サウナ忍者でござるが、何か?
――冬の精霊に支配され、
3000年の時が凍りついたこの世界。
その凍土の裏側で、密かに動き続けている隠密組織があった。
その名を『常夏衆』と呼ぶ。
彼らの最終クエストはただ一つ、
冬の精霊に幽閉された崇拝対象――『夏の精霊』の
居場所を突き止め救い出し、
この世界に再び太陽の降り注ぐ大地を取り戻すことである。
その常夏衆の密偵である『忍者カゲロウ』は今、
まさにゲートランド城の最深部、備蓄倉庫に潜入していた。
「・・・近衛兵の上層部と王族が、冬の精霊と
怪しい関係を持ったという情報は、
どうやら事実だったようでござるな……」
カゲロウは薄暗い倉庫の中で、冷え切った指先を
パチパチとこすり合わせた。
城内全域に施された『絶対零度の結界』。
その影響で、彼が最も得意とするコマンド入力(忍術の印)が、
指のかじかみによって思うように動かない。
このままでは諜報活動どころか、
全く誰も知らないまま、
全く誰も知らない場所で凍死しかねない。
一方その頃、城の裏口。
俺たちはエルザの案内で、
人目につかない地下水路の水門の前に立っていた。
「……ニノ殿、コハル様。
やはり近衛兵の上長に相談するのはやめます。
にわかには信じてもらえない話ですし、
王家相手に近衛兵を動かすのはまず不可能です。
それに、大切な仲間にこれ以上迷惑をかけるわけにはいきません。
・・・
身勝手なお願いであることは重々承知しております。
ニノ殿、コハル様、今一度お力をお貸し下さい。」
「エルザってば真面目すぎ! ウチらに任せとけば、
そんな裏切り者なんて一撃で消し飛ばしてあげるって☆」
「ああ、俺たちがついてる。
ここからは完全な初見ダンジョン攻略だ。
エルザは案内に集中してくれればいい」
俺がそう言って肩を叩くと、エルザは驚いたように目を見開き、
やがて小さく、だが力強く頷いた。
「ありがとうございます!」
エルザが愛剣の柄をぎゅっと握りしめる。
その横顔には、悲痛な決意が宿っていた。
――その頃、先行して潜入していたカゲロウは、
まるで、絶対零度の結界を楽しむように
不適な笑みを浮かべていた。
「ふふふ・・・間もなく頃合いだろう。
寒すぎてクナイも握れん。
体も言うことをきかなくなってきた。
しかし!拙者には寒さは通用せぬ!!」
カゲロウは懐から、
秘密グッズ「折り畳み式サウナテント」取り出し、
地面に放り投げる。
ドォォーン!
低い重低音とともに、そこにはテントが出現した。
厨房から盗難してきた高級な薪に火をつけ、
サウナストーンをガンガンに熱すると、
そこへ王城の聖水をじっくりと注ぎ込む。
じゅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!
激しい音と共に、テント内に『夏』を思わせる猛烈な
熱気の霧が充満していく。カゲロウは黒装束をすべてパージ(脱衣)し、
全裸に忍頭巾一枚という姿で、至福の空間へとログインした。
「かぁぁぁーーー!! 生き返るでござる!!!!
これぞ夏の精霊様の恵み! 最高のサウナ!!
冷え切った生体システムが内側から急速にリブート
されていくようでござる……。
ああ、拙者、いま猛烈に!!
『整い』かけて!!
『整い』かけて――!!」
バガァァァァァンッ!!
突然、倉庫の鉄扉が、コハルの放った最大出力の
ツヨツヨビームによって分子レベルで爆破された。
倉庫の中の物が全て吹き飛ばされる。
「だから出力調整しろって言っただろコハル!!
隠密の意味知ってるか!?」
「えー? どうせ一緒っしょ?いずれバレるし☆
でも、誰もいなくて『残念はずれー』みたいなー」
「……ッ!? ニノ殿、見てください。あそこに……
何か不気味なテントが……」
硝煙と熱い湯気が立ち込める中、俺たちが目にしたのは――
爆風でひっくり返ったテントの中から、間抜けに這い出てきた、
頭巾一枚あとは全裸の『完全不審者』だった。
「な、なにごとでござる?敵襲か?」
(ニノ)「…………」
(コハル)「…………」
(エルザ)「…………」
(ルナ)「…………」
全員がフリーズしたその瞬間、
俺の脳内回線に、城下町でお留守番しているはずの
最恐の妹・ルナの電波が、海底ケーブル並みの太さで
緊急割り込みしてきた。
『ぎゃーーーーー!!! 全裸の変態!!!
おい!こら!!!てめー!!!
なに見せてくれてんだよクソ虫があぁぁぁ!!!
今すぐ空間ごとねじ切ってやる!!!』
「うわっ!!!」
脳内を直接かき乱すルナの絶叫に、
俺は悲鳴を上げて頭を抱えた。
「ちょっとニノ、急に叫ぶのガチで引くんだけど!☆
・・・まあ、たしかに叫びたくなる状況だけどねぇ~」
と、言いつつレールガンを放つ準備が完了しているコハル。
「一切の問答は無用!! 冬の精霊の手下の変態露出狂め!!
