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12 未来を予言しますが、何か?

「ねえエルザ! このワンピ超絶可愛くない!?☆

 てかエルザ、スタイル良すぎだし、

 絶対こういうの着た方がいいって!」


「む、無理です、コハル様……! 私は一応勇者ですよ!?

 こんな布面積の少ない服など、

 防御力が皆無ではないですか……っ!」


リブラで一番人気の高級セレクトショップ。

そのきらびやかな店内で、いつもガチガチの鋼鉄の甲冑に

身を包んでいるエルザは、顔を真っ赤にしてドレスの

裾を握り締めながらモジモジと照れていた。


昨日、直径100メートルの極大波動砲で

冬の精霊軍本隊を消し去った張本人であるコハルは、

そんな国家災害級の天変地異など1ミリも脳のメモリに

残していない様子だった。


両手に山ほどのフリルやレースが施された服を抱え、

獲物を狙うハンターのごとく目を輝かせている。


「もーーー! 防御力とかマジウケるんだけど!

 今はオフっしょ、オフ! はい、これ持って

 試着室にダッシュ!☆」


「わ、わかりましたから、

 押さないでください……っ!」


押し問答の末、エルザが渋々カーテンの奥へと消えていく。

その間、ショップの店員たちは

「あ、あの……街を救ってくださった英雄様ですよね……っ!?」と、

コハルの周りで完全にファンのような顔でそわそわしていた。


「えー、そうだよ☆ ウチのエルザ、

 超強いし超可愛いでしょ☆」


「やはり……! 街をお救いくださった英雄様からお代金など

 いただけません!ぜひ、お店の服を好きなだけ持っていっ

 てください!」


「マジで!? 展開が神すぎるんだけどー!☆」


数分後、おずおずとカーテンを開けたエルザの姿に、

コハルと店員たちから「ギャーーー!!☆」と

黄色い悲鳴が上がった。


いつも強固な鉄に隠されていたのは、淡いブルーの

軽やかなドレスを纏ったエルザだった。


鍛え上げられつつも、しなやかで抜群のプロポーションが、

ギャルの手によって完全に対外開放されている。


「やばッ!!! ちょー可愛い!!!

 ガチでモデルじゃん! エルザ、

 これ絶対買いだって!☆」


「は、はい……。心許ないですが、

 動きやすいですね。街の者たちの視線が、

 魔物のそれとは違って少々気恥ずかしいですが……」


手鏡を見ながら顔を真っ赤にするエルザに、

周囲の衣料品店やスイーツ店からも


「英雄様だ!」

「これ食べて!」と人が群がる。


香ばしい匂いを漂わせる屋台の店員からは、

モチモチの生地に甘いアンコがぎっしり詰まった、

焼き立ての『アンコ包み焼き』を両手いっぱいに

差し出された。


「えー! マジで!?

 ラッキー☆ ありがとー!」


とチート特権を秒でフル活用して

最高にゴキゲンなコハルと、


「い、いや、私はほとんど何もしていな

 ……むぐ、美味いなこれ……」


と生真面目に恐縮しながらアンコ包み焼きを

ハムハムと頬張るエルザ。

二人の行く先々は、華やかな大歓声と

ちやほやの嵐に包まれていた。



――所変わって、リブラ郊外の

鬱蒼とした森の中にある釣り堀。



女子組の華やかな喧騒とは対照的に、

ここには効果音『……シーン……』が文字通り重低音で漂う、

圧倒的な静寂があった。


あまりの静けさに、

木々から落ちる葉の音すら鼓膜に響くレベルである。

日傘の下でじっとウキを見つめるニノと、

気配を完全に消して微動だにせず竿を握るカゲロウ。


「……昨日、大変だったね」

「……うむ」

「……後から聞いたんだけど、人質とられたんだって?」

「……うむ」

「……ニノ殿も大変だったとか」

「……うん」

「……コハル殿が激切れしたとのこと」

「……さすがに焦ったよ」


昨日の喧騒が嘘のように

あまりにもゆっくりした時が流れる。


「うおっ!? ちょっと待て、

 かかった! かかったぞカゲロウ!」


「おおお! 大物でござる! ニノ殿、

 竿を立てるでござるよ!」


「お、重っ! 引く引く!

