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永遠にレベル1の俺だけ、格上補正が消えない〜経験値が全部SPに変わる呪いスキル『停滞』で、上には行けないけど横にはどこまでも強くなる〜  作者: かしおり
第2章「盗人と霊薬」

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第10話盗人は盗めない

 赤錆坑道は、サルドから半日ほど歩いた、寂れた鉱山跡にあった。


 朽ちた坑木と、赤茶けた鉄錆の匂い。

 その最奥に、見慣れた黒い水鏡――ダンジョンのポータルが浮いている。


 偽装は、かけたままだ。

 いつ誰に鑑定されても、俺は“レベル15の平凡な剣士”。

 この仮面を被っている限り、余計な注目を集めることはない。


「……さて。②の答え合わせといくか」


 俺は、ポータルに身を投じた。



 中は、坑道をそのまま引き延ばしたような、入り組んだ横穴の連なりだった。


 壁の色は、サルド地下洞よりも、明らかに黒ずんでいる。

 ダンジョンは、ランクが上がるほど壁が黒くなる。この黒さが、Dランクの証だ。


 「索敵」で気配を探ると、ほどなく、二つの反応が引っかかった。


 俺は「隠密」で気配を消し、そっと近づく。



 横穴の奥にいたのは、二体の魔物。


 一体は、ずんぐりとした岩塊のような人型。

 もう一体は、みすぼらしい外套を纏まとった、犬の顔の小鬼だ。


 まずは、鑑定だ。


 前の晩に、鑑定はLV3まで鍛えてある。

 これなら、相手の能力も、持っているスキルも、そして落とす品まで、丸見えだ。



ステータス──────────────────

宝喰いコボルド

LV 21

HP 168/168

ATK 120

DEF 110

MAG 60

MND 90

AGI 540

LUK 320


・生得スキル

盗む LV2 遁走 LV1


ドロップ:赤鉄石/魔法の巾着/盗賊の小手

────────────────────



「AGI540に、LUK320……。“盗み”のスキル込みだろうな」


 資料の通りだ。

 こいつは、その素早さで冒険者に近づき、持ち物を掠め取っては、脇目も振らずに逃げていく。


 冒険者から蛇蝎だかつのごとく嫌われる、鼻つまみ者。


 だが。


「AGI540に、LUK320、ねぇ」


 俺は、思わず口の端を吊り上げた。


 正面から張り合えば、俺のAGI122では、こいつの素早さには、まるで追いつけない。持ち物を掠め取られ、まんまと逃げられて、おしまいだ。


 ――だが。


 俺は、正面から張り合うつもりなんて、はなからない。


 “盗み”も“遁走”も、発動する前に、こいつが死んでいれば、意味がない。


 隠密で気配を殺し、索敵で位置を掴み、気づかれる前に、ゼロ距離から。

 積み上げた魔力の、渾身の一撃を、叩き込む。


 速さで劣るなら、速さで勝負しなければいいだけの話だ。


「先手さえ取れば――盗人に、仕事をさせる隙は、ない」



 そして、もう一体。



ステータス──────────────────

岩鉄ゴーレム

LV 23

HP 980/980

ATK 410

DEF 620

MAG 0

AGI 60

LUK 80


・生得スキル

硬質化 LV1

────────────────────



 硬くて、鈍い。

 HPもDEFも高いが、その代わり、動きは鈍重そのもの。


 俺の敏捷なら、その攻撃を避けるのは、造作もない。


「じゃ、いただくとするか」


 まずは、足の速いコボルドから。

 こいつを先に片付けないと、面倒だ。


 俺は「隠密」を保ったまま、限界までMAGを練り上げ――


「ウィンドボルト」


 放たれた風の刃が、こちらに気づく間もなく、コボルドを両断した。


 ぎゃっ、という短い断末魔。

 小鬼の身体が砂に還り、赤く光る石の粒が、俺の中へと吸い込まれる。



《魔物を撃破しました。》


《経験値を得られませんでした。》


《SPを18獲得。》



「――18!」


 思わず、声が漏れた。


 サルドの雑魚どもは、一匹で3から5。

 このコボルド一体で、18。


 跳ね上がった、なんてもんじゃない。


「……やっぱり、そうだ」


 鑑定でわかっていた。

 このコボルドは、レベル21。

 永遠にレベル1の俺から見れば、レベル差はちょうど20。


