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神様はつらいよ 〜視聴ゼロの底辺神、配信で信仰(スパチャ)を稼いで成り上がる〜  作者: 仁科異邦


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20/20

村の始まりの夜


 深夜。月が中天に差し掛かる頃。

 アデル村の中央にある広場では、巨大な鉄鍋がグツグツと湯気を立てていた。


「神官様。お芋のシチュー、そろそろ煮えた頃合いかと」

「ありがとうございます、ゴードンさん。シエルちゃん、器の準備はできてる?」


「うん! きれいに洗って、いっぱいならべたよ!」

 僕が廃坑から持ち帰った鉄屑を熱処理して作った即席の大鍋。


 その中には、【水滴】で生み出した清浄な水と、畑で採れた大量の黄金芋が溶け込み、甘く香ばしい匂いを漂わせている。


 ルミナス村からやって来るであろう『難民』たちを迎え入れるための、温かい炊き出しの準備だ。


【美と闘争の女神:ふぁぁ……。深夜の炊き出し配信なんて、地味すぎて眠くなってきたわ。本当にあんな底辺のガキ共が、夜の山を越えてこられるの?】


【叡智と探求の女神:あの魔導核のコンパスを持たせたのだから、道に迷うことはないわ。ただ、体力が限界に近い彼らが、魔物の目を掻き潜って歩き通せるかどうかは……完全に彼ら自身の『生存本能』次第ね】


 女神様たちの言う通り、これは賭けだった。

 僕が直接迎えに行って転移魔法などで運んでやれれば確実なのだが、あいにく僕のスキル構成にそんな便利なものはない。


 それに、自らの足で決死の思いをして辿り着くからこそ、この安全な土地の価値を真に理解できるという側面もある。


「……来ますよ」

 僕が魔力探知を村の西側へと向けた、その時だった。


「ハァッ……ハァッ……! みんな、もうすぐだ……! あの光の中へ走れッ!」

 暗闇の森の中から、ボロボロの服を着た人影が次々と転がり出てきた。


 昼間、路地裏で僕が焼き芋を渡した少年だ。

彼は背中に小さな妹を背負い、片手で足を怪我した中年の男を支えながら、必死にアデル村の結界を目指して走っていた。


 その後ろには、同じようにやせ細った孤児や老人たちが七人ほど、互いに肩を貸し合いながら必死に食らいついている。

 総勢十人の難民たちだ。


「ギャウゥゥゥゥッ!!」

 だが、彼らの背後の森から、血走った目をした数匹の『瘴気狼ミアズマ・ウルフ』が飛び出してきた。


 弱り切った人間の血の匂いを嗅ぎつけ、集まってきたのだ。


「ひぃぃっ! 魔物だっ!」

「だめだ、もう走れねえ……ッ!」

 最後尾を歩いていた老人が石につまずき、その場に倒れ込んだ。


 すかさず、一匹の瘴気狼が老人の喉笛を食い破ろうと大きく跳躍する。

「やめろォォォッ!!」


 少年が絶望の叫びを上げた。

 だが、ここはもう、僕が管理する『アデル村』の絶対防衛圏内だ。

 ドガァァァァァァァァンッ!!!


