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俺じゃなく取り憑いたギャル霊が異世界で無双する件 〜俺はただのエネルギータンクですが、何か?~  作者: うみの はるまき


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5/7

少女にものすごく脅されてますが、何か?

人さらいのレンガ倉庫からエルフの子供たちを

無事に救出し、涙を流して祈りを捧げる熱狂的な

門番たちからなんとか逃げ出した俺たちは、

闇夜に紛れてエルザの自宅へと避難していた。


王城の城下町から少し外れた裏手にひっそりと佇む

エルザの家は、赤レンガの壁と、気の遠くなるような年月を

経て磨かれたどっしりとした巨木を組み合わせた、

いかにもファンタジー世界の住人が暮らしていそうな二階建ての一軒家だった。


「ニノ殿、コハル様。冬の精霊の寒気が強まる中、

 あの過酷な激闘……本当にお疲れ様でした。

 冷え切ったお体を温めるため、すぐにお風呂の準備をいたしますね」


エルザがリビングの壁に埋め込まれた、

複雑な幾何学模様が刻まれた金属製の文字盤(魔導具)に

慣れた手つきで触れると、パチパチと静電気のような音が

室内に響いた。


すると、部屋の四隅に設置された透明なガラス瓶の内部で、

緑がかった温かい光を放つ『ヒカリゴケ』がじわじわと発光し、

室内を優しく照らし出した。

LEDの代わりに植物のバイオ発光をインフラに

組み込んでいるとは、つくづく異世界に来た実感がわく。

自然との共存。真剣に現代社会も見習うべきだ。


エルザが浴室へと向かい、リビングに一人取り残されて

ほっと一息ついた俺は、前々からこの世界にログインしたら

絶対に試したかった『あの王道の儀式』を、

今のうちにこっそり実行してみることにした。


ふー、と深く息を整え、誰もいないのを確認。

部屋の壁に向かって、アニメの主人公のように

右手の指をビシッと突き出す。


「オープン! ステータスウインドウ!」


……しーーーん。


ただ、自分の痛々しい声が静かなリビングに虚しく

木霊しただけだった。


「……出ないよな。うん、薄々わかってたよ」


エラーログの出力もなければ、半透明なポップアップ画面の

一枚も出現しない。やはり異世界転生物によくある

ゲームのような親切なユーザーインターフェースは

この世界には実装されていないらしかった。

俺のレベルはわからないか。残念。


「ちょっとニノ、何一人で壁に向かって恥ずかしいポーズキメてんの?

 マジウケるんだけど。厨二病でも発病した?」


なにっ!?コハル!?

これは見られたらあかんやつや!

恥ずかしすぎるっ!!


「ち、違う! これは今後の運用に備えて、

 システムの基本仕様を確認していただけで、

 決して厨二病では・・・」


「お待たせいたしました、お風呂が沸きましたよ!

 まずはコハル様からどうぞ!」


ナイスタイミング!!エルザ!!


