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第83話 決戦前夜


ロードランド大陸の最北端に位置する都市

『北極星都ノルドヴァルク』


常人ならば立ち入ることすら

叶わぬ極冷の吹雪が吹き荒れる極北の地に、

冬の精霊が鎮座する『冬の城』は存在していた。


見上げるほどに高い氷の天井と、

蒼白く凍てついた列柱。


その中央に据えられた氷結晶の玉座に、

虚ろで底知れぬ圧迫感を纏った冬の精霊が、

静かに腰を下ろしている。


「……ついに3精霊が全て揃いましたね。

 3000年前と同じ状況になりました」


冬の精霊の感情のない、

冷徹な声が謁見の間に響く。


その視線の先には、

崩壊した『偽りの箱庭』の残骸と、

人間界へと繋がる空間の亀裂が

映し出されていた。


「こんなにも使えない部下を持つと、

 あきれて何も言うことがありませんね、

 ジゼル?」


冬の精霊が問いかけると、

玉座の脇に落ちる暗い影の中から、

一人の人物が静かに姿を現した。


かつてニノたちの前で

「冬の四天王」を名乗っていた男——

だがその瞳に宿る魔力の奔流は、

これまでの幹部たちとは一線を画していた。


「四天王ジゼル……いえ、

 『冬の星脈調律師』ジゼルよ。

 二魔皇に指示を。これ以上は、

 私も見逃せませんと伝えなさい」


「……はっ。冬の精霊様の

 ご意向のままに」


ジゼルは深く頭を下げると、

不敵な笑みを浮かべながら

闇の中へと姿を消した。


四天王の上を行く絶対なる脅威、

超チート存在『二魔皇』が、

ついに動き出そうとしていた。





一方、次元の狭間を切り裂き、

人間界の重要拠点である

ゲートランド城へと無事帰還を

果たしたニノたち三季連合軍。


冬の軍勢との全面戦争における重要な

「開戦宣言」を明日に控え、

今夜のゲートランド城では、

グラッド王の主催により、

見事に復活を遂げた三精霊様——

コハル、炎夏、秋華を迎え入れるための

壮大な祝典が催されていた。


城の最上階にあるバルコニー。


そこからは、下界の広場に集まった

何万もの兵士や民たちが一堂に会する、

荘厳で格式高い式典の様子が一望できた。


「ふふ、実に整然とした見事な式典ですわね。

 人間たちの意気が伝わってまいりますわ。

 そう思わなくて? 照紅?」


秋華は優雅に扇子をあおぎ、

平安貴族のような淑やかな笑みを浮かべながら

隣の照紅へ問いかけた。


「えっと……ウチ、

 格式張った行事は

 昔から苦手じゃけぇ……」


広島弁で力なく肩を落とす照紅。


「ダメですよ、照紅師匠。

 秋の組織にとって、

 式典は日常茶飯事ですよ?」


とアキちゃんが注意する。


「マジかっ!?」


アキちゃんのあっさりとした一言に、

照紅は目を丸くして戦慄した。


「(……ぶちヤバいじゃろそれ!

 この戦いが終わったら、

 日本に置いてきた紅葉か秋丸に

 無理やり代わるっ……!)」


心の中で固く固く誓う照紅であった。


しかし、そのお隣では——。


「え……待って、マジで高っ!?

 てゆーか、こんな高いところから

 大勢を見下ろす体制とか、

 超緊張するんだけど……ッ!」


春の精霊コハルが、

手すりをギュッと握り締めながら、

ソワソワと体を揺らしていた!


思念体として過ごしていた期間が長すぎたため、

人間(ニノ)と同じ目線で

生活することに慣れきってしまい、

精霊として崇め奉られる高い立ち位置に

まったく慣れていなかったのだ。


「大丈夫か、コハル……?

 顔色、少し青いぞ?」


「ニノ〜〜ッ! 助けてマジ無理!

 精霊なのに緊張で

 胃が痛いって感じ〜〜ッ!」


情けない声を上げるコハルに

ニノとエルザ、カゲロウが苦笑いしていると、

その横から猛然と前へ躍り出る影があった。


灼熱の炎を全身から揺らめかせた、

夏の精霊・炎夏である!


「……あーっ!!

 もう我慢の限界やッ!!」


炎夏は豪快に額の汗を拭うと、

壇上のマイク(拡声魔導具)をひっ掴み、

城内と広場全体に響き渡る大音量で叫び散らした!


「ええかお前ら!

 明日から戦争やぞッ!!

 なにちんたら格式ばった

 挨拶聞いて身構えてんねん!?

 堅苦しい式典なんかクソくらえや!!」


「「「えっ!?」」」


静まり返っていた式典会場がざわめく。

しかし、炎夏はニカッと不敵な八重歯を見せ、

拳を空へと突き上げた!


