21-4 無意識の強者たち(その4)
「こ、こ、こ、これは!
傷を癒やしているのではござらん……っ!!」
あまりの衝撃に、カゲロウは
尻餅をついて完全に腰を抜かした。
忍びの最高峰として
あらゆる忍術や魔術を見てきた彼だからこそ
理解できてしまう。
これは治癒魔法などという
生易しいものではない。
「き、傷が付く前に時間を戻している……
おとぎ話でしか聞いたことのない『時空魔法』でござる!!
時間を操っているのに、本人は治癒していると勘違い……
お、恐ろしすぎるでござる……!!」
カゲロウが腰を抜かして震えていると、
今度は黒いローブを着た死霊術士の少年レイスが、
おずおずとルナのそばに歩み寄ってきた。
カゲロウの直感が訴える。
『レイス殿のチート能力は何ですか!?
もう絶対チート能力持ってますよね!?』と。
「あのね、ルナさん。
僕のお友達も……君のこと、
応援してるって言ってるよ」
そう言ってレイスが自らの影から呼び出したのは、
ドス黒く揺らめく不気味な『モヤ』だった。
だが、腰を抜かしたカゲロウの視界には見えていた。
その黒いモヤの奥底に存在する、
この世のあらゆる生者を平伏させる恐るべき『神格の霊』――
冥界そのものを統べる絶対の存在の姿が。
『モヤ』は
「んもー、可愛い女の子をいじめる奴は許さないわよ」
と言わんばかりに、ルナの周囲に残っていた
不安やトラウマの感情を、ぱくぱくとおやつ感覚で
食べて除去していく。
「あ……なんだか、胸のつかえが取れて……
すごく軽くなりました……」
「えへへ、よかった。
ね、いい子でしょ?」
レイスが無邪気にその
『冥界の王』の頭をナデナデしている。
(冥界の王を……
ペット感覚で手懐けておる……!!)
ほらチートだったでござる……
カゲロウは冷や汗を全身から
噴き出させながら、確信した。
マリーの超光速。
ザードの絶対防御。
シルエッタの時空魔法。
レイスの神格従属。
しかもこの4人は――
己の能力に何一つ気づいていない、
無自覚な超規格外チート集団なのだと。
一方その頃――
王都ゲートランドの冒険者ギルド執務室。
大量の書類を片付けていたギルド職員が、
ふと思い出したようにペンを止めて
ギルド長オーウェンに向き直った。
「そういえばオーウェン様。
例のDランクパーティーがお城に応援に行ってから、
数日が経ちますが……本当に大丈夫でしょうか?」
「ん? Dランク?
誰だっけ、それ?」
オーウェンは肘を突き、
キセルをくゆらせながらすっとぼけた顔をした。
「ザードたちのことですよ!
あんな駆け出しのDランクを行かせるなんて、
お城の警備だとしても、危険ではないですか?」
「あぁ、あいつらか」
職員が真剣な顔で心配するのをよそに、
オーウェンはニヤリと意味深な獰猛な笑みを浮かべ、
紫煙をゆったりと吐き出した。
「あー……そうそう。思い出したわ。
あいつら……自分たちのこと『Dランク』って
言ってるんだったな」
「は……? 『言ってる』って、
どういう意味ですか……?」
首をかしげる職員を相手にせず、
オーウェンは窓の外――
王城の空を見上げて鼻で笑った。
(あのバカども……
自分の規格外さにいつ気づくのやらな。
まあ、あの4人がいりゃあ、
城がひっくり返ろうが
何が起きようが安泰だろ。この人選、
近衛兵どもに感謝して欲しいぜ)
一方、王宮病室。
4人の異質さを完全に理解したカゲロウは、
静かに膝立ちになると、彼らの前に向かって
深く深く頭を下げた。
「マリー殿、
ザード殿、
シルエッタ殿、
レイス殿……!
ぶしつけなお願いとは承知の上!
