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21 無意識の強者たち(その2)

「よし、ナイスホームラン♪」


自分よりも遥かに大きな大盾を

足元に置いた小柄な少年

――ザードは、満足そうに肩に担いだ

『ただの木の棒』をポンポンと叩いた。


王都ゲートランドを丸ごと消し去るはずだった、

四天王ヨルダの極大光線。


それがガキーン!という打撃音とともに

遥か北の空へと綺麗に跳ね返されていく残光を、

バルコニーに駆け込んできた新摂政グラッドや

近衛騎士団長アルバド、そして城の重臣たちが

目玉を飛び出さんばかりに見開いて眺めている。


――その頃、

極北『深冬邪党みふゆじゃとう』の氷の宮殿。


「うふふ! アタシの美しき冬の極冷閃光で、

 王都ごと氷漬けになって絶望なさ……って、え???」


高飛車に高笑いを上げていた四天王ヨルダの視界に、

北の空から猛スピードで逆流してくる

『自分が放ったはずの極大光線』が映り込んだ。


「は……? え? なんで戻ってきて――」




ズッバババババババ

バガァァァァァァンッッッッ!!!!!!!!




「きゃああああああああああっっっ!!??!?」


跳ね返された超絶破壊のエネルギーが、

そのまま氷の宮殿の前面にクリーンヒット。


轟音とともに外壁と豪華なバルコニーが

一瞬で木っ端微塵に吹き飛んだ。


煙が充満する中、氷魔道王ジゼルが紫のフードを

深々と被り直しながら冷たく呟く。


「……ヨルダ。挨拶のつもりが、

 手痛いお返しを喰らったようですね」


「な……何!?

 何が起こったのよぉぉぉぉぉぉッッ!!??

 何でアタシの閃光が跳ね返ってきてんのよぉぉぉッッ!!」


ヨルダは頭から氷の粉を被り、

髪をなりふり構わず振り乱しながらキーキーと悲鳴を上げた。


悔しさと屈辱のあまり、

ポケットから取り出したシルクの高級ハンカチを

ガチガチと前歯で噛みちぎり、

ビリィィッ!と引き裂く。


「キーッッ! 許さない……

 絶対に許さないわよ!!

 愚かな人間どもぉぉぉッッ!!」


冷酷な氷剣王ロドンが

「……無様だな」と吐き捨てる横で、

ヨルダのヒステリックな叫びが

破壊された宮殿に虚しく響き渡っていた。




――一方、王都ゲートランド。


城内を包む、あまりにも深すぎる静寂。

そんな中、バルコニーではポカーンと口を

開けたまま腰を抜かしている近衛兵たちに向かって、

ザードが嬉しそうに『木の棒』を自慢していた。


「ねえねえ見てよ!

 これ、子どもの頃に拾ったんだよね!」


「こ……子どもの頃……!?」


近衛兵がひきつった顔で尋ねると、

ザードは無邪気な笑顔で自慢げに胸を張る。


「そうそう!

 いやー、さっきみたいな攻撃も余裕余裕!

 パーフェクトに全部跳ね返す!!

 ほんと魔法の棒だよっ!」

 

「意外とこういう珍しい魔法アイテムって、

 そこらへんに落ちてるもんだな〜!

 超ラッキーだったよ♪

 けど、たぶん一生分の運を使っちゃったなぁw」


「お、落ちて……魔法アイテム……!?」


……ざわ、ざわ…

…………ざわ、ざわ…


近衛兵たちの間に、

波紋のように動揺が広がっていく。


(落ちているわけがないでござるっ!!

 幼少の刻から今この瞬間に至るまで、

 無自覚に極大強化魔法を重ねがけし続けておったと

 いうのでござるかぁぁぁッッ!!)


後ろで見守っていたカゲロウは、

もはやツッコむ気力すら失い、

ただただ天を仰ぐばかりだった。


ザードの手の中にあるのは、

どう見ても昔拾ったただの木の棒だ。


近衛兵たちが

「ま、魔法アイテムかぁ……」

と完全に勘違いして青ざめる中、

病室の窓から恐る恐る空を見上げていたルナは、

涙を浮かべた瞳をパチクリとさせた。


「……ふふっ」


小さな、鈴が鳴るような笑い声が、

ルナの口元から零れ落ちた。


恐怖と自責の念で絶望の底にいたはずなのに、

あまりにも緊張感のない小柄な少年の無邪気な自慢話に、

肩の力がふっと抜けてしまったのだ。


(あ……ルナ殿が、笑われた……)


