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第66話 オータムリアの石積島

「ふぅ……今日もいいホームランだったぜ!」


澄み切った秋の空を仰ぎ見ながら、

重騎士ザードが爽やかに額の汗を拭う。


遥か大空の彼方へ消えた

冬の四天王・ロドンを見送り、

無言で佇むシーフのマリーとニノ。


首尾よくロドンという大きな脅威を排除した一行は、

目的の地である秋の国『オータムリア』の入り口——

堅牢な石造りの関所へと足を進めた。


重厚な木造の門をくぐり、

関所を越えた瞬間、

一行の視界が一気にひらける。


そこに広がっていたのは、

息をのむほどに美しく、

どこか懐かしい街並みだった。


石畳の道の両脇には重厚な

瓦屋根の木造建築が整然と立ち並び、

街のいたるところに

鮮やかな紅葉が咲き乱れている。


風が吹き抜けるたび、

朱と黄金の葉がハラハラと舞い散り、

まるで街全体が秋の色彩で

包み込まれているかのようだった。


「へぇ……ここがオータムリアの街中か。

 風情があっていい場所だな」


ザードが珍しそうに

周囲を見回しながら声をあげる。


その横で、マリーも物珍しそうに

街の賑わいへと視線を向けた。


「……絵で見たまんまじゃな。

 ウチの先祖たちが暮らしていた

 故郷の匂いがするわい」


照紅は感慨深そうに目を細めると、

キセルを取り出してふぅと紫煙をくゆらせた。


幼い頃から幾度となく伝承で聞かされ、

思い描いていた『玩秋組の原点』を目の当たりにし、

背筋をすっと伸ばす。


街の賑わいを抜け、紅葉の森の奥へと進むと、

とりわけ巨大な門構えを誇る重厚な屋敷が姿を現す。


その屋敷の前で、

一行を出迎えるように佇んでいたのは——


肩に和装の羽織をひっかけ、

静かに、しかし圧倒的な威厳を

纏った一人の老人であった。


「お待ちしておりました。

 あなた方が街外れで冬の軍を

 撃退してくださった方々ですな?」


照紅は足を止め、老人の顔、

そしてその佇まいをじっと見つめると、

静かに口を開いた。


「……どなたかは存じ上げませぬが……

 玩秋組の名のある方とお見受けします。

 ウチは日本の宮島から戻ってまいりました……

 霜月照紅にございます」


照紅の深く重みのある声が響く。


その言葉を受けた老人の目が見開かれた。


老人こそ、

オータムリアの『元祖・玩秋組』現組長——

霜月 左近(しもつきさこん)であった。


左近は震える手で自らの煙管を握り直し、

照紅の佇まい、そしてその手にあるキセルを

まじまじと見つめた。


3000年前、

冬の精霊が春の精霊に向けて放った禁呪

「異世界追放」の巻き添えとなり、

日本の広島県(宮島)へと飛ばされた

玩秋組の一個隊。


『巻き込まれた者たちの子孫は、

 いつか必ずこのオータムリアへ帰ってくる』


先祖代々、

何百代にわたって語り継がれてきた

伝説の言い伝えが、今この瞬間、

目の前で現実となったのだ。


照紅がそっと胸に手を当て、

頭を下げた、まさにその瞬間だった。


「組長ぉぉぉぉぉぉッッ!!!」


爆発したような叫び声とともに、

重厚な木造扉が叩き開かれ、

奥から十数名もの玩秋組幹部たちが

一斉に飛び出してきた!


※「本当だった……!

  伝承は本当だったんだッ!!」


※「よくぞ……よくぞご無事で帰られたッ!」


※「おかえりなさいませ、同胞の皆様……っ!!」


※「3000年もの間、

  よくぞこの地を憶えていてくれた!」


幹部たちが照紅の手を

代わるがわる握り締め、

歓喜の声をあげて涙を拭う。


左近組長もまた、

溢れ出る涙を隠そうともせず、

深々と照紅と固い抱擁を交わした。


「おおお……感無量じゃ……!

