三回分。


「経験値が……まるごとSPに、化けてる」


 『停滞』の効果は、はっきりしていた。


 経験値は、一切入らない。

 レベルは、1のまま。


 だが、その代わりに――本来得るはずだった経験値が、そっくりそのままSPに変わって、俺の懐に転がり込んでくる。


「……なあ、リゼ」


「ん?」


「なんでもない」


 まだ、言うわけにはいかない。

 確信が、ほしい。


 でも――もし、この数字が、格上の魔物ほど膨れ上がるとしたら。

 もし、レベルが上がらない俺こそが、この世界の誰よりも速くSPを積み上げられるのだとしたら。


「……とんでもない当たりを、引いたのかもな」


 呪いと嗤われた俺のスキルは。


 その正体を、ようやく、ほんの少しだけ、俺に見せはじめていた。

お読みいただき、ありがとうございます!

次回は【本日12時】に更新します。


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