22 紅葉2度目の撃沈
ここ青森県の下北半島に位置する恐山は、
古くから死者の魂が集まると言われる
日本三大霊場の一つである。
荒々しい岩肌の至る所から
強い硫黄の臭いと猛烈な地脈蒸気が噴き出し、
白濁したカルデラ湖を抱く、
まさに「地獄と天国」が隣り合わせになった
異界の雰囲気が漂う場所である。
ちなみに、
この恐山から少し足を伸ばした下北半島沿岸には、
極上の乳白色の湯で知られる名湯
『下風呂温泉』が存在する。
温泉マニアにはたまらないロケーションだ。
「(ふふふ……
ニノが地脈調律をマスターして落ち着いたら、
また、あいつらを置き去りにして
一番風呂に浸かりに行ってやるけぇね……w)」
「(あいつら置き去りにした方が
強くなる『便利体質』じゃけぇ。
ああ、ビール!極上のビールが
ウチを待っとるけぇねぇ♡
あと、海産物!大好物じゃけぇ!♡)」
岩の上でキセルをくゆらせる照紅は、
そんな邪心100%の企みを胸にニマリと
怪しい笑みを浮かべていた。
ドバドバと猛烈な地脈エネルギーが吹き出す噴出口の前で、
紅葉は片手を腰に当てビシッと指を突きつけた。
「ニノさん! もっと集中して調律してください!
普通、爆発なんて起きませんよ!!」
代えのズボンに着替えてきた紅葉が叫ぶ。
先ほどは、かなり恥ずかしいシーンを見られたことを
まだ怒っているようだ。
「お、おう! 悪かったって紅葉!
今度こそ地脈の魔力を完全に調律して、
周囲に分け与える循環を覚えるぞ……!」
汗だくのニノが深く息を吐き出し、
印を結んで集中を研ぎ澄ます。
まずは荒れ狂う地球のエネルギーを
整える『地脈調律』
膨大なマグマのごときエネルギーを
体内へと引き込む『魔力吸収』
それを思い通りに周りの人や物へ流し込む
『魔力分配』
それだけに留まらず、今のニノは引き込んだ魔力の
性質そのものをリアルタイムで最適化する
『構成魔法陣の書き換え』まで同時にこなしていた。
普通なら国家級の『星脈調律師』が束になっても
不可能な超高度な並列処理を、ニノは汗を流しながらも
完璧にコントロールしてみせている。
体内を駆け巡る莫大な魔力が美しく調律され、
波長を合わせた光の環となって、
周囲……そして岩の上に佇む照紅へと
力強く広がっていった。
それを受け取った照紅は、
目を見開いた後にニマリと感銘の笑みを浮かべ、
キセルを吹かした。
「ぶちすごいのぉ、ニノ!
えぐい才能じゃわ、マジでほぼ完璧!w」
「そうですか! やった――」
照紅からの手放しの絶賛に、
ニノは「っしゃあ!」と胸を撫で下ろし、
誇らしげにパッと気を緩めてしまった――
その瞬間だった!
「あ、バカッ! 集中を切らすな――」
「えっ!?」
ドガァァァァァァァァァンッッッッ!!!!!!!!
油断によって制御のタガが外れた地脈の超高濃度魔力が、
特大の衝撃波となって豪快に大爆発を起こした!
「ひゃあああああっ!? うそでしょ!?
着替えたばかりなのに……もう替えがないのにぃぃぃっ!!」
バリィィィィィッッ!!と悲惨な破断音が響き渡る。
新しく着替えてきたはずのズボンは衝撃波に耐えきれず、
またしても太ももからお尻にかけて生地が見事に裂け飛んだ!
紅葉は顔を爆発しそうなほど真っ赤にして、
破れた生地を必死にかき集め、両手で前と後ろを
ガードしながらしゃがみ込む。
目が眩むような光の暴走の中で、
ニノの視界の端にチラリと
『淡い水色』が映り込んだ
「あ……ごめん!
今度は水色が――」
「ええええええええええ
えええええっっっっっっ!!!!!!!!!!」
恐山の夜空を切り裂く、
本日一番……いや、人生一番の特大悲鳴。
涙目になった紅葉は、真っ赤な顔でニノを猛烈に睨みつけ、
破れた生地を必死にかき集めて押さえながら絶叫した。
「な、なんで見ちゃうんですかぁぁぁ!!
それに!色まで言わないでくださぁぁぁいっ!!
変態!!」
「だからわざとじゃねえって言ってるだろぉぉぉっ!!
つーかマジで地脈が弾ける! 死ぬぞ全員ーッッ!!」
そんな惨状を岩の上で見下ろし、
照紅はキセルをカンカンと叩きながら
ギャハハと腹を抱えて大爆笑していた。
「ギャハハハ! 油断大敵じゃのぉ~www
でも魔力伝達自体はマジで合格レベル!
修行は着実に前進中じゃわ!w」
「この魔力を完全にマスターして、
コハルとを取り戻してやるんだぁーーっ!!!」
水色の余韻と悲痛な叫びを乗せて、
ニノの絶叫が日本の夜空へ虚しくこだまするが……
「(もうそろそろ
置き去りにしよーかのー♡
ウチはもう我慢の限界じゃけぇねー)」
ニノが自主鍛錬に入るのは時間の問題であった……
「そんじゃー!ニノ!紅葉!
頑張ってなぁー♪」
「こらーーーー!!」
「そんなぁ、姐さーん!!(泣く)」
恐山に響く3人の声に、
「ここ、うるさいねぇ」
降霊してきた霊も、
あの世に戻っていくのであった。
――その頃、異世界
極北『深冬邪党』の氷の宮殿。
「キーッ! 許さない……絶対に許さないわよ
愚かな人間どもぉぉぉッッ!!」
跳ね返された攻撃で壊された宮殿の瓦礫の中、
四天王ヨルダが悲鳴を上げて暴れていた。
紫のフードを被った同じ四天王の氷魔道王ジゼルは、
冷ややかな視線を送りながら低く呟く。
「……王都ゲートランドに、
我らの想定を超える『不気味な存在』が
いるのは確実のようですね。だが、
我らの配下であるエルザは同じ
四天王の私やロドンの命令など一切聞き入れぬ……」
「……フン。意志なき傀儡ゆえ、
従うのはただ一柱のみ」
大剣を背負った氷剣王ロドンが腕を組んで吐き捨てると、
玉座の奥――吹雪の渦の中から、絶対なる支配者
『冬の精霊』が姿を現した。
冷酷な神気が満ちる中、
漆黒の魔力を纏ったエルザが
その場にひざまずく。
絶対の主である『冬の精霊』は、
冷徹な声で直接御前命令を下した。
『……人間どもが夏の精霊の封印ログを求め、
鉱山街サーマリアへ動く気配があります。
行きなさい、エルザ。あの地へ出兵し、
群がる害虫どもを殲滅しなさい……』
「…………御意」
同じ四天王の言葉には一切反応しなかったエルザが、
冬の精霊の言葉にのみ冷酷に深く頷く。
そして意志なき殺意を宿した瞳のまま、
単身サーマリアの地へと飛び立っていくのであった。
紅葉の件ですよね。本当にすみません。