 先祖代々の誓いが、ワシの代で成就するとは……!

 よくぞ戻られた、我が同胞たちよッ!!」


「……組長殿……みなさん……っ!」


照紅の目にも薄っすらと光るものが浮かび、

日本の宮島で幾世代にも渡り紡がれた絆が、

ついにひとつに繋がったのだった。


……そんな感動の嵐を、

少し離れた場所から静かに見守る

ニノ、ザード、マリーの三人。


「すごい熱気ね……。

 3000年の歴史の重みを感じるわ」


マリーがそっと呟き、

ザードも珍しくジンと

胸を打たれた様子で鼻をすする。


「おう……よく分かんねぇけど、

 同胞の絆ってやつか! グッとくるぜ……!

 まぁ、一息つくまで黙って待っていようぜ」


ニノも「そうだね」と頷き、

感動に包まれる玩秋組の面々を

優しく見守っていた。


やがて落ち着きを取り戻した左近組長は、

照紅たちとニノ一行を暖かく屋敷へともてなした。


3000年の時を超えた『同胞の帰還』、

そして街を脅かしていた冬の軍勢の撃退。

二重の歓喜に包まれた屋敷では、

すぐさま盛大な歓迎の宴が

執り行われることとなった。


秋の味覚が所狭しと並べられた大広間。

情緒豊かな和の装飾が施された屋敷内で、

幹部たちが照紅やザードにお酒や料理を勧め、

旅の苦労をねぎらう宴の賑わいが

最高潮に達したその頃——。


料理をひと通り楽しんだニノが、

ふっと一息ついて左近組長に向き直った。


「……組長殿。

 少しお伺いしたいことがございます」


ニノの穏やかで凛とした一言に、

楽しそうに酒を酌み交わしていた

左近組長と幹部たちがハッと背筋を伸ばす。


「おお……これは失礼した。

 あまりの嬉しさに、

 もてなしにかこつけて浮かれておったわ。

 ……して、

 何か我らに尋ねたいことでもあるのかな?」


左近組長が居住まいを正すと、

マリーが一歩前に出て凛とした声で切り出した。


「私たちがここへ来た一番の目的……

 『秋の精霊様』の手がかりについて聞きたいの。

 3000年前の大戦から

 行方が分からなくなっているけれど、

 何か分かっていないかしら?」


「そうそう!

 あたりを見回しても紅葉の森ばかりで、

 それらしい屋敷や目印も見当たらないんだが……」


ザードも宴の杯を置き、真面目な顔つきで尋ねる。


すると、

左近組長は深く静かに煙管を吸い込むと、

目元に刻まれたシワを深くし、

無言ですっと煙管の先で

屋敷の庭の先にある『空(上)』を指さした。


「……ん? じいさん、上かい?」


左近組長が指し示す上空へ、

ニノ、ザード、マリー、照紅

が一斉に視線を持ち上げた。


次の瞬間、彼らの息がピタリと止まる。


「な……なん……だ……ありゃあぁぁぁぁっ!?

 よくみたら山じゃないっー!!」


夕刻になり霞がはけ、

今ならそれがいかに異様な光景かよくわかる。


茜色に染まる秋の空を切り裂くように——

そこにあったのは自然の山などではなく、

どこまでも高く積み上げられた

異様な『石』の塔であった。


手のひらサイズの小石から

家ほどもある巨石まで、

全くランダムな大きさの石が

滅茶苦茶に積み重ねられ、

天高くそびえ立っている。


選ばれし者しか辿り着けぬ

その積石の一番上だけが、

どっしりとした『大地』となっており、

夕日に照らされた鮮やかな紅葉の森と

澄み切った湖を丸ごと乗せた巨大な

空中庭園が鎮座していた。


「な、なんだあの構造物は!?

