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第91話 最後の聖戦(その1)


冒険者ギルド本部の作戦室。

卓上に広げられた世界の中心

「ゲートランド王城」の地図を囲み、

救援チームと復調したニノたちは

最終作戦の詰めに当たっていた。


ギルド長オーウェンが

深く葉巻の紫煙を吐き出し、

重々しく口火を切る。


「まずはだ、一番重要な選択肢を

 選ばなければならねぇ」


オーウェンは鋭い眼光で、

卓を囲む仲間たちを見渡した。


「まず一つ目は

 動ける者だけで作戦を決行するか、

 もう一つの手段、

 時空魔法の中でも動ける方法を

 見つけてからか……だ。

 しかし時間がねぇ!

 前者しかねぇように思うが」


静まり返る室内に、

救援チームの奥にいた一(にのまえ) 宵咲(よいさき)が、

お茶目に首を傾げながら静かに歩み出た。


「あまり最高調律師の

 リョウタ様を差し置いて、

 出しゃばりたくはないんだけどねぇ」


「お嬢ちゃん! 今は全員、

 散々出しゃばる時だぜっ!」


オーウェンが力強く

テーブルを叩いて怒鳴る。


宵咲はくすりと可憐に微笑むと、

その瞳に伝説の調律師たる凄絶な光を宿した。


「ふふ、わかったよ。

 ……いいかいみんな、

 リョウタもだ。少しきついよ?」


宵咲が静かに両手を掲げ、印を結び始める。


「今から

 時空魔法を通じなくする結界を各々に張る。

 けど、きついからねぇ。

 気合を入れていくんじゃぞ。

 この技は簡単に言うと……

 『参陣奏環「滅と創」』を交互に

 時間の侵食より早く動かす。

 つまり『滅』の痛み、辛さ、

 あらゆる負の感情に耐え続けることになる」


宵咲の言葉に、ニノは静かに

微笑みながら仲間たちを見渡した。


「俺は大丈夫。

 もうすでに自分で『創・滅』の

 結界を張ったよ。

 み、みんな、これ結構きついよ。

 無理そうだったら言ってね」


「……ニノ殿……」


カゲロウが息を飲み、

その凄まじい覚悟と優しさに瞳を揺らす。


直後、照紅がニッと不敵に笑って叫んだ。


「今更じゃ!

 なんでも来いじゃけぇ!」


照紅の叫びと同時に、

宵咲の手から禍々しくも

神々しい「滅と創」の閃光が放たれ、

全員の身体を駆け巡った!


直後、作戦室に凄絶な試練が吹き荒れる。


「え?……何か起こったか?」


ザードは首をかしげ、

自身の拳を握り直しながら

ケロリとした顔で呟いた。


桁外れの頑強さと無骨さゆえか、

激痛すら意に介していない様子だ。


「痛い痛い痛いっ!!!!!……

 辛いっ!!!悲しいっ!!!

 た、耐えられるのこれ!?」


絶叫するマリーへ、

すかさずオーウェンがダミ声を飛ばす。


「マリー!

 耐えたら特別ボーナスだッ!」


「本当!?♡」

挿絵(By みてみん)

「で、具体的な金額はっ!?」


途端に目を輝かせたマリーは、

一瞬で見事に負の感情をねじ伏せてみせた。


その横で、

かつて心の闇に囚われていたエルザが、

すっと息を整えて苦笑いを浮かべる。


「……これは、

 闇堕ちしている時の方が辛かったですね」


一方で——


照紅は何もなかったかのように、

懐から取り出した煙管キセルに火をつけ、

紫煙をゆったりとくゆらせていた。


ジゼルもまた、一切の言葉を発さず、

凛とした佇まいのまま静かに佇んでいる。


だが、二人とも額には微かな汗が浮かび、

今まさに必死の精神力で絶大たる

負の感情と痛みを押し殺しているのは明白であった。


調律師としての矜持とプライドゆえに、

それを一切表に出そうとはしない。


各々がそれぞれの強さと覚悟で

試練を乗り越え、

時空停止下の世界で

自由に動ける無敵の加護を

全身に纏い上げた。


「よし!

