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第1話:限界突破の削りすぎと、赤ん坊の『貯金』

第1話:限界突破の削りすぎと、赤ん坊の『貯金』


「……ふあぁ……あー」


目を開けると、視界いっぱいに柔らかい木漏れ日が広がっていた。

手製の小さなベビーベッド。その中で、私――ヒューイは、お気に入りのおしゃぶりをくわえながら青空を見上げていた。


前世の記憶を持ったままこの異世界に転生して、ほんの数ヶ月。

伯爵家の末子として生まれた私の毎日は、ミルクを飲み、オムツを替えてもらい、陽気に包まれながら昼寝をするという、まさに理想郷のような日々だった。


この世界では、成人の平均的な全ステータス(STR、VIT、DEX、INT、MNDなど)は基準値として『100』前後。才能の有無によって0.5倍(50)から2倍(200)ほどの差がつき、冒険者になればGランク(1.5倍/約150)から最強のSランク(50倍/約5000)まで跳ね上がるらしい。

そして生後間もない1歳程度の赤ん坊なら、平均値は『10』程度だ。私は伯爵家の血筋もあってか、才能倍率1.5倍ほどの『15』前後という、赤ん坊にしては恵まれた素質を持っていた。


(ふむ……せっかく授かった【ストック】だ。今日から早速試してみるとしよう)


生後三ヶ月を迎えたある日、私は軽い気持ちで初めて【ストック】のスキルを発動させた。

今のレベル1の効果は『1日1項目、己のステータスをストックできる』というもの。


(まずは筋肉……STR(筋力)をストックしてみようか)


『スキル起動――【ストック(レベル1)】:STR』


軽い気持ちで念じた次の瞬間――ドクン、と全身から血の気が引いた。


「!?!?!?」


想像を絶する脱力感が全身を襲う。

それもそのはず、「1項目をストックする」ということは、その日一日のそのステータスを「丸ごと(ほぼ100%)」ストック領域へ持っていってしまうことを意味していたのだ。


赤ん坊とはいえ15近くあったSTR(筋力)が、一瞬にして『1』未満……限りなく『0』に近い数値まで激減した。


指一本動かすどころか、呼吸するための胸の上下すら重重しい。首を支える筋力すら消え失せ、私は文字通り「ぐにゃぐにゃのフニャフニャ」な物体と化した。


「ひ、ヒューイっ!? どうしたのヒューイ!?」


異変に気づいた母様が悲鳴を上げた。抱き上げられた私の体は、骨が抜けたようにダラリと垂れ下がり、筋肉の緊張が一切感じられない。


「大変だ、侍医を呼べ! ヒューイ様の全身の力が急に抜けてしまった!」

「息は……息はあるわ! でも、どうしてこんなにぐったりと……!?」


屋敷は大騒ぎになり、駆けつけた名医たちが私の体を診察して首をひねり続けた。


『病名が分かりません……。骨や神経に異常はないのですが、筋肉の反応が完全に消失しております……まるで全身の筋力が削ぎ落とされたかのように脆弱です……』


涙を流す母様、眉をひそめる父様、蒼白になる使用人たち。


(や、やあ……申し訳ないことをしたね……。まさか丸ごと持って行かれるとは思わなかったんだ……)


思考だけは冴え渡っているのだが、声帯を震わせる筋肉すらストックされているため、「あうー」すら言えず、ただポカンとお口を開けて天井を見つめることしかできない。


翌日、24時間が経過してストック効果が切れると、私のSTRは嘘のように元に戻り、普通に手をパタパタ動かせるようになった。安堵で泣き崩れる母様を見て、私は深く反省した。


(あぶないあぶない……。一日一項目とはいえ、そのステータスのほぼ全てをストックしてしまうのか。普段の生活に支障が出ないよう、計画的にやらないと屋敷がパニックになってしまうね)


引き出し方すら分からない未知のスキル【ストック】。

だが、一度ストックに回せば、その日一日、私の肉体は限りなく「無力」になる。


(でも……見方を変えれば、これは最高の偽装だな)


毎日、違う項目をストックし続ければ、私の表向きのステータスは常に「成人(100)はおろか、1歳児(10)や10歳児(50)の足元にも及ばない、超脆弱な赤ん坊」として計測される。


100日目も、200日目も、私は休むことなくステータスを削り、内なる「引き出し方の分からない貯金箱」へと力を蓄積し続けた。

1歳を過ぎて歩き始めても、私の日課は変わらない。


「ヒューイ様は本当にお体が弱く、大人しいお方ですね」と侍女たちが温かい目で見守る中、私は心の中で静かに微笑んでいた。


(いいんだよ、これで。目立たず、最弱に見えているくらいが一番平和なのだから)

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