決戦!王城大廊下ですが、何か?
大廊下の最奥 ――
『王の間』の巨大な扉を爆破して姿を現したのは、
この国の最高戦力とされる四人の皇太子たちだった。
先頭の三人が、まるで歌舞伎の役者のように大仰なポーズを決めて、
一人ずつ禍々しいチート魔力属性とともに名乗りを上げていく。
「我が名は第一皇太子フレア!
すべてを焼き尽くす絶対火属性の支配者なり!」
「我が名は第二皇太子アクア!
あらゆる命を呑み込む絶対水属性の体現者なり!」
「我が名は第三皇太子ゼファー!
天をも引き裂く絶対風属性の絶対者なり!」
赤、青、緑のオーラを放つ三人が「家畜どもめ!」とイキり散らす中、
最後尾から漆黒の土属性を纏った四男――グラッドが、
腕を組んだまま冷ややかな視線を俺たちへ向けていた。
「(……チッ、何だあの女は。さっきの絶対魔法防御を
『概念ごと』すり潰したログは私の目でも確認している。
……ハッキリ言って、あの女とだけは戦いたくない。
割に合わなすぎる。あれの相手など、兄上たちは馬鹿か?)」
グラッドがボソリと至極まともな心情を漏らす。
――その時だった。
風に煽られた近衛兵の包囲網から、一枚の紙の束が剥がれ、
グラッドの足元へとひらりと舞い落ちた。
それは、一般兵たちが掲げていた
『冬の精霊との売国契約書』の写しだった。
グラッドはローファーのつま先にかかったその紙を、
冷徹な目で一瞥する。だが、その優秀な脳内パラメーターが
記載された文字をスキャンした瞬間、
彼の眉間がピキリと不快そうに跳ね上がった。
「(……この契約内容……まさか父上や兄上たちは、
このゲートランドの全国民の魔力、
いや、王国そのものを冬の精霊に切り売りする代わりに、
自分たちだけ延命していたというのか……!?)」
・・・・・・
「一族の保身のために国を売り飛ばすことなど、あってはならぬ!!」
グラッドの脳内で激しい怒りと嫌悪のエラーログが走り抜ける。
そんな四男の心境など露知らず、
長男フレアがアクアとゼファーに叫ぶ。
「愚民どもに手加減などいらぬ! 最終奥義で葬るぞ!!」
「承知!」
脳筋の三王子はさらに魔力を膨らませ、
一斉に固有のチート複合必殺技を展開した。
「まとめて塵と化せ! 三属性複合極大魔法――
『焦熱濁流真空波』!!」
フレアの炎、アクアの水、ゼファーの風が完全に同期し、
巨大な竜巻が発生し、大廊下を物質ごと消滅させる勢いで押し寄せる。
駆けつけた数万の近衛兵や領民の大群がその圧倒的な魔力に怯み、
あまりの次元の違いに誰も歯が立たない――
そう誰もが絶命を覚悟した、その時だった。
あまりの熱量と暴風に視界が真っ白に染まる中、
俺の脳内回線に、強烈なノイズとともに『未知の信号』が
直接インジェクション(挿入)されてきた。
『――リョウタ……イメージしてごらん』
「なっ……!? ルナ? ルナか!?」
脳内に直接響くテレパシーの質感。
一瞬、いつも罵詈雑言を直接脳内回線にジャックしてくるルナかと思った。
だが、違う。
声のトーンこそルナの回線を混線させたように似て聞こえるが、
その響きはあまりにも冷徹で、
世界のシステムそのものが語りかけてくるかのようで――。
『火も水も風も……あなたの調律で、
いくらでも絶対魔力量を調整することが出来るんだよ。
……いいかい、火も水も風も強くない。
それらはすべて、本来はとても弱いものなんだ。』
「本来は……弱い……?」
その瞬間、俺の胸の奥――あの森の中で、
コハルに魔力を根こそぎ持っていかれた時と同じ
『星脈調律師の血が眠る心臓のあたり』が、ドクンと熱く脈打った。
視界が暗転するほどの魔力の中、
まるで世界のシステムにその軌道を固定されたかのように、
俺の右手の人差し指は吸い寄せられるように天を指し示していた。
謎の声に導かれるまま、俺の中で眠っていた能力――
『星脈調律』が、
自発的な意志を超えて強制起動する。
「キィィィィィィィィンッッッ!!!!!」
俺の手のひらから放たれた目に見えない調律の波動が、
この星の概念を書き換える。