 作戦を練るでござる!」


カゲロウが前を見据えて

声を張り上げる。


「その前に……僕の視覚によると、

 冬の城の時と同じように、

 街中と大広場に氷ゴーレムが

 数百体配置されたよ。

 今度は本格的だ」


ギルド内で一緒に地図を

覗き込んでいたレイスが、

淡々と追加報告を入れる。


オーウェンが再び深く煙を吐き、

頭を抱えてダミ声で吐き捨てた。


「お嬢ちゃん、

 先手を打ちやがるなぁ!

 あのおとぼけキャラは何だったんだ!?」


「焦っても始まらないでござる!

 作戦は二段階!

 まず第一陣が数百の氷ゴーレム群を粉砕し、

 催眠状態の無抵抗な群衆を守りつつ、

 敵の注意をすべて惹きつける!

 拙者が先陣を担うでござる!」


カゲロウが立ち上がると、

ラトレアが不敵に笑って並び立った。


「ふん、あの程度の泥人形なら

 私が全滅して差し上げましょう。

 一番槍は譲りません!」


「俺らも行くぞ、マリー!

 街の人々を守る盾となるのだっ!」


「ええ、ザード!

 エルザさんも一緒に暴れましょう!」


ザード、マリー、エルザが次々と

第一陣へ立候補し、頼もしすぎる

仲間たちの気魄にニノが強く頷く。


「みんな……ありがとう! 頼んだよ!」


第一陣の顔ぶれが揃う中、

ニノが卓上の地図を見つめながら切り出した。


「そして第二陣……

 ロドンから四大精霊の封印された

 魔剣を強奪して解体する役目だけど……」


静まり返る室内。


その本丸へと挑む役目に、

ゆっくりと一歩前に踏み出したのは

冬の調律師ジゼルであった。


「……私に行かせてください。

 いえ……私が行かねばならないのです」


ジゼルの瞳には、静かだが

揺るぎない覚悟の炎が宿っていた。


「ロドンはかつて私と同じ

 『冬の四天王』と呼ばれた男……。

 そしてあの大剣には、

 私の主、冬の精霊様が囚われております。

 元・同胞として、そして冬の調律師として……

 私がロドンを抑え込み、

 道を示さねばなりません」


「……分かった。

 頼むよ、ジゼル! 一緒に行こう!」


ニノが力強く頷くと、

それまで静かに聞いていたレイスが

フッと息を吐いて歩み出た。


「なら、僕も第二陣に加わるよ」


レイスは淡々とした口調で、

的確な指示を飛ばす。


「二人が奪った魔剣は僕に渡してね。

 で、宵咲さん、

 空間移動でこのギルドまで繋げてよ。

 ここで解呪の儀式さ。

 ここ、汚いから、精霊様には失礼だけど」


「はいはい、お安い御用じゃよ〜」


宵咲がパタパタと手を振って微笑む。

作戦は組み上がった。


第一陣が作った突破口を突き、

ジゼルがロドンを抑え込むその一瞬に、

ニノとレイスが魔剣を奪取!


宵咲の空間転移で魔剣をギルドへ持ち込み、

レイスが解呪し、精霊を復活させる。






——シュンッ!


「滅と創」の激痛をそれぞれの覚悟で

ねじ伏せた英雄たちは、空間転移で

時空の停止した「ゲートランド大広場」へと

一斉に躍り出た。


そこは異様な光景であった。


強制催眠をかけられ、

虚ろな瞳のまま自足で集められた

数千、数万の群衆。


そしてその人々を取り囲むように、

街中と大広場全体を埋め尽くす

数百体もの巨大な『氷ゴーレム』が

不気味に立ち並んでいる。


広域を見下ろす高台の上で、

立ち現れたニノたちを目にした

シルエッタが、パチパチと目を丸くさせた。


「(あれぇ……!?

 なぜ時空が止まったこの世界で、

 みなさんが動いてるのかしら……!?

 あ、……ノルドヴァルクの『冬の城』に

 置いたはずのゴーレムたちは

 どうなりましたかぁ……!?

 まあ、いいですけどぉ)」


首をかしげつつも、

すぐにいつもの不気味な微笑みを浮かべると、

高らかに声をあげた。


「ふ、ふふふ!

 あらぁ……時の静止すら跳ね返して、

 自ら殺されに参りましたのぉ?

 ……いいでしょう!

 ノルドヴァルクでは油断いたしましたが、

 今度は街中にも大広場にも数百の子たちを

 並べましたわ!

 手出しなどできるはずもございません!」


「能書きはそこまででござるッ!