 暴れるなよコラァ!」


さっきまでの静寂はどこへやら、男二人は童心に帰って

「うおおお!」「いけるでござる!」と大騒ぎ。

カゲロウがタモ網を構えて飛び出し、ニノが必死に竿を引っ張り、

見事に立派な銀色の魚をパシャパシャと釣り上げた。


「やったーーー! 釣れた!!」


「見事でござるニノ殿! いやはや、

 実に見事な手応えでござったな!」


ハイタッチして息を切らして大喜びしている二人に

背後からトボトボと一人の老人が歩み寄ってきた。

この釣り堀の主のような、地元のベテラン釣り師の老人だ。

老人は粗末な麦わら帽子を胸に当て、

ニノたちに向かって深々と頭を下げる。


「……あんたがたが、昨日街を守ってくれた方々かね。

 おかげで今日もこうして、のんびりと釣りができる。

 本当にありがとよ……」


「あ……はい、ありがとうございます……」


地元の老人一名から放たれた、あまりにも濃密でピュアな感謝。

二人の心が思わずジンと温かくなる。

さらに、釣り堀の主人が申し訳なさそうにやってきて、

申し訳程度の紙箱をニノの手に握らせた。


「街を救ってくれた英雄様だって聞いたんでね。

 うちみたいな寂れた場所じゃあ大したものはねえが……

 これ『予備の釣り糸』だ。受け取ってくれ」


「あ、ありがとうございます……!」


手元に残された、予備の釣り糸。

だが、ニノとカゲロウは、そのささやかなお礼を両手で大切に受け取り、

宝物でも見るかのような目でそれを見つめていた。


「……このように純粋に感謝されて、

 街を救ったかいがあるというものでござるな、

 ニノ殿。胸が熱くなる」


「ああ、そうだなカゲロウ。

 派手なちやほやなんて要らねえんだよ。

 デスマーチの後にこういう現場の生の声を聞けるのが、

 一番の報酬だわ……。」


「うむ、ニノ殿。まったく同感でござる」


最強の隠密は満足そうに目を細め、ニノもまた、

予備の釣り糸を大事にポケットに仕舞いながら、

自分たちの成した仕事に静かな誇りを感じていた。


――そんな、

自分たちが「世界で一番かっこよく感謝された英雄」だと

信じて疑わない男二人が、落ち合う約束の居酒屋の暖簾を

くぐったのは、そのすぐ後のことでした。


二人が引き戸を開けると、

そこには店中いっぱいの高級ブランドの紙袋と、

プレゼントの数々。さらに山積みの『アンコ包み焼き』に

囲まれて、贅沢の限りを尽くしている女子組の姿があった。


「あ、ニノ! カゲロウ! おっそーい☆

 これ、ぜ~んぶっ!タダで貰っちゃった!

 アンコ包み焼きも食べ放題だから一緒に食べよ!☆」




「「 …………え? 」」




ニノとカゲロウの動きがピタリと止まる。

ポケットに入った「予備の釣り糸」と、目の前にある

「山積みの高級品とプレゼントの数々、更に食べ放題のアンコ」を

何度も見比べ、二人は完全に素の顔になった。


(……なにこの圧倒的な格差……)


ニノが激しい虚無感に襲われていたその時――バァァァン!

