第9話:二人の家庭教師と、世界の理
三歳を迎えた私の学びを深めるため、両親は二人の優れた家庭教師を手配してくれていた。一人目は王国でも名高い老歴史学者――**ガストン先生**。そして二人目が、若くして優れた魔導知識を持つ女性魔術師――**エレノア先生**だ。
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### 【午前】歴史と地理の講義 ―― 世界の隠された歪み
屋敷の書斎で、私は向かいに座るガストン先生の穏やかな声に耳を傾けていた。白髪混じりの髭をたくわえた老学者は、古めかしい地図と文献を広げながらこの世界の成り立ちを語る。
「――このように、五百年前に起きた『魔王討伐』により人類の領土は安定しました。ですが、東方の未開拓地や旧魔王領の残骸が眠る『境界』付近では、今なお未確認の魔物や異変が報告されておるのです」
「……東方の境界、ですか」
私が病弱な子供らしく少しか細い声で問いかけると、ガストン先生は優しく目を細めた。
「ほう、良い着眼点ですね。境界付近のダンジョンや魔の森では、時折『常軌を逸した高レベルの魔物』が発生することがあります。世界は常に平穏なわけではないのですよ」
(ふむ……魔の森で遭遇したシャドウ・ストーカーのような上位個体が現れた背景には、そうした境界付近の魔力環境の歪みが絡んでいるわけだね)
私は相槌を打ちつつ、頭脳の奥底で【多重思考】と圧倒的な【INT(知力)】をフル稼働させ、世界の情勢や地政学的リスクのシミュレーションを完了させていた。
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### 【午後】魔法実技と理論の講義 ―― 全属性の才能と応用
午後になると講師が交代し、眼鏡をかけた知的な雰囲気のエレノア先生が書斎にやってきた。
「ではヒューイ様、午後は魔法の基礎実技と理論です。魔法には『火・水・風・土』などの属性と、『初級・中級・上級・特級・聖級・王級・神級』の七つの階級があります。まずは適性を調べるため、一番簡単な初級魔法を試してみましょうか」
エレノア先生は優しい笑みを浮かべ、練習用の魔導媒体をテーブルに置いた。
私は「病弱で控えめな子供」の振る舞いを保ちつつ、指先にわずかに魔力を集める。
パッ――……。
指先に小さな『火球』が灯り、続いて『水球』、『微風』、『小石』が順々に揺らめいた。あえて初級の域を出ない威力に調整して見せたのだが――
「な……っ!?」
エレノア先生は眼鏡をずらし、目を見開いて絶句した。手帳がバサリと床に落ちる。
「火、水、風、土……っ!? ぜ、全4属性の初級魔法を、3歳で……しかも無詠唱で……!? 通常、人間が扱える属性は一生に一つ、多くて二つですよ……!?」
あまりの事態にエレノア先生は声を震わせた。私は慌てて困り顔を作り、首をかしげて見せる。
「えっ……先生、私、何かおかしいことしちゃいましたか……?」
「お、おかしいなんてものじゃありません! 規格外の才能です……っ!」
一瞬興奮のあまり理性を失いかけたエレノア先生だったが、コホンと咳払いをして体勢を立て直した。
「……失礼いたしました。ヒューイ様、あなたの才能は間違いなく本物です。初級を全属性扱えるのであれば、基礎を固めつつ、さらに上の段階へ進みましょう。魔力の収束速度を高める『中級魔法の構築理論』、そして身体能力や魔力抵抗を高める『補助魔法(身体強化など)』の講義に入ります」
「補助魔法……! すごく興味があります、先生!」
(ほう……身体強化か。【ストック】でステータスを削っている私にとって、表向きの弱さを維持しつつ、非常時に『リリース』と組み合わせて隠密裏に身体スペックを引き上げる補助理論は、願ってもない収穫だな)
エレノア先生の熱心な指導の下、私は「物覚えの良い天才児」の範囲をギリギリ出ないよう注意しながら、中級魔法の理論と補助魔法の術式を素早く脳内に吸収していったのだった。




