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22/23

22 紅葉2度目の撃沈


ここ青森県の下北半島に位置する恐山は、

古くから死者の魂が集まると言われる

日本三大霊場の一つである。


荒々しい岩肌の至る所から

強い硫黄の臭いと猛烈な地脈蒸気が噴き出し、

白濁したカルデラ湖を抱く、

まさに「地獄と天国」が隣り合わせになった

異界の雰囲気が漂う場所である。


ちなみに、

この恐山から少し足を伸ばした下北半島沿岸には、

極上の乳白色の湯で知られる名湯

下風呂しもふろ温泉』が存在する。

温泉マニアにはたまらないロケーションだ。


「(ふふふ……

 ニノが地脈調律をマスターして落ち着いたら、

 また、あいつらを置き去りにして

 一番風呂に浸かりに行ってやるけんね……w)」


「(あいつら置き去りにした方が

 強くなる『便利体質』やけん。

 ああ、ビール!極上のビールが

 ウチを待ってるけんねぇ♡

 あと、海産物!大好物やけん!♡)」


岩の上でキセルをくゆらせる師匠は、

そんな邪心100%の企みを胸にニマリと

怪しい笑みを浮かべていた。





ドバドバと猛烈な地脈エネルギーが吹き出す噴出口の前で、

紅葉は片手を腰に当てビシッと指を突きつけた。


「ニノさん! もっと集中して調律してください!

 普通、爆発なんて起きませんよ!!」


代えのズボンに着替えてきた紅葉が叫ぶ。

先ほどは、かなり恥ずかしいシーンを見られたことを

まだ怒っているようだ。


「お、おう! 悪かったって紅葉!

 今度こそ地脈の魔力を完全に調律して、

 周囲に分け与える循環を覚えるぞ……!」


汗だくのニノが深く息を吐き出し、

印を結んで集中を研ぎ澄ます。


まずは荒れ狂う地球のエネルギーを

整える『地脈調律』


膨大なマグマのごときエネルギーを

体内へと引き込む『魔力吸収』


それを思い通りに周りの人や物へ流し込む

『魔力分配』


それだけに留まらず、今のニノは引き込んだ魔力の

性質そのものをリアルタイムで最適化する

『構成魔法陣の書き換え』まで同時にこなしていた。


普通なら国家級の『星脈調律師』が束になっても

不可能な超高度な並列処理を、ニノは汗を流しながらも

完璧にコントロールしてみせている。


体内を駆け巡る莫大な魔力が美しく調律され、

波長を合わせた光の環となって、

周囲……そして岩の上に佇む師匠へと

力強く広がっていった。


それを受け取った照紅師匠は、

目を見開いた後にニマリと感銘の笑みを浮かべ、

キセルを吹かした。


「すごいじゃんね、ニノ!

 えぐい才能だよ、マジでほぼ完璧!w」


「そうですか! やった――」


師匠からの手放しの絶賛に、

ニノは「っしゃあ!」と胸を撫で下ろし、

誇らしげにパッと気を緩めてしまった――


その瞬間だった!


「あ、バカッ! 集中切らすな――」


「えっ!?」


ドガァァァァァァァァァンッッッッ!!!!!!!!


油断によって制御のタガが外れた地脈の超高濃度魔力が、

特大の衝撃波となって豪快に大爆発を起こした!


「ひゃあああああっ!? うそでしょ!?

 着替えたばかりなのに……もう替えがないのにぃぃぃっ!!」


バリィィィィィッッ!!と悲惨な破断音が響き渡る。

新しく着替えてきたはずのズボンは衝撃波に耐えきれず、

またしても太ももからお尻にかけて生地が見事に裂け飛んだ!


紅葉は顔を爆発しそうなほど真っ赤にして、

破れた生地を必死にかき集め、両手で前と後ろを

ガードしながらしゃがみ込む。


目が眩むような光の暴走の中で、

ニノの視界の端にチラリと

『淡い水色』が映り込んだ



「あ……ごめん!

 今度は水色が――」


「ええええええええええ

 えええええっっっっっっ!!!!!!!!!!」


恐山の夜空を切り裂く、

本日一番……いや、人生一番の特大悲鳴。


涙目になった紅葉は、真っ赤な顔でニノを猛烈に睨みつけ、

破れた生地を必死にかき集めて押さえながら絶叫した。


「な、なんで見ちゃうんですかぁぁぁ!!