 ニノ殿とジゼル殿の道を開くぞ!!」


カゲロウの合図とともに、

立候補した第一陣が

爆発的な勢いで突撃を開始した!


「龍脈の血を引く私に、

 そんな泥人形が通用するとでも思うの!?」


先陣を切ったラトレアが、

龍脈の腕力を全開にして魔剣を一閃!

膨大な衝撃波が奔流となって走り、

前方のアイスゴーレム数体をまとめて

一瞬で粉砕・破砕する!


「我らも負けてはいられん!

 精霊様と世界を守るぞ!」


ザードとマリーが息の合った連携で

ザードが「魔法の木の棒」を叩き込み、

エルザが疾風のごとき剣技で

氷ゴーレムの足を砕いていく。


「影を穿ち、

 道を穿つ! 参るッ!!」


カゲロウの無双の刃と高次元からの

圧倒的な突破力が組み合わさり、

数百体いたはずの氷ゴーレム軍団は

みるみるうちに瓦解していった。


「な、なんですの……!?

 ロドン、奴らを破砕しなさいッ!」


シルエッタが動揺して叫び、

全意識が第一陣の圧倒的な

大暴れへと吸い寄せられる。


「今だッ! 行くでござる!!

 ニノ殿! ジゼル殿!!」


カゲロウの叫び声とともに、

第一陣が命がけでこじ開けた

一筋の「勝利の道」。


そこをニノ、ジゼル、

そしてレイスが風となって駆け抜けた!






第一陣が開いた突破口を

一気に駆け上がり、

高台へと躍り出た第二陣。


そこには、

四大精霊の魔力を吸い上げ、

紫黒のオーラを放つ大剣を構えた

ロドンが待ち構えていた。


「ほう……第一陣を

 囮にしてここまで辿り着いたか」


冷酷な眼光でジゼルを見下ろすロドン。

ジゼルは静かに、だが強い意志を込めて

魔力を練り上げた。


「……ロドン。精霊様を縛り、

 世界を脅かすその悪逆……

 元・冬の四天王として、

 私が導きを正します!」


「ハッ!

 四大精霊の威光を宿した

 この『魔剣』を前に、

 たかが調律師の一人に過ぎん

 貴様ごときに何ができる!」


ロドンが大剣を横一文字に払う。


その瞬間、ジゼルは踏み込みを

わずかに躊躇した。


「(あの大剣の中には……

 今も氷夜様が閉じ込められている……!

 乱暴に攻撃すれば、氷夜様の御身に

 傷がついてしまう……!)」


氷夜を案じるがゆえに、

安易な全開攻撃を控え、

牽制の氷弾を散らすにとどめるジゼル。


だが、その一瞬の迷いを

ロドンは見逃さなかった。


「ふん……

 剣の中の精霊に気を取られているな?

 あまいぞジゼルッ!

 本気でかかって来ぬのなら、

 貴様もこの剣に取り込んでやる!!」


ロドンが咆哮し、魔剣を振り抜くと、

凄まじい爆炎の熱風が噴き出した。


今のロドンが振るうのは、

剣に封印された『炎夏』の爆炎の力——!


「くっ……! 氷華・絶対障壁!」


ジゼルが即座に極氷の盾を展開する。


ドォンッ!と激しい衝撃音が響き、

氷の盾が激しい熱気で瞬く間に溶かされていく!


「灼熱で溶かされたとて、

 水はそこに在ります……!

 再び凍らせ、貫くだけです!」


ジゼルは間一髪で後ろへ跳躍すると、

溶けた水滴を一瞬で鋭利な

極寒の氷針へと再結晶化させ、

ロドンの全方位へと連射した!


「ぬぅッ! 凍結魔法か……

 だが甘いッ!」


ロドンは魔剣から再び炎夏の熱量を爆発させ、

迫る氷針を一瞬で蒸発させる。


熱すると冷やし、凍らせると溶かす——


温度と属性が激しく目まぐるしく入れ替わる、

壮絶極まる超高次元の攻防!


かつて同じ「冬」の庇護下にいた二人が、

今や「夏」と「冬」の力を

ぶつけ合う最悪の相性相克バトル。


激しい氷炎の渦の中で、

ジゼルが叫んだ——!


「ニノ殿……ッ! 今です、

 ロドンのスキを突いて調律を……ッ!」


自分でコミカライズしますか。

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