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夏の星脈調律師誕生!?


無事にゲートランド王国へと

帰還を果たした『ノホホンブレイク』の一行。


「……なるほど。エルザ殿が、

 深冬邪党の四天王『漆黒の勇者』に……」


重厚な王の間。


カゲロウたちからの悲痛な報告と

回収された『夏の音叉』を前に、

国王代理グラッドは受けたショックを隠しきれず、

深く苦々しく眉をひそめる。


「まさかエルザがそのようなことに……。

 一体、彼の地で何が起きたというのだ……」


深い痛惜の念を滲ませるグラッドは、

ふと傍らに立つルナへ視線を向けた。


大好きな姉が敵の四天王となってしまったのだ。

その心理的ショックは察するに余りある。


「……ルナ殿、大丈夫か?」


心配そうに声をかけるグラッドに対し、

ルナは、悲しみを振り払うかのように強く澄んだ瞳で

まっすぐグラッドを見つめ返し、深く頷いて見せた。


言葉にせずとも、姉を必ず取り戻すという

強い決意がその瞳から伝わってくる。


「……うむ。その意気だ。エルザを救うためにも、

 まずはエルザの心を侵している『闇』の除去を

 『夏の精霊様』にお力添えいただかなくてはならぬ」


「今後『夏の精霊様』を救出した際は、

 精霊様に絶え間なく魔力を供給する者が必要不可欠となる

 ……即ち『夏の調律師』を選定せねばならんのだ」


グラッドの言葉に、周囲の緊張が高まる。


「ただし、調律師となれば一生をかけて

 精霊様に魔力を捧げ続けるという重責を負うことになる。

 誰にでも務まるものではないが……」


グラッドがノホホンブレイクの面々を見渡す。


最初は、夏の精霊を崇拝する集団『常夏衆』の一員として、


「滅相もないでござる! 拙者のような者が

 引き受けたらバチが当たる!」


と異常なまでに恐縮し、

辞退のポーズをとっていたカゲロウであった。


しかし——グラッドの言葉が終わるや否や、

カゲロウはそっと拳を握りしめ、

いつになく真剣な表情で一歩前へ踏み出した。


「……グラッド殿」


「なんだ?カゲロウ?」


「……エルザ殿との戦いで、

 拙者は己の未熟さを痛感したでござる。

 拙者の不甲斐なさのせいで、エルザ殿を

 正気に戻すことも叶わなかった……」


カゲロウの脳裏に消え去ることのないトラウマ——

全裸でドヤ顔で「整い」をアピールした挙句、

冷酷なビンタ一発で雪山に逆さに突き刺さったという、

あの大惨敗の記憶が蘇っていた。


(全裸で負けるなど……忍びとして、

 常夏衆として、これ以上の恥辱はないでござる……っ!)


どうやら、あの全裸敗北はカゲロウのプライドに

相当重く響いているらしい。意外である。


しんみりとした空気が広がる中、

カゲロウはまっすぐな眼差しでグラッドを見つめた。


「『夏の精霊様』のみならず、

 調律師の力が皆の役に立てるのなら……

 拙者が調律師になろうと考えておる」


己の未熟さを埋めるための、

あまりにも真摯で重い覚悟。


ザードたちも軽々しくツッコミを入れられず、

カゲロウの背中に静かな敬意を抱く。


グラッドはカゲロウの覚悟を温かく受け止め、

深く頷いた。


「……気持ちはわかった。その覚悟、実に見事である。……

 だが、調律師の重責は一生ものだ。

 一旦はよく考えよ」


「まずは王国が極上の温泉旅館を手配する。

 3日ほど休暇を与えよう。旅の疲れを癒やしつつ、

 じっくり己の道を見定めるがいい」


「ギルド長オーフェンにはコチラから伝えるので、

 思い切り羽を伸ばしてくるが良い」


「お、温泉旅館でござるか……!」


「温泉旅行だぜ!」

「やったー!」と、

はしゃぐザードとマリー。


こうしてノホホンブレイク一行は、

グラッドの手配した王国屈指の老舗温泉旅館

『湯けむり亭』へと向かうことになったのだった。





ゆらゆらと湯煙が立ち上る、

豪華な岩造りの女湯大浴場。


「ふあぁぁ〜……生き返るわねぇ〜♡」


豊満な肢体を惜しげもなく湯船に沈め、

シルエッタがうっとりと吐息を漏らす。


お湯に浮かぶ豊かな胸元と、

湯気になじむなめらかな肌が何とも艶やかだ。


「シルエッタ、やっぱり胸大きいね……すごーい」


となりでバシャバシャとお湯を弾かせながら、

マリーが感心したように目を輝かせる。


マリーの健康的なプロポーションと、

シルエッタの包容力あふれる大人の色香が、

湯煙の中で鮮やかな対比を描いていた。


「もう、マリーさんったら恥ずかしいわ♡

 でも、旅の疲れがすーっと溶けていくみたい……」


「ほんとね! カゲロウさんは男湯で

 サウナに篭ってるみたいだけど、大丈夫かな?」


「ふふ、カゲロウさんのことだから、

 きっと『水風呂で整うでござる!』なんて言いながら

 極限まで自分を追い詰めているんじゃないかしら?」


クスクスと微笑み合う二人。





……一方、壁一枚隔てた男湯では。


二人の予想通り、カゲロウが

『サウナ15分・水風呂3分』のセットを

黙々と繰り返し、修験者のような目つきで

己の肉体と精神を限界まで研ぎ澄ませていた。


ザードもそれを真似し「これは、いい修行だぜ!」と

脳筋を全開に発揮して汗を流している。


ただ、今回も新たな発見があった。

レイスの隣で湯船に浸かりくつろぐ

『冥界の王』を目の当たりにし、

カゲロウは驚きを隠し得ない。


「(ゆ、幽霊も温泉につかるのでござるな……)」


「(ニノ殿、コハル殿をはじめ、

 ノホホンブレイクの面々……

 拙者は完全に『井の中の蛙』であった」

 