 それに!色まで言わないでくださぁぁぁいっ!!

 変態!!」


「だからわざとじゃねえって言ってるだろぉぉぉっ!!

 つーかマジで地脈が弾ける! 死ぬぞ全員ーッッ!!」


そんな惨状を岩の上で見下ろし、

照紅師匠はキセルをカンカンと叩きながら

ギャハハと腹を抱えて大爆笑していた。


「ギャハハハ! 油断大敵じゃんね~www

 でも魔力伝達自体はマジで合格レベル!

 修行は着実に前進中じゃん!w」


「この魔力を完全にマスターして、

 コハルとを取り戻してやるんだぁーーっ!!!」


水色の余韻と悲痛な叫びを乗せて、

ニノの絶叫が日本の夜空へ虚しくこだまするが……


「(もうそろそろ

 置き去りにしよーかのー♡

 ウチはもう我慢の限界やけんねー)」


ニノが自主鍛錬に入るのは時間の問題であった……







――その頃、異世界

極北『深冬邪党』の氷の宮殿。


「キーッ! 許さない……絶対に許さないわよ

 愚かな人間どもぉぉぉッッ!!」


跳ね返された攻撃で壊された宮殿の瓦礫の中、

四天王ヨルダが悲鳴を上げて暴れていた。


紫のフードを被った同じ四天王の氷魔道王ジゼルは、

冷ややかな視線を送りながら低く呟く。


「……王都ゲートランドに、

 我らの想定を超える『不気味な存在』が

 いるのは確実のようですね。だが、

 我らの配下であるエルザは同じ

 四天王の私やロドンの命令など一切聞き入れぬ……」


「……フン。意志なき傀儡ゆえ、

 従うのはただ一柱のみ」


大剣を背負った氷剣王ロドンが腕を組んで吐き捨てると、

玉座の奥――吹雪の渦の中から、絶対なる支配者

『冬の精霊』が姿を現した。


冷酷な神気が満ちる中、

漆黒の魔力を纏ったエルザが

その場にひざまずく。


絶対の主である『冬の精霊』は、

冷徹な声で直接御前命令を下した。


『……人間どもが夏の精霊の封印ログを求め、

 鉱山街サーマリアへ動く気配があります。

 行きなさい、エルザ。あの地へ出兵し、

 群がる害虫どもを殲滅しなさい……』


「…………御意」


同じ四天王の言葉には一切反応しなかったエルザが、

冬の精霊の言葉にのみ冷酷に深く頷く。


そして意志なき殺意を宿した瞳のまま、

単身サーマリアの地へと飛び立っていった。






一方、王都ゲートランド。


「ねえねえ、出発する前にさ!

 俺たちの『パーティー名』決めようぜ!」


大盾を足元に置いたザードが

思いついたように声を張り上げた。


「だってさ、

 これからみんなでルナのお姉さんを探しに行くんだろ?

 カゲロウさんも含めて5人チームなんだしさ!

 名前があった方が呼びやすいしチームワークも深まるじゃん!」


「まあ、名前があるのは悪くないわね。

 で、何かいい案はあるの?」


マリーがやれやれと肩をすくめて尋ねると、

ザードはニシシと鼻の下を指で擦り、胸を大きく張った。


「ふふん、任せとけって!

 名付けて――『最強武闘隊デラックス』!!」


「……何それ? センスのかけらもないよね。

 評価は『最悪 0点』よ」


バッサリ。

マリーのあまりにも容赦のない一言と

冷酷すぎる採点が、正門前に冷たく突き刺さった。


「……っ」


ザードはもちろんのこと、

何気に「おお、デラックス……強そうだ……」と内心で

感心しかけていたカゲロウも、マリーの冷酷な切り捨てに

ショックを受け、二人して少しうつむき加減で沈黙してしまう。


「え、ダメ……?

 結構かっこいいと思ったんだけど。

 ……じゃあマリーの案は?」


ザードがしょんぼりしながらも食ってかかると、

マリーは待ってましたとばかりにフフンと胸を張り、

眩しい笑顔で言い放った。


「決まってるじゃない!

  『マリー歌劇団』!!

