ノホホンブレイク出陣!
一方、王都ゲートランド。
「ねえねえ、出発する前にさ!
俺たちの『パーティー名』決めようぜ!」
大盾を足元に置いたザードが
思いついたように声を張り上げた。
「だってさ、
これからみんなでルナのお姉さんを探しに行くんだろ?
カゲロウさんも含めて5人チームなんだしさ!
名前があった方が呼びやすいしチームワークも深まるじゃん!」
「まあ、名前があるのは悪くないわね。
で、何かいい案はあるの?」
マリーがやれやれと肩をすくめて尋ねると、
ザードはニシシと鼻の下を指で擦り、胸を大きく張った。
「ふふん、任せとけって!
名付けて――『最強武闘隊デラックス』!!」
「……何それ? センスのかけらもないよね。
評価は『最悪 0点』よ」
バッサリ。
マリーのあまりにも容赦のない一言と
冷酷すぎる採点が、正門前に冷たく突き刺さった。
「……っ」
ザードはもちろんのこと、
何気に「おお、デラックス……強そうだ……」と内心で
感心しかけていたカゲロウも、マリーの冷酷な切り捨てに
ショックを受け、二人して少しうつむき加減で沈黙してしまう。
「え、ダメ……?
結構かっこいいと思ったんだけど。
……じゃあマリーの案は?」
ザードがしょんぼりしながらも食ってかかると、
マリーは待ってましたとばかりにフフンと胸を張り、
眩しい笑顔で言い放った。
「決まってるじゃない!
『マリー歌劇団』!!
これ以外ないでしょ!?」
「「「……」」」
「ちょっと!みんな何よその目は!?
華やかで最高じゃないの!」
マリーのあまりにも自己中心的なネーミングに
周囲が何とも言えない微妙な沈黙に包まれる中、
やれやれといった様子でレイスが案を出す。
『銀翼の屍』ってのは?
「「「「……おしい!!」」」
『銀翼』までは確実に良かった。
見かねたシルエッタが
「あ、あのっ!」と
おずおずと手を挙げた。
「じゃあ……『ノホホンブレイク』とかは
どうでしょうか……?」
「えーっ!? なんかそれ、
常に休み時間みたいでめっちゃ弱そうじゃん!!」
ザードが即座に否定の声を上げた、
――次の瞬間。
「うっ……ううっ……ぐすっ……
私の提案……ダメでしたか……」
「えっ!?」
シルエッタが両手を胸の前でギュッと握りしめ、
この世の終わりのような表情でありえないほど
ガックリと肩を落として落ち込んでしまったのだ。
あまりの凹みぶりに、頭の上にどよりと重い雨雲が
立ち込めているかのようである。
その姿を見た死霊術士のレイスが、
そっとシルエッタの隣に寄り添い、静かに呟いた。
「……僕は、シルエッタさんの
考えた名前……好きだな」
その一言が出た瞬間――
周囲の空気がガラリと変わった。
マリーが
「あら、すごく素敵じゃない!
決まりね!」
ザードも
「あ、いや! 俺も! 俺もめちゃくちゃいいと思う!
最高だよ『ノホホンブレイク』!!」
カゲロウはそのシーンを見つめつつ思う。
「(全員チート級の上、
よいチームワークでござるな)」
焦ったザードとマリー必死のフォローにより、
全会一致で、パーティー名は
『ノホホンブレイク』に決定したのだった。
(しかし……この者たち、自分たちが国を救う規模の
規格外集団だという自覚が微塵もござらん……
旅の中で気付くきっかけがあればよいのだが……)
正式にパーティー名が決まったところで、
一行はゲートランド城のグラッドの元に
足を運ぶ。
出立に向けた正式な状況報告、
そしてルナの同行についての
話し合いのためである。
グラッドの執務室に入ると、
ルナは真剣な眼差しで真っ直ぐに
新摂政グラッドを見つめ、思いをぶつけた。
「グラッド様! 私も皆さんと一緒に……
お姉様を救う旅に同行させてください!」
しかし、グラッドは優しくも毅然とした態度で
首を横に振った。
「いいか、ルナ殿。
気持ちは痛いほどわかる」
「ですが……!」
「同じ罠がまた待ち受けている可能性を考えると、
同行するのは決して安全とは言えぬ。
ルナ殿には城の中で、私の参謀として働いてもらおう」
グラッドからの最大限の譲歩と気遣い。
グラッドの視点から見れば、
トラウマから復帰したばかりのルナは
『優秀な魔導士見習い』でしかない。
彼女の真のチート能力『空間圧縮物理攻撃』
を知らない以上、危険な最前線へ送り出さないと
判断するのは政治家として当然であった。
「……分かりましたわ、グラッド様。
お城より、皆様を全力でサポートいたします」
ルナは寂しげながらも納得して頭を下げた。
……だが、カゲロウとルナの間には、以前のように
『念話』のラインがしっかりと繋がっている。
『(ルナ殿、ご安心召されよ。
ルナ殿の空間圧縮能力があれば、城に居ながらにして
数キロ先から我らを援護することも可能。
拙者と念話で繋がりつつ、
城でグラッド殿を助けてくだされ)』
『(承知しました……)』
表向きは上品に控えるルナと、
カゲロウの強い絆。
カゲロウは凛と佇むルナに深く頷くと、
グラッドへ向き直り報告を続けた。
「グラッド殿。我ら『ノホホンブレイク』、
正面突破は避け、まずは根源である
『夏の精霊様の救出』を当面の目標にする所存」
「以前伺った通り、封印ログを持つ
『灼熱の鉱山街サーマリア』を目指し、
街道を進みます」
「的確な状況判断、感謝する……!
