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神様はつらいよ 〜視聴ゼロの底辺神、配信で信仰(スパチャ)を稼いで成り上がる〜  作者: 仁科異邦


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18/20

絶対防衛圏の確立 、そしてフェーズ3へ


 北の廃坑での激闘を終え、僕がアデル村に帰り着いた頃には、日はすっかり西に傾き、空は深い茜色に染まっていた。


「神官様! お帰りなさいませ!」

「おじちゃん、おかえりー!」


 僕が村の敷地に足を踏み入れると、手作りのログハウスからゴードン老人とシエルちゃんが弾かれたように飛び出してきた。


 二人の顔には安堵の色が浮かんでいる。

 誰かの帰りを心待ちにして、無事を喜んでくれる人がいる。


 神界の無機質なオフィスでは絶対に得られなかった、胸が温かくなる瞬間だ。

「ただいま帰りました。……約束通り、防衛機構の『要』を手に入れてきましたよ」


 僕は小脇に抱えていた、スイカほどの大きさの『赤黒く脈打つ鉱石コア』を地面に置いた。同時に、背負っていた鋼鉄の廃材をドサリと下ろす。


「ひっ……! な、なんという禍々しい魔力……! 神官様、これは一体?」

「廃坑の主だったゴーレムの心臓部です。こいつを浄化して、この村全体を覆う結界の動力源バッテリーにします」


 ゴードン老人はコアから発せられる瘴気に顔を引きつらせたが、僕はすぐに作業に取り掛かるべく村の中央、かつて広場だった場所へコアを運んだ。


「さて……ここからが本番ですね。女神様たち、ご指導お願いします」

 空中に展開したウィンドウに向かって呼びかける。


 結界の構築は、ただ力任せに魔法を放てばいいというものではない。ここから先は、緻密な魔力制御と理論が求められる職人作業だ。


【叡智と探求の女神:ええ、ここからが貴方の腕の見せ所よ。そのコアは現在、高濃度の瘴気と純粋な魔力が『9対1』の割合で混ざり合っているわ。貴方の【火種】の神聖な熱で、瘴気だけを焼き尽くして純度を100%まで引き上げるのよ】


【美と闘争の女神:要するに、不純物を燃やし尽くせばいいんでしょ? 最大火力で一気に炙っちゃいなさいな!】


【叡智と探求の女神:馬鹿なことを言わないで。コアの耐熱限界を超えれば、爆発して村ごと吹き飛ぶわよ。ライト、コアの表面温度を精緻にコントロールしなさい。瘴気が燃焼を開始する『発火点』を維持しつつ、コア自体が割れないギリギリの温度帯を保つのよ】


 相変わらずのギリギリを攻める要求だ。

 魔法とは本来、自然の理に魔力で干渉する繊細な技術体系なのだ。


 例外スキルのズルなしでやる以上、一切の妥協は許されない。

「……わかりました。集中します」


 僕はコアの両側に手をかざし、目を閉じた。

「スキル発動。――【火種】」

 両手から放射された熱が、コアをドーム状に包み込む。


 炎そのものを当てるのではなく、オーブンのように周囲の空間温度を均一に引き上げていくイメージだ。


「ジ……ジジジジッ……!」

 コアの表面から、赤黒い瘴気が黒煙となって揮発し始めた。

 同時に、コアそのものが熱膨張でピキピキと微かな悲鳴を上げる。

(熱すぎる……! 温度を下げろ! でも下げすぎると瘴気が抜けない……!)


 額から滝のような汗が流れ落ちる。

 僕は自身の魔力探知を極限まで研ぎ澄まし、コアの内部構造をミリ単位でスキャンしながら、【火種】の出力を調整し続けた。


 熱しすぎれば爆発。冷ませば不純物が残る。

 神界の人事局で、理不尽な上司からのダメ出しを避けるために、文書を1行の狂いもなく書き上げていたあの極限の集中力が、今ここで完全に活きていた。


 一時間、二時間。

 すっかり日が落ち、焚き火の明かりだけが村を照らす中、僕は一切の瞬きもせずに熱処理を続けた。


 ゴードンとシエルも、固唾を飲んでその様子を見守っている。

【叡智と探求の女神:……驚いたわね。出力のブレが0.1%未満。底辺神特有の『地味な反復作業への耐性』が、ここまでの魔力制御精度を生み出すなんて。私のシミュレーションを上回る安定感よ】


 叡智の女神からの、珍しく手放しの称賛コメント。

 その言葉と同時に、コアから噴き出していた黒煙がピタリと止んだ。


 パァァァァァッ……!

