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第93話 最後の聖戦(その3)

「くっ……!

 みんな、耐えてくれ……ッ!」


「滅」の絶痛と、

時空の巻き戻しで復活した

数百のアイスゴーレム。


さらには大地の濁流を

打ち込んでくるシルエッタの

『時空・星脈混合調律』


ニノは

『春の調律・絶対防護結界』を全開で張り、

歯を喰いしばって仲間たちを守り続けていた。


「ふふ、うふふふ!

 耐えても無駄ですわぁ!

 潰れてくださーい!」


高台の上で、

シルエッタが嗜虐的な笑みを浮かべて

時空魔法を叩き込み続ける。


限界を迎えたマリーが膝をつき、

ザードやカゲロウの精神も

削り取られようとしていた。


その時——


——ドォォォンッ!!


戦場の中央に、

天を突き破る眩い

「四色の光柱」が豪快に降り立った!


「な……なに事ですの……!?」


シルエッタが思わず目を見張り、

手を止める。


光柱が弾け飛ぶと同時に、

そこには冒険者ギルド本部から

空間転移してきたレイス、

そして——封印から解き放たれた

四大精霊の姿があった!


「待たせたね、ニノ——ッ!!」


「コハル……ッ! 精霊様たち……ッ!」


ニノの瞳に歓喜の光が宿る。

空中で腕を組んだ夏の精霊・炎夏が、

豪快に笑い飛ばした。


「おい! 汁(じる)!!

 好き勝手やってくれたなぁ!

 借り、まとめて返させてもらうで!」


「ジゼル、よくぞ耐えてくれましたね。

 ここからは私たちの番です」


極氷の気流を纏った氷夜が

静かにジゼルへと寄り添い、

秋の精霊・秋華が

煙管の煙をくゆらせる照紅へ

ニヤリと笑いかけた。


「照紅、

 相変わらず派手にやってますね」


「遅い登場でしたねぇ、秋華様!」


「精霊様方が勢揃い……!

 これで勝機は我らにありでござる!」


カゲロウが刀を構え直し、

息を吹き返した第一陣の猛者たちが

一斉に歓声をあげる!


「せ、精霊達!? なんでぇ?……!?

 ゴーレムたち、全員破砕しなさぁいッ!」


動揺したシルエッタが叫び、

全アイスゴーレムが一斉になだれ込む。


だが——本領を発揮した四大精霊と

調律師たちの前では、

数百の泥人形などもはや敵ではなかった!


「炎夏様! 拙者、独学でござるが、

 夏の星脈調律ができるでござる!

 今、魔力供給いたします!」


カゲロウが印を結び、

大地の星脈を通じて圧倒的な

灼熱の魔力を炎夏へと流し込む!


「さすが常夏衆、完璧やっ!

 どんどん入ってくるでぇ!

 あばれるぞ! 付いてこい!

 カゲロウ!」


「ハッ! どこまでもッ!」


炎夏とカゲロウの連携から

解き放たれた爆炎の奔流と、

ラトレアの龍脈の一閃が重なり合い、

ゴーレム群の半数を一瞬にして

跡形もなく溶かし尽くす!


「溶けた水を、

 再び凍らせる!『極氷の檻』!」


ジゼルと氷夜が息を合わせた瞬間、

絶対ゼロ度の冷気が戦場を走り、

溶けた巨躯を一瞬で氷漬けにして

再生能力を完全に封滅する。


「打ち鳴らせ、

 秋の乱舞! いざ尋常にッ!」


照紅と秋華の放つ黄金の旋風が

真空の刃となって舞い踊り、

凍りついたゴーレム群を

チリ一つ残さず超微粒子へと

粉砕・破砕していく!


「みんな、怪我はない!?

  『春風の恩寵』!」


コハルが生命の春風を戦場全体へ走らせ、

ザード、マリー、エルザたちの

傷と疲労を一瞬で癒やしてみせた。


「な……時空の巻き戻しすら追いつかない……!?

 なぜ……なぜですのぉぉッ!?」


シルエッタが金切り声をあげ、

猛烈な勢いで時空魔法の波動を

叩き込もうとする。だが、

空中で四方に陣を取った四大精霊が、

互いの魔力を環状に巡らせた。


「『四季調和結界』——ッ!」


四色の光の環が戦場を包み込む。


シルエッタの時空魔法が放つ「滅」の干渉波は、

環の中に吸い込まれるように完全に浄化され、

二度と英雄たちの魂を苛むことはなかった。


「痛みが……消えた……!?」


「すごーい! マリー復活♡」


「よし……! 反撃の時だッ!」


ザードやエルザたちが拳を握りしめる。

もはやゴーレム軍団は全滅し、

シルエッタの時空攻撃も遮断された。


「ええ!?