 これ以外ないでしょ!?」



「「「……」」」



「ちょっと!みんな何よその目は!?

 華やかで最高じゃないの!」


マリーのあまりにも自己中心的なネーミングに

周囲が何とも言えない微妙な沈黙に包まれる中、

やれやれといった様子でレイスが案を出す。


銀翼ぎんよくしかばね』ってのは?


「「「「……おしい!!」」」


『銀翼』までは確実に良かった。


見かねたシルエッタが

「あ、あのっ!」と

おずおずと手を挙げた。


「じゃあ……『のほほんブレイク』とかは

 どうでしょうか……?」


「えーっ!? なんかそれ、

 常に休み時間みたいでめっちゃ弱そうじゃん!!」


ザードが即座に否定の声を上げた、

――次の瞬間。


「うっ……ううっ……ぐすっ……

 私の提案……ダメでしたか……」


「えっ!?」


シルエッタが両手を胸の前でギュッと握りしめ、

この世の終わりのような表情でありえないほど

ガックリと肩を落として落ち込んでしまったのだ。


あまりの凹みぶりに、頭の上にどよりと重い雨雲が

立ち込めているかのようである。


その姿を見た死霊術士のレイスが、

そっとシルエッタの隣に寄り添い、静かに呟いた。


「……僕は、シルエッタさんの

 考えた名前……好きだな」


その一言が出た瞬間――

周囲の空気がガラリと変わった。


マリーが

「あら、すごく素敵じゃない!

 決まりね!」


ザードも

「あ、いや! 俺も! 俺もめちゃくちゃいいと思う!

 最高だよ『のほほんブレイク』!!」


カゲロウはそのシーンを見つめつつ思う。

「(全員チート級の上、

 よいチームワークでござるな)」


焦ったザードとマリー必死のフォローにより、

全会一致で、パーティー名は

『のほほんブレイク』に決定したのだった。


(しかし……この者たち、自分たちが国を救う規模の

 規格外集団だという自覚が微塵もござらん……

 旅の中で気付くきっかけがあればよいのだが……)






正式にパーティー名が決まったところで、

一行はゲートランド城のグラッドの元に

足を運ぶ。


出立に向けた正式な状況報告、

そしてルナの同行についての

話し合いのためである。


グラッドの執務室に入ると、

ルナは真剣な眼差しで真っ直ぐに

新摂政グラッドを見つめ、思いをぶつけた。


「グラッド様! 私も皆さんと一緒に……

 お姉様を救う旅に同行させてください!」


しかし、グラッドは優しくも毅然とした態度で

首を横に振った。


「いいか、ルナ殿。

 気持ちは痛いほどわかる」


「ですが……!」


「同じ罠がまた待ち受けている可能性を考えると、

 同行するのは決して安全とは言えぬ。

 ルナ殿には城の中で、私の参謀として働いてもらおう」


グラッドからの最大限の譲歩と気遣い。


グラッドの視点から見れば、

トラウマから復帰したばかりのルナは

『優秀な魔導士見習い』でしかない。


彼女の真のチート能力『空間圧縮物理攻撃』

を知らない以上、危険な最前線へ送り出さないと

判断するのは政治家として当然であった。


「……分かりましたわ、グラッド様。

 お城より、皆様を全力でサポートいたします」


ルナは寂しげながらも納得して頭を下げた。


……だが、カゲロウとルナの間には、以前のように

念話テレパシー』のラインがしっかりと繋がっている。


『(ルナ殿、ご安心召されよ。

 ルナ殿の空間圧縮能力があれば、城に居ながらにして

 数キロ先から我らを援護することも可能。

 拙者と念話で繋がりつつ、

 城でグラッド殿を助けてくだされ)』


『(承知しました……)』


表向きは上品に控えるルナと、

カゲロウの強い絆。


カゲロウは凛と佇むルナに深く頷くと、

グラッドへ向き直り報告を続けた。


「グラッド殿。我ら『のほほんブレイク』、

 正面突破は避け、まずは根源である

 『夏の精霊様の救出』を当面の目標にする所存」


「以前伺った通り、封印ログを持つ

『灼熱の鉱山街サーマリア』を目指し、

 街道を進みます」


「的確な状況判断、感謝する……!

