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俺じゃなく取り憑いたギャル霊が異世界で無双する件 〜俺はただの調律師ですが、何か?~  作者: うみの はるまき


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夏と秋(その2)


ゲートランドを包む大結界

『陽だまりの残響』を抜けて、

二日が経過していた。


朱夏の里へと続く街道を外れ、

一行が進んでいたのは、

古木が鬱蒼と生い茂る深い森の中である。


追手の目を欺き、隠れ里へと繋がる

裏道を進むために選んだルートであったが、

その鬱然とした静寂は、

かえって異様な重圧感を醸し出していた。


「ふぅー……! 二日目ともなると、

 さすがに足に来るでござるな~!」


先頭を歩くカゲロウが、

白く吐き出される息を手で払いながら

大袈裟に背伸びをした。


「でもカゲロウさん、

 結界の外に出てからは

 冬の軍勢の姿も見ていませんし、

 ひとまずは順調ですね」


シルエッタの腕の中で、

すっかり安心しきった様子の幼龍ラーズが

「キュイ~」と心地良さそうに喉を鳴らしている。


だが——

パーティの最後尾を歩いていたレイスだけは、

数刻前から一度も銀のタクトから手を離していなかった。


影の中に身を潜めるネクロマンサーとしての直感が、

鋭い警鐘を鳴らし続けている。


「(……おかしい。森の中なのに…

 風で木が揺れる音、鳥のさえずり、

 なにひとつ聞こえない……)」


静寂。


あまりにも不自然すぎる、

意図的に作られた静けさ。


「……皆さん、足を止めてください」


レイスの低く鋭い声が、

森の空気を切り裂いた。


「え……? レイスさん、

 どうかしたんですか……?」


シルエッタが振り返った、まさにその瞬間だった。



バリバリバリッ——!!



「——ッ!? みんな下がれ!!」


レイスの叫びと同時に、

シルエッタたちの足元の地面から、

突如として禍々しい漆黒の氷結晶が爆散した。


仕掛けられていたのは、

冬の高度な罠魔導『氷鎖術式』。


「くっ……!」


カゲロウが咄嗟に

シルエッタとナツちゃんの襟首を掴んで

後方へ躍り出たが、退路となっていた街道の木々は

すでに分厚い氷壁によって完全に封鎖されていた。


つまり氷の壁に取り囲まれた…!


「フハハハ! さすがは常夏衆、

 すばらしい反応だ。……だが、時すでに遅し!」


樹上の闇から、

地響きのような重厚な声が降ってきた。


直後、森の木々の陰、そして周囲の崖上から、

冷気を纏った鎧に身を包んだ兵たちが

怒涛の如く姿を現す。


息の揃った整然たる動作、

発せられる冷酷な殺気。


冬の四天王が一人——

『氷剣王ロドン』直属の精鋭騎士100名が、

完璧な円陣でシルエッタたちを完全に包囲していた。



ドスン、と重い金属音が響く。



人垣を割って前に歩み出たのは、

丈余の巨大な氷大剣を背負った

重甲冑の巨漢——ロドンその人であった。


「逃がさぬぞ、人間ども」


「四天王……『氷剣王ロドン』……!」


カゲロウが息を呑みながらクナイを構える。


四天王の情報は全て頭に入っている…しかし、

ロドンの放つ圧倒的なプレッシャーは、

想像を遙かに超えるものだった。


「目的はひとつ。

 我が主——『冬の精霊様』の命に従い、

 ローアンに関わった不浄な虫ケラどもを

 ここで一粒残らず途絶えさせること!」


「精霊様の静寂を侵した愚かさを、

 死の冷気の中で思い知るがいい。

 ……者共、逃がすな! 冬の御名の元に、

 一人残らず刻み叩け!!」



「オォォォォォッ!!」



100名の精鋭を指揮し、

ロドン自身が巨大な氷大剣を引き抜いて

後衛のレイスへと襲いかかった!



ガキィィィンッ——!!



「くっ……出でよ、我が(しもべ)!」


ロドンの容赦ない激しい大剣の一閃に対し、

レイスは銀のタクトを振るい、

咄嗟に巨躯を誇る重騎士霊を召喚した。


だが——

ロドンは重甲冑の巨体からは到底考えられぬ、

絶望的な神速で地を蹴る。


「(……速い……!?

 追いつけない……!!)」


召喚した重騎士霊が剣を構える余裕すら与えず、

ロドンの一刃がその巨躯を一瞬にして真っ二つになぎ倒す。


爆散する氷塊と衝撃波がレイスを襲い、

その凄まじい勢いで宙へと吹き飛ばされた!


「ガハッ……! つっ、速いっ……!」


幹に叩きつけられる寸前、

レイスが銀のタクトを翻すと、

背後の影から漆黒の雲を纏った『冥界の王』が顕現。


柔らかく広がった漆黒の雲が

レイスの身体をやさしく受け止め、

巨木への激突を間一髪で免れた。


「レイス殿!……くそっ、

 かなりの手練れ達でござる!」


精鋭100名は整然とした連携で

ジワジワと包囲網を狭めてくる。


ナツちゃんとラーズを背中に庇いながら、

カゲロウとレイスだけで100の精鋭と

四天王を相手にするのは、あまりにも

絶望的な戦力差だった。


「キュイイイィン……!」


怯えるラーズが、

シルエッタの胸元で体を震わせる。


「(私たちが……

 ここで倒れるわけにはいかない!

