第12話:表層化する悪意と、暗躍の第一歩
七歳の誕生日から数か月が経った頃、ここ数年うっすらと領地に漂っていた歪んだ空気が、いよいよ形となって現れ始めていた。
屋敷の書斎。私は窓辺の椅子に腰かけ、膝の上に古書を広げつつ、庭の奥で騎士たちが集まり慌ただしく協議している様子を視界に収めていた。
(……やはり、あの時の襲撃は単発の魔物暴走などではなかったな)
ここ数週間の間に、領内の小規模な魔石採掘場や物流の要所付近で、人為的な魔導陣の跡と「凶暴化させられた高レベル魔物」の目撃談が急増していたのだ。領主である父様と騎士団は不眠不休で対応にあたっているが、敵はあえて小規模な奇襲をあちこちで繰り返し、騎士団の戦力を疲弊・分散させようとしていた。
「ヒューイ様、お茶のお代わりをお持ちしました」
「ありがとう。……ねえ、父様たち、すごく忙しそうだけど大丈夫なのかな?」
「ええ、領主様と騎士団の皆様が懸命に守ってくださっておりますから、ご安心くださいね」
使用人は私を安心させるように優しく微笑んだが、その表情の裏に焦りと不安が滲み出ているのを、向上した【INT(知力)】と【深謀遠慮】の観察眼は見逃さなかった。
(騎士団の疲弊も限界に近い……父様たちの目を盗んで密かに動くなら、今夜がまさに対処の限度だな)
◇
その日の深夜。
屋敷全体が深い静寂に包まれた頃、私はベッドから起き上がった。
【ストック】の累積ポイントから「1,500pt」を消費し、交換機能から高精度の【幻影身代わり人形】を取り出す。ベッドの上に配置すると、人形は魔力を帯びて瞬時に私の寝顔や体温、呼吸による胸の上下まで完璧に再現したダミーへと変化した。
(よし、1,500pt消費しただけの価値はある。これなら誰が確認に来ても病弱な子供が眠っているようにしか見えない)
私は黒いフード付きのローブを羽織り、エレノア先生に教わった【身体強化】を発動。さらに【ストック】から移動に必要な最小限のステータスを一時解放した。
『【リリース(限定解放)】:AGI 1,000pt消費(+100)』
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**【現在の実効ステータス(一時強化状態)】**
* **STR**:75 + 15(身体強化魔法) = **90**
* **VIT**:75 + 15(身体強化魔法) = **90**
* **AGI**:100 + 100(リリース) + 20(身体強化魔法) = **220**
* **DEX**:100
* **INT**:350
* ※【身体強化】併用中
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身軽な動力を手に入れつつ、気配遮断の術式を重ねて音を完全に消す。
私は自室の窓から滑らかに抜け出し、闇の中へと影のように潜り込んだ。
目指すは、騎士団の報告にあった領地外縁部の「旧採掘坑道」だ。
(手柄を立てるつもりも、表に出るつもりもない。狙いは敵の正体の特定と、父様たちが安全に対処できる『事前のお膳立て』だ)
家族と平穏な日常を守るため、病弱な一人息子を演じる少年の暗躍が静かに始まった。




