表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
45/58

来たけぇ!異世界!!


「……紅葉、秋丸……後は任せたぞ」


照紅は、紅葉と秋丸に向き合い静かに別れを告げた。


「姐さん、絶対帰ってきてくださいよ……」


ポロポロと涙を溢れさせながら、

紅葉がすがりつくように呟く。


「……やっぱり俺もお供させてください!」


秋丸の顔は必死だった。


自分がココに残ることに、どうしても納得がいかない。

もし異世界で姐さんになにかあったら、俺は生きていけない。

命をかけて盾になる覚悟も、足を引っ張らない自信もある。

それは秋丸なりの、捨て身の覚悟の言葉だった。


だが——


「アカン」


照紅は短く、

けれど決して覆らない強さで首を横に振った。


ゲートランドの惨状を思えば、玩秋組のご先祖様のためにも、

この世界の玩秋組の組員を全員連れていきたい気持ちはある。


だが、伊藤のようなゲスが現れたように、

こっちの世界もまた、絶対に守らなければならない

大切な居場所になってしまったのだ。


「自分のシマ(居場所)を守るんも、

 組員の立派な務めじゃ。頼れるんは、

 お前ら二人しかおらんのよ」


照紅はそう言うと、固く握りしめられたふたりの手を、

温かく包み込むように強く握り返した。


「絶対冬のを退治してこっちに戻ってくるけぇ。

 それまで、ココをよろしくな」


「姐さん!!」


紅葉も秋丸も堪えきれずにボロボロと涙を流し、

照紅の手を強く、強く握りしめた。

姐さんの決意が揺らがないことを知っているからこそ、

その拳に自分たちの魂を乗せるように。


そして秋丸は、ぐっと涙を拭うと、

ニノの方を向き直って深々と頭を下げた。


「ニノ兄さん! 姐さんを……

 姐さんをよろしくお願いいたします!」


「ああ、任せとけ!」


ニノが秋丸の肩をガシッと掴み、力強く頷く。



「紅葉。ちょっとええか?」


「は、はい?」


照紅は紅葉を呼んで少し離れる。

何かを伝えているようだ。

紅葉の表情より、何か指示を受けているように見える。



ニノはこちらの世界に飛ばされた時の装備を装着し、

いつでも準備万端である。

照紅は……コハルの時と同じだ。

『絶対このままや!ワシのポリシーやけぇ!!』

そのままの服装で行くそうだ。


「ではいくで!!!!」


照紅が掲げた『時空石』の青い光に照らされた壁に、

異世界——ゲートランドへの道が繋がった!


「よし!」


ニノと照紅は光の回廊の中へと飛び込む!!


光を抜けた先——降り立ったのは、

かつて交易で栄えた大都市ゲートランド。


ではなく……


「ついに! ついに!つ・い・に!!!

 来たで!! ゲートランド!!!」


照紅は興奮のあまり、すでに魔法陣を2つ描き、

火の玉を多方向に無差別連発している。


「ちょ!!? 照紅師匠、

 落ち着いてください!!」


ニノが慌てて照紅の袖を引っ張って止めながら、

3つの魔法陣からの結界で火の玉の被害を防ぐ。

『魔法陣(魔力)の無駄使い』

この国の魔導士が見たら卒倒しそうなシーンだ。


「すまんすまん、つい興奮しもーてな♪」


照紅は煙管をふぅーっとくゆらせ、

一旦深呼吸して周囲を見渡した。


「…??…で、ここはどの辺りや?」


周囲の知らない山脈や雄大な湖を見回しながら、

ニノも首をかしげる。


「俺も知らない場所ですね……」


「とりあえず歩くか。街か村でもあるじゃろ?

