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第90話 反撃開始(その2)


ノルドヴァルクの「冬の城」にて、

100体の氷ゴーレムが一瞬で蒸発し、

蒸気が晴れ渡った王座の間。


その中央で静止しているのは、

ニノ、照紅、ジゼルだけではない、

異端討伐のために同行していた

ザード、マリー、エルザ、

そしてグラッド王といった

主要人物たちもまた、置物のように

固まったままであった。


「……さて。

 主要人物を回収して

 ギルドへ運ぶとなると……

 馬車が数台必要だね」


レイスが呆れたように肩をすくめ、

静止した空間を見渡す。


「外の時間が動いていれば…

 だけど」


時空が完全に停止している以上、

馬も走らなければ車輪も回らない。


物理的な移動手段が

一切存在しないという難問に、

救出チームは頭を抱える。


その時であった。


「〜♪ おや、ここは時空魔法の

 影響が薄いみたいだねぇ〜」


静まり返ったギルド内へ、

パタパタと軽やかな足音を響かせて

一人の少女が平然と歩いて入ってきた。

一(にのまえ) 宵咲であった。


「よ、宵咲殿……っ!?」


カゲロウが目玉を

飛び出さんばかりに見開いて叫ぶ。


「な、なぜに動けるでござるか!?

 今更ながらでござるが、

 そもそもレイス殿もなぜ

 普通に動いているのでござるっ!?」


「なぜ動けるかなんて後回しだ!」


ギルド長オーウェンのダミ声で怒鳴る。


「動ける人間で、

 あのお嬢ちゃんの暴走を阻止するぜ!

 能書きは後だッ!」


「む、むう……ッ!」


カゲロウが唸る横で、

宵咲はお茶目に人差し指を

口元に当て、可憐に首を傾げた。


「ふふ、絶対に秘密じゃぞ?」


宵咲が静かに印を結ぶ。


「星脈連鎖——禁呪『空間転移』」


次の瞬間、

王座の間の一角の空間がぐにゃりと歪み、

「ノルドヴァルクの冬の城」と

「ゲートランドの冒険者ギルド本部」の空間が、

まるでドア一枚を挟んだかのように直接連結した。


通信の向こうで、

オーウェンがドタッ!!と

椅子から転げ落ちる音が響く。


「マ、マジか!?

 こっちのお嬢ちゃんも何者だよ……ッ!?

 ったく、この世の主役は

 少女ばっかりになったぜ。

 この後、嬢ちゃん達が

 大人になったらどうなっちまうんだ……」


「まあ、今はそのことは

 どうでもいいでござる!!」


さっきの仕返しとばかり、

カゲロウが食い気味にツッコミを入れ、

救出チームはすぐさま救出作業へと取りかかった。


繋がった空間の切れ目から、

止まったままの仲間たちを

次々とギルドの結界内へ運び込んでいく。


「ふんっ……!」


頼もしすぎる活躍を見せたのは、

竜族の魔法剣士ラトレアであった。

華奢な身体からは想像もつかない龍脈の腕力で、

ザード、マリー、グラッド王ら

大人4〜5人を軽々と

一度に担ぎ上げて運び込んでいく。


「た、頼もしすぎるでござる、

 ラトレア殿……!」


感動したカゲロウも負けじと、

近くにいたエルザを

お姫様抱っこで抱え上げた。


そのままギルドへと運ぼうとした

カゲロウだったが、ふと真顔で呟く。


「うん? 時間が止まっていても、

 体は柔らかいでござるな」


「……あー、セクハラですよ、

 カゲロウさん」


横を通り過ぎたレイスが、

淡々としたローテンションで

ジト目を向けた。


「違う! 断じて違うでござる!!」


「わかってます。黙ってますよ」


「違うって!!」


焦りまくるカゲロウの叫び声が響く中、

主要人物全員がギルド本部の

時空遮断結界の中へと運び込まれた。


——シュンッ。


結界の加護を受けた瞬間、

それまで凍りついていたニノたちの

「刻」が無事に再始動する。


「ハッ……! くっ……!?」


「あ……ニノ!?」


「な、なんだ……一体何が起きた……!?」


ニノ、照紅、そしてザードやエルザたちが

ハッと息を吹き返し、

荒い息を吐きながら立ち上がる。


その傍らで、冬の調律師ジゼルもまた、

ゆっくりと目を開けた。


「……ここは……?

 私は……一体……」


困惑した表情で周囲を見回すジゼル。

静止した城で意識を失っていた彼女には、

現在の状況が一切分かっていないのだ。


「精霊様は……?

 私はなぜ、あなた方と一緒に……?」


戸惑うジゼルに対し、

カゲロウとレイスが歩み寄った。


「落ち着いて聞いてほしいでござる、

 ジゼル殿」


カゲロウが経緯を、そしてレイスが

シルエッタとロドンの裏切り、

ロドンの大剣へ四大精霊すべてが

吸い込まれて封印された凄惨な事実を、

順を追って静かに、丁寧に説明した。


「……そんな……冬の精霊様が

 ……ロドンの大剣に……」

挿絵(By みてみん)

