夏と秋(その1)
地下都市ローアンからの帰還、
そしてシルエッタの『夏の星脈調律師』
最終試験から一夜が明けた。
ゲートランド城の作戦会議室には、
国王グラッドの呼びかけにより
主要メンバーが一堂に会していた。
円卓を囲むのは、
ニノ、照紅、ルナ、ザード、
マリー、レイス、シルエッタ、
ナツちゃん、
近衛騎士団長アルバド、
そしてカゲロウの10名。
なお、冒険者ギルド長オーフェンは
「面倒くさい。ザードたちは好きに使え」
という不敬極まりない伝言を国王グラッドに言い残し、
さっさと欠席を決め込んでいた。
会議前の円卓では……
「フフフ……
これまでのクエスト実績を積算したら、
最終的な報酬で絶対30億ゴールドは
もらえるはずだから!」
隣でマリーが目をゴールドのGにして、
ぬかりなく計算書を弾いているのを横目に、
一同はそれぞれの思惑を胸に卓を囲んでいた。
円卓の中央には小さな幼龍ラーズが、
どこか居心地良さそうに丸くなっている。
近衛騎士団長アルバドは、
「(いつも俺だけ場違い感が辛い…)」
とストレスを感じていた。
『俺いる?』…誰しもそのような会議や
集まりや飲み会に招集された経験があるであろう。
正直かなり辛い。
……で、定刻となった。
グラッドが重々しい声で腕を組み、
会議の始まりを告げた。
「皆、よく集まってくれた。
……まずはシルエッタ、最終試験の合格、
大儀であったな。
王として、また一人の武人として心より祝意を表そう」
「だが我々に立ち止まっている時間はない。
黒銀会を壊滅させた今、我々が今後目指すべき
『目的』と『打つべき手』を、ここで明確に整理したい」
グラッドの眼光を受け、照紅が静かに口を開いた。
「ウチとニノの本来の目的は、
この世界の秋の領域『オータムリア』へ向かい、
玩秋組と共に『秋の精霊様』を救い出すことにある」
「秋の精霊様……」
ルナが呟く。
照紅は頷き、
三千年前の大戦の重厚な歴史を語り始めた。
「三千年前の対戦で勝利した『冬の精霊』により、
他の精霊たちは散り散りにされた。
我らが目指す秋の精霊様は、冬の追手から逃れ、
自ら深く深く身を隠されたのだ。
……そして、秋の精霊様の力(共鳴)を使ってこそ、
時空のはざまに閉じ込められている
『春の精霊様』を救い出すことができる」
「絶対にコハルを救い出す……
それが俺たちの旅の目的だ」
ニノが強く頷く。
すると、それまで静かに聞いていたルナが身を乗り出した。
「でも、もう一つ急がなきゃいけないことがあるわ!
冬の禁呪に侵されているお姉さまを救うことよ!
エルザお姉さまにかかった冬の呪いを払うには、
どうしても『夏の精霊様』の力が必要なの!」
「ああ、もちろんだよルナ。
どちらも決して諦められない大切な目的だ」
ニノが優しく言葉を返すと、
カゲロウが、ハッと表情を引き締めて挙手した。
「……グラッド様!『夏の精霊様』に関する情報を
探すのであれば、常夏衆の本拠地『朱夏の里』
に向かうのが最良にござる!
あそこならば古くから伝わる精霊様の伝承や、
隠された文献が残されておりますゆえ!」
「よし……! では、
それぞれの目的に向けて動き出そう!」
グラッドが力強く机を叩き、
会議の結論をビシッとまとめ上げた。
「よし! 我々が果たすべき目的は二つ!
ひとつ、『オータムリア』で玩秋組とともに
秋の精霊を救い出し、その力で春の精霊様を救出すること!
ふたつ、『朱夏の里』で手がかりを探し、
夏の精霊を見つけ出し、勇者エルザの禁呪を解くこと!
どちらも一刻を争う大事だ。
二手に分かれて同時に事を進めるぞ!」
誰一人として、口には出さなかった。
だが——全員の胸の奥で燃える炎は、ただ一つ。
『春、夏、秋』の三精霊の力を揃え、
この頼もしい仲間たち、そして結集した軍勢とともに、
あの忌まわしき三千年前の大戦の決着をつける。
絶対の支配者として君臨する『冬の精霊』を討ち取り、
永き因縁に終止符を打つのだと。
視線が交錯する一瞬の静寂の中、
言葉以上の固い誓いが、
その場にいる全員の絆を固く繋ぎあわせていた。
グラッドの判断により、
それぞれの目的に応じた二つのパーティが結成された。
【オータムリア組】: ニノ、照紅、ザード、マリー
【朱夏の里組】: シルエッタ、カゲロウ、ナツちゃん、レイス
(ラーズ)
「ラーズ、朱夏の里にみんなと行っておいで」
ニノが優しく声をかけ、手を伸ばした——が、
ラーズはすでにシルエッタの腕の中にすっぽりと収まり、
その胸元にうっとりと顔をうずめたまま、
テコでも離れようとしない。
シルエッタの醸し出すどこかポカポカとした温もりが、
たまらなく心地いいらしい。
「ふふ……あたたかくて気持ちいいのかな?
