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黒銀軍との戦い(その1)


王の間でと王命を受け、

ギルド長オーフェンからの伝言を聞き

城門へと向かうザード達。


大きな大楯と重装甲を誇る

重騎士ザードは、太陽のような笑顔を浮かべて

拳を握りしめていた。


「(地下都市なんて初めてだよ!

 マジでワクワクが止まらないぜ!)」


相変わらずの超楽観主義ぶりだが、

隣を歩くシーフのマリー、

そして死霊術士(ネクロマンサー)のレイスも含め、

この3人が『規格外チート(自覚ゼロ)』

であることは紛れもない事実であった。


だからこそオーフェンは、

この国家規模の危険な大役であっても

彼らなら何の問題もないと確信し、

全幅の信頼をもって送り出したのだ。


すると突然、

城門直前の中庭を通りかかった際、

ザードが腹の底から大声を張り上げた。


「『ゲートランドの城下街のギルドが

 黒銀会をぶっつぶしたぜ!!!』」


「ちょ、ちょっと!?何よ急にっ!?」


あまりの爆音に、

隣を歩いていたマリーが目を丸くして跳び上がり、

反射的にどこからか取り出したハリセンで

ザードの頭をバコンッ!!と叩きつけた。


ザードは痛がる風もなく、

ニカッと爽やかに歯を見せて胸を張る。


「どうせ、俺たちが勝つんだ!

 リハーサルだよ!」


「まだ現地に

 着いてすらないでしょうがっ!!」


頭を押さえて呆れるマリーの横で、

レイスが穏やかに微笑んだ。


「ザードのいつも前向きな所、好きだな」


「だろ? ギルド長が言った通り

『ゲートランドの城下街のギルド』って

 部分を強調して、

 ローアン中に響かせてやるさ!」


各街にギルドが存在するからこそ、

自分たちのホームである

『ゲートランドの城下街のギルド』

の看板を背負って戦う。


——その意味を、ザードは(無駄に)

熱く全身で噛み締めていた。


だが本来、

100のパーティーがあれば100のパーティーが

「絶対に嫌だ」と即座に辞退するのが

『黒銀会』との関わりである。

いざこざなんぞ起こした日には目も当てられず、

ひたすら謝罪の一択しかない恐怖の対象。


地下の利権を独占し、

さらには『冬の精霊』とまで

裏で繋がる巨大マフィア。


国家すら手を出しかねる死地に

自分から首を突っ込もうとしているというのに、

当の3人は己の置かれた状況の恐ろしさを、

誰一人として何一つ理解していなかった。







3人が城門にさしかかると同時に、

ノホホンブレイクのリーダー・カゲロウが、


「拙者も! 拙者も!!

 ニノ殿のもとへ炎上しに行くでござるー!」


と印を結んで馬車に飛び乗ろうとした。



——その瞬間…




ヒュッ!……ブスッ!!


「ぬあッ!!??」


フェアリーのナツちゃん(夏の音叉)が

懐から取り出した竹筒から、

寸分の狂いもなく放たれた吹き矢が

カゲロウの額の真ん中に命中した。


「やかましいわっ!

 あんたはシルエッタさんと私の警護やろが!?

 もう忘れたんか!?」


「ひ、ひどい……! 麻痺毒……!?

 拙者は親友としてニノ殿の助太刀を……!」


「ダメなものはダメッ!!

 それにシルエッタさんは今、

 星脈調律の重要な修行中や!

 そんな暇あるかいな!

 集中力が途切れたらどないすんねん!」


仁王立ちで啖呵を切るナツちゃんの威圧感に、

額に矢を刺したままの忍者カゲロウもぐうの音も出ない。


修行部屋の奥で集中して

星脈を調律する修行中のシルエッタを守るため、

そして「夏の音叉」としての使命を全うするため、

ナツちゃんの判断は完璧に正しかった。


馬車に乗り込んだ3人に向け、

麻痺毒に耐えながらカゲロウが

真剣な眼差しで声を張る。


「現地には拙者の親友ニノ殿がおる。

 まずは合流し、エルザ殿の安全の確保を

 最優先にお願いするでござる。

 あとカゲロウが会いたがっていたと伝えてくだされ」


「あと、よいでござるか?

