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エルザとの対決(その2)


ここはサーマリアへと続く街道沿いの山道。


「(な、なにがあったでござる……!?

 エルザ殿のこの圧倒的な冬の魔力は……っ!?)」


異様な冷気によって街道全体が

真っ白な白銀の世界へと変貌していた。


道の中央で黒馬に跨がり、

進路を完全に塞ぐ形で佇む一人の女性,——エルザ。


その黒馬の足元には、

恐怖のあまり泡を吹いて気絶し、

冷気でカチコチに固まった山賊の

ボスが哀れに転がっている。


そして、

エルザと対峙するように数メートル手前で立ちすくむのが、

カゲロウたち『ノホホンブレイク』の面々であった。


「まさかの偶然、

 エルザ殿、ご無沙汰してるでござる」


「みんな、この方がルナ殿の姉君、

 エルザ殿でござる」


「「「「えっ!?」」」」


今回のクエストの目的である「ルナの姉」が

いきなり目の前に現れ、驚く4人。


『闇堕ち』しているとは聞いていたが、

これほどの威圧感とは…


立ち枯れた木々が氷像と化し、

足元から骨を刺すような寒気が伝わってくる

その異様な圧迫感に『ノホホンブレイク』の

面々は立つのがやっとであった。


「来たか……」


氷煙を纏いながら、

エルザが冷徹な眼差しをカゲロウたちに向ける。

そして、漆黒の甲冑を鳴らしながら尊大に言い放った。


「我は深冬邪党みふゆじゃとう 四天王——

 漆黒の勇者エルザ。……それが『夏の音叉』だな。

 大人しく渡せば、この愚者の命は助けてやる」


「人質の解放が先でござる!!」


「(し、四天王でござると……?

 近衛兵のエリートだったとはいえ、

 なぜこの短期間でそんな大幹部に……!?)」


エルザの予想外すぎる出世に、

心の中で動揺が隠せないカゲロウ。

しかし、今は動揺している場合ではない。

目の前の命と音叉を守るべく、

即座に思考を切り替えた。


「…音叉が先だ」


エルザの冷酷な指示に従うかのように、

カゲロウはそっと地面に『夏の音叉』を置くと、

両手を挙げてゆっくりと後ろへ後ずさった。


「フッ……聞き分けが良いな」


エルザは馬から降り、

ゆっくりと音叉へ歩み寄ると、それを拾い上げた。

手の中に収まる確かな重み。これで任務完了。



——そう思った、その瞬間であった。



「はいっ♡」



「……なにっ!?」



エルザの手の中から『夏の音叉』が消えていた。

驚愕して顔を上げると——


いつの間にかカゲロウの後ろに立ったマリーが、

『夏の音叉』と、気絶して倒れていた山賊のボスを

両脇に軽々と抱えてニッコリと微笑んでいた。



「(な、何が起こったのだ……!?

 まったく気配も姿も見えなかった……!!)」



目の前の現象が理解できず、

四天王であるはずのエルザがひどく狼狽する。


そんなエルザに対し、

マリーはフッと不敵に口角を上げた。


「隙だらけねっ!♡」


「(ちがうでござる!

 エルザ殿が隙だらけなのではなく、

 マリー殿が光速すぎるのでござるーッ!!)」


冷静な表情のまま、

カゲロウが心の中で全力のツッコミを入れる中、

エルザはすんでのところで冷徹な顔を作り直した。


「……まあ良い。

 音叉も山賊も最初からどうでもよい。

 ……お前たちさえここで始末できればなっ!!」


エルザが手から巨大な氷剣を生成し、

殺気を爆発させる。


だが、人質も音叉も安全に回収された今、

カゲロウもまた腰の刀を鞘走らせ、一気に踏み込んだ!


「忍法——『温泉のやすらぎ』!!」


技の名前からは想像できない

超高熱のお湯で形作られた巨大な刃が

エルザに向かって鋭く放たれた!


「くっ……! 」


エルザは瞬時に氷の剣でそれを受け止め、

蒸気を撒き散らしながら弾き返す。


だが、カゲロウはすでに次の動作へと入っていた!


「忍法——『サウナの渦』!!」


「火・水・風」の三属性を同時に練り上げ、

巨大なサウナの熱気竜巻を形成する新技!

ゲートランドの三王子との対決をヒントにした新技である。

竜巻の渦の中心で整うための忍術ではない!(本人談)


まさかの複数属性の竜巻がエルザを襲う。


まさか三属性を一気に操るとは…

カゲロウを少し甘く見ていた自分に渇を入れるかのごとく


「はっ!」


これもエルザが剣で弾く。



カゲロウは攻撃の手を緩めない。


忍法

「温泉!」

「サウナ!」

「温泉!」

「サウナ!」

「温泉!!」


隙間なく次々と繰り出される怒涛の熱気忍術!

激しい攻防のさなか、エルザは冷徹に刃の軌道を見極め、

反撃の好機とばかりに不敵な笑みを浮かべた。


「(……ふっ、見切った!)」


エルザがカゲロウの技を完全に見切り

氷の剣を一閃しようとした——その瞬間であった。





エルザの動きがぴたりと止まる。





静寂が支配する世界。





エルザは目の前で起きたあまりにも奇怪な異変に気づいていた。





これは何かの間違いかと、自分の目を疑った。





カゲロウの攻撃が繰り出されるのと同期して、

カゲロウの装束が順番にパージ(脱衣)

されていっている!