どうか……どうか拙者たちに力を貸しては
いただけぬだろうか!」
突然頭を下げたカゲロウに、
4人は「えっ!?」と驚いて顔を見合わせる。
「拙者たちの大切な仲間……
闇に落ちたエルザ殿を救い出し、
離れ離れになった仲間を再び取り戻したい…
お主たちのその力が必要でござる!」
切実なカゲロウの叫び。
だが、マリーはポンと手を叩くと、
ころころと可愛らしく笑った。
「なーんだ、そんなこと!
迷子になったお姉さんを探しに行って、
連れ戻せばいいのね?」
「え、あ……まあ、
大まかに言えばそうでござるが……」
「迷子探しなら任せてよ!
困ったときはお互い様なんだからさ!」
ザードが満足そうに胸を叩き、
シルエッタとレイスも
「ええ、喜んで」
「僕たちも手伝うよ」と優しく頷いた。
彼らにとって、
それは国家の命運を賭けた絶望の戦いなどではなく、
ただの「困っている友達のための迷子探し」だった。
カゲロウはその裏表のない善意に、
目頭が熱くなるのを禁じ得なかった。
「感謝……感謝いたす……っ!」
……その頃。
遥か遠く、
世界を隔てた異世界の地、日本。
「ハックション!!」
日本の霊山――激しく吹き出す地脈エネルギーの
噴出口の真ん中で、ニノは盛大にくしゃみをした。
「な、なんか噂されてる気が……ぬおおっ!?
身体の中に地脈の魔力がドバドバ流れ込んできやがる……!
暴走しそうだ!!」
「ええかニノ!
地脈を力任せに押さえ込むんじゃのうて、
調律して自分に取り込んだ魔力を、
今度は周りに分け与える循環を覚えるんじゃ!
それができにゃあ、コハルの『春の術式』を
支えきれんけぇのぉ!w」
岩の上でキセルをふかす照紅師匠の怒号が飛ぶ。
ニノは歯を食いしばり、暴走する地脈の魔力を必死に体内に引き込み、
それを紅葉へと分散・放出しようと印を結んだ。
だが――
ドゴォォォォンッ!!
制御しきれなかった魔力の衝撃波が豪快に弾け飛ぶ!
「ひゃああっ!? ああぁっ、
ズボンが破れましたぁぁぁ!!
っ、こっち見ないでくださぁぁぁいっ!!」
衝撃波で紅葉のズボンが派手に裂け、
紅葉は顔をリンゴのように真っ赤にしながら、
破れたふとももからお尻にかけてを
手で必死に隠してしゃがみ込んだ。
「見てねえよ!
つーか見てる余裕なんかねえんだよ!
今ぁぁぁっ!!」
滝のような汗を流しながら、
暴走する地脈の魔力と格闘するニノ。
だが、
一瞬だけ視界の端にチラリと映った
『淡いピンク色』
を、脳がバッチリと認識してしまった。
「あ……ごめん。
ピンクがちょっと見えた」
「えええええええええええええ
ええっっっっっっ!!!!!!!!!!」
恐山に響き渡る、
紅葉の本日一番の絶叫。
顔を爆発しそうなほど赤くした紅葉は、
破れたズボンを必死にかき集めて両手で
前と後ろをガードしながら、涙目でニノを睨みつける。
「な、なんで見ちゃうんですかぁぁぁ!!
下心バカ! 破廉恥! 変態ニノですぅぅぅ!!」
「だからわざとじゃねえって言ってんだろぉぉぉっ!!
つーかマジで制御が外れる! 弾け飛ぶぞ全員ーッッ!!」
そんな二人を岩の上で見下ろし、
照紅師匠はキセルをふかしながら
ギャハハと楽しそうに大笑いしていた。
「ええリアクションじゃのぉ〜w
ほらほら、全国バグ地脈ツアー
第2弾『恐山霊脈スパルタ特訓』は
始まったばっかりなんじゃけぇ!
気合入れんさい~☆」
「ちくしょうぉぉぉぉ!!
絶対にこの魔力をマスターして、
コハルを取り戻してやるんだぁぁぁぁーーーーっっっ!!!」
霊脈の光が吹き荒れる中、
ニノの悲痛で熱い絶叫が、
日本の夜空へ虚しくこだまするのだった。
紅葉についてですか?読者獲得ですよ。ええ。
挿絵も載せますよ。絶対。