 なんであんなデタラメな積み方で

 崩れねぇんだ!?」


驚愕するザードの横で、

左近組長は腕を組み、

重々しく口を開いた。


「これぞ『石積島』……。

 3000年以上も前からここに存在し、

 いつ、誰が、何のために作ったのかすら

 一切が不明な謎の大地じゃ。

 完全に絶壁に加え、神聖なる『神域』として

 古代より何人たりとも立ち入ることが

 許されなかった絶対の禁足地となっておる」


「神域……立ち入り禁止の大地……!?」


「『秋の精霊様』は、我が『元祖・玩秋組』が

 3000年間世界中を駆け巡って探し尽したが、

 どこにもおられなんだ」

 

「もう、調査ができていない

 あの神域たる石積島の

 一番上しか考えられぬ」


息をのむザードたちに対し、

左近組長は煙管の紫煙をふっとくゆらせ、

温かくも鋭い眼光を照紅たちへ向けた。


「3000年もの時を経て、

 こうして同胞が戻ってきてくれたのも

 必ずや何かの導き……。ワシの権限で

 特別に『神域への立ち入り』を許可しよう。

 ぜひ石積島へ赴き、そこに秋の精霊様が

 いらっしゃるのか確かめてはくれまいか。

 この何万個もの石の壁を自らの手足で登り、

 頂を目指すがよい」


「マジかよ……! 許可が出たとはいえ、

 あの垂直の絶壁を手で登るのかよ!?」


「……行くよ」


誰よりも早く、迷いのない足取りで

石に向かって歩き出したのはニノだった。


「……本当、迷いがないんだから。

 行くのね。……組長さんの許可も出たんだもの、

 覚悟を決めるわ」


観念したマリーが溜息をつき、

自らも絶壁へと向き直る。


照紅も

「よし、神域解禁じゃ! カチコミ行くけぇの!」

とニヤリと笑う。


ザードも

「クソッ、神域だろうが手足で登りきってやるぜ!」

と拳を握りしめて腹を括った。


そんなザードを横目に、

ニノがポツリと呟いた。


「いや……なんで手で登る前提なんだよ。

 乗っていけばいいじゃん」


ニノは静かに両手をかざすと、

七重調律の一角を構成する

二属性をあっさりと組み上げた。


壱陣奏環(いちじんそうかん)「土」「風」【岩壁風運(がんぺきふううん)】』


ゴゴゴゴゴッ……!


足元の土から、大人四人が余裕で乗れる

巨大で平べったい平岩がスッと隆起する。


ニノ、照紅、マリー、

そして呆然とするザードを乗せた巨大平岩は、

下からの猛烈な上昇風を纏い、

まるでエレベーターのごとく

スーッと静かに上空へ向かって上昇を始めた。


「「「………………」」」


下で見送っていた左近組長と玩秋組の幹部たちが、

ポカンと口を開けたまま煙管を落としそうになり、

遠ざかっていく。


「え、こんな便利な使い方が

 あるのかよぉぉぉぉぉっ!?」


ザードの叫び声が、

秋の空高く響き渡るのだった。


「(もう彼に関しては何も言うまい)」


チートもここまでくれば、もう知らん。

照紅は何も言わなかった。


雲海を突き抜け、

ニノたちの平岩が前人未到の空中庭園へ到達した。


一番上の『大地』へ上がると、

そこには見渡す限りの鮮やかな紅葉の森と、

太陽の光を美しく反射する澄み切った

巨大な湖が広がっていた。


「ここが……石積島の一番上……」


平岩から大地へと降り立ったニノたち。


ニノはふと足を止め、

そっと周囲の風を肌で受け止めた。


「……間違いない。

 この湖の中心から……

 なんとなく秋の気配を感じる」


「マジかいね!?」


照紅の目がキッと鋭くなる。


湖の真ん中に目を向けると、

水面にぽつんと浮かぶ古びた

石造りの祠(社)が存在していた。


しかし——その社の前に立ち塞がるように、

静かに湖面を割って現れた【影】があった。


「……立ち去れ、神域を侵す愚か者ども」


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