第69話 四天王ヨルダとの激闘(その1)
ニノたちが足を踏み入れた
空中庭園・石積島。
その中央に広がる神秘的で美しい遺跡を
探索していたその時——
空間そのものが「悲鳴」を上げた。
バリバリバリッ……!!
世界を縦に引き裂くような
酷い亀裂が空中を走り、
見たこともない密度の黒い氷の結晶が
周囲を埋め尽くしていく。
この世界において、
単体での発動は不可能
とすら謳われる大魔術——禁呪『空間転移』
その歪みの中から、
扇情的で甲高い笑い声とともに、
一人の人物が優雅に舞い降りた。
「あなたたちバカねぇ!
夏の精霊の次は、秋の精霊を
探しに行くと見え見えじゃない!
ゆっくり後をつけさせてもらったわぁ♪」
妖艶な仕草で唇をなぞり、
冷酷な瞳でニノたちを見下ろす怪人。
冬の四天王が一角——
『氷雪将ヨルダ』である。
「さあて、お邪魔虫は
一気にお掃除しましょ!」
ヨルダが指先で空を裂くと、
その背後に開いた巨大な空間の亀裂から、
おどろおどろしい咆哮とともに無数の
「冬の軍勢」が雪崩のように押し寄せてきた。
「ひええぇぇぇーっ!!
み、みなさん助けてくださいぃぃ!!」
その凄まじい光景に、
同行していたポンコツな赤い妖精が
ポロポロと大粒の涙をこぼしながら絶叫した。
「もう正直に言います!
『秋の精霊様』はこの地におられますが、
3000年前の冬の精霊との大戦で負った傷が
未だに癒えておられないのです!
このままでは、
秋の精霊様が敵の手に落ちてしまいます!!
助けてくださいぃぃ!!」
「……ッ!!
そういうことかよ……!」
赤い妖精の悲鳴を聞き、
ニノ、照紅、ザード、マリーたちは一瞬で腹を括り、
即座に武器を構えて臨戦態勢に入った。
だが、ヨルダはそんな彼らの覚悟をせせら笑う。
「ふふっ、無駄な抵抗はおやめなさい?
こっちはあなたたちの戦術なんてすべて研究済みよ。
冬の精霊様から特別な力を授かってきたんだから……
そう、
『絶対氷鏡界』という絶対の権能をねぇ!」
「『絶対氷鏡界』……!?」
ニノが眉をひそめたその瞬間、
痺れを切らしたザードが前へ飛び出した。
「能書きは後だ!
俺の『魔法の木の棒』が通じない奴なんて、
この世にいるわけねえだろ!!」
ザードは愛用の木の棒を力強く構えると、
いつもの癖である
「無意識神域強化魔法重ね掛け」
を息を吸うように発動。
凄まじい魔力をまとわせた圧倒的な威力で、
ヨルダの頭上から渾身のフルスイングを叩き込んだ!
ドゴォォォォン……ッ!!!
「うぐわっぁぁーーーっ!!???」
直後、
けたたましい打撃音とともに吹っ飛んだのは、
ヨルダではなくザードの方だった。
まるで自らが放った一撃の「倍の威力」で
直接殴り返されたかのように、
ザードの体が地面を何度もバウンドし、
激しく叩きつけられる。
「ザード!!」
「がはっ……ふぅ……っ、
……なんだ、今のは……っ」
口からだらりと血を流し、
グラグラと揺れる足で
立っているのがやっとのザード。
木の棒を握る両手は激しく痺れ、
骨が軋む音を立てていた。
「言ったでしょう?
いかなる物理攻撃も魔法攻撃も、
すべて二倍の威力を乗せてお返しするって♪
まさに倍返しよ!」
ヨルダが口元を歪めた瞬間、
風を切る音が響いた。
シュンッ!
マリーだ。
光速の移動で瞬時に
ヨルダの背後へと回り込むと、
一切の容赦なくその首元へ向けて
必殺の一撃を繰り出す。
しかし——
バチィィィンッッ!!
「くっ……!?」
マリーの身体が目にも留まらぬ速度で
弾き飛ばされ、容赦なく地面へと
叩きつけられた。
間髪入れずに群がる
冬の軍勢の刃が襲いかかるが、
マリーは激痛に顔を歪めながらも、
間一髪の光速移動で間合いを離し、
なんとかその追撃を切り抜ける。
「マリーまで……!
照紅師匠、
調律で抑え込みましょう!」
「了解っ……!!」
ニノと照紅はすぐさま構え、
春と秋の調律術式をそれぞれ
同時に起動させようと試みる。
だが——術式が形を成す前の、
ほんの初期動作の段階で、
空間そのものが牙を剥いた。
バチッ、ズドンッ!!