 まず相手はまともには戦ってこないでござる。

 汚い罠や、策略が必ず裏にあると心得るでござる」


「おう!わかった!任せとけ!」


そう叫びながらザードが豪快に手綱を引くと、

馬車が駆け出した。


頼もしすぎる(?)3人を乗せた馬車が、

ローアンの街を目指して出撃を開始する。


しかし……


「(忍法「馬車の裏に張り付きタダ乗りの術」)」


馬車の出立を見届けた

ナツちゃんは、ふと気付く。


……いや、

本当は薄々分かっていたことではあるのだが。


「……あのバカ忍者、どこ行きよったんや……」


やっぱりそうなるか。

あんな麻痺毒くらいで大人しく引き下がる男やない。


無事に帰ってきたら、

特製吹き矢のフルコースでお出迎え確定やな。


ナツちゃんは呆れ果てたように

大きく溜め息をついた。


だが、

遠ざかる馬車を見送るその口元には、

仲間を想う熱い忍者のバカ正直さを

どこか愛おしむような、

かすかな笑みが浮かんでいた。







一方、地下都市ローアン——

更に地下に続く隠し階段のある小屋の前。


ニノは倒れたエルザの前に立ち、

春の調律を発動させていた。


柔らかく温かな光の粒子が気絶したエルザを包み込み、

傷を癒しながらも外からの干渉を一切寄せ付けない。

「癒しの空間」へと安全に捕縛・収容していく。


「……よし。

 これでエルザの身の安全は確保できた」


『(ずっと眠ったままになるが、

 生きていく上に必要な全ての要素は

 地脈から供給するから大丈夫だよ。

 あと、春の結界で誰にも見えないし、

 触れることもできない。安心して、ルナ)』


そうニノがゲートランド城のルナに向けて

念話で語りかけると、ニノの脳内に

ルナからの返事の念話が響いた。


『(ありがとう!……だけど、

 そんなすごい技いつ覚えたのよっ!?

 それ、自分に使って、いやらしいことを

 してたんじゃないでしょうね!?)』


「誰にも見えない」に敏感に反応するルナ。


『(憶えたばっかだっつーの!!

 …まあ、ちょっと、地獄の修行を受けてね)』


ルナの問いに苦笑混じりで返す。


「ふん、春の調律の贅沢三昧じゃな。

 甘い男よのう。……さて、

 地上で仲間たちが動いてくれている間に、

 わしらは『黒銀会』の

 本当の最下層へ向かうとしようかい」


照紅が煙管の紫煙をくゆらせながらニノの隣に並ぶ。

口では呆れて見せつつも、その眼光はすでに足元——

部屋の片隅に佇む暗い扉、

その先にある闇の奥深くへと注がれていた。


「はい。冬の精霊と密通し、

 この街の闇を仕切る黒幕……

 逃がすわけにはいきませんからね」


ふたりは構成員の供述通り、

その隠し扉を抜けると、

湿った隠し螺旋階段を静かに下りていった。






その頃——

同じくローアンの最深部『黒銀会』本部。


豪華絢爛な執務室の奥で、

黒銀会の会長バルコフは、

部下からの報告を聞きながら

青筋を立てていた。


「——四天王エルザが敗れただと……!?

 スラムのアジトまで跡形もなく

 破壊されただとぉ!?それに…

 王国からの増援部隊とは!!なめやがって!!

 完全に戦争をふっかけてきやがった!!」


『冬の精霊』の力を借り、

国家すら容易に手を出せない

絶対の暗黒街を築いてきた黒銀会にとって、

結成以来最大の屈辱であった。


バルコフは葉巻きを床に叩きつけると、

血走った眼で部屋の暗闇に向かって命じた。


「『黒銀軍』と『冬の軍』を今すぐ全員動員だっ!!

 最下層へ降りてきた奴らの首を跳ね、

 王都から向かっている増援部隊も挟撃しろ!」


両方の戦場へ、黒銀会の精鋭兵と

同盟国の冬の精霊率いる異形の軍勢という、

二つの絶対的な兵力を同時に差し向ける——。


バルコフは狂気に満ちた笑みを浮かべ、

咆哮するように言い放った。


「アジトを破壊した奴らも、

 増援部隊も全て叩き潰してやる……!

 俺たちに歯向かうとどうなるか、

 その身に刻んで教えてやれ!!!

 そいつらを片付けたら王都に向かうぞ!!」


漆黒の影たちが一斉に掻き消える。


最下層へ向かうニノと照紅、

そして街道を駆け抜ける馬車へ向け、

黒銀軍と冬の軍による最凶の刺客たちが

一斉に解き放たれたのだった。






長年の湿気と不吉な魔力に晒されて

苔むした石段を抜けた先。


ニノと照紅の視界が一気に開けた。


「……なんじゃ、この広さは……」


照紅が息をのむ。


眼下に広がっていたのは、

地下都市ローアンのさらに底に隠された、

もう一つの膨大な地下空間だった。


中心に鎮座するのは、

地上と見紛うばかりの豪華絢爛なバルコフの屋敷。

そしてそれを囲むように、同じような無機質で

質素な建物が無数に立ち並んでいる。

牢屋か、あるいは軍の待機場か……

まさに黒銀会と同盟国の悪行が

凝縮された巨大な軍事要塞であった。


「……想像以上ですね。

 黒銀会の本当の姿は、

 ただのマフィアではなく

 完全な『軍隊』だ」


ニノが眼下の全貌を

見下ろしながら呟いた、その時——。



ジャキッ……! ガシャンッ!!



重々しい金属音が地下空間全体にこだました。


広場に立ち並ぶ無数の建物の鉄扉が一斉に押し開かれ、

松明の火光が暗闇を赤く染める。


「ネズミどもが、

 よくぞここまで降りてきた……!」


広場の奥、高台から見下ろすのは、

黒銀会の『大将アズブル』


冷酷な眼光を光らせる彼の脇を固めるのは、

異形の氷化兵士と重装甲の私兵部隊——

その数、およそ五百。


「ここが貴様らの墓場だ!!

 皆の者!決して生かして返すな、叩き潰せっ!!」



更新が早いですか?

そりゃ仕事中に…いえ、何でもありません。

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