 あっちに煙が上がっとるみたいやな」


煙を目指して歩き出した二人だったが、

その道中は決して平穏ではなかった。


ゴツゴツとした岩場や雪交じりの荒野から、

次々と凶悪なモンスターが襲いかかってくる。


しかし、覚醒したニノと照紅の敵ではない。

照紅のキセル一閃と、ニノが繰り出す

春の調律による攻撃魔術の前に、

群がる魔物たちは一瞬で塵へと変わっていく。


特に何の問題もなく、

二人は煙の上がっていた村へと辿り着いた。




だが、村の入口に立った瞬間、

二人は足をとめ、その異変に気づく。


「この村、結界に守られてません?」


「……この結界……

 『陽だまりの残響レゾナンス・サンシャイン』の……小型版か?」


目の前には、薄青く光る繊細な膜が

村全体をすっぽりと覆っていた。


そう、この村の名は『スノーフレイク』。

なんと大陸の北半分を支配する『冬の帝国』の

中央より少し南に位置する場所だった。


極寒の死地にありながら、ここだけが唯一、

人間が生き残っている極秘の集落。


強力な結界に守られているとはいえ、

一歩でも外に出れば命の保証はない。


そのため、ここの村人たちは何百年もかけて

地下通路を掘り進め、冬の網をかいくぐって

各地との交易をし、生活を成り立たせていた。


周囲の凍てつく空気と、

遠くに見える冬の帝国の禍々しい城郭を見上げ、

照紅はポカンと口を開けた。


「……これは……

 完全に反対方向に出てしもた」


「へ?」


照紅の衝撃の一言に、

ニノは思わず素っ頓狂な声を上げた。




村の中に入ると、ニノはすぐに違和感を覚えた。

家々の灯りは薄暗く、行き交う村人たちの顔には

まったく活気がない。誰もが疲弊し、

暗く沈んだ表情で怯えるように足早に通り過ぎていく。


「まあ、向こうで変態の相手して疲れたけぇ。

 今日はこの村で休むか」


「はい、照紅師匠」


二人は村の静かな酒場の隅に腰を下ろし、

温かい汁物を口にしながら今後の作戦を練り始めた。


「とりあえずは、外を通るのは危険やし、

 とにかく寒いけぇ。この村からの地下通路を使って、

 大陸南東端の「秋の街『オータムリア』」を目指す。

 そこで、こっちの玩秋組を頼るのがベストやな

 この地図の通りやけぇ」


照紅が酒場で借りた地図を指差しニノに説明をする。

挿絵(By みてみん)

「とりあえずゲートランドの国境まで地下通路で行ければ、

 あとは地上で向かえば大丈夫やと考えとるが。

 とりあえず途中で立ち寄るならサーマリアか…」


照紅の言うことは正しいというよりは、

「それしか方法がない」のが現状であり、

ニノにも異論はなかった。




夕飯もそこそこに切り上げ、

宿へと向かおうと立ち上がった二人だったが、

そこへ一人の老人が藁にもすがるような眼差しで

声をかけてきた。


「……すみませんが、旅のお方かな?」


「……まあ、そうですが」


ニノが応じると、老人は深く頭を下げた。


「旅のお方全員にお話しさせていただいておる。

 どうか力になってくれませぬか?」


「??」


怪しむ二人に、老人は声を潜めて

村の悲痛な現状を語り始めた。


このスノーフレイクの地下には、

網の目のように細い小道が枝分かれした、

迷えば命取りになる危険な大ダンジョンが広がっている。


だが、大きく分けると、全ての道は3つの方向——

『南西』『南』『南東』へと向かっているのだという。


「実は……地上への隠し出入口の一つが

 冬の軍に見つかってしまいましてな。

 『南東』ルートが完全に制圧され、

 日に日に村へ向けて進軍されているのです」


「他国に応援を呼びたいのだが、

 狭い地下穴を通って来ねばならず、

 まとまった規模の軍が援護に来るのは

 ほぼ不可能な状態……

 村はもう、限界なのです」


「そうか、そりゃ厄介やけぇ」


「照紅師匠?」


「ワシらが目指すのは、

 その『南東』じゃけぇの」


「はぁ……」


思わぬ偶然にニノが溜息をつく中、

照紅は煙管の灰を落とし、老人に向き直った。


「では、おじいさん、

 冬のはどれくらいの規模かの?」


「洞窟の中だけにはっきりとはわかりませんが……

 先頭の進軍位置から見通すに、

 兵隊数が二千~三千といった所でしょうか……」


隣でこの話を聞いていた酔っ払いの村人が、

自暴自棄になって叫び出した。


「もう終わりだ! この村はもう終わりなんだよ!!

 地下から進軍され、結界を出て逃げれば

 外の魔物の餌食! 軍隊も来やしねぇ!!

 もう八方塞がりなんだ! 死を待つしかねーんだよ!」


「そうだ! なんで軍隊は来てくれないんだ!」


「お前ら旅人もついてないな!

 こんな時にココに来るなんてなっ!!」


酒場中に充満する絶望と怒号。

怒り、諦め、悲鳴が交錯し、

店内の騒然とした雰囲気がピークに達した、

その時だった。


「大丈夫。楽勝やけぇ」


照紅のポツリと言い放った一言に、

酒場の空間が一瞬ピタリと静まり返る。


だが、次の瞬間、

村人たちの怒りは一気に二人へと跳ね返った。


「たった二人で何ができるってんだ!!」


「そうだ!」


「いい加減なことを言って茶化すんじゃねえ!!」


怒声が飛ぶ中、照紅は煙管をふぅーっとくゆらせ、

指先を軽く立てた。


「ワシは『秋の星脈調律師』、

 こいつは『春の星脈調律師』やけぇ。

 ……これでも不安か?」


照紅の人差し指の先で、

精巧で小さな魔法陣がクルクルと器用に回転する。

それに応じるように、ニノも半分冗談めかして

自分の頭の上にパパッと4つの魔法陣を重なるように描き出し、

呆然とする村人たちに「ニコッ」と微笑みかけた。


本物の『星脈調律師』でなければ不可能な、

あまりにも軽やで、鮮やかな魔力の乱舞。


その瞬間——酒場を支配していた絶望と怒号は、

地鳴りのような歓喜の叫びへと一変した!