事実を理解したジゼルの顔から血の気が引き、

その美しい瞳から、涙が頬を伝って零れ落ちた。


だが、

彼女は取り乱して叫び散らすような

真似はしなかった。すっと深く息を吐き、

溢れ出そうとする感情を静かに押し殺すと、

凛とした佇まいのまま口を開いた。


「……冬の精霊様は、

 何も悪くありません」


その声は静かだが、

深く重い響きを帯びていた。


「あのお方は……何百年もの間、

 あの凍てつく城でたったお一人で、

 ずっと泣いておられました。

 人間たちの都合で迫害され、追い詰められ……

 それでも心の奥底では誰かを

 求めておられたのです。

 悪いのは、お優しい精霊様を

 そこまで追い詰めた……

 愚かな人間たちです」


静かに実情を明かすジゼル。


その瞳に宿る悲哀と深い愛に、

ニノはそっと温かな手を彼女の肩へ重ねた。


「……分かってるよ、ジゼル」


ニノはまっすぐな瞳でジゼルを見つめた。


「精霊様たちは負けてない。

 今ね、ロドンの剣の中で……

 春妃様も、炎夏様も、秋華様も、冬の精霊様も、

 4人で肩を寄せて手を繋いで待っててくれてるんだ。

 俺には聞こえるんだよ。

 ……俺は絶対に、冬の精霊様も含めて、

 全員を救い出す!」


「春の調律師殿……」


ニノの瞳に宿る純粋で熱い光に、

ジゼルは静かに目元を拭い、力強く頷いた。


「……精霊様をお救いするのなら、

 一時休戦もやむをえません。

 僭越ながら私の力をお役立てください」


「ああ! 頼むよ、ジゼル!」


固く結ばれた絆。


だがその直後、

ふと部屋の隅に目をやったニノがハッと我に返った。


ギルドの部屋の一角が歪み、

明らかに空間がノルドヴァルクの「冬の城」と

ダイレクトに繋がっている……!


ニノは救援チームの奥で涼しい顔をしている宵咲へと、

バッと指を突きつけた。


「……って、ちょっと待ってよ、

 ひぃおばあちゃん!

 禁呪『空間転移』ってどういうこと!?

 参陣奏環も力も、全部俺に渡して

 力を失ったんじゃなかったの!?」


ニノの必死のツッコミに、

宵咲はパタパタと可憐に手を振りながら、

お茶目に首を傾げて微笑む。


「……え? え?力?き、 消えたよ。

 『空間転移』もやってみたらできただけ。

 体が憶えてたのかねぇ?」


「全部嘘でしょ!?」


「あ、ばれた?」


宵咲のマイペースすぎるお茶目さに、

ニノがツッコミを入れる中、

ギルド長のオーウェンが

深く葉巻の紫煙を吐き出した。


「親子漫才はそこまでだ。ニノ。

 ……状況は一刻を争うぞ」


卓上に広げられた地図を囲むように、

レイスが静かに歩み出る。

冥界から世界を監視していたレイスの表情は、

いつになく冷徹であった。


「シルエッタとロドンは、

 すでに世界の中心……

 『ゲートランド大広場』に到着しているよ。

 探っていたけれど、奴らが今まさに進めている

 『全次元時間再展開』の儀式……

 その恐ろしい全貌が見えた」


「……何をするつもりじゃけぇ?」


照紅の問いに、

レイスは淡々と恐ろしい事実を語り始めた。


「まず、

 ロドンの大剣に封印された

 四大精霊の全魔力を触媒にして、

 時間停止下にいる世界中の人間、エルフ、魔族

 ……あらゆる生命の【精神】に強制的な

 広域催眠をかけている。

 今、時間を止められたままの人々が

 どうなっているか分かるかい?」


レイスの言葉に、全員が息を飲む。


「……世界中の人々が意識を失った人形のように、

 ぞろぞろと自分で歩き、

 このゲートランド大広場へと

 大集結させられているのさ」


すかさずオーウェンが、苦々しい顔で深く

葉巻の煙を吐き出しながら吐き捨てた。


「いいかお前ら、

 お嬢ちゃんに『星脈調律』なんて教えるから、

 こんな変な使い方覚えたんだぞ!」


オーウェンが硬い声で言葉を継いだ。


「お嬢ちゃんは、知識や意思を奪い、

 全人類を集めた状態で、順番に時間を動かす気だ。

 催眠にかかった素直な状態でシルエッタを

 『絶対の女王』として崇め、平伏する奴は、

 そのまま時間を動かして奴隷として生かしておく」


「じゃあ……反抗する人はどうなるの……?」


ラトレアの問いに、

レイスが冷ややかな笑みを浮かべた。


「簡単さ。

 少しでも反抗の意志を見せた者は

 催眠のまま繰り出され……自分の足で

 『サーマリアの鉱山』まで歩かされるのさ。

 そして正気を奪われたまま、

 力尽きて死ぬまで鉱山内で採掘させられ続ける」


「そんなこと……絶対にさせないッ!」


ニノは憤怒に肩を震わせると、

レイスの目を直視して身を乗り出した。


「具体的にどうすればいいんだ、

 レイス!? 相手は四大精霊の力を

 すべて奪った大剣を持ってるんだぞ!」


レイスはニノの必死の問いかけを受け止め、

不敵で頼もしい笑みを浮かべた。


「あの剣をロドンから奪えれば、

 僕が何とかできると思うよ。

 とにかく最優先は、奴らの儀式が

 完了する前にロドンを抑え込み、

 あの魔剣を僕らの手へ奪い取ることだね」


明確な攻略目標が示され、

ニノの胸の中に迷いのない闘志が漲る。


「よし……! やることは決まった!

 奴らの儀式を止めてロドンから剣を奪い、

 精霊様たちも、世界の人たちも全員助け出すぞ!!」


「「「おうッ!!!!」」」


ニノの叫びに、

照紅、ジゼル、ラトレア、カゲロウ、

そしてレイスたちが一斉に拳を突き上げる。


時空が停止した静寂の世界。


明確な勝利の筋道を掲げ、

世界の中心ゲートランド大広場へ向け、

英雄たちがついに

反撃ののろしを上げるのだった——!


少し前からAIイラストをやってます。

「niji journey」というAIソフトを使ってますが、

叡智な画像はほぼ作れません。

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