第6話 毒舌の魔法使いは、断る
それから数日、俺とリッカは借りた木槌で依頼をこなしていった。リッカの木槌は毎回一撃で魔物を粉砕する。
「すみません……また壊しました……」
「気にしないでください。今日は報酬が多かったので」
しゅんとするリッカにバルトがぼそっと言った。
「木槌は消耗品だ。気にするな。……まあ、お前のは消耗が早すぎる気もするが」
リッカがさらに小さくなった。バルトは気まずそうに咳払いをした。たぶん慰めたかったのだと思う。下手すぎる。
報酬で、ギルドの隅の席で朝飯を食べていた時だった。視界の端に一人で座る女の子が映った。
黒っぽいローブに長い杖。二十歳ぐらいだろうか。冷めた目つきでパンをかじっている。テーブルには他に誰もいない。
その頭上に履歴書が浮かんでいた。
【魂の履歴書】
魔力:SS 知力:A ほか:D〜C
「…………!」
魔力、SS。また、SSだ。しかも知力A。要するに頭もいい。
採用担当の勘が、ビビッと反応した。この人は欲しい!
「キノさん? どうしました?」
「リッカ。あの人、ご存じですか」
「あ、ルカさんですよ!魔法学院出身の」
リッカが声をひそめた。
「腕はいいって聞きます。でもパーティーが長続きしなくて。いつもすぐ追い出されるって噂です……」
毒舌。でもそれ以上に気になったことがあった。一人で食べるパンを、彼女は少しだけ味気なさそうに噛んでいた。
俺はネクタイを直して席を立った。
採用面接、開始だ。
「すみません。少しお話、いいですか」
ルカは目だけをこちらに向けた。
「……何」
「パーティーを組んでもらえないかと思いまして。私はキノ、こちらはリッカです」
ルカはしばらく俺たちを眺めた。スーツの上に古着を羽織った男と、体に大きい鎧を着た小柄な少女。
「お断り」
即答だった。
「理由をうかがってもいいですか」
「Fランクでしょう、あなたたち。見れば分かります。足手まといの匂いがします」
匂い。匂いか。うん。
「確かにFですが、リッカは先日、大牙猪を倒しました実力者ですよ」
「噂は聞いてます。木の幹で猪を倒したとか。冗談にしてはよくできた話ですね」
リッカがびくっと肩を揺らした。
「あの、本当に」
「リッカ。大丈夫です」
俺は小さく首を振った。ここで言い返しても意味がない。
ルカは冷たく言った。
「でも結局、あなたたちも同じなんでしょう」
「同じ、とは?」
「回復魔法が使えない魔法使いは要らない。そう言って私を追い出した人たちと」
リッカが息をのんだ。
「私は水魔法しか使えません。回復はできません。何度言っても、パーティーの人たちは最初は『それでもいい』と言うんです。そして三日後には『やっぱり回復役がいないと困る』と言い出す」
ルカは杖を握り直した。
「もう、そういう人たちの相手は疲れました」
淡々とした声だった。でも杖を握る指が白くなっていた。
そうか。履歴書のSSは水魔法だったのか。そして回復が苦手なことも、これで分かる。
でも今ここで「才能が見える」と言っても信じてもらえない。俺が逆の立場でも信じない。
「……分かりました。無理にとは言いません。お時間を取らせてすみませんでした」
頭を下げて引き下がろうとした。
「ただ」
ルカが言った。
「はい?」
「口先だけの人たちなら、うんざりするほど見てきました。実力の分からない人と組む趣味はありません」
ルカは杖で窓の外を指した。
「明日、街外れの岩場に来てください。岩蟹の巣があります。Dランク相当の魔物です」
「岩蟹……」
「二人で倒してください。私は見物です。倒せたら話くらいは聞きます。倒せなければ、二度と私に声をかけないで」
言い方はきつい。けれど不思議と突き放しきれていない。「話くらいは聞く」と彼女は言った。ゼロではない。
リッカが小さく言った。
「……キノさん。受けましょう」
「私、やれます。きっと」
声が少し震えていた。それでもリッカはまっすぐ前を見ていた。
俺はうなずいた。
「分かりました。受けます」
ルカはほんの少しだけ目を細めた。
「……では、明日」
その背中を見送りながら、俺は静かに決めていた。
彼女は強さを試したいんじゃない。もう誰かに裏切られたくないだけだ。
それならこの試験は、ただ勝つだけじゃないだろう。
――絶対、ルカを私のパーティーに採用しよう。




