第220話 ウス=コタの進撃
「おおっ、銀騎士セントよ、やってくれるか!」
進み出て来たセントの姿を見て、タヴェルト候が表情を輝かせた。
「お任せ下され。私は、かつてあのゴブリンの部族を討伐した事もございます」
騎士セントは、かつて聖騎士サイモンに帯同してゴブリン狩りを行った事もある。当時の記憶を思い出して、彼は自信の表情を浮かべた。
「ゴブリンの酋長など、私の敵ではありませんな。あの首を取って来て差し上げましょう」
「それは心強い!」
タヴェルト候は信頼の表情を浮かべた。
「どうやらこのゴブリンの酋長は、ハーンからこの方面の侵攻を任されているゴブリンの諸侯王の様だ。あやつを討ち取ることができれば、ゴブリンの侵攻も頓挫するだろう。頼んだぞ!」
「お任せあれ!」
「ゴブリンの諸侯王の首を取ることができれば、その功績は大きい。……聖騎士サイモンの後を継いで、七英雄の称号が継承できる様に、王に申請いたそう」
「……それはありがたいですな」
セントは頷きながら、馬に乗り込んだ。
「それでは、軽く足を伸ばして、あのゴブリンを討ち取って参るといたしましょう」
そう言って、馬を前方に走らせる。
前方に佇んでいるウス=コタの姿を見ながら、セントは内心でほくそ笑んでいた。
(ゴブリンを一匹殺すだけで、この私も七英雄か。運が向いてきたな)
長年聖騎士サイモンの従者として仕えて各地を旅し、聖騎士サイモンが討たれた後は客将としてこの「後ろの国」に流れ込んでいた銀騎士セント。このままこの地で活躍の場も無く腐っていくかと思っていたが、思わぬところで運が向いてきた。
さあ、目の前のゴブリンを討ち取って、七英雄の座を得るとしよう。
セントは自信の表情を浮かべながら、ウス=コタの前へと進み出た。
……………
「ゴブリンの蛮族ども! このセント様の姿が怖くて目に入らないか!」
タヴェルト候の陣地から進み出て来た銀鎧の騎士が、意気揚々とした様子で呼びかけた。
そしてウス=コタの前方まで進み出て、剣を突きつけて煽る。
「愚かな図体だけ大きなマイクチェク族のゴブリンども。我らに討伐されたというのに、まだ懲りていないと見えるな」
「ああ?」
怪訝な視線を向けるウス=コタを前に、セントは続けた。
「我らにあれだけ殺されたというのに、恐怖心すら覚えていないのか、蛮族ども。
……まあいい。貴様の首をウーサー王に献上して、この私は、サイモン様の後を継いで七英雄……新たなる聖騎士となるのだ!!」
「聖騎士、サイモン……だと?」
その言葉に、ウス=コタは目の前の銀騎士セントを睨み付けた。
「族長様……! この男には見覚えがございます!」
後方で様子を見守っていたマルオ将軍が叫んだ。
「この銀騎士は、聖騎士サイモンとともに、我らマイクチェク族の洞窟を襲った男でございます! あの顔と銀鎧の装飾……間違いございません!」
襲撃事件の際に洞窟で目撃していたマルオ将軍の言葉に、ウス=コタはセントを睨み付けた。
「すると貴様……聖騎士サイモンとともに我らリシマの洞窟を襲撃して、父王を始め、多くの住民を殺害した、あの時の騎士か!!!」
怒りの表情を向けるウス=コタに対して、セントは余裕の表情で答えた。
「ふっ……やっと思い出した様だな」
そして、剣を突きつけながら続ける。
「貴様らゴブリンなど、この私の敵ではないわ。貴様はあの時のゴブリン王の息子の様だな。貴様の頸を落として、父親の元に送ってやろう」
「ふん……」
ウス=コタは鼻で笑いながら答えた。
「この俺も、聖騎士サイモンと戦った時よりも強くなっているのだ、貴様を討ち取って、それを証明してやる。
……ましてや、サイモン本人ならともかく、従者、腰巾着に過ぎない貴様如きに俺様が遅れを取ると思っているのか」
腰巾着と罵られたセントは、頭に血が上って叫んだ。
「この俺を罵倒しようとはいい度胸だ! サイモン様に劣らぬ我が力を見せてくれる!