「たぶん世の中はもっとすごい者が沢山いているのであろう……

 見聞を広げることも、調律師には欠かせないでござるな……!)」



——カゲロウは完全に勘違いをしている。



彼が短期間で出会ったのは、

仮に例えるなら

『この世界のトップ1〜10位以内に

 君臨する規格外のチート猛者』たちばかりなのだ。

それも全て「偶然に」だ。

世の中がこんな奴らだらけなわけがない。


だが、そんな真実を知る由もないカゲロウは、

一人で深く納得して妙な悟りをひらいていたのであった。






温泉街での最終日。


カゲロウはすっかり晴れやかな顔で、

お土産屋の店頭に立っていた。

自分はもう『夏の調律師』になる気満々である。


「うーむ、調律師としての

 自覚を高めるためにも……!」


カゲロウが真剣な面持ちで購入したのは、

職人に金文字で『夏の星脈調律師』と

彫ってもらった記念の木の短剣と、

休暇を下さったグラッドへの

感謝のお土産『特製温泉まんじゅう』であった。


「これでグラッド殿への

 恩返しも完璧でござる!」


と満足げに頷いていたカゲロウだったが——

購入して間もなく、温泉まんじゅうを

隣を漂っていた『冥界の王』によって、

いつの間にか「むしゃむしゃ」と美味そうに

全滅させられていたのだった。


「ああっ!? 拙者の

 温泉まんじゅうがーっ!?」


またまた新たな発見である。

「(ゆ、幽霊も温泉まんじゅうを

 食すのでござるな……)」





そして——約束の3日後。


豪華な温泉旅館で心身ともに極限まで「整い」、

全裸敗北の傷を完璧に癒やしたカゲロウが、

晴れやかな顔で再び王の間に参上していた。


まんじゅうは失ったものの、

懐にある木の短剣の重みを誇らしく感じながら。


カゲロウはビシッと羽織を正し、

力強い眼差しでグラッドを見据える。


「グラッド殿! 3日間の温泉での熟考を経て、

 拙者の考えは変わらないでござる!

 それがし、一生を捧げて『夏の調律師』

 になる決心がつき申した!!」


「よくぞ申した!!

 皆の者!これより『夏の音叉』を使い

『夏の星脈調律師の儀』を執り行う」


グラッドの合図とともに

『夏の音叉』が置かれている祭壇の周りに

幾重にも魔法陣が描かれていく。


神聖な光が部屋を満たし、

そこにいる全員の脳内に直接、

音叉の神秘的な声が響き渡った。


『……あなたは、夏の星脈調律師になることを望みますか?』


すっと緊張が走り、

少しの間を置いてカゲロウが誇らしげに叫ぶ!


「望みます!」


……。


謎の沈黙…

静寂が漂う…


『……あなたは、夏の星脈調律師になることを望みますか?』


「望みます!」


再度答えるカゲロウ。しかし……。


……。


2回目の謎の沈黙。

王の間に気まずさが押し寄せる。


『……あなたは、夏の星脈調律師になることを……』


「望みます!」


問いかけの途中、

我慢できずに食い気味に被せて答えるカゲロウ!


その瞬間——。


『お前にゆうとるんちゃうわっ!!!!』


急に関西弁になり

ブチギレる『夏の音叉』。


『なんでお前みたいな訳分からん奴を

 調律師にせなあかんねん!?

 夏の精霊様にウチがめっちゃ怒られるわ!』


『ほんま頼むで、空気読めや!

 しかもお前、この間全裸で冬の奴に負けた奴やないか!

 そんな弱い変態はいらんわい!!』



「……えっ?」


「(拙者、現在、正常に思考回路が回らないでござる!

 自覚できるでござる!)」


あまりの絶望と衝撃に、

ガタガタと全身を激しく震わせるカゲロウ。


そのショックの拍子に、懐からコロンと

お土産の木の短剣が床へと転がり落ちた。


そこには、店主の職人が思いっきり勘違いして

彫り上げたのであろう、

金文字の痛々しい誤字が刻まれていた。


『夏の不整脈注視』


顔面を蒼白にし、己の不整脈を注視しながら

絶望するカゲロウを完全スルーして、

音叉のブチギレ声が王の間に響き渡る。


『ウチはそこの神官さんにゆーとるんや!!』


まさかのシルエッタ逆指名。


「「「「「ええーーーーっ!?!?」」」」」


神聖な儀式の台無し感とともに、

王の間は驚愕の渦に包まれるのだった——!


少しでも笑ったら、あなたの負けです。

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