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第61話 夏と秋(その3)


常夏衆の本拠地『朱夏(しゅか)の里』


四天王ロドンの奇襲を、

千体のボーン・ナイトと

極厚の煙幕で脱出したカゲロウ一行——


カゲロウ、シルエッタ、レイス、

ナツ、ラーズの四名と一匹は、

無事に隠れ里へと足を踏み入れていた。


「……なるほど、

 ロドン率いる氷刃の包囲網を

 打ち破って参ったか。

 無事で何よりじゃ」


『頭領サスケ』の屋敷。

奥の間で煙草の煙をくゆらせながら、

里の長であるサスケは深々と頷いた。


しかし、その表情はどこか重苦しい。


「時にカゲロウよ……実はいま、

 里の内部で跡目争いが勃発しておってな。

 候補はハヤテとミズキの二人……

 どちらも実力はあるが、功名心や策に

 走りがちで頭領の器には遠く…泥沼じゃ。

 正直、頭が痛くて敵わん……

 頼む、お前が跡目を継いでくれぬか?」


頭を抱えて頼み込むサスケに対し、

カゲロウは背筋を正し、

胸に手を当てて深く一礼した。


「……頭領、そのようなお言葉をいただき、

 身に余る光栄にござります。ですが申し訳ございませぬ……!

 今はエルザ殿の解呪、そして世界の危機が目前に迫る刻。

 とても重責を引き受けられる状況ではござらん。

 勝手を申し上げますが……どうかご容赦くだされ!」


「つれない奴じゃのう……」


一息ついたサスケは、

部屋の隅でナツちゃんから木の実をもらって

無邪気に食べている幼龍——ラーズに目を留めた。


「……カゲロウ。

 お主たちが連れてきたその幼きドラゴン……

 『ラーズ』と言ったか?

 かすかに……そう、かすかにではあるが、

 『夏の息吹』を感じるのじゃが……はて?」


「え……? ラーズから、

 『夏の息吹』でござるか!?」


カゲロウとナツちゃんが驚いて顔を見合わせる。

サスケは眉間にしわを寄せ、思考を巡らせ始めた。


「カゲロウ、

 このドラゴンが地下都市ローアンで

 どのように保護されたか、

 もう一度詳しく聞かせい」


カゲロウはローアン最深部での出来事や、

厳重な魔法の扉の奥で卵として保管されていた

一連の経緯をすべて語った。


「ふむ……二点、

 腑に落ちぬことがあるのじゃ」


サスケの瞳に、

長年里を率いてきた頭領ならではの

鋭い知性が宿る。


「一つ目は、

 なぜそれほど厳重に閉じ込められておったかじゃ。

 相当重厚な封印術式だったのだろう?

 つまりこのドラゴンを世に出すことは、

 黒銀会……ひいては『冬の軍勢』にとって

 芳しくないということじゃろう」


「都合が……悪い……?」


「そうじゃ。

 そしてもう一つは、生まれるタイミングじゃな。

 扉の魔法が解除されるのと同時に卵から孵るという

 魔法の仕掛けがあったのだろうか?……

 ここについては、ふたつの可能性が考えられる」


サスケは指を二本立てた。


「一つは、申した通り。

 つまり最初から組み込まれていた魔法の仕掛け。

 ……しかし、それならば

 『なぜそのような仕掛けが必要だったのか?』

 という疑問が残る。そしてもう一つは——

 何かに触発されての孵化じゃな。

 例えば……そう、カゲロウの話にあった

 ニノ殿とやらの放った『星脈調律』にな」


「ニノ殿の……星脈調律!?」


「うむ。ニノ殿は『春・夏・秋』の三季節を操る

 破格の調律師じゃ。彼がローアンの地下で放った

 膨大な星脈調律の余波に反応し、

 眠りから醒めたと考えるのも不思議ではない話じゃ。

 なんせ、歴史上2つの季節ですら同時に操ることは

 困難を極めるからの」


「……余談だが、遠い昔には

 『全季節を統べる全知全能の調律師』が

 存在したという伝承もあるが……ニノ殿の領域は、

 すでにそれに迫るものかもしれぬな」


「ニノ殿の調律は、

 それほどすごいということでござるか……」


「冬の軍が厳重に隠し、

 ニノ殿の圧倒的な星脈調律に反応して目覚めた存在……。

 今でも感じるかすかな『夏の息吹』……

 もしやこの幼き龍には、

 何か隠された秘密があるやもしれぬな」


「キュ、キュイ〜……?」


サスケは真剣な眼差しで、ラーズを見つめ直した。


「……この龍には、何か感じる所があるな。

 一度調べてみるがよい。カゲロウも知っての通り、

 裏手にある『神技山(しんぎさん)』の頂上には、

 代々『立ち入り厳禁』とされておる最高聖域

 『真実の泉』がある。そこの水を浴びれば、

 真実の姿が出現するという言い伝えじゃ。

 軽々しく足を踏み入れたりはできぬ禁足地じゃが……

 今こそ、その真実を確かめるときなのかもしれぬな」


「神技山の真実の泉……!

