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黒銀軍との戦い(その2)


冬の精霊による冷害がまだ及んでおらず、

青々とした草の中にちらほらと小さな花が咲く、

うららかな陽光に包まれたのどかな平野。


そんな本来なら穏やかな旅の情景に

ふさわしい一本道の真ん中に、

不釣り合いなほどの禍々しい

圧迫感を放つ大軍勢が立ちはだかっていた。


黒銀会が誇る最高幹部の一人——

『処刑人ガルガン』


本部の命令により、

王国側から派遣された援軍をローアンに

到達させる前にここで確実に撃滅すべく、

自ら精鋭を率いてこの平原を押さえていたのだ。


平野の街道のみならず、

左右の美しい草原まで埋め尽くすように、

異形の鎧に身を包んだ精鋭兵士や、

魔獣兵、悪魔兵たちが隙間なくひしめき合っている。


ガルガンの胸元には『冬の精霊核』が激しく脈動し、

手にした巨大な『氷結大剣』からは、

咲き誇る花々を凍てつかせ、

せっかくの温かな空気を氷点下へと叩き落とす

漆黒の氷気が立ち上っていた。


「黒銀会に仇なす不埒な鼠どもめ。

 王国の援軍気取りか知らんが、

 ここから先へは一歩足りとも通さん」


ガルガンが大剣を地面に突き立てると、

バリバリと凄まじい音を立てて

平野の青草と石畳が黒い氷で埋め尽くされていく。


視界の限りを埋め尽くす兵士たちも一斉に武器を掲げ、

平野の空気を震わせる地鳴りのような咆哮を上げた。


だが——目の前に立ちはだかる三人の反応は、

それとは大きく乖離していた。


「ひぇ……!

 な、なんかすごそうな鎧マンが

 通せんぼしてるよ、ザード……」


マリーがザードの服の袖をぎゅっと掴み、

小さく身を縮める。


「大丈夫だマリー!

 俺たち、ゲートランド城でもサーマリアの

 夏の音叉の時もそこそこやれただろ……!?

 薬草採取や迷子の猫探しばっかりやってた

 Dランクの俺たちとは違うんだ……!

 ぼ、防御なら絶対大丈夫なはずだ……

 俺には『魔法の木の棒』もあるしな!」


「そ、そうよね! いつもなんとかなってるし!」


二人でお互いに「大丈夫、大丈夫」と

何度も必死に言い聞かせ合う。


実際には世界を揺るがす大事件を

『完璧に』全て解決してきているのだが、

本人たちの自覚はいまだ

『運よくそこそこやれているDランク冒険者』

の域を出ない。


いざ平野を埋め尽くす大軍勢と、

凄惨な気迫を放つ大幹部を目の前にすると、

やはり素で怖いのだ。


そんな二人を見て、

後ろで腕を組んでいたレイスが

柔らかい笑みを浮かべる。


「ふふ、二人とも大丈夫だよ。

 ……ここはボクに任せて」


レイスは二人を安心させるように

優しく微笑むと、静かな足取りで

前に一歩踏み出した。


彼が軽く指を鳴らした瞬間、

平野の青草の上に

広大な漆黒の魔法陣が展開される。


『召喚、スカル・ソルジャー』


カタカタカタ……!

瘴気とともに地面から這い出てきたのは、

100体の漆黒の骸骨戦士たちだ。

整然と列を成し、ガルガンたちに

向かって骨の剣を突きつける。


「フン、所詮は骨の兵隊か!

 この俺の『黒炎氷気』の前では

 無力と知れぇッ!」


ガルガンが氷結大剣を力任せに一閃させる——

その瞬間、大剣が描いた軌跡に沿って

空間そのものがバリバリと音を立てて

亀裂を生んだ。


裂け目となった『時空の狭間』から、

禍々しい漆黒の闇属性魔術攻撃が奔流となって噴出。


空間を削り取る断空の斬撃と、

絶対零度の氷気、そして、

時空の狭間から溢れ出す闇の濁流が合一した

まさに空間断裂&多重属性のハイブリッド攻撃。



ドドドドドカァァァンッ!!



空間ごと切り裂かれた

100体の骸骨戦士たちは、

反撃の隙すら与えられず、

一瞬で闇と氷の渦の中に

呑み込まれて粉々に打ち砕かれた。


圧巻の一撃。平野を埋め尽くす

黒銀軍の精鋭兵士たちから


「おおっ! さすがガルガン様だ!」

「空間ごと消し飛ばしたぞ!」


と割れんばかりの歓声が上がる。


「ハハハ! 見たか!