 ちなみに、えっと、何というパーティー名なのかな?」


『のほほん……???』と聞こえたような…

いやいや、私の聞き間違いだろうと、

グラッドが再度パーティー名を尋ねる。


「『のほほんブレイク』です!」


シルエッタが期待に満ちたキラキラとした瞳で

胸を張ると、グラッドは一瞬、

ピクッと眉をピクつかせた。


「……うん、そうか。

 ……まあ、そ、う、うん、よい名だ。

 そう、皆に好かれる名であるな」



(……絶対に名前に対し

 何か言おうとしたでござるな……)



確実に何かを言おうとしたグラッドであったが、

さすが一国を統べる立場の人間。

空気を読むのに長けている。


シルエッタが一瞬見せた不穏な空気を見逃さず、

見事な政治力と瞬発力で『のほほん』を

絶賛してみせたのだった。


「ですよね~♪さすが王様ですぅ♪」

上機嫌のシルエッタ。





城をあとにした一行は、

続いて王都冒険者ギルドへと向かった。


奥で待ち受けていたのは、屈強な体躯を誇る

王都のギルド長・オーウェンであった。


「おう、サーマリアへ『夏の精霊』のログを探しに

 クエスト出発するって報告は聞いたぞ。

 だが……本当にこのメンバーで大丈夫か?」


「オーウェン殿、彼らは――」


カゲロウが答えようとした、次の瞬間だった!


ッ――――!!!


風を切る突風とともに、大柄なオーウェンが豪快な

巨躯からは想像もつかない速度で踏み込み、

カゲロウの首元へ向けて太い腕を振り抜いた!


突如始まったギルド長の急襲に、

ザードたちが「えっ!?」と息をのむ。


――だが。


フッ……


カゲロウの姿が揺らぐと同時に消えた。

次の瞬間には、オーウェンの背後に静かに立ち、

愛刀の柄に手を添えて佇んでいたのである。


「……殺気がまったく無いでござる。

 拙者を試され申したか?」


さらにその横で、腕を組んだマリーが

呆れたようにため息をついた。


「はぁ……ギルド長、

 あんなおそーい動きで試したつもり?

 評価は『最悪 0点』ね」


「お、おいマリーっ!

 ギルド長相手になんてことを……!」


ザードが青ざめる中、当のオーウェンは

固まっていた腕を下ろし、ギルド全体に

響き渡るような豪快な大笑いを破顔させた。


「ガハハハハッ!

 相変わらず容赦ねぇお嬢ちゃんだぜ!

 だが、さすが噂に名高い忍者様だな!

 忍のにーちゃんになら4人を任せられるわ!!

 がはは!!!!」


オーウェンは満足そうに

バシバシとカゲロウの肩を叩くと、

ニヤリと不敵に笑った。


「サーマリアのギルド長は気難しい

 旧知の頑固ジジイだが、

 俺の紹介状と一筆を持っていけば話は

 早いはずだ。持っていけ!」


「かたじけない、オーウェン殿」


ギルド長からの信頼と推薦状を受け取り、

カゲロウは『のほほんブレイク』の面々に向き直った。


「さて……目的地は

 『灼熱の鉱山街サーマリア』に決定でござる!

 参るぞ……『のほほんブレイク』、出陣でござる!」


直後――カゲロウの脳内に、

あまりにも爽やかで物騒な声が直接響き渡った。


『(フフフ、クソ全裸、

 またよろしくな!)』


「ぶっっっ!!??!?」


可憐で清楚なはずのルナからの

『罵詈雑言直接念話』

ルナの強襲ダイレクトアタックに、

カゲロウは目を剥き出しにして硬直した。


「レ、レイス殿! 今すぐ城に戻り、

 ルナ殿のストレスをもとに戻すでござる!

 

「やっぱり少し落ち込んでいるくらいがちょうど

 よかったのでござるよぉぉぉ!!」


「ええ?さすがに

 無茶言わないでくださいよ。

 無理です。」


「そこをなんとかぁぁぁッッ!!」


必死にレイスの肩を揺さぶるカゲロウと、

頭の上に「?」を浮かべる4人。


『(おい、コラ。返事は?)』

「(えっーーーーーーーー!!!!!)」


他の4人には何も聞こえていない。

『のほほんブレイク』の長き旅が、

今、静かに始まったのだった。


紅葉の件ですよね。本当にすみません。

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