 代々立ち入りを固く禁じられてきたあの場所が、

 まさかそのような真の聖地だったとは……!」


カゲロウとナツちゃんは息を呑み、

ラーズに秘められた真実を確かめるべく、

最高聖域・神技山を目指す決意を固めるのだった。






一方その頃——オータムリアを目指し、

街道を進むニノ、照紅、ザード、マリーの四人。


「……来たで。冬の軍じゃ」


照紅が口からキセルを外し、

紫煙とともに冷ややかに吐き捨てる。


突如として周囲の空間が凍りつき、

四天王ロドン率いる百の精鋭騎馬隊が

街道を塞ぐように現れた。


人数の減った隙を突いた、

完璧な急襲——のはずだった。


「予定通り人数の減ったところを

 ピンポイントで狙ってきおったけぇ!」


照紅が不敵な笑みを浮かべる。


人数の少ない隙を突くなど、

戦における初歩中の初歩。


ニノたちがそんな当たり前の奇襲を

警戒していないはずがなかった。


「照紅師匠が考えてくれた

 『絶対撃滅作戦』を発動します!」


ニノが胸を張り、勢いよく両腕を大きく広げる。


刹那、天と地を挟み込むように展開されたのは、

極彩色の光を放つ圧倒的な密度の二重魔法陣。

その莫大な魔力が空間そのものを大きく歪ませ始めた瞬間——


「任せろ、ニノ!」


ザードがぬっと前に踏み出し、

ニノが描いた二重魔法陣の中心点へ、

愛用の『魔法の木の棒』をドスッと突き立てた。


「んぬぬぬぬ……っ!」


自らが世界屈指のチート強化魔導士であることなど

微塵も自覚していない男は、

ただただ素朴な木切れを両手で握りしめ、

顔を真っ赤にして必死に力んでいるだけである。


しかし——本人の適当な認識とは裏腹に、

『魔法の木の棒』を経由して解き放たれたのは、

世界を揺るがす神話級の極大強化魔導。


溢れ出た規格外の黄金の魔力が、

ニノの『7重調律』へと怒涛の如く雪崩れ込み、

二重魔法陣を天を衝くほどの極光で染め上げた。


「……『絶対撃滅作戦』ねぇ」

マリーがなんとも言えない微妙な表情を浮かべる。


「(これ……作戦っていうの?

 いきなり必殺技をぶち込むだけじゃない……)」


とでも言いたげな眼差しだった。





「(……な、なんだ……あいつらは……!?)」


急襲を仕掛けようとしていた『氷剣王ロドン』は、

その光景を目にした瞬間、

全身の血が瞬時に凍りつくのを覚えた。


「(7重調律だと……!? 異次元の威力を、

 さらに謎の強化魔術で極限まで底上げしている……!?

 冗談ではない、あんなものを直撃させられたら

 部隊ごと一瞬で消滅する! )」


長年の修羅場で培われたロドンの直感が、

全力で警鐘を打ち鳴らしていた。


ロドンは一切のプライドを捨て、

喉が千切れんばかりの大声で叫んだ。


「総員、退避!!

 全力で逃げろっ!!!!」


しかし——ロドンの悲痛な叫びとは裏腹に、

精鋭部隊の兵士たちは鼻で笑った。


「ははっ, ここで逃げるってマジかよ?

 大将は臆病風にでも吹かれたか!?」


「相手はたったの数人だぞ!

 こっちは100の精鋭部隊だ、

 一気に踏み潰せえぇぇっ!!」


「見てみろ、かわいい女がいるぞ!」


「あっちの娘だ! 俺がいただく!」



「そこの兵士! 見る目だけは認めてあげるわ!」


誇らしげに胸を張るマリー。


「アホ言え! 今のはウチのこと言ったんじゃ!」


食ってかかる照紅。



そんな二人のやり取りを余所に、

ロドンの命令を無視した兵士たちが

一斉に雪崩れ込んできた。


手柄を焦る者、

どさくさに紛れて欲望を満たそうとする者――


命令を守ろうと本気で足をもつれさせて

逃げようとしているのは、ほんの数人だけだ。








ロドンは何も言わなかった。

指示を聞かない部下を振り返りもせず、

ただただ全力で逆方向へ疾走した。



——次の瞬間。



ロドンの背後が、

太陽のごとき眩い光で満たされる。



———————轟っ!!!!



天を揺るがす爆音と、

世界を塗りつぶす極大の衝撃波。


直後、熱狂して突撃していった精鋭兵は

悲鳴をあげる暇すらなく

一瞬にして影も形もなく消滅した。





ロドンと生き残った十数名の精鋭兵は、

息を乱しながら一時間ほど全速力で退却を続け、

見通しの良い草原にたどり着いたところで

ようやく立ち止まった。ここまで来れば追撃はあるまい。


部下たちの顔には、

大敗を喫した重苦しい絶望が漂っている。

手ぶらで戻れば厳しい処罰は免れない。


沈黙の中、ロドンは静かに振り返り、

威厳に満ちた声で告げた。


「……皆の者、よく聞け。

 貴様らはこのまま冬の王国に戻れ」


「っ、ロドン様!? 我らだけ戻るなど……!

 それでは精霊様のお咎めが……!」


「俺の指示に従った貴様らに罪はない。

 ……俺は、このまま行くところがある」


ロドンは一切の迷いがない鋭い眼差しで、

遠くの空を見つめていた——。


ブックマークをお願いします。

今後、どこまで読んだかややこしくなります。

今の私がすでにそうです(経験者談)


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