カゲロウはその光景を目にし、

深く胸を撫で下ろした。


彼らの規格外すぎる異常性はさておき、

暗闇に閉ざされていたルナの心に、

小さな光が灯ったことだけは間違いなかった。






大騒動が一段落し、

一行は病室へと戻った。


今まではお城の救護班が必死に

治癒魔法をかけてくれていた。

が、ある程度傷が回復したということで、

シルエッタが治癒役の交代を買って出てくれた。


「私、傷を癒やすのが子どもの頃から得意で、

 今はこうして神官としてパーティーに参加してます♪

 では、今日からは私が傷を癒やしますね~♪」


そう言って可愛らしく首をかしげると、

シルエッタはルナの手にそっと自らの手を重ね、

同時にカゲロウの傷ついた肩にも優しく触れた。


「はい、痛いの痛いの、飛んでいけ~♪」


次の瞬間、

二人を包み込んだのは

柔らかな桃色の光だった。


(な……なんだ、

 この感覚は……!?)


カゲロウは自身の体内で巻き起こった

『現象』に、目を丸くした。


単に傷の痛みが消えたのではない。

先の激戦で焼き切れ、

修復不能と言われていたはずの自らの体内魔力回路が、

まるで「最初から傷など負っていなかった」かのように、

寸分の狂いもなく元の完璧な状態で繋ぎ直されているのだ。


さらには、ルナの心身を蝕んでいた

エルザの闇の残渣やトラウマまで、

綺麗さっぱり消滅している。


「こ、こ、こ、これは!

 傷を癒やしているのではござらん……っ!!」


あまりの衝撃に、カゲロウは

尻餅をついて完全に腰を抜かした。


忍びの最高峰として

あらゆる忍術や魔術を見てきた彼だからこそ

理解できてしまう。


これは治癒魔法などという

生易しいものではない。


「き、傷が付く前に時間を戻している……

 おとぎ話でしか聞いたことのない『時空魔法』でござる!!

 時間を操っているのに、本人は治癒していると勘違い……

 お、恐ろしすぎるでござる……!!」


カゲロウが腰を抜かして震えていると、

今度は黒いローブを着た死霊術士の少年レイスが、

おずおずとルナのそばに歩み寄ってきた。


カゲロウの直感が訴える。

『レイス殿のチート能力は何ですか!?

 もう絶対チート能力持ってますよね!?』と。




「あのね、ルナさん。

 僕のお友達も……君のこと、

 応援してるって言ってるよ」


そう言ってレイスが自らの影から呼び出したのは、

ドス黒く揺らめく不気味な『モヤ』だった。


だが、腰を抜かしたカゲロウの視界には見えていた。

その黒いモヤの奥底に存在する、

この世のあらゆる生者を平伏させる恐るべき『神格の霊』――

冥界そのものを統べる絶対の存在の姿が。


『モヤ』は

「んもー、可愛い女の子をいじめる奴は許さないわよ」

と言わんばかりに、ルナの周囲に残っていた

不安やトラウマの感情を、ぱくぱくとおやつ感覚で

食べて除去していく。


「あ……なんだか、胸のつかえが取れて……

 すごく軽くなりました……」


「えへへ、よかった。

 ね、いい子でしょ?」


レイスが無邪気にその

『冥界の王』の頭をナデナデしている。


(冥界の王を……

 ペット感覚で手懐けておる……!!)


ほらチートだったでござる……

カゲロウは冷や汗を全身から

噴き出させながら、確信した。


マリーの超光速。

ザードの絶対防御。

シルエッタの時空魔法。

レイスの神格従属。


しかもこの4人は――

己の能力に何一つ気づいていない、

無自覚な超規格外チート集団なのだと。




一方その頃――

王都ゲートランドの冒険者ギルド執務室。


大量の書類を片付けていたギルド職員が、

ふと思い出したようにペンを止めて

ギルド長オーウェンに向き直った。


「そういえばオーウェン様。

 例のDランクパーティーがお城に応援に行ってから、

 数日が経ちますが……本当に大丈夫でしょうか?」


「ん? Dランク?

 誰だっけ、それ?」


オーウェンは肘を突き、

キセルをくゆらせながらすっとぼけた顔をした。


「ザードたちのことですよ!

 あんな駆け出しのDランクを行かせるなんて、

 お城の警備だとしても、危険ではないですか?」


「あぁ、あいつらか」


職員が真剣な顔で心配するのをよそに、

オーウェンはニヤリと意味深な獰猛な笑みを浮かべ、

紫煙をゆったりと吐き出した。


「あー……そうそう。思い出したわ。

 あいつら……自分たちのこと『Dランク』って

 言ってるんだったな」


「は……? 『言ってる』って、

 どういう意味ですか……?」


首をかしげる職員を相手にせず、

オーウェンは窓の外――

王城の空を見上げて鼻で笑った。


(あのバカども……

 自分の規格外さにいつ気づくのやらな。

 まあ、あの4人がいりゃあ、

 城がひっくり返ろうが

 何が起きようが安泰だろ。この人選、

 近衛兵どもに感謝して欲しいぜ)




一方、王宮病室。


4人の異質さを完全に理解したカゲロウは、

静かに膝立ちになると、彼らの前に向かって

深く深く頭を下げた。


「マリー殿、

 ザード殿、

 シルエッタ殿、

 レイス殿……!