 この程度の雑魚、

 何体連れてこようが——」


「ふむ……100体じゃ足りないか。

 じゃあ、200体」


レイスが再び指を鳴らす。

瞬間、先ほどを超える密度の魔法陣から、

今度は200体の骸骨戦士が湧き出した。


「な……ッ!?

 ぬうううッ! 壊れろぉぉッ!」


ガルガンは歯を食いしばり、

再び大剣を振るう。


猛烈な氷気と空間断裂が爆発し、

200体の骸骨を綺麗に打ち砕く。


だが、大技を連続で放ったことで、

ガルガンの額にはじんわりと

汗が滲み始めていた。


「よし、じゃあ次は300体」


カタカタカタカタ……!!


「くっ……! まだ出せるというのか!?

 氷結よ、全てを撃滅せよッ!」


ガルガンは魔力を激しく練り上げ、

広範囲の氷気を撒き散らして

300体を強引に消滅させる。


肩で激しく息をつくガルガン。

魔力の消費が激しい。

全身の筋肉が軋み声を上げていた。


だが、レイスの顔には疲労の

「ひ」の字すら存在しない。


「……500体」


「……!? ご、500……!?」


平野の見渡す限りを

埋め尽くすほどの黒い骨の群れ。


ガルガンは目を血走らせ、

胸の「冬の精霊核」から

無理やり冷気を絞り出した。


「うおおおおおッ!

 舐めるなあああッ!!」


必死の咆哮とともに、限界突破の超広範囲攻撃。

500体の骸骨を全て粉砕しつくしたものの、

ガルガンはその場に膝をつきかけた。

荒い息を吐き、視界がチカチカと点滅する。


「(くそ……いつまで続くんだ……!?

 奴の魔力量は一体どうなっている……!?)」


戦慄するガルガンの前に、

レイスが静かな声で告げる。


「じゃあ……1000体」


レイスが超巨大な召喚陣を描く。

ガルガンの顔が絶望に染まりかけた、

——その時。




ぽつん。




「あれ? ……君が出てきたの?」


黒煙の中から現れたのは、

1000体の骸骨軍団ではなかった。


そこにポツンと浮いていたのは、

小さくかわいいふわふわした黒い雲だった。


1000体の召喚陣から、

たった「一匹」しか現れなかったのだ。


麻痺した状態で馬車の下から

戦況を見ていたカゲロウが、脳内で絶叫する。


「(出た!冥界の王……!)」


それを見たガルガンは、

荒い息を吐きながらも、

その顔に歪んだ歓喜の笑みを浮かべた。


「……ハッ! ハハハ……!

 見たぞ……見たぞ!!

 1000体どころか、

 そんなちっぽけな黒煙ひとつしか

 呼び出せなかったな!!」


ガルガンは膝を叩いて立ち上がり、

力任せに氷結大剣を構え直した。


「ハハハハ! 奴も限界だ!

 魔力が底をついて不発に終わったんだよ!

 勝機……! 今こそが最大の好機だぁぁッ!!」


自分の勘違いに歓喜し、

血走った目で突撃の構えをとるガルガン。


その瞬間、ガルガンに生じた僅かな隙を、

マリーは見逃さなかった。


光速移動により、すでにその手の中には

『氷結大剣』を盗み取っていたのだ。


だが、今度はそのマリーの僅かな隙を突き、

プカプカと浮いていた『冥界の王』が手元から

『氷結大剣』を奪い去り、

そのままモグモグと食べ始めてしまった。



パクッ……


モグモグ……ムシャムシャ……バリバリッ!



見た目のかわいさに反して、

ふわふわの黒い雲は空間すら

切り裂く威力を秘めた氷結の魔剣を、

まるで薄焼きせんべいのように

平然と噛み砕いていく。


「俺の魔剣がぁぁぁぁぁぁぁッ!??!?」


「俺の魔剣がぁぁぁぁぁぁぁッ!??!?」


2回言った。

ガルガンは眼球が飛び出さんばかりに驚愕し、

絶叫した。


だが——

彼はただの力馬鹿ではなかった。


「……ふざけ、やがってぇぇぇぇッ!!」


魔剣を失い、魔力も尽きかけた極限状態。

しかしガルガンの眼光から殺意は消えていなかった。


マリーとの距離は約50メートル。

マリーは「あはは、美味しそうに食べてる〜」

と完全に油断し、高見の見物決め込んで隙だらけだ。


「(距離50メートル! 武器を失った今、

 奴らは俺が拳で襲いかかるとは思うまい!

