↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
87/94

第87話 冬の精霊との戦い


先行したルシード率いる数万の冬の大軍勢が、

ゲートランド城門前にて一(にのまえ) 良尽の手によって

一瞬にして全滅したという驚愕の念話報告が

スノーフレイクへもたらされた。


「あのお方は、それほど強い方だったのか」


グラッドが感心する。


「そうそう!

 良尽ちゃんはものすごく強かったよ!☆」


3000年前の大戦で「一番(にのまえばん)」番頭として、

兼、春の星脈調律師として一緒に戦ったコハルは

自分のことのように嬉しそうだ。


とにかく、背後の憂いが完全に消え去った

三季連合軍は、そのまま一気に敵の本陣、

——冬の領域の最深部へと進軍を開始したのだった。





決戦の地、

北極星都ノルドヴァルクに鎮座する「冬の城」


雪原に聳え立つ巨大な

氷の城郭へと足を踏み入れた

三季連合軍だったが、

一行を待ち受けていたのは激しい迎撃でも、

立ち塞がる魔獣の群れでもなかった。


……待っていたのは静寂であった。


広大な城門、果てしなく続く氷の回廊、

絢爛たる氷結晶の柱が立ち並ぶ大広間。


そのどこを見渡しても、

兵の一人、魔獣の一匹すら存在しない。


この「冬の城」には、

端から雑兵の一人すら

配置されていなかったのだ。


足音だけが空虚に響き渡る不気味な静寂の中、

一行はついに城の最奥——

極寒の気が渦巻く巨大な扉の前に辿り着く。


巨大な氷の扉が重々しい音を立てて開く。


そこに広がるのは、

あらゆる生命の存在を拒絶するかのような、

絶対零度の冷気が支配する玉座の間であった。


最奥の玉座に深く腰掛け、

氷結晶のように煌めく銀白の長髪を

悠然と揺らす者——『冬の精霊』


探るような冷ややかな眼光で

無言のまま三季連合軍を見下ろす少女

——冬の星脈調律師『ジゼル』


広大な謁見の間に足を踏み入れた

三精霊とニノたちを見下ろし、

玉座の冬の精霊が、

豊かな長髪をかき上げながら

冷徹な声を響かせた。


「まずは、私の暇つぶしの余興に

 今までお付き合いいただき、

 感謝いたします。三精霊様」


炎夏と秋華の眉が激しく跳ね上がる。


「あなた様方が眠りについていた3000年の間、

 力の差はあまりにも広がりすぎました。

 どうでしょう?提案ですが、

 私の四天王になりなさい。

 さすれば、そこにいる有象無象の命も含め、

 全て助けて差し上げます」

挿絵(By みてみん)

「やかましいわっ!!!!」


静寂を叩き割るような炎夏の怒号!


炎夏は全身から怒涛の紅蓮の炎を爆発させると、

床の氷を砕いて先陣を切った!


「行きますわよぉ!炎夏様!」


その横を併走するのはシルエッタだ。

彼女は慈愛に満ちた笑みをたたえながら、

膨大な魔力を惜しみなく炎夏へと連続供給する!


「食らい込めぇぇぇッ!

 爆熱・夏陣烈火斬ッ!!」


第一撃!

炎夏の極大の炎が冬の精霊へ肉薄する!


その背後から間髪入れずに飛び出したのは、

秋華と照紅の二人!


「合わせるけぇ!秋華様ッ!」


「秋の静寂を知りなさい! 絢爛秋華舞ッ!」


第二撃! 鋭利な秋の落ち葉とキセルの調律波が、

重なるように追撃する!


鋭く放たれる連続攻撃に対し、

ジゼルは無言のまま手元で星脈を紡ぎ、

冬の精霊とともに重厚な防壁を展開する。


『冬の結界奥義——絶対凍結層』


空間そのものを完全なる氷の壁へと

変貌させる絶対の防壁。


二精霊の猛攻が結界に阻まれ、

火花と氷屑を激しく撒き散らす!


だが——そこへ飛び出したコハルと

ニノの目が鋭く光った!