 老人に襲い掛かろうとした瘴気狼が、空中の『見えない壁』に激突し、バチィッ! と神聖な魔力の閃光と共に弾き飛ばされた。


 キャンッ! と情けない悲鳴を上げ、狼は黒焦げになって森の奥へと逃げ去っていく。残りの狼たちも、結界から放たれる強烈な浄化の波動に恐れをなし、一目散に姿を消した。


「……え?」

 倒れ込んでいた老人も、叫んだレオも、何が起きたのかわからず呆然とへたり込んでいる。

「よく頑張りましたね。全員、無事に辿り着けましたか?」


 僕が青い結界の内側から声をかけると、レオはハッと顔を上げ、泥だらけの顔をくしゃくしゃにして泣き崩れた。


「あ、あんた……! 本当に、魔物が弾き飛ばされた……! ここは……ッ!」

「ようこそ、アデル村へ。ここから内側は、魔物も、飢えも、領主の圧政も届かない絶対安全圏サンクチュアリです」


 僕が結界の入り口を開き、彼らを村の敷地へと招き入れる。

 そこへ、松明を持ったゴードン老人が駆け寄ってきた。


「おお……! お前さんたちは、ルミナス村のスラムにいた……!」

「ゴ、ゴードン爺さん!? あんた、本当に生きてたのか! しかも、なんだその血色の良さは……!」


「レオおにいちゃん! いらっしゃい!」

 シエルちゃんが、湯気の立つシチューがたっぷり入った木の器を、小さな手で一生懸命に運んできた。


 甘く香ばしい、黄金芋のシチューの匂い。

 それを見た瞬間、難民たちの張り詰めていた糸がプツリと切れ、次々とその場にへたり込んだ。


「さあ、遠慮せずに食べてください。お腹がいっぱいになるまで、いくらでもありますから」

 僕がそう言うと、十人の難民たちは震える手で器を受け取り、泣きながら温かいシチューを喉に流し込んだ。


 魔物の恐怖に怯え、泥水をすすってきた彼らにとって、この澄んだ白湯と甘い芋のシチューは、まさに神の恩寵そのものだった。


「うめえ……うめえよぉ……ッ!」

「生きてて……よかった……ッ!」

 焚き火の明かりに照らされた広場で、嗚咽と感謝の声が響き渡る。


【美と闘争の女神:ふふっ。必死に生き延びた奴らが飯を食う姿は、案外悪くないわね】


【叡智と探求の女神:……お見事よ、ライト。これで貴方の『信者リソース』は一気に12名に増えたわね】

 二柱の女神様も、この深夜の民族大移動の成功を祝ってくれている。


 ピロンッ! ピロンッ! ピロンッ!

 僕の懐で、神界端末が連続して小気味よい通知音を鳴らした。

【システム:下界の生命体10名からの『極大の信仰(救済への完全なる帰依)』を受信しました】

【警告:システム外からの大規模なポイント流入です】


【存在値+30000を獲得しました】

「……三万」

 僕はこっそりと端末の画面を確認し、口元を緩めた。


 中級神(Cランク)から上級神(Bランク)へ昇格するためのノルマは十万ポイント。

 その三分の一を、たった十人の難民を救っただけで稼ぎ出してしまったのだ。


 神界の人事局で、ダンジョンに潜ってスライムを狩り、チマチマと0.01ポイントを稼いでいた日々が馬鹿らしくなるほどの効率だ。


「神官様……」

 シチューを何杯もおかわりし、すっかり落ち着きを取り戻したレオが、僕の前に進み出て深々と頭を下げた。


 他の難民たちも、それに倣って一斉に平伏する。

「俺たちみたいな、捨てられたゴミを助けてくれて……本当に、どうやって恩を返せばいいか……」


「ゴミだなんて言わないでください。あなた達は、このアデル村を豊かにするための、大切な『第一期開拓メンバー』です」


 僕はレオの肩に手を置き、立ち上がらせた。

「明日からは忙しくなりますよ。あなた達が住むための家を建て、畑を広げ、村をさらに大きくしなければいけませんからね。力を貸してくれますか?」


「当たり前だ! 俺たち、死ぬ気で働くよ! この村のためなら、なんだってする!」

 レオの目に、生きるための強い『闘志』が宿っていた。


 他の難民たちも、力強く頷いている。

 ただの荒れ果てた限界集落だったアデル村。

 ゴードンとシエルの二人に、新たな十人の仲間が加わり、総人口は十二人となった。


 これは、神界の理不尽なシステムと、下界の腐敗した領主に抗うための『静かなる革命』の、真のはじまりの夜。


 底辺神ライトを教祖リーダーとした、前代未聞の最強クラン(村)の歴史が、ここから大きく動き出すのだった。


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