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神様はつらいよ 〜視聴ゼロの底辺神、配信で信仰(スパチャ)を稼いで成り上がる〜  作者: 仁科異邦


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19/20

フェーズ3 次の村へ行こう


 翌朝。アデル村を包む青い結界の内側は、信じられないほど穏やかな空気に満ちていた。


 村の周囲では、時折魔物が結界に体当たりしては弾き飛ばされ、キャンキャンと悲鳴を上げて逃げていく。


 だが、結界の内側にいる限り、その音すら遠い世界の出来事のように感じられた。

「おはようございます、ゴードンさん」

「おお、神官様! おはようございますじゃ! 見てください、昨日耕した畑を!」


 丸太小屋から出ると、ゴードン老人が鍬(廃坑で拾った鉄屑を僕が熱処理して打ち直したものだ)を片手に、黒土の畑を指差して笑っていた。


 瘴気が完全に浄化され、豊富なミネラルを含んだ黒土に植えられた芋の苗は、たった一晩で青々とした葉を広げ、力強く根を張り始めていた。


「すごい生命力ですね。これなら、僕が魔法を使わなくても、数週間で立派な作物が収穫できそうです」


「ええ! 水も豊富で、土も温かい。農民にとって、これ以上の天国はありませんじゃ!」

 シエルちゃんも、小さな手で一生懸命に雑草を抜く手伝いをしている。


 拠点としての自給自足のサイクルは、これで完全に回り始めた。

「さて……それじゃあ僕は、ロードマップの【フェーズ3】の準備に取り掛かります」


 僕がそう言うと、ゴードン老人の顔からスッと笑みが消え、真剣な表情になった。


「西の……ルミナス村へ行かれるのですね。神官様、どうかお気をつけて。

あの村の領主と自警団は、魔物よりもたちが悪い。

少しでも金目の物を持っていれば、難癖をつけて没収されますぞ」


「わかっています。だからこそ、やり方には気をつけますね」

 僕はゴードンたちに留守を頼み、アデル村の結界を抜けて西へと向かった。

 歩きながら、空中にウィンドウを展開する。


「女神様、ルミナス村からの『移民受け入れ』について、少し相談があるんですが」


【美と闘争の女神:相談? ふーん、簡単じゃない。村のど真ん中に黄金芋の山でも積んで、『ここより豊かなアデル村へ来い!』って大声で宣言すればいいのよ。邪魔する領主の兵士は、アンタの剣で峰打ちにして黙らせなさい!】


【叡智と探求の女神:またアンタはそういう単細胞なことを……。ライト、彼女の言う通りにしたら、計画は一瞬で破綻するわよ】


 すかさず、叡智の女神様から鋭いツッコミが入る。

 僕も、闘争の女神様の案には賛同できなかった。


「ええ。圧倒的な『豊かさ』を見せつけるのは効果的ですが、大っぴらにやれば、確実にルミナス村の領主に目をつけられます。

……豊かな土地と食料があるなら、難民を逃がすどころか、領主の軍隊がアデル村を『侵略』しに来るはずです」


【叡智と探求の女神:その通りよ。アデル村の結界は『魔力を持った魔物』を弾く設定になっているけれど、『ただの人間(兵士)』の物理的な侵入を完全に防ぐことは難しいわ。それに、人間同士の戦争になれば、アンタは彼らを斬り殺すことになる。神界のルール的にも、信仰心の観点からも、下界の人間を虐殺するのは最悪の悪手よ】


 神官を名乗る僕が、人間の兵士を皆殺しにしてしまえば、いくら食料があっても人々は恐怖して近づかなくなる。「救済」ではなく「魔王の侵略」と同じになってしまうのだ。


「だから、大々的な宣伝はしません。……僕が狙うのは、ルミナス村の『底辺』だけです」


【叡智と探求の女神:……なるほどね。労働力として価値があると見なされている若者や農民を連れ出せば、領主の『既得権益』を損なうから軍隊が動く。でも、孤児や老人、病人といった『搾取する価値もない層(口減らしの対象)』なら……】


「ええ。領主からすれば、勝手に消えてくれた方が食料の節約になる。

軍隊を動かしてまで取り戻そうとはしないはずです。

まずはそこから、静かに、確実に救い出します」


 僕自身が、神界で『無能』と見捨てられ、切り捨てられそうになった底辺だ。

 だからこそ、誰よりも彼らの痛みがわかる。


 僕が最初に手を差し伸べるべきは、健康な労働力ではなく、今この瞬間に死にかけている「捨てられた者たち」なのだ。


【美と闘争の女神:……ふん。回りくどくて地味なやり方だけど。アンタらしいし、理にはかなってるわね。許可してあげるわ】


♦︎


 山を二つ越え、昼過ぎにルミナス村へと到着した。

 村の周囲には粗末な木柵が張り巡らされており、入り口には槍を持った気怠げな兵士が二人立っていた。


 僕は神官服のフードを深く被り、目立たないように村へと足を踏み入れた。

 村の中は、ゴードンの言葉通り悲惨な有様だった。

 やせ細った村人たちがうつむき加減で歩き、畑には枯れかけた作物しか生えていない。

 領主の館だけが、不釣り合いに立派な石造りでそびえ立っている。


 僕は村の目抜き通りを避け、路地裏や、村の境界線に近いスラムのような区画へと向かった。

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