 格上ほど、獲得できる経験値――俺にとってのSPは、増える。

 その倍率が、レベル差10ごとに、一段ずつ上がっていく。


 レベル差1から9で、およそ1.5倍。

 10から19で、2倍。

 そして、20から29で――3倍。


「Fランクの兎とは、桁が違うわけだ」


 ②の仮説は、確信に変わった。


 俺が格上と戦えば戦うほど、SPは、雪崩れるように積み上がる。

 しかも、俺は永遠にレベル1だから、この“格上補正”が、途切れることは、絶対にない。



 感慨に浸る俺めがけて、岩鉄ゴーレムが、地響きを立てて拳を振り下ろす。


「おっと」


 膝が抜け、身体が横へ流れる。

 ゴーレムの拳が、俺のいた場所の岩盤を、粉々に打ち砕いた。


「悪いが、あんたも硬いだけだ」


 俺は回り込みながら、風の刃を叩き込んでいく。


 DEF620の装甲は、なるほど硬い。

 一撃では、砕けない。


 だが、当たらない相手を、硬いだけの的が、どうやって倒すというのか。


「ウィンドボルト、ウィンドボルト、ウィンドボルト――」


 四発、五発と撃ち込み、ゴーレムの装甲を削りきる。


 やがて、岩の巨体が、耐えかねたように砕け散った。



《魔物を撃破しました。》


《経験値を得られませんでした。》


《SPを20獲得。》



「ゴーレムは、20か」


 硬いぶん、経験値も高い。

 手数はかかるが、SPの実入りは悪くない。



 残されたドロップに、俺は目を落とす。


 コボルドが落としたのは――



アイテム──────────────────

盗賊の小手

AGI+20 “盗む”の成功率が上がる。

────────────────────



「……おいおい」


 資料によれば、これはコボルドのドロップの中でも、いちばん出にくい代物のはずだ。


 なのに、初めての一体で、ぽろりと。


 思い当たる理由は、ひとつしかない。


 ――俺の、LUKだ。


 素の値に幸運強化を積んで、118。数字だけなら地味に見えるが、そこらの駆け出し冒険者と比べれば、ずっと高い。

 幸運の値が高いほど、ドロップの質も量も上がる。今のは、その恩恵に、ちょっとした運が乗ったんだろう。


 盗みのプロであるコボルドから、盗まれるどころか、その虎の子まで、こっちが頂いていく。


「盗人が、盗めない。……どころか、身ぐるみ剥がれてやがる」


 なんとも間の抜けた話に、俺は一人、坑道の中で吹き出してしまった。



 その後も、俺は坑道を進みながら、次々と魔物を狩っていった。


 コボルドを狩り、ゴーレムを砕き、SPは面白いように積み上がる。


 もう、経験値のために、わざわざ敵を残す必要もない。

 目に映る魔物を、片端から、すべて倒せばいい。

 倒したぶんだけ、まるごとSPになって、俺の懐に転がり込んでくる。


 溢れたSPは、その場で、片端からスキルに変えた。



《スキル「火魔法」を取得しました。》

《スキル「雷魔法」を取得しました。》

《スキル「氷魔法」を取得しました。》

《スキル「水魔法」を取得しました。》



 風だけだった手札に、火、雷、氷、水。

 属性が増えれば、弱点を突ける相手も増える。


 “横の道”は、歩くほどに、どこまでも広がっていく。


 ふと、前世のことを思い出す。


 上へ、上へと急かされて、ひとつの梯子にしがみつくことしか、許されなかったあの頃。

 登れなければ、それで終わり。積み上げてきたものは、崩れて、消えた。


 でも、今は違う。


 一本の梯子が折れても、俺には、無数の横道がある。

 ひとつが駄目でも、別の道を、また広げていける。


「……悪くない生き方だ」


 誰にともなく、俺はつぶやいた。



 坑道の壁が、また一段、黒ずんでくる。

 下の階層へ続く、ポータルが近いのだろう。


 この調子で、奥へ。


 ――と、そのときだった。


 ふいに、「索敵」の端に、これまでとは違う気配が、引っかかった。


 魔物では、ない。


「……人間、か?」


 しかも、一つではない。


 いくつもの赤い光点が、たった一つの、青い光点を、取り囲むようにして。


 その配置に、俺は、なぜだか、嫌な予感を覚えた。

お読みいただき、ありがとうございます!

次回は【明日12時】に更新します。


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