「「ぐあぁっ……!?」」
発射すらしていない調律の波が、
初期段階でそのまま倍の
反動となって二人を襲い、
術式は強制的に破綻させられた。
調律すら初期動作で完全に跳ね返される。
——まさに完封。
これでは、
例えこの場に精霊がいたとしても、
調律師の本分である「魔力供給」すら叶わない。
調律を通じた魔力の循環を断たれれば、
精霊すらも瞬時に魔力切れを起こして
自滅してしまうだろう。
「あはははっ!
これこそ三千年前の戦いであなたたち
精霊の軍勢を敗北に追い込んだ至高の戦法!
進歩のないアナタたち相手なら、
何度やっても私たちの勝ちなのよぉ!」
あざ笑うヨルダは優雅に手を掲げると、
取り巻く冬の軍勢へと冷酷な指示を飛ばした。
「さあ、この鬱陶しい花園を踏み荒らしなさい!
秋の精霊の気配すら逃がさないように、
この庭園ごと凍らせて叩き潰し、
秋の精霊を引きずり出すのよ!」
「……そうね、残りの兵で真下の
オータムリアを襲いなさい。
あの街も冬の精霊様に反抗する
忌々しい街なの。
前から気に入らなかったのよねぇ!」
「「「オオオオオォォォッ!!」」」
ヨルダの命令に応じ、
冬の軍勢が一斉に解き放たれた。
3000年の時を経て咲き誇っていた
色鮮やかな世界の樹木、
繊細に彫刻された古代の石柱、
清らかな水脈をたたえていた庭園の回廊——
古代の美を誇っていた空中庭園が、
黒い氷の暴力と足踏みによって
無残に踏みにじられ、崩落していく。
「やめろ……やめろぉぉぉっ!!」
ニノは血を吐きながら、
なおも膝を突こうとする身体を
無理やり立ち上がらせた。
倒れていたザードも、
両腕の骨が軋む悲鳴を無視して
『魔法の木の棒』を強く握り直す。
マリーも、照紅も、
誰一人として瞳の光を失ってはいなかった。
「ふざけるな……!
そう簡単にこの地を……
踏み荒らさせてたまるかよっ!!」
「「「おおおおおっ!!!」」」
絶望の壁を前に、
四人は示し合わせたかのように同時に跳躍した。
ザードの渾身の一撃、
マリーの超光速連撃、
照紅の「秋の調律」、
そしてニノの全身全霊を込めた春の調律の波動。
各々の持てる全ての力を一点に集中させ、
ヨルダの『絶対氷鏡界』へと叩き付ける!!
勝機は…ないかもしれない。
だが、退くわけにはいかない——
その執念だけの全開攻撃。
しかし——
現実はあまりにも酷だった。
ゴガァァァァァァンッッッ!!!!
「「「「ぐがあぁぁぁぁぁっ……!?!?」」」」
四人が放った全身全霊の威力が、
寸分狂わず二倍の破壊力となって
そのまま自分たちへと跳ね返ってきた。
衝撃波が空中庭園の地面を爆破し、
ニノたちの身体は落雷に
打たれたかのように弾き飛ばされる。
ドサッ……ズザザザーッ!!
大量の血飛沫が美しかった庭園の
石畳を赤く染め上げた。
ザードは木の棒を手放しピクリとも動かず、
マリーのチェインメイルは血に塗れ、
照紅も激しい吐血とともに崩れ落ちる。
ニノもまた、全身の骨が砕けるような激痛のなか、
白濁しそうになる意識を繋ぎ止めるのがやっとだった。
全員が瀕死の重傷。
もはや指一本動かすことすら叶わない。
「あはははっ! 無様ねぇ!
自分の力で勝手に自爆して果てるなんて、
最高に哀れで美しいわぁ♪
究極の自慰行為よねぇ!?素敵♪」
ヨルダは、逃げ惑っていた赤い妖精へと
容赦なく手を伸ばすと、その小さな身体を
細い指先で乱暴に掴み上げた。
「ひぎゃあぁぁぁーーっ!!??
た、助けてぇぇぇ!!」
「さっさと秋の精霊の居場所を教えなさい。
ふふ……言わないと、このまま木端微塵に
握り潰してあげるわぁ?」
「ぐえぇぇっ……!!
助け……て……っ!」
ミシミシと嫌な音を立てて絞め上げられる
赤い妖精。血の海に倒れる仲間たち。
完全なる終焉が、石積島を支配した。
——その時だった。
バリバリバリバリッ……!!!
本日二度目となる、
世界そのものを酷く引き裂く
凄まじい空間の亀裂が走った。
空間を無理やりこじ開けるような、
圧倒的な密度の魔力圧が周囲を圧迫する。
「な、なに……!? 嘘でしょ?……
私達以外に禁呪『空間転移』って……!?
誰が……一体誰が、こんな大魔術を……っ!?」
完璧だったはずのヨルダの顔が、
初めて驚愕で歪んだ。
私の作品は、全話一気読みして下る方が、
そこそこいらっしゃいます。
ありがとうございます。感想ください。