  わたくしを……この世界の神たる

 わたくしを舐めるなぁぁぁッ!」


追い詰められたシルエッタが髪を振り乱し、

自身の全魔力と星脈の濁流を限界まで練り上げる。


高台が崩壊し、

次元の亀裂が走るほどの

凄まじい圧力が世界を

押し潰そうとしていた。


「『時空・星脈・極大混合調律』ッ!

 すべて消え去りなさぁぁぁいッ!!」


暴走する凶悪なエネルギーの奔流。


だが、

ニノはその圧倒的な破壊力を前にして、

ただ静かに……澄み切った瞳で

シルエッタを見つめていた。


ニノとコハルが強く手をつなぎ合う。


その瞬間——二人の意識の奥底で、

すべての時間が優しく巻き戻っていった。






社畜としてただ毎日、

会社と家を往復するだけだったニノの背中に、

突如として現れた思念体のコハル。


幽霊だと勘違いして除霊しようとし、

間違えて異世界の扉を開けてしまったあの夜。


時には喧嘩をし、

時には共に喜び合い、

気づけばお互いがかけがえのない

存在となっていた。


「(クスッ)」


脳裏の回想の隣で、

コハルが小さく笑う。


「(そうだよな……あの時は、

 何が何だかわからなかったよな)」


異世界へ来てから、

たくさんの素晴らしい出会いがあった。


エルザとの出会い、カゲロウとの出会い、

ルナ、グラッド王……

かけがえのない仲間たちとの出会い。


一度禁呪で日本へと戻されたあの日以来、

ずっと一緒に戦ってくれた照紅。


そして、ひぃおばあちゃんの宵咲や、

ノホホンブレイクの面々。


四大精霊の中でも、

自分にとって唯一無二で

かけがえのない存在であるコハル。


「(そんなこと言ってくれると、

 照れるっしょ?☆)」


ふと、ニノの胸に一つの

確信が降りてくる。




——因果。




すべては偶然などではない。

すべてが必然であり、

遥か昔から決まっていた運命の音律。


巡り会えた意味、

戦ってきた意味、

そして今ここに二人で立っている理由。


「さあ行こう、コハル!

 シルエッタを元に戻そう!」


「うん!☆」


二人は強く頷き合い、

無限の信頼とともに瞳を見開いた。


ニノの言葉に、

シルエッタを破壊で倒そうとしていた

救援チームも、ギルドで魔導水晶越しに

見守っていたオーウェンたちも息を呑む。


自由と絆の因果を胸に、

ニノとコハルが静かに、

だが天地を揺るがす絶対の響きで紡ぎ出す。


「四陣奏環……」


その言葉が響いた瞬間、

後方で作戦を見守っていた宵咲が、

その可憐な瞳を限界まで見開いた。


「な……なに!?

 参陣を超える……

 『四陣』じゃと……!?」


伝説の最高調律師である宵咲すら

絶句する前代未聞の領域。


ニノとコハルが声を合わせ、

無限の温もりに満ちた光を解き放つ!


「「四陣奏環「因(いん)」——

 桜満開春爛漫!!」」


ドォォォォォォン————ッ!!


世界の時空停止を根底から塗り替える、

満開の桜の濁流が解き放たれた!


それはシルエッタを傷つけるための

攻撃ではなかった。


桜の光はシルエッタの凶悪な

混合魔法を優しく包み込むと、

そのまま彼女の身体を、

そして彼女の「過去の因果」そのものを

滑らかに駆け巡っていく。


「あ……あぁぁ……!?

 何……何が……!?」


シルエッタの体内から、

かつて彼女を狂わせ、

時空魔法の不吉な力を与えた

「原因(因果)」だけが、

綺麗な桜の花弁となって

サラサラと剥がれ落ちていく。


正し、元へ戻し、

美しい音を響かせる——

これぞ真の『調律』


過去の歪みから解き放たれた

シルエッタの瞳から不気味な狂気が消え去り、

ただの無垢な表情へと戻っていく。


時空魔法の力を完全に

失ったシルエッタ自身は、

一筋の傷もなく、

へたりと温かな桜の絨毯の上へと

腰を抜かした。


空からは、

世界を包む温かな春の風と、

祝福のような桜吹雪が舞い散っていた——。



この小説の序盤を書いているとき、

「完結は100話くらいかなぁ」と、

思っていたことを思い出します。

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