ちなみに、えっと、何というパーティー名なのかな?」
『のほほん……???』と聞こえたような…
いやいや、私の聞き間違いだろうと、
グラッドが再度パーティー名を尋ねる。
「『ノホホンブレイク』です!」
シルエッタが期待に満ちたキラキラとした瞳で
胸を張ると、グラッドは一瞬、
ピクッと眉をピクつかせた。
「……うん、そうか。
……まあ、そ、う、うん、よい名だ。
そう、皆に好かれる名であるな」
(……絶対に名前に対し
何か言おうとしたでござるな……)
確実に何かを言おうとしたグラッドであったが、
さすが一国を統べる立場の人間。
空気を読むのに長けている。
シルエッタが一瞬見せた不穏な空気を見逃さず、
見事な政治力と瞬発力で『のほほん』を
絶賛してみせたのだった。
「ですよね~♪さすが王様ですぅ♪」
上機嫌のシルエッタ。
城をあとにした一行は、
続いて王都冒険者ギルドへと向かった。
奥で待ち受けていたのは、屈強な体躯を誇る
王都のギルド長・オーウェンであった。
「おう、サーマリアへ『夏の精霊』のログを探しに
クエスト出発するって報告は聞いたぞ。
だが……本当にこのメンバーで大丈夫か?」
「オーウェン殿、彼らは――」
カゲロウが答えようとした、次の瞬間だった!
ッ――――!!!
風を切る突風とともに、大柄なオーウェンが豪快な
巨躯からは想像もつかない速度で踏み込み、
カゲロウの首元へ向けて太い腕を振り抜いた!
突如始まったギルド長の急襲に、
ザードたちが「えっ!?」と息をのむ。
――だが。
フッ……
カゲロウの姿が揺らぐと同時に消えた。
次の瞬間には、オーウェンの背後に静かに立ち、
愛刀の柄に手を添えて佇んでいたのである。
「……殺気がまったく無いでござる。
拙者を試され申したか?」
さらにその横で、腕を組んだマリーが
呆れたようにため息をついた。
「はぁ……ギルド長、
あんなおそーい動きで試したつもり?
評価は『最悪 0点』ね」
「お、おいマリーっ!
ギルド長相手になんてことを……!」
ザードが青ざめる中、当のオーウェンは
固まっていた腕を下ろし、ギルド全体に
響き渡るような豪快な大笑いを破顔させた。
「ガハハハハッ!
相変わらず容赦ねぇお嬢ちゃんだぜ!
だが、さすが噂に名高い忍者様だな!
忍のにーちゃんになら4人を任せられるわ!!
がはは!!!!」
オーウェンは満足そうに
バシバシとカゲロウの肩を叩くと、
ニヤリと不敵に笑った。
「サーマリアのギルド長は気難しい
旧知の頑固ジジイだが、
俺の紹介状と一筆を持っていけば話は
早いはずだ。持っていけ!」
「かたじけない、オーウェン殿」
ギルド長からの信頼と推薦状を受け取り、
カゲロウは『ノホホンブレイク』の面々に向き直った。
「さて……目的地は
『灼熱の鉱山街サーマリア』に決定でござる!
参るぞ……『ノホホンブレイク』、出陣でござる!」
直後――カゲロウの脳内に、
あまりにも爽やかで物騒な声が直接響き渡った。
『(フフフ、クソ全裸、
またよろしくな!)』
「ぶっっっ!!??!?」
可憐で清楚なはずのルナからの
『罵詈雑言直接念話』
ルナの強襲ダイレクトアタックに、
カゲロウは目を剥き出しにして硬直した。
「レ、レイス殿! 今すぐ城に戻り、
ルナ殿のストレスをもとに戻すでござる!
「やっぱり少し落ち込んでいるくらいがちょうど
よかったのでござるよぉぉぉ!!」
「ええ?さすがに
無茶言わないでくださいよ。
無理です。」
「そこをなんとかぁぁぁッッ!!」
必死にレイスの肩を揺さぶるカゲロウと、
頭の上に「?」を浮かべる4人。
『(おい、コラ。返事は?)』
「(えっーーーーーーーー!!!!!)」
他の4人には何も聞こえていない。
『ノホホンブレイク』の長き旅が、
今、静かに始まったのだった。