私はサイモン様の後を継ぐ者、新たな七英雄となる、聖騎士セント様だ!!」
この言葉と共に、セントは馬を突進させてウス=コタに斬りかかる。
振り下ろされた剣を、ウス=コタは蛇矛で受け止めた。
そのまま、両者は数合ほど打ち合う。
すぐに、両者の力量差は周囲で観戦する者たちにもわかる様になってきた。
「…………ぐっ!?」
セントが狼狽の声を上げる。
「やはりな、この程度か」
襲いかかる剣を軽々と弾きながら、ウス=コタは呟いた。
「話にならぬな。この俺も、あれから強くなったのか。
……いや、貴様が弱すぎるのだ!!」
その言葉と共に、蛇矛をセントの胸板に突き立てる。
「うぐっ……!」
鈍い音と共に、セントの銀鎧が貫通され、突き抜けた蛇矛がセントの背中から飛び出す。
それを見たタヴェルトの陣営から悲鳴が、同時にマイクチェク族の陣営からは歓声が上がった。
「そ……そんな、ばかな……この私が……」
「貴様には我が部族を襲い、多くの者たちを殺した報いを受けてもらわねばな」
ウス=コタはその言葉と共に、蛇矛を持ち上げる。
蛇矛に突き刺さったセントの身体は軽々と持ち上げられ、ウス=コタが右手で差し上げた蛇矛にぶら下がったまま、人形の様に宙で揺れていた。
「……トワさん!!」
ウス=コタは後ろを向くと、後ろで立っているトワ王妃に向けてぶん、と蛇矛を振った。
その勢いで刺さっていたセントの身体が抜けて宙を舞い、トワ王妃の方に向けて飛んでいく。
「あいよっ!!」
トワ王妃は獲物である大槌を持って待ち構えていた。そして大きく振りかぶった。
「我が部族の者を殺した報い、その身体で受けるがいい!」
そう叫んで、渾身の力で、大槌を飛んできたセントの身体に向けて振り下ろす。
鈍い音とともに大槌はセントの胸板を打ち抜き、銀の鎧ごと、セントの身体を「粉砕」した。
トワ王妃の大槌で打ち抜かれたセントの身体が爆散し、赤い霧とともにその首が、そして四肢が草原に散らばる。その凄まじい光景にタヴェルト候の陣地からは大きな悲鳴が上がった。
対照的に、マイクチェク族の陣地からは大きな歓声が上がる。その歓声と共にウス=コタは更にタヴェルト候の陣地の方に歩を進め、傲然と叫んだ。
「どうした人間ども! 貴様らにはこの程度の者しかおらぬのか!」
……………
「ひいいっ!?」
信じて送り出した銀騎士セントが瞬殺され、タヴェルト候ドーゼウは悲鳴を上げた。
「だ、誰ぞ、次なる勇者はおらぬか! あの蛮族ゴブリンの王を討ち取って参れ!」
周囲の者たちに呼びかけるが、セントの悲惨な最期を見せられた事で、タヴェルトの部下たちも、集まった傘下の諸侯たちもしんと静まりかえり、誰一人として声を上げようとしない。
怖じ気づいた部下たちに苛立ったタヴェルト候は、声を張り上げた。
「もう良い! ならば全軍で突撃だ! 戦車部隊、全軍出撃! ゴブリンどもを押しつぶすのだ!!!」
「はっ……ははあっ!」
命令を受けて、慌てて伝令たちが飛び出していく。
程なく、出撃命令を受けて戦車部隊が勢いよく前進し始めた。
……………
「ふん……出てきた様だな」
馬に引かれて自分たちに向かって突撃してくる、銀色に輝く戦車部隊を眺めながら、ウス=コタは予想通りといった表情で頷く。
そして、自陣に下がりながら命じた。
「前衛! 一旦後退せよ!」
「ははっ、前衛陣、一時後退!!」
命令を受けて、マルオ将軍が復唱しながら自陣を駆け回る。
ほどなく、マイクチェク族軍の前衛部隊は整然と後退しはじめた。
その様子を見たタヴェルト軍戦車部隊の者たちは勢いづいた。
「ゴブリン軍が逃げていきます!」
「口ほどにも無いやつらだ。ゴブリンの蛮族ごとき、我らの戦車で踏み潰してくれるわ!
全軍、追撃せよ!!」
「了解!!」
兵士たちは騎馬に拍車を入れ、タヴェルト軍の戦車たちが加速する。勢い付いたタヴェルト軍戦車部隊は更に前進し、後退していくマイクチェク族の前衛へと迫っていった。
タヴェルト軍戦車部隊が十分に前進・突出して、前衛部隊が後退したスペースまで入り込んで来た事を確認したウス=コタは、にやりと笑みを浮かべながら命じた。
「今だ……!! 弓兵部隊、攻撃、開始!!」
その命令とともに、両翼に伏せておいた弓兵部隊が一斉に姿を現した。
そして、突出したタヴェルト軍戦車部隊の左右を取り囲む形で、一斉に弓を引き絞って矢を放つ。
タヴェルト軍戦車部隊に、左右両側から放たれた矢が降り注ぐ形となった。
マイクチェク族の弓兵部隊が放ったのは、ただの矢ではない。体躯の大きなマイクチェク族から更に選抜された腕力の強い兵たちによって引かれた強弓、そしてより強い貫通力と威力を持つ焔鉄の矢であった。
赤い焔鉄の鏃を持つ矢が、赤い軌道を描き、嵐の雨の様な勢いでタヴェルト軍の戦車に降り注ぐ。その威力は戦車の装甲をも軽々と貫くものだった。
左右両側から雨の様に降り注ぐ、焔鉄の矢。凄まじい威力で降り注ぐ矢に装甲を貫かれて、タヴェルト自慢の戦車部隊は次々と倒れていったのである。
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