第10話:影差す領地と、忍び寄る波乱の予兆
エレノア先生から中級魔法の理論と身体強化の技術を授かってから、数日が経過した。
私は相変わらず「病弱で本ばかり読んでいるおとなしい3歳児」として、屋敷の庭の木陰で静かな時間を過ごしていた。膝の上にはガストン先生から借りた地理書。その隣では、アイラが無邪気に木彫りのおもちゃで遊んでいる。
「ヒューイくん、見て! このお馬さん、すっごく速く走るんだよ!」
「ふふ、本当だね。アイラは操縦が上手だな」
無邪気にはしゃぐアイラを微笑ましく眺めながら、私は頭の隅で【多重思考】と【深謀遠慮】を走らせていた。
(ガストン先生の講義にあった通り、我が領地は王国の辺境に位置し、東方の「境界」にも比較的近い。表向きは穏やかな農村と交易路が広がっているが、魔石資源の流通ルートでもある以上、潜在的なリスクは決して低くない……)
そこまで思考を巡らせたとき、屋敷の玄関付近が俄かに騒がしくなった。
「――至急、領主様へのお目見えを願いたい! 森の深部にて人為的な魔導反応、および魔物の群れの活性化が確認された!」
遠くから聞こえてきたのは、領地を巡回・警備する騎士団員の切迫した声だった。
(魔導反応……自然発生の魔力ではなく、誰かが魔法や魔導具を行使した痕跡か。境界付近の歪みと連動しているのか、それとも第三者の介入か……)
声に気づいたアイラが、不安そうに私の袖をキュッと引っ張る。
「ヒューイくん……なんか大きな声がするよ? お仕事の人たち、怒ってるの……?」
「大丈夫だよ、アイラ。きっとちょっとした連絡事項さ」
私は優しく彼女の頭を撫で、不安を打ち消すように穏やかな笑顔を向けた。
(やれやれ……せっかくの平穏な日常に、早くも厄介ごとの種が撒かれつつあるようだね)
私は視界の隅で静かにステータス画面を展開し、【ストック】の状況を確認する。
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**【保有固有スキル:詳細】**
* **【ストック(レベル2)】**
* **【内訳・蓄積ステータス詳細】**
* **INT(知力)**:26,000pt(付与時:+2,600 / 1h)
* **AGI(敏捷)**:6,500pt(付与時:+650 / 1h)
* **DEX(器用)**:6,500pt(付与時:+650 / 1h)
* **VIT(体力)**:4,500pt(付与時:+450 / 1h)
* **STR(筋力)**:4,500pt(付与時:+450 / 1h)
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(蓄積された26,000ptのINTをはじめとする隠し手札。そしてエレノア先生から学んだ身体強化の補助魔法術式……準備は十分だ)
万が一、この異変が領地に害を及ぼし、私の大切な家族やアイラの平穏な暮らしを脅かすようなことがあれば——表舞台に出る必要はない。影から『リリース』と魔法を駆使し、誰にも知られずに脅威を処理するまでだ。
「さあ、アイラ。風が少し冷たくなってきたから、お部屋に入っておやつにしようか」
「うん! あたし、クッキー食べたい!」
小さな手を引いて、私はゆっくりと屋敷の中へ歩き出した。
平穏なスローライフを守るための、私の隠された立ち回りが始まろうとしていた。