ラーズちゃん、私のこと気に入ってくれたみたいです~」
「ニノ殿、フラれたでござるな」
ニノの手が虚空をさまようのを見て、
カゲロウがニヤリと茶化す。
「まあ、誰でもシルエッタさんの方がいいでしょ?」
ルナもニヤリと追い打ちをかけ、
ニノは「う、うぐっ……苦労して助けたの俺なんだけどな……」
とガックリ肩を落とした。
「いやいや、助けたの私でしょ?」
すかさずマリーが呆れ顔でツッコミを入れる。
「待て待て! 一枚目の扉を叩き割ったのは俺だぜ!?」
ザードまで胸を張ってアピールし始めた。
照紅も『最後の鍵を開けたのはワシじゃ』と
言いたいところだったが……
虚しい手柄争いだと察して口を慎んだ。大人だ。
当のラーズはそんな周囲の不毛な熱議など知る由もなく、
シルエッタの腕の中で幸せそうに「キュイ……」と小さく
鼻を鳴らすだけだった。
「(……しかし、結局選ばれたのは
シルエッタなんだよな……)」
不毛すぎる空気に誰もが気づき、
作戦会議室になんとも言えない微妙な時間がふっと流れた。
「……ゴホン! えー、ニノ殿、照紅殿!
オータムリアの道中、お気をつけくだされ!
朱夏組はこのカゲロウ、
常夏衆の誇りにかけて無事に朱夏の里まで
全員を送り届けるでござる!」
気まずさを払拭するように
カゲロウが咳払いをして話を強引に戻す。
前衛のザード、光速のマリーを伴ったニノ&照紅組と、
隠密と調律に秀でたシルエッタ組。
それぞれの固い決意と握手が交わされ、
二つのパーティはそれぞれの目的地へと走り出した。
一方その頃——。
ゲートランドの境界線を望む小高い丘の上に、
重厚な甲冑を纏った男が立っていた。
冬の四天王が一人『氷剣王ロドン』である。
ロドンが冷ややかな視線を向けた先——
そこには、ゲートランド全体を包み込むように揺らめく、
淡い黄金と朱色の光があった。
三千年前の大戦時、冬の精霊に敗れた
夏の精霊と秋の精霊が最後に残した大結界——
『陽だまりの残響』である。
結界の内部へ足を踏み入れること自体は可能だ。
だが、この聖域の中では冬の魔術や氷の剣技など、
彼らの力の根源たる術式のすべてが無効化される。
力の大半を奪われた状態で城内へ踏み込めば、
討ち死には免れない。
ロドンは背の大剣に手をかけ、冷酷に目を細めた。
「……フン。相変わらず忌々しい結界だ。
だが、中に閉じこもっている限りは安全でも、
一度外へ出ればただの餌食……」
そこへ、暗闇から黒い影が滑り込み、膝をついた。
ゲートランド内に潜伏させている冬の密偵である。
「報告いたします、ロドン様!
敵は作戦会議を終え、
城を出て二手に分かれました!」
「行き先は?」
「オータムリアと、
朱夏の里のもようにございます」
「……よし。
手始めに『朱夏の里』に向かう者たちから潰す。
自ら散って戦力を削いでくれたのだ、
各個撃破するのが兵法の鉄則……」
ロドンは大剣を引き抜き、
背後に控える直属の精鋭100名へと視線を向けた。
冷気を纏う鎧に身を包んだ手練れの氷結騎士たちが、
静寂の中で殺気を研ぎ澄ませている。
「ゆくぞ。結界の外、街道の狭窄地に潜み、
一網打尽にする。外へ這い出てきた羽虫どもを、
一匹残らずこの氷剣で細切れにしてくれる」
「オォォォォォッ!!」
ロドンの指揮のもと、
極寒の冷気を纏う精鋭部隊が、
狙いを定めた街道へと静かに進軍を始める。
『陽だまりの残響』の結界を抜け、
朱夏の里へと足を踏み出したシルエッタたち。
その背後に、
四天王ロドン率いる100の氷刃が
着実に迫っていた——。
「エタる」って言葉があるんですね。
私は絶対エタらないです。
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