「助かる……助かるぞ!!

 精霊様は俺たちを見捨てていなかったんだ!!」


「伝説の調律師様が……二人も!?」


「おい、俺、家族を呼んでくる!!」


「俺もだ! みんなに伝えなきゃ!!」


「…すみません。サインと握手、いいですか?」


狂喜乱舞する村人たちを横目に、

ニノは生まれて初めてのサインに戸惑いながらも

なんとかうまく書けたようだった。

照紅は「しょーく」とまんまのサインだった。





こうして、

異世界スノーフレイクでの夜は更けていく。





——翌朝。


村人総出の見送りを受け、

ニノと照紅は地下洞窟の

『南東ルート』へと足を踏み入れた。


狭く暗い岩肌の通路を進むにつれ、

生ぬるい空気は一変し、

肌を刺すような刺々しい冷気が漂い始める。


「冷気が強くなってきたな。……近いぞ」


「はい」


ニノが低く答えると同時に、

前方の空間が急激にひらけた。


そこは地下に広がる広大な大空洞。

そして、二人を見下ろすようにひしめき合っていたのは——

白銀の鎧を身に纏った氷の兵士と、凶暴な冬の魔物たち。


その数、およそ三千。


「ヒヒッ……人間が二人、死にに来たか!」

「ウォォォォーーーーーン!!」

「踏みつぶせっ!!」

「凍らせてしまえっ!!」

「八つ裂きだっ!!」


狭い空洞に、

数千の敵が放つ激しい殺気と不気味な咆哮が木霊する。

まさに圧倒的な数の暴力。


しかし、ニノと照紅の表情には、

恐怖の色の欠片すらなかった。


照紅は煙管の灰をトントンと高下駄の裏で落とし、

チラリとニノに視線を向けた。


「ニノ、できるよな?」


照紅の顔が、怪しく微笑む。


この微笑みが出た時は、

無理難題を押しつけられる時の顔。


照紅の下で死ぬ気で「秋」を叩き込まれた

激しい修行を乗り越えてきたニノには、

それが完全に把握できている。


「できますよ。当然。

 一度見せて貰いましたし、十分です」


「言うようになったではないか!

 いくぞっ!」


照紅が不敵に口角を上げると同時に、

二人の全身からけた外れの魔力が爆発した!


地脈が激しく脈動し、

暗闇の地下空洞が一瞬で赤い光によって眩く照らし出される。

照紅の圧倒的な威圧感に呼応し、ニノの体内に眠る魔術回路が

激しく共鳴していく。


言葉を失い、固まる数千の敵軍を見下ろし、

二人は同時に踏み込んだ。


「『弐陣奏環(にじんそうかん)「秋」 絢爛神楽(けんらんかぐら)紅葉狩り(もみじり)』!!」


「『弐陣奏環(にじんそうかん)「秋」 絢爛神楽(けんらんかぐら)紅葉狩り(もみじり)』」


師弟による、奇跡のダブル・ユニゾン。





ドガァァァァァァァァァァンッッッッッ!!!!!!




赤と黒の極大衝撃波が二重の渦となって重なり合い、

爆風となって地下空洞を突き抜けた。


「ひ、ひぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」


「な、なんだこの威力はぁぁぁぁっ!?」


三千の冬の軍勢は、反撃の暇どころか叫ぶ間もなく、

旋風のごとき紅葉の光に飲み込まれていく。


氷の鎧も立ち塞がる障壁もあっけなく粉砕され、

極寒の冷気など跡形もなく吹き飛ばされた。


ドゴォォォン……!


爆煙が吹き抜け、静寂を取り戻した洞窟。

先ほどまで通路を埋め尽くしていた数千の敵群は

たった一撃で消滅し、遥か奥まで続く一本の

南東ルートが真っ直ぐに開かれていた。


静まり返った洞窟の中に、

照紅が煙管から紫煙をふぅーっと吹き出す音が響く。


「(……伊藤の屋敷で一度見せただけの最終奥義を、

 一見でモノにしおったか。まさかとは思ったが……

 想像以上のチートぶりじゃな)」


照紅は心の中でニノの恐ろしい才能に舌を巻きつつも、

表には出さずに不敵な笑みを浮かべた。


「……フッ、完璧な『秋の調律』じゃ。

 叩き込んだ甲斐があったわ」


「へへ……照紅師匠の地獄の修行に比べたら、

 これくらい余裕ですよ」


ニノがニッと笑うと、

照紅は満足そうに口角を上げた。


冬の軍勢の脅威を粉砕し、

南東ルートの道を完全に奪還した二人。


オータムリアへ続く反撃の進軍は、

ここからさらに加速していく。


みなさん、後書きって書いてないデスネ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