第13話:旧採掘坑道の影と、囚われのエルフ少女
夜風を切り裂き、ものの数分で領地外縁の「旧採掘坑道」へと到着した。
気配を殺して岩陰から内部を伺うと、そこには黒い衣装に身を包んだ複数の男たち――組織の下層構成員が、不気味な赤黒い魔導陣を展開している最中だった。
「おい、急げ! この旧採掘坑道の魔石脈を暴走させれば、隣国との国境線一帯は一瞬で吹き飛ぶ……! 『あの方』が描く大業の、これが最初の狼煙だ!」
「ひっ、さすがは頭領の兄貴……!」
雑魚の構成員たちは【多重思考】による極小の無詠唱魔法で一瞬のうちに無力化し、音もなく気絶させた。
だが、その中央、一際おどろおどろしい魔導陣の前に立つ男――この一味の「頭領」だけは動きが違った。
(雑音か。いや、貴様……!)
頭領は私が放った微かな魔力の気配に真っ先に気づき、鋭い眼光を向けてきた。私は視界の端で相手を観察する魔法――【鑑定眼】を密かに発動させる。
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**【対象鑑定:一味の頭領】**
* **STR(筋力)**:450
* **VIT(体力)**:420
* **AGI(敏捷)**:320
* **INT(知力)**:110
* **特徴**:肉体に強烈な闘気を纏う、歴戦の戦闘技術の持ち主
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(――ほう。私の素のステータス(STR 75、VIT 75)とは比べ物にならない数値だな。正面からまともにぶつかれば、一撃で叩き潰される)
冷徹な数字の裏付けを一瞬で頭に叩き込みながら、私は闇の中からゆっくりと姿を現した。
ガキの姿をした私が歩み出たのを見て、頭領は目を丸くし、呆れたような、そして底冷えするような低い声を漏らした。
「……ガキ……? なんだ、お前は……一体、どうやってここに……?」
「……それは秘密さ」
短く応じた瞬間、頭領の顔から困惑の色が消え、冷酷な笑みが浮かんだ。
「まあいい。ここで見た以上、生かして帰すわけにはいかない!」
踏み出すと同時に、頭領の体から赤黒い闘気が爆発的に跳ね上がる。その速度と威圧感はまさに歴戦の手練れ。一瞬で間合いを詰め、魔力を乗せた重圧な連撃を繰り出してきた。
ガッ、ドォンッ!! ズシャッ……!
岩盤を容易く削り飛ばす拳風が次々と私の周囲を抉り取る。幾重にも重ねた【多重思考】とAGIによる回避で必死に直撃を免れるものの、圧倒的な速度と手数による猛攻の前に、私は徐々に追い詰められていった。
かすめるだけの風圧や衝撃波だけでも、素の肉体を持つ私にとっては致命傷になりかねない。衣服は裂け、全身の皮膚がヒリヒリと焼けるように痛む。完全に手も足も出ず、防戦一方に追い込まれる――。
「おいおい、どうした? 逃げ回るばかりじゃ埒が明かないぞ! いくら小賢しく距離を取ったところで、俺のこの頑丈な肉体と闘気の鎧を傷つけることすらできやしない!」
頭領は冷徹な眼光で私を見据え、鼻で笑った。
目の前の小柄な少年が放つ微かな魔力の気配や、常人の子供ではあり得ないほど無駄のない洗練された重心移動、そして攻撃の予兆をギリギリで先読みして避ける異質な身のこなし――それらはすべて、ヒューイが有する【多重思考】や【深謀遠慮】といった高度なスキル制御の裏付けによるものだった。
頭領は「只者ではない、ただの子供ではない何か」であることこそ本能的に察知していたが、それでもなお、目の前の圧倒的な体格差と自らの頑強さの前では、自分とやり合うには決定的に力不足だと完全に侮っていた。
幾度もの猛攻で私を完全に追い詰め、逃げ場を完全に塞いだその時、頭領は冷ややかに言い放った。
「遊びはここまでだ。ここで終わらせてやるよ、小僧!」
頭領が渾身の力を込めて最大級の大振りの拳を振りかぶる。周囲の空気ごと押し潰すような圧殺の重撃が、私へと迫った。