同時に押し寄せる絶対魔法の『パラメータ』を根本から書き換えていく。
脳内のイメージ通りに、世界を焼き尽くすはずだった火と水と風が絡み合った
巨大な竜巻は、エネルギーを急速に失い、吸い込まれるように、
みるみるうちに小さい竜巻へと縮小していった。
あまりの出力低下に三王子が呆然とする中、
その縮小していく竜巻を見たカゲロウの目が、怪しく見開かれた。
「……ほう? あの凝縮された絶妙な熱気、
極上の水分量……ではっ!!!!!」
彼は叫ぶと同時に
「サウナ忍法・瞬衣脱衣の術!」と唱え、
バサァッッ!!! と残像が残るほどの神速ステップで忍装束をすべて脱ぎ捨て、
一瞬で完全な全裸になった。
『こら! クソ全裸!! 待てっっ!! おいっっ!!』
というルナのツッコミなど耳に入らぬとばかりに、
カゲロウは全裸のまま大ジャンプ。
小さく縮んだ三属性の竜巻の中心へと自ら飛び込んでいく。
フレアの炎熱をロウリュ(蒸気)として浴び、
アクアの濁流を水風呂として潜り、
ゼファーの熱風を全身で受信する。
カゲロウが竜巻を纏い、バク転やブレイクダンスムーブを交えた
謎の『全裸フォーメーション』で文字通り堪能し尽くした、
その瞬間。
「ふぅ……最高に整ったでござる!」
カゲロウが極上のキメ顔で息を吐き出すと同時に、
その小さな竜巻は、彼の放つ圧倒的な『整いオーラ』と
全裸の肉体によって完全に掻き消されてしまった。
自分たちの誇る最終奥義複合魔法をSサイズに縮められた挙げ句、
全裸の男のスパライフの燃料として消滅させられた三王子は、
「!!!???」とパニックを起こして硬直する。
『ワーーーーー!!!!』
カゲロウの後ろの群衆から歓喜の叫びが沸き起こる。
誰もが「何が起こったかわからない」が、
とにかくあの忍者がチート三王子の魔法をかき消したのだ。
『いいぞ! 忍者の旦那!!!』
『このまま攻めるぞ!!』
俄然勢いづく近衛兵と国民たち。
ただ、彼の全裸に関しては誰も語ろうとはしなかった。
『(あのこと(全裸)に触れたら負けだ)』という空気が流れる。
「ニノ殿、コハル様、なぜかはわかりませんが、
敵は混乱している様子! ここはチャンスです!」
エルザが三王子に斬りかかろうと剣を構えるが、
それを制するように彼らの背後、冷徹に戦況を見つめていた
四男グラッドが、静かに一歩前に出た。
「そこまでだ、兄上たち。……いや、一族の恥晒しども」
「なっ……グラッド!? 貴様、何を――」
「言ったはずだ。
一族の保身のために国を売り飛ばすことなど、あってはならぬと。
……これより王族の恥は、私の手で粛清する。
近衛兵諸君! これ以上の無駄な戦闘は不要だ、武器を収めよ!」
グラッドの堂々たる無血開城の宣言に、
廊下を埋め尽くす近衛兵たちが一斉にどよめき、武器を引く。
完全に孤立し、味方を失った脳筋の三王子が
「グラッド!! てめええええ!!」と狂ったように絶叫し、
最後の悪あがきとばかりに、残った全魔力を暴走させて、
俺とコハルに向けて魔法を放とうとする。
「お前たちさえ葬れば、冬の精霊様がまた……っ!」
激昂して突っ込んでくる三王子を前に、
俺の隣で、コハルがフッといつも通りの、
だけどどこか冷徹な笑みを浮かべた。
「ウチらの道を塞ぐ奴らは、
全員まとめて強制終了っしょ☆ ……
ニノ、充電よろしく!」
「おう毎度! 好きなだけ持っていけ!!」
コハルが俺の腕をぎゅっと掴む。
ドクン、と心臓の奥の『星脈調律師』の血が呼応し、
俺の体から無限のエネルギーがコハルへチャージされる。
コハルが両手を掲げ、その指先へ、
世界のルール(仕様)を書き換える純白の極大魔力が一点に収束していく。
眩い閃光が、薄暗い大廊下を昼間のように照らし出した。
「ハァー……マジお前らオワコン。
ウチらの絆の出力に、ついてこれるわけないじゃん?☆」
「消し飛べぇぇぇぇぇ!!!!!」
俺の叫びと同時に、コハルから放たれた純白 of デリート光線が、
大廊下を真っ二つに引き裂きながら撃ち放たれた!
