表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】【身分差の壁】なんてなかった件~悲劇のヒロイン志望の私、王太子に恋してました~  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

第二話 家庭の事情で。複雑です

「オリビア」


ある放課後、図書室で本を読んでいると、レインがそっと呼んだ。

顔を上げると、彼は少し迷うような表情で、でもまっすぐにこちらを見ていた。


「来月、王宮で夜会がある。一緒に……いや、あなたは当然招待されているでしょうし、そこで、もう少しちゃんとした場で話したいことがあって」

「話したいこと?」

「ええ。きちんと、正式に」


オリビアの心臓が跳ねた。


(これはもしかして、告白の前触れでは?!でも身分差が……壁が……!)


「分かったわ。夜会で待っているわね」


レインは少し安堵したような、でもどこかまた複雑な顔で「よかった」と言った。


(よかったって……。きっと、言い出すだけで勇気が要ったのね……!)


その『複雑な顔』は、たぶん、別の意味だったのだろう。

今なら分かる。今なら。


夜会当日。


オリビアは三時間かけて準備した。ドレスは深い紺碧に金の刺繍。髪は侍女に丁寧に結い上げてもらい、最後に真珠を一粒。


侍女たちに「どうかしら」と問うと、「とても素敵でございます」と言いながら、なぜか目を合わせなかった。


(みんな心配してるのね。公爵令嬢が平民に告白される夜だもの……)


王宮の大広間は、まばゆい光に満ちていた。

オリビアは人混みの中でレインを探しながら、ゆっくりと歩いた――そして、止まった。


広間の中央。周囲にひときわ広い空間を持って、一人の青年が立っていた。


銀髪。青灰色の瞳。凛と伸びた背筋。

いつもの学園の制服ではなく、金と白の礼装をまとったその姿は、オリビアの知っているレインで、しかしオリビアの知らないレインだった。


胸に輝く、王家の紋章。

周囲の人々が彼に向かって深々と頭を下げるのが見えた。


「……えっ」


オリビアの思考が止まった。


「あら、オリビア。殿下とお知り合いだったの?」


通りかかった知人の令嬢が、にこやかに声をかけてきた。


「……でん、か?」

「王太子殿下よ。ご存知でしょう?今年から学園に通われているという」


オリビアの脳内で、何かがガラガラと崩れる音がした。


(……複雑な家庭……)


たしかに複雑だ。王家というのは大変に複雑な家庭だろう。

何でもできるのも、王太子教育なら納得だ。

クラスメートの、あの“なんとも言えない顔”も――。


(……私、ずっと)


自分の三ヶ月を一枚一枚めくるたびに、恥が増えていく。

身分差ロマンスのフィルターで、勝手に切なくなり、勝手に陶酔し、勝手に『壁』を立てていたのは自分だ。


(最悪だわ……!)


その『最悪』の中心が、こちらへ歩いてくる。


「オリビア」


低く、静かな声。

レイン――いや、レイナート王太子殿下が目の前に立っていた。


「知ったのですね」

「知ったわ」


オリビアは努めて平静を装ったが、声が微妙に震えた。


「私を、からかってらしたのね」

「申し訳ありません。伝えるべきでした。ただ……」


彼は少し間を置き、視線を逃がさずに言った。


「あなたが、私を私として扱ってくださった。王太子としてではなく、ただのクラスメートとして。それが、思いのほか……心地よかったのです」


オリビアは黙った。

たしかに、自分は彼を殿下扱いしなかった。

遠慮なく質問し、課題の答えを写させてもらい、平民向け弁当まで渡した。


(平民向け弁当……)


今さら胃がひゅっと縮んだ。


「それにしたって……言ってくれれば良かったのに」

「言ったら変わりましたか。あなたの接し方が」

「……変わったと思うわ」

「でしょう」


彼は静かに微笑んだ。その笑い方は、いつものレインのそれで――オリビアはなんだか悔しくなった。


「ずるいわね」

「否定はしません」


その正直さが、さらにずるい。


「私、あなたのことを平民だと思って……色々と」

「あなたが私に直接失礼なことをしたことは一度もないですよ」

「そういう問題じゃなくて!」


言い返そうとして、でも言葉が追いつかない。

三ヶ月間積み重ねてきた『レインとの記憶』は、王太子の肩書きで上書きできるほど薄くない。


サンドウィッチを半分分けてもらったこと。

難しい数式を一緒に唸りながら解いたこと。

つまらない授業中に、こっそりメモで会話したこと。


全部、同じ『レイン』との記憶だった。


「……好きだったのよ」


オリビアはぽつりと言った。


「勘違いだらけで、一人で盛り上がって、恥ずかしいことこの上ないけれど。あなたのことが好きだったわ。今も、嫌いになれていないし」


沈黙。

それから、レイナートは小さく息を吐いた。どこか張り詰めていたものが緩んだような息だった。


「夜会で正式に話したいと申しました。改めて、申し上げます」


彼が右手を差し出す。


「オリビア・フォン・ヴェルンハルト嬢。レイナート・フォン・アルヴィス王太子として、ファーストダンスをお願いしたい。そして――できれば、この先も、隣に」


オリビアは彼の顔を見た。

しっかりと、正面から。


(身分差ロマンスじゃないわね。これは。完全に違う)


でも、胸の鼓動は、あの三ヶ月と同じ速さで鳴っている。


「……一曲だけね」


オリビアはその手を取った。


「今夜は一曲。あとのことは、また明日から考えるわ」

「十分です」


彼が笑った。いつものレインの笑顔で。


二人がフロアへ向かうと、壁際のクラスメートたちが一斉に息を吐くのが見えた。


「やっとだ……」

「三ヶ月、長かった……」

「オリビア様、顔が赤い」

「殿下も赤い」


オリビアは聞こえないふりをした。

聞こえたとしても、今夜はもう、都合よく翻訳したくなかった。


後日。


クラスメートの女子に「三ヶ月間、ずっと応援してたんですよ」と告げられたとき、オリビアは全力で頭を抱えた。


「あなたたち、なぜ一言言ってくれなかったの!」

「だって……止められる雰囲気じゃなかったので……」

「どんな雰囲気よ!」

「殿下のこと、すごく楽しそうに『平民の彼』って言うから、水を差したら可哀想かなって……」


オリビアは天を仰いだ。

向かいの席では、レイナートが「この話は一生のネタですね」と微笑んでいる。


「笑わないで!」

「笑っていません。ただ……嬉しいのです」

「……この、ずるい人」


オリビアは頬を染めながら、教科書で顔を隠した。


身分差ロマンスの夢は、盛大に砕け散った。

でも砕けた欠片の向こうに、思いがけずずっと素敵なものが転がっていたのだから――人生というのは、案外悪くないのかもしれない。


少なくとも彼は、今日も当然の顔で言うのだ。


「家庭の事情で。複雑です」


それを聞くたび、オリビアは少しだけ睨んで、それから、少しだけ笑ってしまうのだった。

最後までお付き合いありがとうございました。

ロミジュリはディカプリ版しか履修してないないのですが…ブックマーク、★★★★★、リアクションいただけると、嬉しいです( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



こちらの作品もよろしくお願いします
▶ 追い出された白猫姫は、
王太子にお猫様として溺愛される
白猫姫×王太子/成り代わり魔女/お猫様溺愛/宮廷ラブファンタジー



― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