 ぶしつけなお願いとは承知の上!

 どうか……どうか拙者たちに力を貸しては

 いただけぬだろうか!」


突然頭を下げたカゲロウに、

4人は「えっ!?」と驚いて顔を見合わせる。


「拙者たちの大切な仲間……

 闇に落ちたエルザ殿を救い出し、

 離れ離れになった仲間を再び取り戻したい…

 お主たちのその力が必要でござる!」


切実なカゲロウの叫び。

だが、マリーはポンと手を叩くと、

ころころと可愛らしく笑った。


「なーんだ、そんなこと!

 迷子になったお姉さんを探しに行って、

 連れ戻せばいいのね?」


「え、あ……まあ、

 大まかに言えばそうでござるが……」


「迷子探しなら任せてよ!

 困ったときはお互い様なんだからさ!」


ザードが満足そうに胸を叩き、

シルエッタとレイスも

「ええ、喜んで」

「僕たちも手伝うよ」と優しく頷いた。


彼らにとって、

それは国家の命運を賭けた絶望の戦いなどではなく、

ただの「困っている友達のための迷子探し」だった。


カゲロウはその裏表のない善意に、

目頭が熱くなるのを禁じ得なかった。


「感謝……感謝いたす……っ!」




……その頃。




遥か遠く、

世界を隔てた異世界の地、日本。


「ハックション!!」


日本の霊山――激しく吹き出す地脈エネルギーの

噴出口の真ん中で、ニノは盛大にくしゃみをした。


「な、なんか噂されてる気が……ぬおおっ!?

 身体の中に地脈の魔力がドバドバ流れ込んできやがる……!

 暴走しそうだ!!」


「いいかニノ!

 地脈を力任せに押さえ込むんじゃなくて、

 調律して自分に取り込んだ魔力を、

 今度は周囲に分け与える循環を覚えること!

 それができなきゃ、コハルの『春の術式』を

 支えきれんじゃんね!w」


岩の上でキセルをふかす照紅しょうく師匠の怒号が飛ぶ。

ニノは歯を食いしばり、暴走する地脈の魔力を必死に体内に引き込み、

それを紅葉へと分散・放出しようと印を結んだ。


だが――


ドゴォォォォンッ!!


制御しきれなかった魔力の衝撃波が豪快に弾け飛ぶ!


「ひゃああっ!? ああぁっ、

 ズボンが破れましたぁぁぁ!!

 っ、こっち見ないでくださぁぁぁいっ!!」


衝撃波で紅葉のズボンが派手に裂け、

紅葉は顔をリンゴのように真っ赤にしながら、

破れたふとももからお尻にかけてを

手で必死に隠してしゃがみ込んだ。


「見てねえよ!

 つーか見てる余裕なんかねえんだよ!

 今ぁぁぁっ!!」


滝のような汗を流しながら、

暴走する地脈の魔力と格闘するニノ。


だが、


一瞬だけ視界の端にチラリと映った

『淡いピンク色』

を、脳がバッチリと認識してしまった。


「あ……ごめん。

 ピンクがちょっと見えた」


「えええええええええええええ

 ええっっっっっっ!!!!!!!!!!」


恐山に響き渡る、

紅葉の本日一番の絶叫。


顔を爆発しそうなほど赤くした紅葉は、

破れたズボンを必死にかき集めて両手で

前と後ろをガードしながら、涙目でニノを睨みつける。


「な、なんで見ちゃうんですかぁぁぁ!!

 下心バカ! 破廉恥! 変態ニノですぅぅぅ!!」


「だからわざとじゃねえって言ってんだろぉぉぉっ!!

 つーかマジで制御が外れる! 弾け飛ぶぞ全員ーッッ!!」


そんな二人を岩の上で見下ろし、

照紅しょうく師匠はキセルをふかしながら

ギャハハと楽しそうに大笑いしていた。


「いいリアクションじゃんね〜w

 ほらほら、全国バグ地脈ツアー

 第2弾『恐山霊脈スパルタ特訓』は

 始まったばかりなんだからさ!

 気合入れな~☆」


「ちくしょうぉぉぉぉ!!

 絶対にこの魔力をマスターして、

 コハルを取り戻してやるんだぁぁぁぁーーーーっっっ!!!」


霊脈の光が吹き荒れる中、

ニノの悲痛で熱い絶叫が、

日本の夜空へ虚しくこだまするのだった。


紅葉のズボンが破れるシーンをあえて入れたのは

大人の事情です。正直。

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