「宴や宴ッ!! 皆の者、

 明日生き残るために

 今夜は好きなもん飲んで、食って、

 叫べぇぇぇぇッ!!」


「ウォーッ!!!!!

 精霊様万歳ッ!! 宴だぁぁぁッ!!」


炎夏の一言で、荘厳だった式典の空気は

一瞬にして爆発的な大宴会へと変貌した。


近衛兵も一般兵も庶民も関係なく

酒瓶を掲げ、豪快な歓声が夜空を突き破る!


「あはは! 炎夏様、最高〜!☆

 やっぱりこうじゃなくっちゃね!」


緊張が一瞬で吹き飛んだ

コハルが爆笑する傍らでは、

すでに巨大な骨付き肉に

かぶりついていたザードが


「だよな! さすが炎夏様は

 分かっておられる!」


と、肉を丸呑みにしていた。


マリーは少し驚いたように、

「炎夏様は相変わらず豪快ね」と微笑む。


レイスは

「秋の精霊様と夏の精霊様の性格は正反対だね。

 すごく面白いよ」と楽しそうに見つめていた。


シルエッタは

「またまたやっちゃいましたぁ♪」と

主の言動を反省(?)し、

ナツちゃんとロドンは、

「(さすが我が主。格が違いすぎる)」と

炎夏に深い敬意を表していた。


そして、

本来であれば式典を厳かに進行させるはずだった

最高責任者であるグラッド王はというと——。


「……む? 今、雨漏りしなかったか?

 むむ、確かしたと思うぞ……

 あれ? こっちからかな?」


グラッド王は完全に天井を見上げたまま、

精霊様の暴走と会場の大惨状を

「一切見ていないフリ」をしながら、

「こっちかな?」とどこかに

歩いて行ってしまうのだった。


「グラッドの奴、そりゃ逃げるよな……」


ニノが呆れつつも笑みをこぼす。






静かな風が通り抜ける、

月明かりの渡り廊下。


大賑わいの宴会場を

そっと抜け出したニノは、

手すりに身を預け、

夜空に浮かぶ丸い月を見上げていた。


「ふぅ〜☆ ニノも宴会、

 逃げ出してきた感じ〜?」


パタパタと可憐な足音を立てて

現れたのは、コハルだった。


昼間の「春の精霊・春妃」としての

気高く凛とした雰囲気は綺麗に消え去り、

二人でこの地に来たあの頃と変わらない、

甘く柔らかい「コハル」の表情で

ニノの隣に並んで腰掛ける。


「コハル……うん。

 みんなのテンションが高すぎて、

 ちょっと頭を冷やそうと思ってさ」


「あはは、わかるー!

 ザードさんとか一気飲みしすぎて

 豪快に暴れてたもんね☆」


ふたりで顔を見合わせて、

くすくすと笑い合う。


やがて、風がやみ、

静寂が二人の間を包み込んだ。


月光に照らされるコハルの金髪と、

透き通るような肌。


どこか緊張した面持ちで、

コハルは自身の袖口を

もじもじと弄っていたが、

やがて意を決したように、

上目遣いでニノの瞳をまっすぐに見つめた。


「あのさ……ニノ」


「ん? なに?」


「……この間は助けてくれてありがとう、ニノ。

 で、でさ?

 ベッドで抱きついてきたじゃん?

 それってやっぱり、そういう意味?

 …みたいな?」

挿絵(By みてみん)

「ーーーーーーーーーッ!??!?」


上気した頬と、

照れくさそうに指先を絡める仕草。


心臓を直接握り潰されたかのような

激しい動悸に、ニノはゆでダコのように

顔を真っ赤にして跳ね上がった。


「えっ……あ! いやっ! あれはっ!!

 その、コハルが無事で本当に嬉しくて、

 感極まったというか何というかッ!

 嫌だった!? 嫌だったよねごめんッ!!」


「嫌だなんて言ってないし……!

 むしろ、

 ニノがどう思ってるのかなーって……」


コハルが恥ずかしそうに視線を泳がせ、

そっとニノの手に自分の手のひらを重ねようとする。


まさに、息が止まるほどの甘い雰囲気が

最高潮に達した、その瞬間——。


(ササッ……)

(ゴクッ……)


背後の植え込みと壁の影から、

隠しきれていない異様な

息遣いが漏れ聞こえた。


「……ねぇ、ニノ。なんか気配しない?」


「……うん。すごく嫌な予感がする」


ニノとコハルが引きつった顔で

じとーっと影を振り返ると——。


そこには、エルザ、カゲロウ、照紅たち

メンバー全員が、鈴なりになって

壁から顔を覗かせていた。


全員が目をギリギリまで見開き、

息を殺して二人を注視している。


「(静かに……!