廊下から聞こえたエルザの快活な声に急かされ、

コハルは「はーい☆」と脱衣所へ向かった。

エルザも「お背中お流しします!」と、一緒に入っていき、

俺はリビングのソファで順番を待つことになった。


その頃、浴室の中は、女子二人の手によって

異世界情緒が限界突破していた。

職人が手作業でくり抜いた巨大な岩の湯船には、

なみなみと熱いお湯が張られている。

立ち込める白い湯気の中、壁に埋め込まれたヒカリゴケの

淡い緑の光が浴槽を照らす。


「……あ」


お湯からポコンと顔を出したコハルを見て、

エルザは一瞬、言葉を失った。

お湯で濡れたせいで派手なギャルメイクが綺麗に落ちたそこには――


現世の渋谷でツンツンとトゲを張っていたギャルではなく、

驚くほど肌が白く、おそろしく顔立ちの整った儚げな美少女がいた。


「なによエルザ、ジーッと見て。

 ウチのすっぴんの可愛さに見とれちゃった?☆」


「いえ……コハル様、化粧を落とすと、

 まるで本物の高位の精霊様のようで、あまりに美しく……」


「えへへ、ギャル的にはもっと盛れてる方がいいんだけどねー☆

 褒めても何も出さないゾ☆」


「では、さらに美人にして差し上げましょうコハル様。

 我が家特製の『泡泡スライム』の出番です!」


エルザが誇らしげに両手で掲げたのは、

透明で、こんにゃくのようにぷにぷにとした、

手のひらサイズの手触りの良さそうな、かわいいスライムだった。


「いやいやいや待って! なにそのスライム!? これで洗うの!?

 生きてるじゃん、無理無理無理!! ウチの肌にペタペタするとか

 ガチ精神的ブラクラなんだけど!!」


「大丈夫です、とっても大人しくて綺麗好きな個体ですから!

 ほら、こうして優しく肌に滑らせると……」


エルザがスライムをコハルの生白い背中にペタリと押し付けた瞬間、

その謎の生物は「きゅ〜」と可愛らしい鳴き声を上げながら、

もの凄い勢いでモコモコとしたきめ細かい泡を大量に吐き出し始めた。


「ひゃああああかっ!? なんか冷たくてくすぐったい!!

 てか泡出すぎ!! ウチが消えるー!! 」


一瞬にして全身が濃厚な白い泡まみれになり、

もう完全にコハルとはわからない。

まるで泡の怪獣のようになって湯船の縁で走り回るギャル神様。


「コハル様、暴れると刺激でスライムが分裂します!」


「もっと増えるの!? ヤバいヤバいマジ無理!!

 えいっ、エルザにもお返しだし!☆」


コハルが泡をエルザの顔面に投げつければ、

エルザも「やりますね!」とスライムを動員して応戦する。

浴室の中は、泡と悲鳴と笑い声が飛び交う、

完全なるスライム泡合戦の戦場と化していたのだった。



その後、俺も無事にお風呂をいただき、身綺麗になった俺たちは

エルザから2階の部屋を借りて、それぞれの木製ベッドへと

ようやくログインした。

変な誤解を受けるといけないので、

あまり表情には出さないようにしていたが、

泡泡スライム・・・きもちよかった~


部屋の明かりであるヒカリゴケの瓶に薄い布をかぶせ、

室内をほどよい暗さにする。ふかふかの羊毛の

ベッドに寝転び、天井の素朴な木目を凝視しながら、

俺は今日起きた一連のイベントのエラーログを脳内で

本格的に整理し始めた。


――よく考えたら、この異世界のシステム、

挙動がおかしい点が多すぎる。


まず、一番のミステリー(バグ)は、

隣のベッドで「ふにゃ……☆」と気の抜けた寝息を

立てているコハルだ。


現世では、コハルはただの『幽霊』だった。

それがなぜ、この世界に来た瞬間、こんなにも温かく、

柔らかい生身の肉体を取り戻しているのか。

食欲も睡眠欲も完全に正常稼働している。

幽霊の物理世界へのバインドとしてはあまりに完璧すぎる。


ここで、俺は自分の手のひらをじっと見つめた。


……俺自身も何かおかしい。現世の時は、

コハルにほんの少し力を奪われただけで、

俺の生体バッテリーは一瞬で空っぽになって

死にかけていた。なのに今は……


さっき倉庫の前で、コハルは秘密工場を空間ごとデリートする

レベルの、戦略兵器級の超高出力レールガンをぶっ放した。

本来なら、俺は過負荷オーバーヒートで、

現世の時のように、ふにゃふにゃになっていてもおかしくないはずだ。


だが、今の俺の体はエラーどころか、むしろ風呂上がり以上に

内側からカッカと力が満ち溢れている。

体に異常な不調をきたす気配がまったく無い。


そっと目を閉じ、意識をベッドのさらに下、

――この赤レンガの家の床を突き抜け、

異世界の大地へとアクセスしてみる。


「……(繋がっているように・・・感じる)」


かすかな脈動。

この世界の大地の奥底を流れる、莫大で清らかなエネルギーの河。

その太いライン(星脈)に、まるで直接触れているかのように、

俺自身にダイレクトに直結されている感覚があった。


――『星脈調律師・・・』


うさんくさい国家資格(注:勘違い)だ。

「なんだその厨二病な資格」とスルーしていたが、

この血がそういう感覚を生んでいるのだろうか?