 エルザさんを救うために……

 朱夏の里へ行かなきゃいけないのに……!)」


シルエッタは固く目を閉じ、胸に手を当てた。


自分の内側に眠る、

あのローアンの地下で開花させた

『夏の星脈』の温もり——


太陽のようなポカポカとした熱を

意識の奥から引っ張り出す。


「……私の歌よ、届いてっ!!!

 夏の星脈調律奥義!

弐陣奏環(にじんそうかん)「夏」陽光の旋律(アンダンテ)!!』」


シルエッタが強く凛とした歌声を響かせた。


その澄んだ旋律とともに、

彼女の体から黄金色の温かな波動が

波紋のように広がる!


「……ぐ、ああああっっ!!??」

「な、なんだこの熱量は……!?

 氷の魔力が……鎧ごと、蒸発していく……っ!!」


絶叫と悲鳴が、

精鋭100名の陣列を一瞬で包み込んだ。


シルエッタが解き放った

『夏の星脈』の圧倒的な太陽の温もりが、

黄金の波動となって襲いかかり、

ロドンの精鋭たちが誇る絶対零度の氷結術式と

冷気装甲を真っ向から猛烈に侵食・砕破していく。



「(何だとっ!?)」


ロドンが目を見張る。

相手の隠された能力やスキルの真価を

見抜く眼力に秀でたロドンの瞳に、

解き放たれたシルエッタの『星脈』が映り込んだ。


「(な……なんだ、この圧倒的な気配は……!?

 潜在する魔力の深淵……時空をも歪めかねぬ、

 底知れぬ星脈の揺らぎ……!!)」


ロドンの身体中の血が

一瞬で凍りついた。


数々の修羅場をくぐり抜けてきた男の本能が、

脳裏で警鐘を鳴らし狂う。



——『この女には、絶対に勝てない』と。



今はまだ(つぼみ)に過ぎぬその力が、

真の姿を現したとき——自分どころか、

世界の理そのものを塗り替えてしまうほどの

絶望がそこにあった。


「今です!

 カゲロウさん! レイスさん!」


立ちすくむロドンの隙を見逃さず、

シルエッタの波紋が周囲の氷結術式を

局所的に消し去る。


氷の壁に脱出口が開いた。


「かたじけない、

 シルエッタ殿!……レイス殿、頼む!!」


「……はい、一気に駆け抜けますよ!

 出でよ——『ボーン・ナイト』!!

 千体!!」


レイスが銀のタクトを力強く一閃する。


刹那、

地の底から湧き上がった

暗黒の魔力が弾け飛び、

地表を突き破って千体もの

骸骨騎士が一斉に姿を現した!


「今だっ!!」


カゲロウが解き放った特製の煙幕弾と連動し、

濃闇の煙と死霊の軍勢がロドン率いる

氷刃の包囲網を完全に覆い尽くす。


氷の騎士たちが骨の群れに足止めされ、

視界を奪われて混乱するわずかな隙——


シルエッタたちは風のようにその渦中を突き抜け、

一気に深い森の奥へと走り去っていった。




「ロドン様! 追撃の許可を!

 煙の向こうへ逃げ込まれました!」


煙が晴れ、

配下の騎士長が焦燥を滲ませて指示を仰ぐ。

だが、ロドンは大剣を構えたまま、

まるで金縛りにでも遭ったかのように動かず、

逃げ去ったシルエッタの背中を呆然と見つめていた。


その額には、

極寒の冷気の中で冷や汗が

狂ったように一筋伝っていた。


「……追うな」


「え……? 追わぬ、

 とおっしゃるのですか!?

 相手は手負い、

 今なら追い詰めて討ち取れます!」


ロドンは静かに大剣を背の鞘へと納め、

己の震える拳を強く握りしめた。


「……俺にもわからん。

 だが……このままあの女を追うのは、

 壊滅を招く絶対の愚策と判断する」


「なっ……!?

 ロドン様ほどの武人が、

 あの娘一人にそれほどの……!?」


部下の動揺を余所に、

ロドンは冷徹に思考を巡らせる。


敵の真価を見抜く己の眼が

「関わるな」と告げているのだ。

ならば、狙いを変えるまで。


「方針を変更する。

 ……ターゲットは朱夏の里ではない。

 『オータムリア』に向かったもう一陣営だ」


「オータムリア、でございますか!?」


「そうだ。

 二手に分かれたもう一方の精鋭を叩き、

 確実に戦力を削ぐ。……全軍、進路を変更!

 これより直ちにオータムリア街道へと急行する!」


「ハッ! 畏まりました!」


ロドンの指揮のもと、

100名の精鋭部隊は即座に向きを変え、

ニノたちの向かった秋の領域『オータムリア』へと

方向転換を開始した。


己の内に潜む底知れぬ領域に、

未だ無自覚に近いシルエッタ。


そして、その片鱗を本能で感知し、

逃れるように標的を変えたロドン。


この深森での一瞬の交錯こそ——

やがて世界を震撼させ、

最悪の災厄へと繋がる、

運命の最初の(くさび)であった。


皆様、更新するとすぐに読んでくださりありがとうございます!

正直、後書きのネタの方が本編より俄然なくなってきました。

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