 ニノ殿の男の見せ場でござる……!)」


「(ええぞコハル! 押し切るんじゃ!)」


「(ちょっと、頭が大きいから見えないじゃない!

 ザード、引っこ込んでなさいよっ!)」


「(コハル!行ってまえ、

 そのまま行ってまえ!!)」


「(そこは、大調律師様がリードせねば)」





「「ぜ、全員で見てたんかいッーーーーー!!」」


渡り廊下に、

ニノとコハルの赤面1000%な怒号と、

全員の爆笑が夜空高く響き渡ったのだった。







宴の熱気が多少冷めた中、

城の作戦室には、

ニノ、エルザ、コハル、カゲロウ、

炎夏、秋華、ノホホンブレイクの面々、

近衛騎士団長アルバド

そして国王グラッドがいた。


「(また呼ばれたが「なんで俺が?感」が

 もう耐えられない!

 次からは仮病で欠席する!)」


と、近衛騎士団長アルバドが

泣きそうになっているのを

誰も気付いてない。


ニノとコハルはまだ若干

顔が赤いしモジモジしている。

こっちは全員がガン見だ。


そんな中、作戦会議が始まった。


魔法で映し出されたのは、

冬の軍勢に侵蝕された世界の大陸図。


大陸の北半分は完全に絶対零度の氷に覆われ、

地獄のような白銀の世界と化している。


「冬の軍が支配しているのは大陸の北半分。

 そこには20以上の砦が存在し、

 10以上の居城が存在します。

 さらにそれらを統括する

 2つの巨大な『旗艦城』が存在します」


エルザが真剣な表情で指示棒を指し示す。


「そして……我々が最初に狙うべきは、

 ここ。1番南に位置する第一の旗艦城、

 『南氷監獄城ヴァルゼク』です」


「監獄城……?」


ニノが呟くと、

グラッドが表情を引き締めた。


「そうだ! ヴァルゼクには、

 冬の侵略に抗って捕らわれた私たちの同胞……

 たくさんの仲間たちが収監されてる!」


「……なるほど。

 ただ城を落とすだけじゃない。

 そこに捕らわれている仲間たちを解放し、

 共に立ち上がるための救出作戦でもあるんだな!」


ニノの瞳に強い決意の炎が宿る。


「せや!」と炎夏が力強く胸を叩いた。


「同胞を救い出せば、

 うちらの戦力は一気に跳ね上がる!

 奴らの拠点を潰して仲間を取り戻す、

 一石二鳥の殴り込みや!」


すると、暗がりからカゲロウが腕を

組みながら重々しく足踏みを踏み出した。


「だが気をつけねばならぬぞ。

 第一の旗艦城を守るのは、

 冬の四天王の上を行く超チート存在……

 二魔皇が一人『絶対零層のイグニス』でござる」


「イグニス……」


「奴のチートスキルは『全知の氷眼(ラプラスアイ)』

 単なる未来予知にとどまらず、

 相手のあらゆる動作だけでなく

 『思考』までも完璧に予知する。

 つまり、こちらの戦略も次の攻撃も、

 最初から全てお見通しってわけでござる」


カゲロウの解説に、

作戦室の空気が一気に張り詰める。


思考まで読まれた上で先回りされる恐怖。


生半可な奇策や連携すらも

事前に見透かされて

ハメ殺される凶悪なチート能力だ。


しかし、

ニノは静かに拳を固く握り締め、

不敵に口端を上げた。


「思考すらも見抜く未来予知か……。

 でも、俺たちが土壇場で交わす仲間との信頼と、

 その瞬間に生まれる『予測不能な絆の力』まで

 見抜けると思うなよ。どんなチートだろうと、

 全員で突破してみせる!」


「マジそれな!

 ニノならサクッと攻略しちゃうっしょ!☆」


コハルがニノの肩をポンと叩き、

眩しいギャルスマイルを向けた。

そしてまたモジモジする二人。

あまりに眩しすぎて見てられない。




作戦室の外からは、

まだ宴の最中で明日への闘志を

燃やす兵士たちの猛々しい歓声が響いてくる。


同胞を救い出し、失われた大陸の半分を

取り戻すための壮大な奪還戦が、

今まさに始まろうとしていた。


「明日の『開戦宣言』の後の最初の標的は、

 第一の旗艦城『南氷監獄城ヴァルゼク』とする!」


グラッドが力強く叫び、

作戦室の全員が深く頷く。


「「「おうっっ!!!!!」」」


三精霊と人々の意思の光が一つに重なり、

開戦前夜は熱狂とともに更けていくのだった。


こういう展開をもっと序盤に持ってこないとですか。

次回作

『ケモ耳メイドの冥土のお土産は「Made in 毎度町です♪」』

に生かします(嘘)

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