仮に、俺の体がこの大地から無限の魔力を直接吸い上げ、

コハルへと供給するという役割を担っているとしたら・・・


「・・・二人がこの世界に来たのは偶然じゃない?」


「(・・・今日は疲れた)」

俺は思考の常駐プロセスを終了し、

そっと深い眠りへと落ちていった。


翌朝。


エルザが淹れてくれた、ミントのようにスースーする不思議な

ハーブティーを頂いていた。体の芯から温まる~。

俺は昨日のことをふと思い出して、装備のポケットに手を突っ込んだ。


「そういやエルザ。昨日、あの倉庫の用心棒の

 大男をぶっ飛ばした時、アイツの懐からボロッと

 こんな物が落ちてさ。一応、証拠品として

 回収しておいたんだ」


俺がテーブルの上に置いたのは、あの御託の長い用心棒が

大事そうに肌身離さず持っていた一通の羊皮紙の書状だった。


「これは……?」


エルザが怪訝そうにその書状の中身を開く。

だが次の瞬間、彼女の美しい顔からスーッと完全に血の気が引き、

驚愕のあまりその青い瞳が激しく見開かれた。


「な……近衛騎士団の、最高上層部の署名……!?

 国を守るべき幹部が裏切って冬の精霊に魂を売り、

 私利私欲のために子供たちの人さらいを裏で許可していたというのですか……!?

 そんな、私が・・・いいえ、私たち仲間が忠誠を誓い、

 命を懸けて護衛してきた王城が、冬の精霊の言いなりだったなんて……!」


カタカタと両手を激しく震わせ、

あまりの精神的ショックにハーブティーのカップをひっくり返しそうになるエルザ。

一国の防衛最高システムが完全にウイルス(裏切り者)に汚染されていたという、

この異世界の命運を根底から揺るがす特大のシリアス展開。


そんなシリアス展開を強制終了させるように、

リビングの扉がバァン!と勢いよく開け放たれた。


「お姉様ーーーっ! 朝帰りなんて不潔です!

 一体どこのどなたにたぶらかされて――って、あら?」


飛び込んできたのは、エルザによく似た面影を残す、

栗色の髪をツインテールにした可憐な少女だった。

彼女は部屋の中にいる俺とコハルの姿を認めると、

一瞬で借りてきた猫のように表情を「可憐な妹モード」

へと切り替え、ちょこんと上品にお辞儀をした。


「失礼いたしました。お姉様のお知り合いの方々ですか?

 私はエルザの妹の、ルナと申します。以後お見知り置きを……♪」


ふわりと微笑むルナ。育ちの良さそうな、

いかにもファンタジー世界の可愛いお姫様といった風情だ。


――が。


次の瞬間、鼓膜を直接つんざくような謎の声が

脳にダイレクトに響いた。


『(てめー誰だよ新顔。

 ウチのお姉様に色目使ってんじゃねえぞクソ虫が。

 つまらん動きしたら空間ごと捻じ切るぞ。あん???)』


「ぶっ!!!?」


俺は飲んでいたハーブティーを盛大に吹き出した。


「ちょっとニノ汚いんだけど! 」


「ニノ殿!? 大丈夫ですか!?」


慌てるコハルとエルザの横で、

俺はゴホゴホと激しくむせ返りながら、

目の前で「うふふ♪」と天使のような無垢な笑顔を

浮かべているルナを戦慄の眼差しで見つめた。


間違いない。

今のはこの妹が放った、脳内に直接殺意を叩き込む高出力の

『テレキネシス(念動力)』による指向性通信だ。

しかも、テーブルの上に飛び散ったハーブティーの滴が、

彼女の周囲だけ重力を無視してピキピキと空間に浮き上がっている。


すると、それまで悪魔のような笑みを浮かべていたルナが、

一瞬で『儚げで健気な薄幸の妹』へと表情を戻し、

エルザの肩をそっと抱きしめた。


「お姉様、しっかりしてください……っ!

