白眉の剣 / 浮く記憶
はくびのつるぎ / うくきおく
◆白眉の剣
そんなに斬れるのが嬉しいか
斬れた証が欲しいのか
血は溢れる程に啜ってきたというのに
握れば斬りたくなるだろう
奮えば血の匂いを追うだろう
本能のままに
欲望のままに
妥当なのだろうか
斬れぬよりは斬れる方がいいのか
斬れぬ刃は必要とされないのか
傷付ける事ばかりの鋭い刃は
錆びる鳴き方さえも忘れるのだろう
鋭い刃では護れない
斬れぬ刃では闘えない
鞘から解放したくない理由が
それでは駄目なんだろうか
斬れ味の良過ぎる特別な刃は
抑える事を知らずに指を貫く
傷を付ける事しか知らない刃
いつしか大切な“なにか”ができたとき
それを護ろうと矛先を研ぎ澄ませる
そして鋭過ぎる刃が故に
護るものにも刃が狂う
赦す事を知らない刃
大切なものの血を浴びた己が赦せず
血の滴る鋭利な己を憎む
鉄の匂いの増した刃は
鞘への納まり方を忘れる
思い出した鳴き方は
沁み込み過ぎた血の出す錆が故だろう
虚ろな刃は、その時初めて
己が鋭い意味を知る
愛を知れぬ意味を知る
握れば血が騒ぐだろう
奮えば内なる強欲を感じるだろう
錆がまわるのはいつの日か
刃が朽ちるのはいつの日なのか
そんなに斬れるのが嬉しいか
斬れた証が欲しいのか
疲れたのだよ、
もう血は溢れる程に
啜ってきたというのに
◆浮く記憶
開いた方の眼には流れても痛くはないのに
どうして浮く記憶が聴こえてくる
閉じる方の眼には痛くても流れはしないのに
どうしてあの詩に雫が落ちる
血の退くあの景色も今更、
震えるものを裂いて
滴る君の色を見せてよ
繋いだはずの手には
見えない空間がそこにはあって
二人の温もり遮って
だって例えば
消えそうな言葉聴こえなくなっても
狂って叫ぶ程泣いてはくれないんだろう
ねえ、何か言えよ
だって例えば
揺れ落ちそうな心伝えたとしても
きっと優しく僕を黙らせようとする
ねえ、早く消して
ほら
早く
消えろよ。