 赤黒く濁っていたコアが、不純物を完全に失い、透き通るような美しいサファイアブルーの光を放ち始めたのだ。


「……お、終わった」

 僕は大きく息を吐き出し、その場に手をついた。

 疲労で指先が震えているが、完成した『魔導核』は、見惚れるほどに純粋な魔力の塊となっていた。


「見事です、神官様……! まるで星のように美しい……!」

「わぁぁ……きらきらしてる!」


 感動する二人をよそに、僕は最後の仕上げに取り掛かった。

「お二人とも、村の中心であるここから離れないでください。今から結界を起動します」


 僕は立ち上がり、青く輝く魔導核を地面にしっかりと埋め込んだ。

 そして、白銀の剣で地面に円陣を刻み、魔導核を中心に、村の周囲をぐるりと囲むように魔力の導線を引いていく。


「神聖なる光よ、この地を護る盾となれ――起動アクティベートッ!」

 魔導核に僕の魔力を流し込んでスイッチを入れる。


 ウォォォォォンッ!!

 という重低音と共に、青い光の柱が天に向かって立ち昇り、そこからドーム状に広がる薄青い光の膜が、アデル村の敷地全体をすっぽりと包み込んだ。


【美と闘争の女神:おおっ! 完璧な物理・魔力遮断結界じゃない! これならCランクの魔物が束になって体当たりしてきても、傷一つ付かないわよ!】


♦︎


 結界が完成した直後だった。

 光に引き寄せられたのか、村の周囲の暗闇から、十数個の赤い目が浮かび上がった。


「グルルルルルッ……!!」

 瘴気に当てられて凶暴化したDランク魔物『瘴気狼』の群れだ。

 彼らは獲物を見つけ、ヨダレを垂らしながら一斉に村へと突進してきた。


「ひっ……! 魔物の群れ……ッ!」

「おじいちゃん……っ!」

 ゴードンがシエルを庇うように抱きしめる。

 しかし、僕は剣を抜くことすらしなかった。


 ドガァァァァンッ!! ギャンッ!?

 瘴気狼たちが村の敷地に侵入しようとした瞬間。

 薄青い結界の膜がバチッと強烈な閃光を放ち、触れた狼たちを容赦なく弾き飛ばした。


 神聖な魔力に焼かれた狼たちは、キャンキャンと情けない悲鳴を上げながら、尻尾を巻いて暗闇の奥へと逃げ去っていく。


「……ほら、ね」

 僕は振り返り、呆然としている二人に優しく微笑んだ。

「これで、もう魔物に怯えて眠る必要はありません。この村の中にいる限り、絶対に安全です」

「おお……おおおおおッ……!」


 ゴードン老人は、その場に崩れ落ちるようにして両手をつき、地面に額をこすりつけた。

 シエルも、祖父の隣で小さな手を合わせ、涙を流している。


「ありがとうございます……! これで、ようやく……ワシらは、人間らしく眠ることができる……! 神官様は、我々の本当の救い主ですじゃ……ッ!」


 家があり、水があり、食料があり、そして絶対の安全がある。

 過酷な下界において、それは何物にも代えがたい「奇跡」だった。


 ピロンッ! ピロンッ!

 僕の端末から、かつてない勢いで通知音が鳴り響く。

【システム:下界の生命体からの『極大の信仰(完全なる帰依)』を受信しました】

【拠点の安全確保により、エリアボーナスが発生】

【存在値+15000を獲得しました】


【アデル区画:セクター1の浄化および拠点防衛完了。KPI達成率:10%(月間目標クリア)】

「……よし」


 僕は拳を強く握りしめた。

 これで、神界の人事局が押し付けてきた理不尽なノルマ(リストラの口実)は完全に粉砕した。ゼロス主任の悔しがる顔が目に浮かぶようだ。


 だが、僕の目標はこんな些細なノルマ達成ではない。

「ゴードンさん、シエルちゃん。顔を上げてください」

 僕は二人の肩に手を置き、立ち上がらせた。

 拠点ベースは完成した。

 だがここからが、本当の戦いの始まりだ。


「ロードマップのフェーズ1とフェーズ2は、これで完了です。……明日からは、いよいよ【フェーズ3】に入ります」


 僕は、アデル村から見て西の方角――かつて彼らを迫害し、口減らしとして追放した『ルミナス村』があるはずの暗闇を見据えた。


「この安全で豊かなアデル村の存在を、周辺の村々に知らせます。

貧困と瘴気に苦しむ人々を、一人残らずこの村に受け入れましょう」


「神官様……。しかし、他の村の領主や村長たちが、素直に民を手放すでしょうか?」

「手放さざるを得ない状況を作ります。

それは力ずくではなく、圧倒的な『豊かさ』という暴力でね」


 神界のシステムを無視し、下界のど真ん中に巨大な信仰の拠点クランを作る。

 ブラック企業に反逆するための、壮大な村おこし計画だ。


「さあ、まずはゆっくり寝ましょう。

明日は、ルミナス村へ向けての『宣伝活動』の準備です」


 最高位の女神たちという最強のバックアップと、絶対安全の拠点を手に入れた底辺神ライトの快進撃は、ここからさらなる加速を遂げようとしていた。


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