 ルナがついています……!」


「あぁ、ルナ……。ごめんなさい、取り乱してしまって。

 ……ニノ殿、コハル様、お恥ずかしいところをお見せしました。

 実は私たちは早くに両親を亡くし、この城下町の片隅で、

 姉妹二人だけで身を寄せ合ってここまで生きてきたのです」


エルザはハーブティーの湯気の向こうで、

遠い目をして愛おしそうに妹の頭を撫でた。


「私は姉としてルナを養うため、必死に勉学と剣の修行に励み、

 ようやく近衛騎士団の見習いにまでなれたのですが……

 このような幼く、か弱く、心優しい妹を家にひとりぼっちにさせるのは、

 普段からとても心配で心配で……」


「あー! お姉様……っ!!!」


「ルナ……っ!!」


感極まった様子でぎゅーーーっと抱きしめ合う、

美しくも健気なファンタジー世界の孤児姉妹。

大粒の涙を浮かべて姉の胸に顔を埋めるルナの姿は、

守ってあげたくなる保護欲をそそるものだった。


しかし!

それを見ていた俺は、感動するよりも先に、

思わず「えっ……?か、か弱い?」と顔を引き攣らせて凝固した。


当然のように、脳内回線には狂犬の怒号が飛び交う。


『(てめー何フリーズしてんだよ。ああん!?

 そこは普通「なんて健気な妹さんだ、エルザさん安心して行ってください!」

 って涙流して話を合わせる場面だろーが! マジ空気読めねえ使えない野郎だな!!

 ウチのお姉様がせっかく気持ちよく回想シーン入ってんだから、

 辛気くせーツラしてんじゃねえよ!すり下ろすぞ!!)』


「(要求される演技のハードルが高すぎるだろ!! っていうか

 『か弱く心優しい妹』は、どこ行ったんだよ!!)」


「ちょっとニノ、顔ガチでバグってるよ? 大丈夫?」

隣で「ウチももらい泣きしそう〜☆」と呑気に姉妹愛を観賞しているコハル。

なぜ俺だけがこの妹の精神的DDoS攻撃をワンオペで処理しなければならないのか。


「ルナ、あなたにはこの家と、城下町の様子を見守っていてほしいのです。

 あなたにしか頼めないのです」


エルザが真剣に頼み込むと、ルナはお姉様の胸に顔を埋めたまま、

「わかりましたぁ♪ ルナ、お留守番がんばりますぅ♪」

と健気に声を震わせた。


だが、姉の視界の死角から俺を睨みつけるその瞳は、

完全に獲物を品定めする野獣そのもので、脳内にはさらに

容赦のない通信が飛んでくる。


『(おいクソ虫。お前がお姉様の足を引っ張ったり、

 一ミリでもお姉様に危険を及ぼしたら、どれだけ距離が離れてようが

 二度とお天道様を拝めない体にしてやるからな!』


(遠隔攻撃も可能なのかよ!怖すぎるわ!!)


こうして、理不尽な遠隔デスマーチの脅迫を背負わされた俺。

しかし、放っておける案件ではない!

意を決して王城への強行突入作戦を開始することとなった。


――そして、その頃。

あの厳重警戒の王城の片隅では、別件で先に入城を果たしていた

『もう一人のバグキャラ』が、密かに牙を研いでいたのであった。


異世界の住居の記述に関して、時間をかけて丁寧に表現しましたが、

それ以上に、ルナの暴言体質が気に入ってます。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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