かつてあの森の中で蜘蛛の魔獣を秒殺した、あの世界の枠外にある絶対消滅の光。
ドガァァァァァァァァンッッッ!!!!!
凄まじい閃光と高周波の電子音が大廊下を支配する。
だが、その光線は三兄弟が纏っていた『絶対焦熱』『絶対濁流』『絶対烈風』の
禍々しい魔力鎧――冬の精霊から与えられていたチートな加護だけを、
概念ごと粉々にすり潰して強制終了させたのだ。
「ぎゃあああああああああああ!!!!?」
無敵の鎧と体内の魔力炉を文字通り根こそぎ『消去』され、
その凄まじいエネルギー反動の衝撃波をモロに浴びた三兄弟は、
後ろの壁へと叩きつけられ、そのまま白目を剥いて完全に沈黙した。
あまりの威力の凄まじさに、廊下の床には一直線に深い溝が刻まれ、
触れれば消滅するほどの純白の粒子が美しく舞い散っている。
一瞬の静寂。
光の粒子がハラハラと舞い降りる大廊下で、
誰からともなく、ぽつり、ぽつりとその場に跪き始めた。
「おお……おおお……! これぞ、
世界を浄化する真の神威……!」
数万の一般兵、そして窓の外の領民たちが、
一斉に床にひざまずき、胸の前で手を組んでいく。
大廊下を埋め尽くす群衆の祈りの視線は、
俺の隣で無邪気にピースしている金髪ミニスカギャル
――『光の女神様』へと捧げられていた。
「え、ウチ、マジでリアル女神として崇められてんだけど!
……よしよし、祈りなさい!☆」
「……ハァ、お前、なんか慣れてきてない?」
俺が呆れてため息をついた瞬間、それまで祈りを捧げていたはずのエルザが、
恐るべき体幹によるスライディング土下座で滑り込んできた。
「ニノ殿! コハル様! カゲロウ殿!!!
我が祖国をお救いくださり、
本当にありがとうございます!!!」
「ワーーーーー!!!!」
エルザの叫びを合図に、我慢の限界を迎えていた近衛兵や
国民たちの歓喜のボルテージが爆発した。
「いいぞ! 忍者の旦那ァ!!!