「ニノ! 魔力供給、頼むよ☆」


「ああ! いくぞ、コハルッ!!」


ニノの手から解き放たれた

莫大な星脈の魔力がコハルへと流れ込み、

春の精霊の光が爆発的に跳ね上がる!


「みんな、いくよ!

 春華繚乱・爛漫斬ッ!!」


ニノの強力な後押しを受けたコハルの第三撃が、

結界へと真っ直ぐ叩き込まれる!


——その衝撃の隙を逃さず、

ニノが直後に手先を突き出した!


「そこだぁぁぁッ!!

 参陣奏環——『無』ッ!!!!」


ニノが放った「無」の権能が、

冬の結界奥義の極限の密度を誇る構造の一点を、

文字通り「無」へと書き換えた!


パキンッ! と結界の一部に小さな穴が穿たれる!


「今やッ!!」


「お二人とも

 合わせてくださいッ!!」


「いっけぇぇぇぇッ!!☆」


その一瞬の隙を見逃さず、

三精霊の全魔力を込めた合体ユニゾン攻撃が

穴を穿ち、結界を突き破って直撃した!



ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!



凄まじい衝撃波が「冬の城」を揺らす。


爆煙と氷煙が舞い散る中、


そこには——右肩の衣を切り裂かれ、

微かな傷口から血を覗かせた

冬の精霊が立っていた。


「やった……!? 傷を負わせたぞ!」


「このまま一気に封印するんじゃッ!!」


勝利を確信し、畳み掛けようとする連合軍。


……しかし。


「見事です。ただ——

 少し本気を見せて差し上げましょう」


刹那。


ドオォォォォォォォォォンッ……!!!!



次元が違う。

圧倒的という言葉すら生ぬるい、

絶対的な死と凍結の圧力が解放された。


冬の精霊とジゼルが放った真の「本気」——

指先をただ一振りしただけで、

三精霊の封印魔術は粉々に砕け散り、

吹雪の暴風が全方向から連合軍を打ちのめす!


「がはっ……!?」


「きゃあぁぁぁッ!」


炎夏が吹き飛び、秋華が膝を折り、

コハルはニノとともに壁へと

激しく吹き飛ばされ激突する。


グラッド王も、兵たちも

たった一撃で全員が床に伏し、

圧倒的な力の差の前に絶望的に叩きのめされた。


「くっ……ガハッ……!

 まだだ……なんとか……糸口を……ッ!」


ニノが倒れ伏しながらも

必死に手を伸ばそうとした、

その時であった。


「ふふふ……あのぉ~?

 もうそろそろ、

 本当の茶番は終わっていいですかぁ〜?」


静まり返った玉座の間に、朗らかで不気味な声が響く。

静かに立ち上がったシルエッタが両手を広げた。


「では、皆様ぁ!よいお年を〜!」


パチン。


シルエッタが指を鳴らした瞬間、

世界の「時間」が完璧に停止した。


吹き荒れていた猛吹雪も、

散る氷屑も、倒れるニノたちの苦悶の表情も、

全てが寸分違わず静止した「時間の止まった」世界。


その絶対の静寂の中、

ゆっくりと足音を響かせて

歩み寄る男がいた。


影の中に姿を忍ばせたカゲロウと、

シルエッタの横に当たり前のように従うロドンであった。


「さぁ……

 世界から『災厄』を排除し、

 永遠の平穏を創りましょうかぁ」


シルエッタが愛くるしく指を差した先——

そこには、絶対零度の冷気を纏いながら

驚愕の表情で静止している

『冬の精霊』の姿があった。


「ロドンさん」


「御意……」


ロドンが腰の鞘から禍々しい魔剣を引き抜く。


刀身に刻まれた紫の紋様が、

獲物を前にして狂おしく脈打ち、

不吉な燐光を放ち始めた。


ロドンは一切の躊躇なく歩み寄り、

時間が止まり身構えることすら許されない

冬の精霊の胸郭へ——深々と魔剣を突き立てた!


ズスゥゥゥゥッ……!!


肉を裂き、骨を砕く生々しい感触。


時間が止まっているため、

冬の精霊は悲鳴をあげることすらできない。


ロドンが冷徹に古呪文を唱えると、

魔剣の紋様が血のごとく赤紫に発光した。


ゴオォォォォォォォ……ッ!!