 隙だらけだ!!)」


ガルガンは残された全ての脚力を

地面に叩きつけた。


ドドンッッ!!


爆音とともに平野の土が大きく吹き飛ぶ。

音速を超えた「瞬間移動」と見紛うほどの超速物理移動。

50メートルの距離が一瞬にしてゼロになり、

ガルガンの巨大な拳がマリーの頭上へと肉迫していた。


「死ねぇぇぇッ、小娘ぇぇぇッ!!!」


空気が圧縮され、

衝撃波がマリーの髪を激しく揺らす。


マリーが「え……?」と振り返った時には、

すでにガルガンの拳は目の前まで迫っていた。

完全な大ピンチ——!




その時だった。




「火炎忍法——

 『大蛇の舞』ッッ!!!!」


ズガァァァァァァンッッ!!!!


ずっと馬車の車底に潜み、

機をうかがっていたカゲロウが、

馬車の底板を突き破って猛然と躍り出た!


手から放たれた灼熱の火炎大蛇が、

肉迫していたガルガンの巨大な体を真横から直撃する!


「ぐわぁぁぁぁぁぁッ!??!」


凄まじい爆発とともに、

ガルガンの体は遥か後方へと吹き飛ばされ、

平野の青草の上を何十メートルも

ゴロゴロと転がっていった。


舞い散る火の粉と黒煙の中、

一瞬の隙も与えず着地を決めたカゲロウ。


静かに印を結び、

一切の隙がない鋭い眼光で前方に佇む。


「……ふぅ。

 拙者を忘れて貰っては困るでござる」


「ガ……ガルガン様が撃破されたぞ!!」


「ひ、ひぇぇぇッ!

 怯むな、囲んで殺せぇぇッ!!」


指揮官を失い混乱しながらも、

平野を埋め尽くしていた数千の精鋭兵たちが、

咆哮とともに一斉に襲いかかってくる。


だが、カゲロウは冷徹な眼差しで

忍刀を抜き放ち、静かに宣告した。


「掃討を開始する。

 ……誰一人、生かして帰すな」


その言葉に応じるように、

プカプカと浮いていた小さな黒い雲——

『冥界の王』が膨れ上がり、

圧倒的な神威とともに漆黒の波動を解き放つ。


ザードは『魔法の木の棒』を大上段に構えて突撃し、

ホームランを量産していく。


そしてレイスは、

一切の揺らぎなく穏やかな笑みのまま、

静かに指を鳴らす。


「じゃ、一気に10000体」


マリーが光速で敵の防具や武器を次々と剥ぎ取り、

戦闘不能になったところへ

レイスの骸骨兵が次々と襲いかかる。


圧倒的な蹂躙。

数千の大軍勢はわずか数分と持たず、

破壊的な暴力の前に崩壊した。


そこには凄惨な屍の山が……

出来上がら『なかった』


「はーい、みんなお疲れ様。

 次からよろしくね」


レイスが柔らかい笑みを浮かべながら

優しく声をかけると、つい数秒前まで

殺意を剥き出しにしていた数千の兵士たちが、

一瞬で「レイスの従順な召喚兵」へと上書きされた。

次々と立ち上がり感謝を伝える。


※「いやー、なんて気持ちいいんだろ」

※「何もかも無くなると気持ちも楽になるんだな」

※「体の心配も無用だね。だって死んでるし」

※「おい、この後あの世で飲みにいかね?」

※「俺、無関係なのに巻き込まれたけど

  もうどうでもいいや」


とにかく!


「「「よろしくお願いしまーす♪!!」」」


満面の笑顔になった兵士たちが、

レイスやザードたちに向かって親しげに手を振り、

ペコペコと頭を下げながら、

まるでプールに飛び込むかのように

スーッと地面の漆黒の陣へ吸い込まれて消えていく。


「いやー、実は俺、前から嫌だったんだよ。

 『黒銀軍』って。ダサいじゃん』


「えー、ガルガンさんも?俺もですよー」


そう言いながらガルガン達幹部も土に沈んでいった。



見渡す限りの大軍勢は、

綺麗サッパリ平野から姿を消した。


沈黙を取り戻した平野。

散り散りになる黒煙と温かな風の音だけが響く中、

カゲロウは忍刀を収め、遥か地下都市ローアンの

ある方角を見つめた。


「……ニノ殿、

 待っていてくれでござる」


「と言うか……

 なんでカゲロウさんがここにいるのよ?」



ニノ達はいかに!?

ニノ達はいかに!?

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