あんたが一番身体を張ってたぜ!!」
「全裸の英雄カゲロウに栄光あれ!!」
「え、あ、いや……拙者、ただサウナで気持ちよくなっただけで、
最後は整いオーラが暴走しただけでござるが……って、
待って! その装束を返すでござるぅぅぅ!!」
困惑するカゲロウ(全裸)の元へ近衛兵たちがワッと群がり、
そのまま高い天井に向けて何度も何度も彼を胴上げし始めた。
「みなの衆! 気持ちはわかるでござるが、せめて装束を纏わせよ!」
『〇ねっ!!クソ全裸っっ!!!!』
……その後、カゲロウがルナの『タイタンハンド』により尻を
最大出力でひっぱたかれたのは説明するまでもない。
さらに、興奮した近衛兵の一人がエルザの肩をガシッと掴んで叫ぶ。
「我が近衛騎士候補生のエルザが、
光の女神様をここまでお導きしたんだぞ!!」
「すげえぞ! 『勇者エルザ』の誕生だぁぁぁ!!!」
「えっ!? 私が勇者!? いや、
私はただお二人をナビゲートしただけで――」
完全に周囲の熱気に流され、一介の騎士候補生から
国の救国英雄(勇者)へと祭り上げられていくエルザ。
完全にキャパオーバーを起こして顔を真っ赤にさせている。
そんな歓喜の中、スッと剣を収めた土の四男グラッドが前へ出た。
彼は窓の外の群衆へ向けて、堂々と宣言した。
「近衛兵諸君、および領民の皆。王族の不正は処罰した。
今回の売国行為に加担した国王と上層部は、
これより全員国外追放処分とする!
一族を代表し、皆に深く謝罪する!」
地鳴りのような歓声が響き渡る。
グラッドはそのまま俺たちに向き直り、力強く右手を掲げた。
「そして――これから、
諸悪の根源である『冬の精霊』を成敗しに行く
勇者たちに、最大の祝福を!」
国民たちの割れんばかりの大喝采のなか、
称えられる4人(※ルナを含めると実は5人)。
「オッケー☆ ウチに任せてよ!
冬のボスも一瞬で焼き鳥みたくしてあげるし!☆」
コハルがいつも通りの軽いノリでサムズアップする。
「まあ……ここまできたら、そういう流れだよな」
俺は肩をすくめ、観念したように苦笑いした。
「夏の精霊様……どうか待っていてくだされ、今すぐお救いするでござる!」
服を着直したカゲロウが熱い涙を流す。
真っ赤に腫れ上がった己の尻を、さりげなく手で押さえながら。
その横で、エルザと、脳内回線のルナは完全に思考がフリーズしていた。
「マ、マジ、無理!無理です!!」と、エルザ。
『どういう流れよっ!ニノ虫!
あの腹黒泥属性にうまく乗せられてるじゃないの!?』
注:腹黒泥属性=グラッド(命名:ルナ)
今さっきまで一介の見習い騎士と、
城下町でお留守番していた妹だったはずの二人は、
気づけば世界を救う『冬の精霊討伐パーティ』に
完全マージされてしまっている事実に、
ただただカチコチに固まるか、
思いつく限りの罵詈雑言を叫ぶしかなかった――。
『ワーーーーー!!!! 光の女神様万歳!!!!』
……大歓声の余韻が響く中、俺は冷や汗を流しながら、
スッと剣を収めたグラッドの元へと歩み寄った。
「あのさ、グラッド……。これ、今更言いにくいんだけど……。
コハルがこの前やらかしてぶっ壊しちゃった、
あの城の尖塔の件なんだけど……」
恐る恐る切り出した俺に、新摂政となった土の四男グラッドは、
ふっとローファーのつま先で床をトントンと叩き、不敵な笑みを浮かべた。
「ああ、あの派手に吹き飛んでいた尖塔のことか。
……安心しろ、その件は当然、不問としよう」
「え、マジで? 器がデカすぎて助かる……」
「ただ――」
グラッドは俺に一歩近づくと、声を潜め、
綺麗な顔に意地悪な笑みを浮かべながら言った。
「――ただの『貸し』にしておくだけだ。冬の精霊を倒し、
世界を解凍した暁には、たっぷり働いてもらうからな」
『チッ、これだから優秀な政治家は食えねえな……
いっそ暗〇するか? あん?』
ルナの恐ろしい言葉が脳に響く。
俺が苦笑いする横で、
コハルが「ウチら勇者だし、実質チャラっしょ☆」と
いつも通りダブルピースを決めていた。
その姿を見て、俺は――
『こいつがそばにいるなら、もう怖い物なんてないな』と、
どこか頼もしく思えるのであった。
全裸が書きたいだけだろ?って?ち、違います!!