羽織が飛び、

上着が弾け散り、

袴が脱げ去り——。



「何……だとっ!?」



四天王エルザが初めて見せる大混乱と絶句。


怒涛の脱衣によって完全なる全裸となったカゲロウは、

どこか若干嬉しそうな表情を浮かべ、自信満々に胸を張った!


「ふっ、エルザ殿と戦いにこの技を使うのは

 不本意極まりないでござるが、

 少々痛い目を見て貰うことになるでござる!

 申し訳ないが、エルザ殿の弱点はすでに

 見抜いているでござる!」



「……何?」



「エルザ殿の弱点は、

 ずばり『純粋な乙女の心』でござる!!

 今まで拙者は何度もエルザ殿の目の前で

 全裸になってきた……しかし!」


「拙者に一度も視線を向けたことがないことを

 拙者は気づいていたでござるぞっ!!!!」



「な……何を馬鹿なことを……!?」



四天王エルザの冷徹な顔が、

生まれて初めて困惑と恐怖で歪む。


「何度も言うが、拙者も不本意!しかしっ!

 これしか方法がないでござる! ではまいる!!」


「くっ……! 近寄るな変態!!」


全裸のまま至近距離の近接戦へ持ち込むカゲロウ!

自身の放つ『サウナの渦』で極限まで火照った体に、

エルザの放つ絶対零度の冷気が肌を刺す。


「(あ……サウナで火照った全身に、

 この冷気……水風呂代わりに最高に

 『整う』でござるぅぅ……)」


全裸で「整い」の快感に浸るカゲロウの変態的奇行に、

エルザの堪忍袋の緒が完全にぶちりと切れた。


「へ、変態っ!!!!」


——パーーーーーーッンッ!!!!


山道に極めて快調かつ壮絶な

「手ひらの一撃ビンタ」の音が響き渡った。


常夏衆筆頭と深冬邪党四天王の戦いの

決まり手は「ビンタ」であった。




「ぶへあぁぁぁっ!?」


冷徹な激怒を乗せたエルザのビンタが

全裸のカゲロウの頬を直撃!


せっかく整いかけていたカゲロウは、

一直線に雪山へ吹き飛ばされ、

頭から豪快に突き刺さって沈んだ。



「きゃあ〜っ!?

 カゲロウさん、なんて格好を〜っ♡」



後ろで見守っていたマリエッタは

「あらあら♡」と両手で顔を覆って

恥ずかしそうに身をよじる。


一方、そのとなりのマリーもまた

「いやーん! 見ちゃダメー!」

と両手で必死に顔を覆っていた……が、

指のスキマは完全開放状態。

カゲロウの全裸をガン見していた。


「ハァ……ハァ……

 不愉快極まりない……!」


全裸変態の奇行によってペースを完全に乱され、

苛立ちを隠せないエルザ。


そこへ、大盾で防御しながら、

魔法の木の棒を構えたザードが前へ踏み出した!


「お前……ルナのねーちゃんなんだろ?」


ザードの叫びに、エルザの眉がピクリと跳ねる。


「おい! ルナがずっと心配してんだぞ!

 さっさと目を覚まして一緒に帰るぞ!!」


「……フン、ルナの知り合いか。

 だが今の私は冬の四天王エルザ……

 昔の私など、とうに捨てた」



音叉も山賊も奪い返され、

何より全裸変態のせいで戦意を大幅に削がれたエルザは、

冷たく一蹴すると黒馬に跨がった。


「今日のところは退いてやる。

 ……だが『夏の音叉』は必ず手に入れる

 ……あと…カゲロウは、次、必ず〇す」


氷煙が巻き起こり、

エルザの姿が風とともに掻き消える。


……負けたのではない。

ダメージを負ったわけでもない。

まだ戦えるはずなのだ。


しかし、

なぜか異常なまでに集中力が維持できない……!!






黒馬で思わぬ敗走をしながら、エルザは考える…


脳裏にこびりつく、熱気サウナの中から

堂々と現れたあの男の全裸姿。


「(……弱点なのか……?

 本当に、私の『純粋な乙女の心』が……

 弱点だとでもいうのか……!?)」


エルザは激しい困惑と戦慄を覚えながら、

自分のペースを乱されたことに牙を噛むのだった。





——そして、その場に残されたのは。


泡を吹いて倒れている山賊と、

雪山に頭から突き刺さってプルプルと足を震わせている、

哀れな全裸のカゲロウだけであった。


「逃げられたけど、ルナのねーちゃんが

 生きてることは分かった!大収穫だぜっ!」


ザードが大盾を担ぎ直し、豪快に笑う。


雪山から頭を引き抜いたカゲロウが、

股間を必死に手で隠しながら寒さにガタガタ震えて叫んだ。


「ま、まずは『夏の音叉』を持ってゲートランドに戻り、

 グラッド殿に相談するでござる!」


『よしっ!』


夏の調律師の件。

エルザの四天王昇格の件。

いろいろ面倒な状況だが、


『俺たちなら絶対やり遂げられる!』


エルザ救出への決意を胸に、

ノホホンブレイクの新たなる戦いが、

今ここに幕を開ける——!



『(おいこら!今日という今日はもう勘弁ならねぇぞ!

 裸でお姉様を襲うとはどういう了見だ?あん?

 クソ全裸!〇ね!!!!)』


「(ル、ルナ殿、状況を見てたでござろう!?)

 …えっ!?グフッ!!!!」



エルザ救出への決意を胸に、

カゲロウ(クソ全裸)とルナ(地獄少女)の

新たなる戦いも、

ついでに今ここに幕を開けてしまった——!


イベント「5日連続掲載」をいける所までいきます。

質の保証はできません。

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