↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
76/94

第76話 異世界の異次元から異世界へ(その3)


「魔王軍が、

 また隣の村を襲ったらしい……」


「ああ、この世の終わりだ……」


北へ向かう道中、

立ち寄る村々でニノたちが耳にしたのは、

絶望に満ちた人々の悲鳴と

「魔王」への恐怖だった。


生気を失った目で震える村人たちの姿に、

カゲロウは刀の柄に置いた手に力を込める。


「……村人たちの怯え方は本物でござるな。

 人々をここまで苦しめるとは、

 まこと恐ろしい悪が

 北に鎮座しているのかもしれんでござる……」


「……でも、カゲロウ」


ニノは道端に咲く、

異様なほど色あせた花を

見つめながら首を振った。


「僕の調律が……何も感じないんだ。

 魔王の邪悪な魔力や軍隊の気配…

 ただ、世界全体が『そういう設定』で

 作られているみたいな、

 冷たい空白しか感じない」


エルザもまた、北の空を見上げながら

冷徹な視線を走らせる。


「ええ。人々の恐怖は本物ですが……

 魔物の痕跡、破壊の跡、

 実際は何も存在しておりません。

 確かめる必要があるようです」


4人は北の山へと足を進めた。

冷気が肌を刺す複雑な洞窟を潜り抜け、

彼らはついに「魔王城」が存在するはずの

最奥の開けた台地へと辿り着く。


だが——そこに広範囲を覆う

巨大な城など存在しなかった。


「……は? なにも……

 ないけぇ?」


照紅が呆然と声を漏らす。


見渡す限りの荒涼とした岩肌。

城郭どころか、崩れた瓦礫の一つすらない。


ただ、その広大な空白の中央に、

一人の老人がポツンと丸太に腰掛け、

優雅に煙管(キセル)をくゆらせていた。


「……誰だ!?」


カゲロウが瞬時に身構えるが、

老人はフッと白い煙を吐き出し、

ニノたちを細い目で見つめた。


「ほっほっ……ようっと来たか、

 『勇者様』御一行。

 村の連中からは『ホラ吹きの変人』と

 避けられている老いぼれに、何の用じゃ?」


「おじいさん……

 ここには『魔王城』があるって

 聞いたんだけど……」


ニノが問いかけると、

老人はくっくと肩を揺らして笑った。


「魔王城など最初から存在せんよ……

 お主ら『大召喚陣で呼ばれた』のではないじゃろ?

 自分の意思で、この世界に足を踏み入れたのに…

 『勇者召喚話』に便乗した。図星じゃろ?」


「「「「……ッ!!?」」」」


4人の顔に緊張が走る。


老人はゆっくりと立ち上がり、

煙管で北の空を指した。


「この世界はな……

 次元の狭間に作られた『箱庭』じゃ。

 冬の軍勢が、春の精霊様を

 永久に閉じ込めておくために

 創り上げた牢獄なのさ。

 ここには時間の概念すら存在せん」


「時間の概念がない……?

 春の精霊様を閉じ込めるための牢獄……!?」


エルザが思わず声を張り上げる。


「そうさ。

 存在もしない『魔王』の恐怖を人々に植え付け、

 禁呪で『女王セフィリア』として洗脳された

 春の精霊様には、その魔王の対応という

 永遠の公務を与えて多忙にさせる……

 これなら、閉じ込められた精霊様が自我を取り戻し、

 力を蓄えてゲートランドへ帰還することなど絶対にできん。

 冬の奴らの、なんとも狡猾な作戦よ」


「こんなやり方じゃなくても、

 冬の精霊は春の精霊様を

 閉じ込めておけたのではないけぇの?」


照紅が尋ねると、

老人は悔しそうな表情を見せ言う。


「冬の精霊は春の精霊様をバカにした上、

 おもちゃにしとるんだよ。

 必死に魔王に対抗せんとする

 春の精霊様を見ては、お人形遊びのごとく、

 ほくそ笑んでおるんじゃ!」


老人はふう、と深く溜め息をつき、

ニノを凝視した。


「まあ……こんな箱庭を用意したのも、

 春の精霊様が無意識とはいえ、

 あちこちに思念体(コハル)を

 出現させすぎたのが原因の一つじゃろうな。

 冬の連中を余計に警戒させてしまったようじゃ」


「春の精霊様が……

 思念体を出していたのは……」


「助けを求めているからじゃ」


老人が静かに答える。


自分が出会ったコハルは、

閉じ込められた精霊様の魂が

必死に発していたSOSだったのだと理解して、

照紅は目頭を熱くしながら、固く拳を握りしめた。


「じゃが、冬の力をもってしても、

 精霊様の記憶と力を完全に

 消し去ることは不可能だった……

 奴らは精霊様の記憶を『4つの宝玉』に切り分け、

 この世界の各地に深く隠したのじゃ」


「4つの宝玉……!」


ニノの胸が高鳴る。

老人は煙管の吸い口でトントンと

己の膝を叩きながら、言葉を続けた。


「宝玉はこの世界に『4つ』ある。

 その4つすべてを、お主らの手で

 完全に打ち壊す必要があるのじゃ。

 一つ壊すたびに結界の束縛が砕け、

 4つすべてを破壊し尽くしたとき……

 精霊様の真の記憶と力が解き放たれるのじゃよ」


「4つの宝玉を全部壊す……!

 それで結界が解けて、

 コハルが救えるんだね……

 でも、その宝玉はどこにあるの?」


ニノの問いに、

老人は煙管をくゆらせながら

ゆっくりと首を振った。


「宝玉の場所はな……

 一つはあのカイルが肌身離さず持っておる。

 そして、あと3つの場所もある程度の方向や

 領域ならわかっておるが……

 具体的な深部や到達方法は謎じゃ。

 一応わかる範囲は全部説明しておこう」


老人は土の上に煙管の先端で

大まかな地図を描き始めた。


「一つは南の『水底の鏡湖』

 一つは東の『常冬の断崖』

 そしてもう一つは西の『迷宮の森』じゃ。

 いずれも強固な結界と冬の精霊軍で守られておる」


「南の湖、東の断崖、西の森か」


エルザが思わず呟く。


「さあ、これからどうする?」


老人の問いかけに、

ニノは無意識に参陣奏環を展開して叫ぶ。


「決まってる……!

 まずカイルを倒して宝玉を奪って壊して、

 残りの宝玉も全部壊して……

 春の精霊様を、コハルをこの偽りの世界から

 絶対に救い出す!!」


エルザ、カゲロウ、照紅もまた、

力強い眼差しで頷き合った。


偽りの『魔王討伐』は終わりを告げ、

4人の真の「春の精霊奪還作戦」が、

いま静かに動き出す。


「……引き止めはせん。行くといい」


背を向け、煙管の煙をくゆらせながら

静かに歩み去っていく老人。


その去り行く背中を見送るニノの胸に、

なぜか言い知れぬぬくもりが静かに満ちていく。


「(……春の精霊様を頼んだぞ……

 一(にのまえ) 良太(りょうた)……)」


老人は心の中でそっと呟く。


3000年もの間、次元の狭間で

耐え続けてきた、春の精霊護衛番、

『一番(にのまえばん)』番頭「 一(にのまえ) 良尽(りょうじん)」

の眼差しは、静かに未来の希望へと

向けられていた。


いつも欠かさず読んでくださる約25名の方々。

オフ会しませんか?おごらせてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。