その所業、万死に値する!!ここで切る!!」
エルザが怒髪天で剣を抜き、勢いよく斬りかかる。
俺もコハルに魔力を注ぎ込み、
特大レールガンをぶちかました。
ドッカーーーーーーーーーーン!!!!!!!
「・・・ピクッ・・・ピクッ」
若干体がプルプル震えている。意識はあるようだ。
『ふんっ!このまま〇ね!!全裸野郎!!
タイタンハンド!!!』
ルナの空間超越魔法がさく裂。
空間を越えて出現した半透明の巨大な光のビンタが、
無慈悲にもカゲロウの無防備なおケツを
『パコォォォォン!!』と激しく引っ叩いた。
ふぅ・・・凍てつく結界の中で全裸とは、
なかなか手強い?相手だった・・・
精神攻撃以外の物理攻撃は一切なかったが。
しかし・・・
ボロ雑巾のように床に転がっていたカゲロウの
右肩の紋章を見てエルザが青ざめる。
彼の肩の紋章は、隠密組織『常夏衆』の紋だ。
彼は冬の精霊を討つための組織の一員・・・
・・・いわば同じ志を持った仲間だ。
「お二人とも・・・少し早まったかもしれません」
・・・
「……ふぅ。間違いは誰にでもあるもの、
エルザ殿、もう頭を上げられよ。」
「大変申し訳ございませんでした!」
エルザが初級の治癒魔法でカゲロウをキズを回復させながら、
土下座の勢いで額を床にこすりつける。
『おい、全裸。今回は見逃してやるが、
今度脱いだら、すり下ろすぞ、こら。」
「(ニノ殿・・・?何者かが拙者に汚い言葉で
テレパシーを送ってくるでござるが・・・?)」
「(長くなるので、後から説明します)」
俺が小声でカゲロウに伝えると、
カゲロウも何か察してか、小さく頷く。
「やり過ぎたかもだけど、全裸の方が悪いっしょ?ふつー?」
カゲロウは、コハルの顔(メイクが落ちたすっぴん状態)
を見上げ、その圧倒的な光(魔力)に息を呑んだ。
「(この者達は何者でござるか・・・?)」
カゲロウは傷を癒やされながらも、目の前の三人――
いや、空間の向こうにいる存在も含めた「異常なパーティ」を
改めて凝視し、背筋に冷や汗を流していた。
「(拙者の隠密レーダーが、さっきからアラート(警報)を
吐き出し続けているでござる……!)」
まずは、ニノと呼ばれる男性。
一見するとただの一般人だが、
彼の周囲の空間だけ、城内の極寒デバフを完全に拒絶している。
それどころか、彼が呼吸をするたびに、この大地を流れる
エネルギーの河(星脈)が、まるで彼の生体バッテリーと
直結しているかのように脈動しているのだ。
国家レベルのインフラを個人でハッキングしているようなものである。
(あの少年、大地の魔力を完全に調律し、
無限に給電しているでござる……。
あんな規格外の『星脈調律師』、
歴史のデータベースにも存在せんでござるよ!)
そして、その少年の腕に抱きついて充電しているギャル、コハル。
お湯でメイクが落ちたそのすっぴんは、不吉なほどに美しく、神聖だった。
彼女から放たれる熱量は凍りついた世界のシステムそのものを
強制再起動させる、絶対的な権限――
すなわち、冬の時代を終わらせるトリガーそのものの輝きだ。
(あの凄まじい光の正体はいったい……!?)
さらに、そんな二人を護衛するように立つ、近衛の女騎士エルザ。
先ほど刃を交えたからこそ分かる。彼女の剣筋には、
腐敗した上層部のような濁った魔力が一切ない。
国家のシステムがウイルス(冬の精霊の呪い)に汚染される中で、
唯一、正常なセキュリティプロトコルを維持し、
正義を貫こうとする孤高のファイアウォール。
――そして、極めつけは。
今もなおカゲロウの脳内回線に、生々しい殺意の
残響を残している、城下町の留守番妹・ルナ。
(……数キロメートルは離れているはずの城下町から、
空間の障壁を力技で踏み越えて、的確に拙者の尻を
物理タスクキル(ビンタ)してきたあの精神念動力
(テレキネシス)……!
あんな超長距離からの高出力通信、もはや狂犬の化身でござる……!)
(あり得んでござる。こんなチートビルドされたパーティが、
なぜ突如としてこの城に出現したでござるか……!? だが……)
カゲロウは、じわじわと自分の内側から、
サウナではない「熱い震え」が湧き上がってくるのを感じた。
(これほどの規格外……。この者達なら、
冬の一味をデリートし、幽閉された我が主、
『夏の精霊様』をお救いできるかも
しれないでござる……!!)
サウナ忍者「カゲロウ」の登場です。
ルナの「おい、全裸!」という台詞が個人的にはよくできた感があります。