(――今だ)
その瞬間、私は溜め込んでいた【ストック】のエネルギーを一気に解放した。
狙うのは、回避のためのAGIではない。防御を貫くための「瞬間的な圧倒的筋力(STR)」の暴発だ。
『【リリース(限定解放)】:STR 3,000pt消費(+300)』
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**【現在の実効ステータス(瞬間突破・極限状態)】**
* **STR**:75 + 300(リリース) + 15(身体強化) = **390**
* **VIT**:75 + 15(身体強化) = **90**
* **AGI**:100 + 20(身体強化) = **120**
* **DEX**:100
* **INT**:350
* ※【身体強化】併用中
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全身の筋肉が軋むほどの爆発的なエネルギーが駆け巡る。
頭領の巨大な拳が目の前に迫ったその刹那、私は足元に忍ばせておいた極小の風魔法で頭領の踏み込みの軸足をわずかに滑らせた。同時に、がら空きとなったその胸元へ全身の全荷重を乗せた掌底を突き上げる。
「なっ……!?」
頭領の視界の中で、か弱いはずの子供の体から、信じられないほどの莫大な衝撃波が弾けた。
頭領は自身の目算を完全に狂わせるその理不尽なまでの爆発的STR(390)の重撃をまともに受け止め、目を見開く。
(バカな……こいつの体格で、この圧倒的な重さは……っ!? 一体、どうやって――)
「がはっ……ぁ……っ!?」
頭領が抱いた困惑と恐怖の疑問は、そのまま強烈な衝撃によって意識の闇へと押し流された。
前進する自身の体重と、私の放った常軌を逸した突きの衝撃が完璧に噛み合い、頭領の頑強な肉体はくの字に折れ曲がって背後の硬い岩肌へと激突。そのまま盛大に崩れ落ち、完全に気絶した。
(ふう……。流石に手強かったが、うまく隙を突けたな)
私は荒れる息を静かに整え、頭領が背負っていた魔導陣の中心部――このテロ計画の「核」へと目を向けた。
そこには、拘束具をはめられ、力なくうずくまっている一人の少女がいた。
夜の薄明かりの中でもそれと分かる、神秘的な長い耳――彼女はエルフの少女だった。
再び視線を向け、彼女の状態を【鑑定眼】で確認する。
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**【対象鑑定:負傷したエルフの少女】**
* **STR**:30
* **VIT**:25
* **AGI**:60
* **INT**:2,500
* **状態**:魔力回路の強制接続による極度の疲弊・魔力枯渇(固有種族値:希少なハイエルフ。年齢は私と同い年頃だが、神童級の圧倒的な魔力容量を持つ)
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「……っ」
怯えた瞳で私を見上げる彼女の常軌を逸したINT値と特殊な魔力回路こそが、この国を揺るがす魔石脈暴走の「触媒」として強制的に利用されていたのだ。
(外見通り私と同い年くらいの幼さだが……さすがは稀少なハイエルフ、肉体は非力でも、それを補って余りある底知れぬ魔力を秘めているからこそ狙われたわけか)
即座に周囲の魔導陣を解除し、エルフの少女を縛る拘束具を風の刃で丁寧にかき切った。
「もう大丈夫だよ。立てるかい?」
フードの深くから声をかけると、彼女は翡翠色の美しい瞳を見開き、驚愕と安堵が入り混じった表情で私を見上げた。
(やれやれ、大国の陰謀とハイエルフの秘めた魔力……。面倒なことに首を突っ込んでしまったが、ここで放置すれば私の平穏が脅かされる。……後始末をどうしたものか)
少女を支えながら、頭の中で迅速に「次の手」の計算を開始した。