冬の精霊の胸の傷口から、

蒼銀の光の粒子が暴風となって吹き出す!


三千年の歴史を誇る絶対の魔力、

存在の根源そのものが、

ズルズルと魔剣の刀身へと吸い上げられていく。

絶大な精霊の輪郭がみるみる薄くなり、

最後は蒼い光の残滓だけを残して、

跡形もなく消滅した。


「ふふ……

 あんなに威張っていた冬の精霊様も、

 剣の中に入ればただの魔力源ですねぇ」


シルエッタはうっとりと頬に手を当てると、

可憐にくるりと一回転してみせた。


そしてその殺意に満ちた視線を、

倒れ伏したまま静止している

三季連合軍の精霊たちへと向ける。


「次は……ふふ、炎夏様ですねぇ」


倒れた炎夏の目の前へと歩み寄るシルエッタ。

屈み込み、静止した炎夏の顔を覗き込むと、

その頬を優しく撫でるように指先でなぞった。


「本当にわがままなんですよねぇ、この方。

 ……私をさんざんコキ使っていただき、

 本当にありがとうございましたぁ〜。

 ……ロドンさん、

 たっぷりお返しをして差し上げてください」


「御意」


ドスッ……!!


容赦なく炎夏の胸元へ突き刺さる魔剣!

紅蓮の炎が狂ったように魔剣へ吸い込まれ、

炎夏の姿が消え去る。


「シルエッタ様、二人目完了です」


「はぁい。では三人目は……秋華様ですかねぇ」


秋華の前へと移動したシルエッタは、

くすくすと鈴を転がすような声で笑った。


「秋華様には本当に

 何もしがらみはないんですがぁ。

 あえて言うなら精霊だからですかねぇw……

 いっちゃってください、ロドンさん」


ズザァッ……!


秋の静寂を象徴する黄金の魔力が、

根こそぎ奪われ消滅する。


「(や……やめるでござる……!

 やめてくれぇぇぇッ!!)」


影の中からその惨劇を目撃しているカゲロウは、

歯が砕け散るほど強く噛み締め、

爪が掌に食い込むほど拳を握りしめていた。


声を出せば己も殺される。

だが、目の前で仲間たちが、

世界を支える精霊たちが、

虫ケラのように次々と消されていく。

血の涙が忍びの頬を濡らす。


「さて……最後は……そうねぇ。

 イラつくほど

 いちゃいちゃしてたコハル様かしら?」


シルエッタは舌をペロッと可愛らしく出すと、

ニノの隣で壁に激突し

静止しているコハルへと向かって、

ゆっくりと優雅に歩み寄った。


「ニノさんの前で、

 貴女がどんな顔をして消えていくのか……

 本当は動く時間の中で見せて

 差し上げたいくらいですけれどぉ」


シルエッタの冷酷な合図とともに、

ロドンが魔剣を上段へと振りかぶる。


「……永遠にお眠りなさーい」


ドスッ……!!!!


コハルの胸元へ深々と突き刺さる刃。

春の温かな桃色の光が、

コハルの絶望に満ちた瞳の光とともに、

根こそぎ魔剣の中へと吸い上げられていく——。


「ついに、全精霊を封印できましたぁ。

 これでおバカな者たちに振り回される

 世界はなくなったのですぅ」


四大精霊すべての力を得て、

禍々しく狂暴なオーラを放つ魔剣を眺めながら、

シルエッタは心底満足そうに微笑んだ。


「(拙者一人の力では、

 今この二人を倒すことは叶わぬ……!

 だが、生きて繋がねば……

 未来そのものが消えるッ!)」


カゲロウは己の無力さに血を吐く思いで涙を呑み、

固まったニノの姿を目に焼き付けると、

忍びの執念とともに深く静かな影の中へと姿を消した——。


「(ニノ殿、また逃げる

 拙者をお許しくだされ!)」


シルエッタの時空魔法がカゲロウに通じないのは、

真実の泉でのサウナテントの話をお読みください。

さあ、読み返してください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。