と、居酒屋の引き戸が不自然なほど勢いよく開け放たれた。


現れたのは、ピシッとした王宮の正礼装に身を包んだ、

場違いなほど厳粛なオーラを纏ったグラッド直属の使者。

手にはこれでもかと豪華なベロア調の箱と、

羊皮紙の勲記を抱えている。


一瞬で静まり返る居酒屋の店内。

客たちが息を呑む中、使者はニノたちの

テーブルの前で直立不動になり、

朗々と声を張り上げた。


「ゲートランド王国が執政官、

 グラッド様が命により、

 冬の精霊軍を退けた英雄たちへ、

 公式の役職と階級を授与する!」


「まずは勇者エルザ殿! 王国のためにその剣を振るった

 功績を称え、『最高王国騎士』の座を授与する!」


「おおおおおっ!!!!!☆」

「さすが勇者様だ!!」

「おめでとうございます!!!」


居酒屋全体から割れんばかりの盛大な拍手と歓声が巻き起こる。

エルザは新調した私服のドレスの裾を少し気にするようにしながら、

照れくさそうに胸を張った。


「続きまして、カゲロウ殿! 陰ながら軍勢の足止めに

 尽力したその隠密性を称え『忍者マスター』の称号

 を授与する!」


「うおおおお!! 忍者マスター!!」

「よく分からんがとにかく凄そうだ!!」


再び沸き立つ居酒屋。カゲロウは無言のまま、

ジョッキを片手に、小さく会釈した。

実のところ「忍者マスター」がどの程度の爵位なのか

わからないので、リアクションしようがないのが現状だ。


そして、使者が次の羊皮紙を広げた瞬間、

その顔がわずかに引きつった。

「つ、続きまして、コハル殿……! その規格外の、

 文字通りすべてを消し去る圧倒的な武を称え……

 『天災騎士』の座を授与する……!」


「「「「 …………え? 」」」」


一瞬にして、居酒屋の歓声がピタッと止まった。

「て、天災……? なんだそれは……?」

「『天才』の間違いじゃ?」


ざわ……ざわ……

   ざわ……ざわ……。


周囲の客たちが本能的な恐怖の混じった顔で一歩引く。

当の本人はケラケラと笑っているが、一般人にとっては、

コハルが『台風や地震と同じ』として公式認定された

恐怖の瞬間だった。


緊迫した空気が満たす中、使者は最後に、

どこかホッとしたような顔でニノの前に立った。


「最後に、ニノ殿! 君の……その……今後の成長と、

 現場でのサポートに期待し『騎士見習い』の階級を

 授与する!」


シーン……と静まり返る店内。


ニノは、手渡された一番小さなブリキのバッジを見つめたまま、

完全にフリーズした。


「……は?」


ガタッ! とニノが椅子を蹴って立ち上がる。


「いや、なんで?俺だけあかんっぽいやん!!!

 おかしくない!? 最高、マスター、天災ってきて、

 なんで俺だけ『見習い』なんだよ! 」


「ぷっ……クスクス!ニノ、見習いだって☆

 ウチの『パシリ』じゃん☆」


「……ニノ殿、気にするな。見習いには見習いの、

 その、伸び代というものがだな」


コハルに煽られ、エルザに同情され、

居酒屋の他の客からも「あの兄ちゃん苦労人なんだな……」と

憐れみの視線が突き刺さる。



「あと、ニノ殿には親書をお預かりしております」



ニノは使者が持ってきた「グラッドからの親書」に目を落とした。

そこには不穏な追加タスクが記載されていた。


「……なあエルザ。

 これ……うん、次の目的地を変えた方がいいかもしれんわ。

 アゴヒゲの提案だ。東の『灼熱の鉱山街サーマリア』ではなく、

 一旦、西にある『湖の街レイラーク』に向かって欲しいらしい」


「西ですか!? 真逆ではないですか。

 グラッド様は何を考えて……」


「いや、グラッドの指示ってわけじゃないんだ。

 あそこを治める女王陛下がいるだろ? 高名な予知能力者の。

 その女王陛下の予知能力が、冬の精霊の未来を予知しようと

 試みた際、……お前の未来に関する『深刻な事態』を検知したんだと」


「私の未来に? 一体、

 何が起こるというのだ……?」


手紙には具体的な中身こそ書かれていなかったが、

あの女王が一刻を争う事態だと直々に警告し、

さらに『本人にしか伝えられぬ』とまで

念を押しているらしい。


エルザが自身の両手を見つめたまま顔を真っ青にする。

いつも堂々としている彼女のそんな怯えた表情は、

ニノも初めて見るものだった。


(……チッ。肝心な中身を伏せて不安を煽るか。

 あのアゴヒゲ、また裏で何か仕組んでなきゃいいが)


ニノは内心で激しく舌打ちしながらも、

すぐにいつもの顔に戻り、怯えるエルザの肩をポンと叩いた。


「気にするな、エルザ。何が起きるか知らねえが、

 俺が丸ごと調律してやるわ。な、コハル?」


「深刻な空気とかマジ流行んないから、

 大至急西のレイラークへ出発っしょ!☆」


コハルの明るい声に救われ、エルザの顔にようやく

いつもの綺麗な笑みが戻る。


こうして一行は、エルザの身に迫る

『深刻な事態』を強制終了させるため、

リブラの街を飛び出し、新たなる謎が待つ

西の湖の街レイラークへと向かうのだった――。


絶対親族には見せられない架空地図を描いてます。

西の湖の街レイラークっと。

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